その女〝動物好き〟 - the another order -   作:浅学寺のえる

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vol.2 「流されてイベリア半島」

 ー あれから 3日後 ー

 

 

 《このまま海流に乗れば村に着くかと》

 

 「ありがとうラブーン! あなたの唄、とてもステキだった♪」

 

 《ヨホホホ! 私こそ、懐かしい唄を聞けて楽しかったですとも。またどこかでお会いしましょうエイダさん》

 

 

 ラブーンに運んでもらったおかげで、人が住んでる村の近くまで来ることができた。ラブーンの身体が大きすぎるから、直接村までは送れなくて申し訳ないなんて謝られちゃったけど とんでもない。あのまま漂流してたら、今頃 食料が尽きて大変な事になってたと思うし。タルの水だって、いずれ腐っちゃうからホントにピンチだったんだ。ラブーンにはいつかキチンと恩返しをしなきゃね。

 

 「あ、見えてきた。ほらナミ! あれが村よ」

 

 「あぅ?」

 

 見た目はのどかな海沿いの村って感じ。優しい人がいてくれればいいんだけど……ラブーン以外の動物達はみんなシビアだったからなぁ。不安だ。

 船の操作なんて一切わからないけど、運よく桟橋の近くまで流れついて良かった。船に気付いた村の人が引っ張って固定してくれてる。

 よかった、みんな優しそうな人みたい。ええと、どうやって事情を説明しようかな───?

 

 Where are you from?(どこからきたんだい?)

 

 は、い?

 え。なに急に? うえあふろん……上は風呂? 上を見たけど、当然お風呂じゃなかった。なぞなぞ? でもそれだと、上は洪水か。

 

 Can you speak?(しゃべれないのかな?)

 

 あ!! 英語か! 多分、最初は出身地を聞いたんだ!

 どうしよう!? アタシ英語は上手く喋れないんだけど! そもそも、なんで能力が発動しないの? こんな時こそテレパシーでしょ! 人間だって動物なんだし、能力の範疇でいいと思うの。あ〜もう、どうしよう。えーと、確かこんな時は──

 

 I can’t speak English.(アタシは英語が話せません)

 

 English?(イングリッシュ?)」「You know what?(あんた知ってるか?)」「No.(知らん)」「Hmm,(ふーむ)

 

 大勢集まってきちゃって、さらに何言ってるのか分かんない! もしかして、アタシの英語も下手すぎて伝わってないのかな? それとも「話せません」って言ってるのに、英語を話してるから変人だと思われたとか!? みんな困った顔してるし、どうしよう。

 

 「キャッキャッ♪」

 

 「Baby!」「What a cute baby!」

 

 今のは分かる。赤ちゃんカワイイ〜って意味でしょ? アタシもそう思うからね。取りあえず、ミートゥーって言っておこう。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 そこからは怒涛の展開だった───

 

 アタシとナミを囲んでいた大人たちの間から、なんとゲンさんが現れたんだ……ちょっと若いけどね。でもその顔を見て、ナミが大泣きしちゃって大変だったの。

 村の人達も協力してくれて、なんとかあやすことができたんだけど こんなに泣いたの初めてだからビックリしたなぁ。一安心して、周りをよく見れば特徴的な見た目のドクターも居たの。これで、ココヤシ村って確定だよね。

 

 それから、アタシ達の今後をどうするのかって話合いが行われ……ようとしたんだと思う、多分だけどね。大勢が話し出したから全然聞き取れなくなっちゃったんだ。

 でも会議はすぐに中断。天気が急に悪くなって、大嵐になったの。アタシとナミも建物に入れてもらって雨が上がるのを待つことに。

 もしかして、さっきナミが大泣きしたのはこれを予見してたの? なんて疑問に思ってたら、今度は港に船がやってきた。

 

 そこに乗っていたのは、ベルメールさん と ノジコ。

 嵐のせいでずぶ濡れになってしまい、風邪気味だったノジコの体調が悪化しちゃって大変だったみたい。

 アタシも2人が気になってドクターの所へ行ったり、ゲンさんと話し合ったりと紆余曲折あったんだけど───いつの間にかアタシ達は、ベルメールさんのお家で一緒に暮らすって話になっちゃった。

 

 ベルメールさんは、今まで商船の護衛をしてたみたい。でも荒事に巻き込まれる事も多くて、戦場で傭兵みたいな事もしてたんだって。

 そんな時、戦闘に巻き込まれた市街地でノジコと出会い、平穏に暮らすため故郷のココヤシ村へ帰る決意をしたらしい。

 優しい声だからか、ベルメールさんの言葉は聞き取り易いなぁ。アタシは聞き取りだけなら自信があるの! 1対1の会話限定だけどね。

 

 「よろしくねエイダ、ナミ♪」「エイダ……おねえちゃん?」

 

 「はぅ! お姉ちゃん!? ステキ♪」

 

