【急募】見知らぬ世界で生きていく方法 作:道化所属
感想返答コメント始めようと思います。
ちょっと最近生活リズム狂ってたのでペースが落ちましたが、12月には完結すればと思います。アストレア・レコードが早く発売されないかなぁ。
ノーグの身体が震えた。
武者震いではない、身体が敗北する事を悟り、戦闘を拒否している。それは純然たる恐怖、人は違えどそれは女帝を連想させる程のオラリオで未だ三人しか存在しないLv.7が目の前に居る。
「ふふっ、かーわい♡」
ゾクリ、と背筋を撫でる恐怖。
蠱惑的な笑みを浮かべたメルティに死のイメージが鮮明に過ぎった。
「っ……!ガレス!リヴェリアを連れて離れろ!!」
「な、ノーグお前はどうする気じゃ!?」
「リヴェリアも巻き込みかねないからさっさと退いて助けを呼んで!!」
勝ち目なんてあるはずがない。
あの時虚空から腕が突き出た以上、メルティ・ザーラには
「今の二人じゃ
「…っ、ええい生意気なクソガキ!死ぬ事は許さんぞ!!」
リヴェリアを抱え、この場から離脱する。
種子を撃ち込まれ、体力を奪われているガレスでは足手纏いであると自ら悟っていた。見捨てなければいけないという合理的判断に嫌気が差しながらも、重傷のリヴェリアが居ては戦えるものも戦えない。
今できる最善策はノーグに全力を出せるだけの場を整える事しか出来ない。
「逃すと思ってる?」
深緑色の歪な大剣を振るわれると、緑の弾丸のようなものがガレスの背中に射出される。弾丸は七発、二発食らっているガレスに全て撃ち込まれれば、吸い尽くされてしまうだろう。
「【凍てつく残響よ渦を巻け】」
発展アビリティ【天眼】
洞察力の強化、大剣を振るう方向から弾丸を見切り、一段階の冷気を纏い氷壁を張り弾丸を止める。マキシムや女帝、一級冒険者の動きを何度も見てきたノーグなら、音速を超えない矢弾くらいなら予測し見切れる。
「へぇ––––やるじゃない」
「行かせない。アンタの相手は俺だろ」
逃げる事は出来ない、勝率は絶望的。
だが、可能性はゼロではない。切り札が無い訳ではない。対精霊装備をしていない部分から舐めている部分は存在する。
隙を付けるとするなら、その時である今でしかない。
「いいわ、凄くいい。ほんの少しだけ踊ってあげる」
異端者と殺戮者の壮絶な闘いが始まった。
★★★★★
「チッ、やっぱ塞がってやがる」
「魔法で吹き飛ばすと、バベルに被害が出かねないわね」
マキシムと女帝達は二階層付近で立ち止まり、手分けして地上の道をこじ開けている。ダンジョンは生きている以上、修繕が入るだろうがそれを待つよりも撤去した方が早い。
とはいえ、一階層から二階層分の撤去は二大派閥でも時間がかかる。魔法でぶち抜いた方が早いが、これほどの爆破があった上に、これ以上のダメージをダンジョンに与えればバベルにも影響する。倒壊すると思うと想像したくもない光景が目に浮かぶ。
「敵の目的は?」
「私達の主神の送還……もしくはあの子ね」
「あの小僧か?何で?」
マキシムは首を傾げる。
目的としては些か足りない気もするが、女帝はため息を吐きながら説明し始めた。
「忘れたのかしら?最近、精霊関連の事件が多発してエルフ達が騒いでいたじゃない」
「ああ、言ってたな。感知できるエルフ達が血眼になって犯人特定しようとしてたが……おい待て、まさかと思うがあの小僧」
「多分精霊の加護を、いやそれ以上の何かを持ってる。Lv.2で私に傷を付けられるだけの出力よ?」
確かに何かはあると思っていた。
魔法やスキルは想いの強さに合わせて発現する。ノーグの【アプソール・コフィン】の熱の燃焼という規格外の法則を含んだ魔法の発現には確かに疑問には思っていた。
