【急募】見知らぬ世界で生きていく方法   作:道化所属

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 スレ民よ、今回は出番などない。済まないな。


自覚

 

 

「で、アテはあるのか?アルフィアの誕プレ」

「とりあえず雑貨屋を見ようかなって思います。姉さんは派手なものとか余り好きではありませんし」

 

 

 二つ名が【静寂】と呼ばれる程だ。

 確かに派手そうなものは好まなそうだが、それだと一つ疑問が生まれる。アルフィアは静寂を好むが、服に関しては結構派手にも思える。

 

 

「その割には大体いつも黒いドレスなんだけど」

「あの人自分に似合うものを着るので、そこら辺は曖昧ですね」

「女だったら羨ましい限りだなオイ」 

 

 

 大半の服が美貌に負けるから派手なものが似合うというふざけた理由でいつも少し派手そうな服を着ている。女としては羨望を浴びる程のものだ。何着ても似合いそうな美人ではなく、何着ても大体美貌に負けるという美人だから似合う服が限られるとは斜め上を行っていた。

 

 

「アクセサリーとか?アルフィアって大人っぽいし」

「うーん、マフラーとかそういうのもいいんじゃ」

「本というのも悪くありませんし、候補が――」

 

 

 メーテリアが露店に視線を向けると、ノーグも自然と足を止める。

 

 

「ん?どったの二人とも」

 

 

 サポーターも二人が見ているものに視線を向ける。メーテリアとノーグの視線が偶々やっていた小さな露店に向く。そこには綺麗なガラス細工やネックレスと見た目が華やかでプレゼントに丁度いい物があった。雑貨屋で探すよりここがいい気もしてくる程に。

 

 

「露店にこんな物があるとはな……意外といい」

 

 

 メーテリアが指差したのは一つのブローチ、周りは金メッキで丁寧に形を整えられていながら、中心に取り付けられた宝石のようなガラス細工はハッキリ言って素人が造れるような物ではなかった。

 

 

「これ、凄くいい……」

「お目が高い。そのブローチを選ぶとは」

 

 

 ローブを被って顔を隠した老人が称賛の言葉を語る。ノーグは細目のまま置かれたネックレスやブローチ、指輪を見ていく。どれも質は悪くないが、一つだけ違和感を感じて店主を睨む。

 

 

「曰く付きか?つーか、右から三番目の奴は呪詛具だろ」

「えっ……!?」

「命に害を及ぼすような奴じゃない。それほど強力な物でも無さそうだし、触れたら離れられなくなるとかそんな程度だろうけど」

「……ええその通り、あのネックレスは付けたら外せない呪いが付与されてます。まあ壊せば取れますが」

 

 

 ノーグの【天眼】は洞察力の強化。

 最近では魔力の色すら見えるようになったその瞳はネックレスから滲み出ている呪詛の魔力を見分けられる。マキシムも同じスキルを持っているのか、魔力を見る力は希少な発展アビリティなのだろう。

 

 

「呪詛具とかそんなもの売って大丈夫なのかい?そういうのって違法なんじゃ」

「いや、憲兵を動かせる程の呪詛じゃねえ。なんなら掘り出し物として呪いのアクセサリーって部類を欲しがる人もいるしな。そもそも呪詛とか気づける人間は少ないし」

「あ、あくどい……」

 

 

 バレなければ違法ではない。

 そもそも魔力を見分ける力を持った冒険者が少ないのだ。ノーグの他にマキシムや女帝なら出来るが他の人間は見ただけで呪詛具とは気付けない。それにバレたところで一夜経てば行方を眩ませるくらい造作もない。

 

 

「そのブローチは呪詛具ではなく、ある魔導師が作った物です」

「へぇ、効果は?」

「試しに触れてみると分かります」

 

 

 メーテリアがノーグを見た。

 試しに触れてほしい、と視線で訴えていた。呪詛は感じないが、さっきの説明でなんとなく怖くなったのか押し付けてきた。

 

 

「よしノーグ任せた!」

「貴様もかブルータス」

 

 

 ノーグは溜息を吐きながらも軽く触れる。

 するとブローチに埋め込まれたガラス部分の色が変わる。透明な色から深く浸透するような綺麗な藍色に変わっていく。

 

 

「おお、色が変わった」

「綺麗な藍色ですね……」

「成る程……()()()()()()()()()()()()()

 

 

 確かにかなりの物だ。

 魔力は基本的に感知は出来ても色で見分ける事が出来ない。それが出来るようになるスキルや発展アビリティは存在するが、それを持つ者は少ない。誰でもそれを視認できるように造り出した物なら大したものだ。

 

 