 「……エイダ? ははは、あんた表情は硬いけど明るい子だったのね」

 

 「キャッキャッ!」「ナミはいもうと!」

 

 そんなこんなで、ベルメールさんが以前住んでた村はずれの家で共同生活が始まった。

 ずっと放置してたため荒れてしまった みかん畑を整備し直して、みかんの栽培で生計を立てる事に決定。

 みかんは放って置いてもある程度は勝手に実るんだけど、出荷してお金に換えるためには色々と手をかけてあげないとね! まだ緑色だけど小さな実がたくさん付いてるから、とりあえず今年の収穫はどうにかなりそうかな。

 でも一種類だけだと不作の年は大変だから、お金が貯まってきたら収穫期の違う品種も植えないとね……あれ? どうしてアタシ、こんな知識があるんだろう?

 

 前世がどういう人生だったかは相変わらずボンヤリで、死んだ年齢くらいしかハッキリ思い出せないのに……

 

 そうそう年齢って言えば、ノジコは少し前に3歳になったみたい。なにかお祝いをしてあげたいんだけど、お金の余裕がなぁ……ベルメールさんが護衛をして稼いだお金で、みかんの収穫期まで保たせなきゃいけないからね。

 ううん。アタシが何食か抜けば、プレゼント代くらい捻出できる! よーし、まずはノジコに何が欲しいか聞かなきゃね。

 

 「なにもいらないよ?」

 

 「え、でも。ノジコだって欲しいものとかあるでしょ?」

 

 「かぞくができて うれしいの!」

 

 健気! 時間ができたら編み物でもして何か作ってあげたいなぁ……ってアタシにそんなスキルあったっけ? できそうな気もするんだけど、断言できない。

 ツラいなぁ、記憶喪失。ラブーンと会った時は、いろんな歌を思い出せたんだし……何かきっかけがあれば少しづつ思い出せそうなんだけど。そのきっかけが、中々起こらないんだよね。

 

 そう思ってた矢先。ナミのお世話も手伝ってくれてるノジコの姿を見てたら、ヤングケアラーなんて単語を思い出しちゃった。前世の価値観が急に出て来ちゃって、どうするべきか分からなくなって大混乱!

 

 結局、アタシだけじゃ判断できないからベルメールさんに相談することにしたの。アタシの方が年上だから、ベルメールさんに頼っちゃうのも考えものなんだけどね。

 

 「子供なんだから、ノジコが可哀想? あのねぇ、あんただって子供でしょ?」

 

 「あ。忘れてた」

 

 「でも心配してくれてありがとね。私も、もっと年長者としてしっかりしないと!」

 

 「え? でもベルメールさんだって、まだ20(ハタチ)でしょ?」

 

 「20だから、もう十分大人なの! 3人とも私が育てるって決めたんだから、母親だと思っていいのよ?」

 

 「でもアタシって……12歳? だっけ?」

 

 「そうそう、だから私が8歳の時に産んだって事に……これは流石に無理があるわね。じゃ、エイダは妹って事で決定!」

 

 それだとアタシ、ノジコとナミの叔母になっちゃう!? 嫌! オバサンなんて呼ばれたら死んじゃうかもしれない……!

 

 「それとね、手伝ってくれるのはとても助かってるの。エイダは私より畑の事に詳しいし、ノジコはナミをあやしてくれるし、ナミの笑顔は見てるだけで元気になるからね!」

 

 「わ!」「ベルメールさん!?」「キャッキャッ!」

 

 「みんな大好き!」

 

 あったかいなぁ。3人まとめて抱きしめられちゃった。

 そうだよね、現状だと家族みんなで協力しないと生きていけないんだし──もう迷うのはやーめた! 過去を悔やむより、今をなんとやらってね!

 

 よーし! 何故か園芸の知識があるみたいだし、アタシ達の生命線〝みかん〟のお世話を頑張ろう!

 

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 ここ数日でベルメールさんと協力して邪魔な枝は剪定し終わったから、えーと次は……いでよ! 前世の記憶! 園芸寄りでお願い! むむむ! 知識量が多いと頭がズキズキするっ! でも、成果はあったみたい。

 

 えーと、みかんの花の時期はもう終わっちゃてるから、今は摘果(てきか)時期って所かな? 育ちが悪そうな実を落として、残った実が大きく育つようにしてあげる作業みたい。

 ふんふん♪ 大きく育ってね〜。あ、これ虫? カイガラムシ*1かぁ。この世界にもいるのー? う、素手で触りたく無いけど……我慢!

 そういえば今気づいたけど、虫の言葉までは分からないみたい。もし聞こえちゃったら潰せないから良かったんだけどね。アタシの能力って人間以外の動物で、ある程度の知性が無いとダメなのかな?