「氷の精霊となるとアレか?ゼウスの言ってた」
「ヴィルデア。間違いなく大精霊の力を持ってる」
「根拠は?」
「女の勘」
よりにもよって一番当たりそうな勘に反応され、マキシムは頭を抱えた。氷の大精霊ヴィルデアの逸話はかなり有名だ。英雄譚にさえ記載される程の知名度を誇る。
曰く、冬を運ぶ大精霊である
曰く、冬の世界で彼女を捕らえられず
曰く、英雄に永遠を与え続けた女王
最後の記載はよく分からないが、ゼウスが書く英雄譚は間違いなく古代神話。神が舞い降りる前の人類が成し遂げた武勇伝である事は間違いない。そんな中でもヴィルデアは間違いなく誰もが知るほどの圧倒的な強さを誇っている。
「それがもし、敵の手に渡ってその力を利用されたら」
「……俺達でさえ対処が出来ないって事か。あの小僧に関しては確かにぶっ飛んでる」
あの藍色の焔が敵全員が使えるようになるならオラリオは終わりだ。防御なんて関係がない。精霊であるならば、
「クロッゾと同じ、精霊の奇跡」
「それが人為的に出来るとなると、
それは女帝でさえ確信する程の危機。
闇派閥と二大派閥の天秤は後者の方が優位であったにも関わらず、最強である自分達ですら覆される切り札が敵の手に渡ったなら、闇派閥の優位性が一気に跳ね上がる。
それも最近、オラリオに彷徨う微精霊が一気に姿を消した事件。それを感知できるエルフ達が騒ぎ、血眼になって探していたが、未だ見つからないのだ。精霊関連で闇派閥は何かを行っているのは間違い無いだろう。それがもし精霊の奇跡を行う為の実験に使われたら……
「急ぐぞテメェら、舐められたままだと男が廃る」
「同じく、泥を塗られたままじゃ性に合わないわ」
地上に開通まであと二十分––––
★★★★★
「チッ!!」
「おっと、危ない危ない」
ノーグは【アプソール・コフィン】を二段階に引き上げ、近寄らせないように攻撃を繰り返す。−181度にまで下げられた空気を剣圧に乗せて飛ばしているが、メルティ・ザーラには当たらない。
「(クソッ、近寄らせないのが精一杯かよ…!)」
触れればレベル関係なくダメージを与えられる二段階を警戒されている。舐められているとはいえ、舐められるだけの実力の差が存在する。二段階目は魔力の消費が激しい。近づこうとする時だけ最大火力にして近寄らせないのが精一杯だ。
「【虚空の影よ】」
「っ……ぶねぇ!?」
極め付けはこの距離殺しの魔法。
何もない虚空に黒い影が浮かび、そこからナイフが飛んでくる。腕が通るほどのワープゲートを生み出す超短文詠唱。明らかな初見殺し、制約としては二回目の詠唱をすれば一回目に発動したワープゲートは消える。同時使用は出来ないのと目視が届く場所である事だろうが、それでも常軌を逸している。
「(クソッ…このままやっても精神力が尽きる!俺はまだ超長文詠唱の並行詠唱なんてやった事ねぇんだよ!?)」
可能性があるなら二つ目の魔法。
ロキでさえ反則と呼ぶ程の第二魔法は超長文詠唱、それを詠唱すれば可能性は充分にあるが、付与魔法を発動しながら詠唱出来るだけの魔力制御出来る自信はない。
「(そもそも魔法同時使用なんて出来るのか!?アルフィアはやってたけど、アイツ超短文詠唱だし!?)」
そもそも魔法同時使用なんて出来るのはアルフィアくらいのものだ。付与魔法が使え、それとは別の魔法を覚えているのがアルフィアくらいしか知らないからこそ出来るか不安過ぎる。一度付与魔法を切って別の詠唱に移ろうとすればその隙に終わる。
親方ァ、空から種子達が!?
躱すぜよイッチィィィ!!!