「いいんじゃないか?値段は?」

「十二万ヴァリスです」

「高っ!?そんなにするもんなの!?」

「まあするだろうな、こういう商品は貴族との取引で利益が出たりするしな。コアな奴等はその腕を買って専属契約をしたりする所もあるらしいし」

「鍛治士みたいですね……ううっ、お金が足りない」

 

 

 魔導具は基本的に冒険者が買うが、こう言った装飾品として売り出すことも多々ある。宝石や金に物を言わせた装飾品よりもこういったものが注目を集めることも多いのだ。貴族の中ではよくある話だ。神の宴に参加した事のあるロキに聞いた事がある。

 

 

「どのくらいあるんだ?」

「四万ヴァリスしかないです」

「お前はどんくらい持ってる?」

「二万ヴァリスだね。残念ながら俺はそこまで持ってない。最近英雄譚を大人買いしちゃったし」

 

 

 メーテリアの我儘で脱走しているせいかサポーターが持っているお金は少ない。デートなら絶対に多く持ってきているはずだが、脱走とプレゼント選びまでは考えてなかったのだろう。

 

 

「ノーグは?」

「俺は十八万ヴァリス」

「すっごい持ってるな!?」

「剣の整備代分を持ってきたからな」

 

 

 メルティ・ザーラとの戦闘で剣がかなり摩耗してしまったので整備に出すためと、偶の休暇を楽しむ為にそこそこ多く持ってきている。とはいえ整備代から出せば明日になりそうだが、そこまで整備に急いでいる訳でもない。

 

 

「仕方ない、一人四万で出し合うか。お前は後で返せ」

「ぐっ…仕方ない。まあ直ぐに稼げるか」

「えっ、でもいいんですか?」

「稼いだ金はまだ全然あるし、一日あれば倍の額が戻るからいいさ」

「じゃあ返さなくてもよくね?」

「利子付けるぞコラ」

 

 

 結果、三人で出し合ったお金でブローチを購入した。

 

 

 ★★★★★

 

 

「………くそ、前もこんな事なかったか?」

 

 

 俺はサポーターを背負い、メーテリアをお姫様抱っこしながら『神妃の王宮』へと向かっている。誕生日プレゼントを買い終えて暇となってしまい、メーテリア自身遠くに行けるほどの体力もなく、お金も無かった為、雑貨屋や本屋を見て回った後に酒場へと入った。

 

 メーテリアはキラキラと目を輝かせていた。

 酒場に入るのは初めてらしくて、俺もサポーターも苦笑していた。メーテリアも誕生日だったので俺が奢る事になったのだが、サポーターは頼んだ火酒に酔い潰れ、メーテリアに関してはノンアルコールをわざわざ出したというのに酒の匂いと場の雰囲気で酔い潰れ、今に至る。

 

 

「弱過ぎる……」

 

 

 火酒を頼んだサポーターは自業自得だとしてもメーテリアに関してはここまで弱いと思わなかった。なんなら飲んですらいないのに。二人を背負って『神妃の王宮』に向かう所とか完全にデジャヴだ。三年前を思い出す。

 

 

 

「ん?」

 

 

 歩いていると裏路地のゴミ箱に見た事のある汚ねえケツが見えた。恐る恐る近づいてみると、どっかで見た事のある存在がこっちを見ていた。

 

 それは神と言うには、あまりに変態すぎた。

 我欲まみれで、変態で、女好きで、救いようがなかった。それは正に絵に描いたようなエロジジイだった。

 

 

「………………」

「………………」

 

 

 見なかった事にしよう。

 触らぬ神に祟りなしというし。華麗に回れ右をしてその場を去る。変態を助けるほど慈悲深い存在ではない。

 

 

「いや助けろぃ!?」

「面倒事ならもうなってんだ、自力で何とかしろよ。どうせセクハラしたらビンタ飛んできたんだろ」

 

 

 ゴミ箱から勢いよく起き上がったゼウス。

 その頬には赤い紅葉が浮かんでいた。またいつものようにセクハラをかまして返り討ちにされたのだろう。

 

 

「はーっ、最近の子供は揃いも揃ってクソガキじゃのぅ」

「アホか。年がら年中女のケツを追っかけてるアンタに言われたくねえ。ヘラがいるんだから諦めろよ」

「いーや、ワシは諦めん!聖夜は過ぎても性夜はいつでも追っかけるのが男の性ってもんじゃろうが!」

「やべえよこの(ジジイ)。教育に悪過ぎる」

 

 

 最早生かしておいた方が害悪なまである。

 元気過ぎるよ色んな意味で、ヘラの怖さを知ってるのに懲りないし。

 

 

「ところでノーグ、お主メーテリアを抱えとるがなんじゃ?お持ち帰りか?送り狼にならないようにワシが」

「いやアンタに預けるくらいなら俺が責任持って送り届けるわ。アンタが一番の危険人物だからな?」

「いやいや、過ちを犯さないように導くのが神の――」

「【福音(ゴスペル)】」

 