 

 あとラブーンのおかげで判明したんだけど、アタシ自身もテレパシーを飛ばせるみたい。〝相手に伝えたい〟って気持ちがあれば口に出さなくても伝わるから便利。

 ちなみにテレパシーは日本語で聞こえる仕様。これって多分、自動翻訳されてるんだと思う。だから動物の言葉も意訳なんだと信じたい! どうせなら、かわいく翻訳してくれればいいのにね!

 

 何はともあれ、ナミとノジコが困らないくらい沢山稼ぐぞー!ッ、またもや頭痛がっ……!

 

 ───『大人一匹10万ベリー 子供(ガキ)一匹5万ベリー』『ベルメールさあああん!!』『シャハハハハハハハ!』

 

 嫌な記憶を思いだした。アーロン…… 許せないっ!

 このまま行くと10年後にアーロンが現れるんだ! アタシがいる事で原作とズレたりしなければ、だけど。でも今更、家族を置いて何処かへ行くなんて絶対できないし原作のズレとか気にしてられない!

 むしろ、アタシが居る事でアーロンが来ないなら万々歳だね。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 なんて考えてたんだけど、アタシに関係なく原作は崩壊していた。世界レベルでね。

 

 みかんの収穫時期を待つだけになった頃、少し時間ができたから家の大掃除をしてたんだ。

 そこで出てきた古い地図がコレ……

 

【挿絵表示】

 

 これを見る限りだと、ここは〝東の海(イーストブルー)〟じゃなくて〝地中海〟だったみたい。文字は掠れちゃってるから読めないんだけど、特徴的な形をしてるイタリア半島が決定打。

 

 あ、ちなみにココヤシ村はスペインの位置にあるみたい。ベルメールさんに聞いたら、南側の海岸沿いにある村だって教えてくれて、印も付けてくれた。

 うーん、でも現実世界の過去って線は無いよね。ココヤシ村は原作通りなんだし、巨大イルカやラブーンまでいるんだし。

 

 いま思えば、ラブーンがココヤシ村の近くに居た時点でおかしかったんだ。双子岬とココヤシ村は〝赤い土の大陸(レッドライン)〟にこそ阻まれてないけど、〝凪の帯(カームベルト)〟を通らないと辿り着けないんだから。

 当然 超大型の海王類なんて見かけなかったし、海に風も吹いていたんだ。それにラブーン自体が大きすぎてキチンと確認できてないんだけど、多分 頭のキズも無かったんだと思う。

 あはは、あの時は歌ってばかりでロクに会話してなかったなぁ。頭の中で曲を思い浮かべれば、ラブーンにも聴こえるから楽しかったなぁ。

 ココヤシ村の動物は……かわいくないからね。心が。

 

 はぁ〜、最初の頃 摘果した小さいみかんをエサに小鳥たちを手懐げようとしたんだけど、《時期が来れば勝手に食うから、余計なお世話だ》だって。どこかに鳥避けネットとか売ってないかな!?

 絶対、ヤツらに食べられる前に収穫しきってやるぞぉ!!

 

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 そんなこんなで、収穫期。

 

 案の定 鳥たちが沢山やってきたから、全力で《失せろ!》って殺意を込めたら逃げていった……一瞬だけね。鳥頭なんて言葉があるくらいだから、10分もすればさっきの事を忘れてまたやってくるの! 追い払いたいけど、10分おきに全力テレパシーは無理!!

 結局ノジコにも見張り番を手伝ってもらい、鳥が近づいてきたら棒を振り回して追い払うっていう原始的な方法になっちゃった。多少は鳥にも食べられちゃったけど、ベルメールさんと2人で素早く収穫したから被害は最小限で済んだんだ。

 

 その数日間、ゲンさんが駐在所で昼間だけナミを預かってくれてたんだけど……やっぱり最初は大泣きしちゃった。あの時は、嵐を予期したんじゃなくて単にゲンさんを怖がっただけみたい。

 でも帽子に風車を付けてからは、ナミも大喜び♪ 世界の構造からして別モノなのに、どこか似たような事が起こるんだよね。

 

 アタシは───原作と同じ展開が訪れる度、ベルメールさんの事が心配になっちゃう。アタシの能力じゃ戦闘には役立たないし、お金を稼ぐ位しか対策できないのがもどかしい。

 どうかその風車が、お墓に供えられる事になりませんように

 

 

 みかんの出荷も無事に終わり、まとまったお金が入ってきた! 今年から出荷する事になったアタシ達にも、仲買の人は良心的な対応で良かったぁ。

 頼んでみたら別の品種の苗木も売ってくれたので、畑を少しだけ増やしてみた。でも、マンダリンってアジアが原産だよね? あの古びた地図だとレッドラインで断絶されてる印象だったんだけど、貿易はできてるのかな?

 

 この世界で知らなきゃいけない事はまだまだあるけれど……。

 

 今はまず、ノジコのために編んでるヘアバンドを完成させなきゃねっ!

 

*1
厄介な害虫の代表格。名前の通り、殻があるため殺虫剤が効きにくい。放置すると植物の生育に悪影響を与える。

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