「っ–––!?」
雑念から集中力が乱れ、詠唱を聞き逃した。
振るった大剣から放たれた緑の種子が目の前から消え、上に出現した影から種子が降り注ぐ。無理な体勢から跳躍したが、避け切れず二発食らった。だが、撃ち込まれた部分からは血が出ているのにノーグの身体から蔓は伸びない。
「届く前に凍り付かせて種子を殺したのね、でも––––」
その判断力、魔法の出力、総合的に見てもLv.4の後半に迫っていると言ってもいい。Lv.4では間違いなく負ける。格上殺しの冒険者としてはこれ以上の存在はアルフィアやザルドを除いて他にいないだろう。
だが……
「甘い」
相手がメルティ・ザーラだった。
姿が消えたと思えば、体勢が崩れたノーグに過ぎる無数の『天啓』。躱せない。最大出力にする事さえ間に合わない。
「ごっ……が、あっ……!?」
藍色の焔が揺らぎ、僅かに露出した腹部に拳が突き刺さる。ゴシャッ、と音が鳴り、骨が砕かれるような音が聞こえながらも後方へ吹き飛んでいく。
「が、かっ……ぐ、あ……」
肋骨が何本かイった。
血反吐を吐きながらも焔を途切らせない。だが、無傷のLv.7と大量に精神力を消費し、血を吐き出すほどのダメージを負わされたノーグ。どちらが優位か比べるまでもなかった。
「あら、まだ動けたのねぇ。壊れない人形を相手してるみたい」
「……っ、その大剣、
時間を稼ぐように大剣を指摘すると、彼女は笑った。そもそも『天啓』でその存在の正体は理解できたが、モンスターを武具にするなんて聞いた事が無い。ドロップアイテムの加工とは訳が違う。生きたモンスターそのものの武具加工なんて見た事も聞いた事も無い。
「本当、勘の良さといい目敏さといい噂されるだけあるわねぇ。この剣はあるモンスターの性質だけを抽出した生きた
「モス・ヒュージだろ…しかも魔石を食わせた強化種」
「……本当、貴方って怖いくらい目敏いわね」
その効果は『
「ぐっ……」
藍色の焔が切れた。
精神力が尽き、魔法が維持できなくなる。息切れと薄れる意識の中、剣だけは構えているが、限界なのは見抜かれていた。
「もう限界みたいね。まあお姉さん楽しめたし、大きくなったら夫にしてあげてもよかったけど」
コツコツと、足音が聞こえた。
気が付けば目の前にメルティは現れていた。接近さえ反応出来ないほどの疲弊、剣を振ったと思ったら既に手から弾き飛ばされていた。
「私達がその力、存分に利用してあげる」
剣の峰が頭に向かってくる。
躱せない、『天啓』の警告があっても身体が動かない。武器も弾き飛ばされ防げない。詰みとも呼べる状況を逆転出来る程の力は今のノーグには無かった。敗北を悟ったその瞬間だった。
「【
鐘の音が聞こえた。
メルティ・ザーラは吹き飛び、視界には灰色の髪と黒いドレスが写った。助けに来れるはずがない、ヘラの防衛で動けないはずなのに、姿は見間違えるはずがなかった。
「お前、防衛で動けないんじゃ……」
「そんなもの、全て蹴散らしてきた」
この短時間で迫り来る闇派閥の部隊を全て蹴散らし、ノーグの前に現れた最高位の魔道士、条件さえ満たせば女帝にさえ届くと言われた存在がメルティ・ザーラを前に魔力を激らせていた。
「アルフィア……」
「よくここまで耐えた」
これ以上安心出来る存在は居ない。
危機を救ってくれたのは二度目だ。Lv.6間近であるが、ノーグと同じく格上殺しに特化した冒険者。
「あとは任せろ」
最強の殺戮者を前に、才禍の怪物が立ち塞がった。
ノーグ Lv.3
「(冨岡……)」
アルフィア Lv.5
「この女が……」
メルティ・ザーラ Lv.7
「えっ、馬に蹴られた?」
★★★★★
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次回、暗黒動乱編、完結。