 

 ゼウスが吹き飛んだ。

 慣れ親しんだ詠唱に背筋が凍り付きそうだ。ギギギと首を後ろに向けると、そこには怒気を放ちながら睨むメーテリアの姉の姿が。

 

 

「あ、アルフィア……」

「先程は舐めた真似をしてくれたようだが、遺言はあるか?」

「ヒェッ」

 

 

 あっ、コレ死んだ。

 そう思って目を瞑るが、どうにもならない。汚い花火になる覚悟を決めたその時、溜息の音が聞こえて恐る恐る目を開ける。

 

 

「冗談だ。大体事情は察している」

「……はっ?いつから?」

「先程だがな。ただ脱走するくらいならお前が協力する筈もないしな」

「……寿命が縮んだぞ」

 

 

 そこは信用してくれた事に安堵する。

 よくやった過去の俺、じゃなきゃ今日が命日になっていただろう。

 

 

「メーテリアは私が運ぶから渡せ」

「あー、うん。まあ怒らないでやってくれ」

「怒るものか、この子が私の為に外に出たんだろう?無理はしていないようだしな」

「悪かったな、魔法で欺く真似なんてして」

「私はそこまで器の小さい女ではない。メーテリアに何かがあったら話は変わったがな」

  

 

 あっ、やっぱり完全に許した訳ではないんですねハイ。ゼウスを置き去りに俺達はそれぞれのホームへと歩き始める。今背負っているコイツも送り届けなきゃいけないし。

 

 

「……ほらコレ」

 

 

 メーテリアと同時に持っていた紙袋を渡す。

 雑貨屋を回っていた時に買ったプレゼントだ。メーテリアの物と比べれば安い物だが、一応二人の十三歳の誕生日として普通に贈り物はしときたかったから買っといた物だ。

 

 

「リボン?」

「俺からお前ら二人に。13歳おめでとう」

「似合うとは思えないがな」

「似合うだろ。お前もメーテリアも美人なんだし」

 

 

 リボンはどう使うのか。ポニーテールか?サイドテールも似合う気がする。まあ何着ても大体似合う訳だし、どんな髪型でも似合うだろう。個人的にはポニーテールとか見てみたい。

 

 

「どうした?」

「こっち見るな。見たら殺す」

「あっ、はい……」

 

 

 アルフィアが顔を逸らした。

 殺されたくは無いので視線を向けずに歩き続ける。

 

 

「あの日、何故私を見捨てなかった」

「はっ?」

「助かったからよかったものを、私を見捨てればお前なら逃げられただろう」

 

 

 メルティ・ザーラとの戦いでアルフィアが人質に取られた時、確かに俺なら逃げられただろう。幻像の箱庭を展開していた以上、隠れ続ける事は確かに出来た。だが、それは俺には出来なかった。

 

 

「ばーか、理屈とかで片付けられるほど俺も大人じゃねーからな」

「!」

「アルフィアを死なせたくなかった。それだけだ」

 

 

 何回も救われて、助けに来てくれたのにアルフィアを見捨てて無様に生きる事はしたくなかった。生き延びればいいって信念も、アルフィアを犠牲にしてまで叶えたいとは思えなかった。理屈では俺の力を取られたら天秤が傾くから逃げなくてはいけなかったのかもしれない。

 

 けど、理屈だけで人は動けない。

 俺もこの世界に馴染んできたという事なのだろう。随分と我が強くなった。

 

 

「ノーグ」

「ん?」

 

 

 アルフィアの足が止まり、自然と俺も足を止めた。

 そして振り返ると、アルフィアはこちらを見て瞳を逸らさずに笑った。

 

 

 

「――ありがとう」

 

 

 

 柔らかく微笑むアルフィアを見て、心音が高鳴った気がした。気が付けば身体が熱くなって、頬が赤い気がする。動揺を隠すように顔を逸らすが、それでも熱は暫く冷めそうにない。外は寒いのに、熱は引いてくれない。

 

 

「っ………」

 

 

 ああ、うん。コレはもう確定だ。

 大人である分、自分の感情に気付かないほど鈍くはない。熱くなった頬は冷めやしない。だけど、この時が何故か嫌いではない。手で顔を覆いながら空を見上げる。

 

 

「何故顔を逸らす」

「……酒が回っただけだ」

 

 

 ああ本当に―――月が綺麗な事で。

 

 

 






 後日、『神妃の王宮』にて黒いリボンをつけたサイドテールのアルフィアを見て、勘のいい女帝達はニヤニヤと笑っていた。ホームが爆散し、メーテリアの雷が落ちたとか。

 ★★★★★

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