【急募】見知らぬ世界で生きていく方法   作:道化所属

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 三章販売に昂って創作意欲から投稿してくぜ。当然私は二冊買った。


十九スレ目

 

 

1:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

ザルドがヤバい

 

 

2:名無しの冒険者

おかえりイッチ

 

 

3:名無しの冒険者

やっぱ勝ったんか?

 

 

4:名無しの冒険者

ザルドはいい奴だったよ……

 

 

5:名無しの冒険者

安らかに眠れ

 

 

6:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

いや死んでないから、あのオッサン喰ったものをステイタスに反映させるスキルがあるんやけど、ベヒーモス戦で削った肉を喰って殺したからもの凄い毒が回ってる

 

 

7:名無しの冒険者

あー、やっぱりそう来たか

 

 

8:名無しの冒険者

苦肉の策とはいえやる事がイカれてる

 

 

9:名無しの冒険者

やはりゼウスだけではキツかった部分は大きいな

 

 

10:名無しの冒険者

ヘラ達が居ればまだ余裕があって勝てただろうに

 

 

11:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

もしかして、ザルドがこうなる事知ってた?

 

 

12:名無しの冒険者

まあね

 

 

13:名無しの冒険者

結果は知ってたんやけど過程は詳しくは知らん

 

 

14:名無しの冒険者

ワイらが知ってるのはザルドがベヒーモス戦でのMVPである事と、黒竜戦には行けないって事や

 

 

15:名無しの冒険者

イッチ、別に責任感じる事はないで?

 

 

16:名無しの冒険者

これはある意味物語の筋書き通りに進んどる以上、何でもかんでも改変出来ると思う方が罪や

 

 

17:名無しの冒険者

もしかしたらイッチが持つ精霊の血の薬剤で消せずとも苦痛を和らげる程度なら出来るかもしれへんけど

 

 

18:名無しの冒険者

ベヒーモス戦に行かなかったイッチに出来る事はそんくらいや

 

 

19:超絶残虐破壊衝動女神(ハイパーウルトラヒステリー)の眷属

悪いけど、スレから離れる

ディアンケヒトの所に行ってくる

 

 

20:名無しの冒険者

おう、いってら

 

 

21:名無しの冒険者

まあ辛い気持ちは分かるけどなぁ

 

 

22:名無しの冒険者

逃げたらあかんよイッチ

 

 

23:名無しの冒険者

ワイらは識っているだけでどうにか出来る訳やない

 

 

24:名無しの冒険者

どれだけやっても変える変えないを決めるのはイッチなんやから

 

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 ディアンケヒトの治療院は部屋が埋め尽くされ、犬猿の仲であったミアハの手を借りる程に忙しなく動いていた。マキシムでさえ侵された毒に苦しむ程だが、それ以上に危険なのがザルドだった。

 

 

「酷い……」

 

 

 身体から()()()()()。 

 今は鎮静剤を打って落ち着いているが、人の身体からそんな匂いがするなんて余程重症だ。身体の一部が既に黒ずんで、そこから腐臭がする。【耐異常】を貫通するベヒーモスの毒性、それはダンジョンで出会ったら即殺せと言わしめたペルーダの毒を凌駕し、この毒を治せる程の魔法も薬も未だ作り出されていない。

 

 

「神ディアンケヒト、献血しに来た」

「先日やったばかりだろう」

「いい、やってくれ」

「……まあ、お前以上の薬がないのも事実か。来い」

 

 

 献血は昨日やったばかりだがまた150ccの献血をして、若干貧血気味に陥るが、ノーグなら数日すれば治る。回復だけなら精霊の血を持つ分、他の人より早い。とはいえ、献血にはやはり限度がある。

 

 

「精霊の血と言えどだ。病気も毒も進行を和らげる程度、治るわけではないし、お前から生成される血は自然と増やさなきゃならん」

「その量でどれくらい出来る?」

「一度の献血で大体二ヶ月分ぐらいなら可能だが、ザルドもメーテリアもと輸血を続けたら限界が来る」

 

 

 仮に一月で300ccずつ取られた場合、ダンジョンに行けなくなる程だ。献血した血は回復魔法でも戻らない為、ノーグがダンジョンに行ける時間は格段に落ちる。

 

 

「(それに、あの子については口止めされとるしな)」

 

 

 メーテリアとザルド以外にもう一人『精霊薬』が必要な人間が居る。それを含めてもノーグの負担が大きいのだ。そしてザルドは足を引っ張る事を望んでいない。この事実を知ればいずれ自分から反対を申し出るだろう。

 

 

「ザルドは分かった。マキシムさん達は?」

「アイツらも毒に侵されてはいるがザルド程ではない。耐え抜けば【耐異常】で自然と弾く。それでもヤバい奴等はお前産の精霊薬を投与して毒の進行を止め、手遅れな部分を切除した。腕、足、臓器、色々と失われた奴等は少なくない」

 

 

 最強の陸の巨獣の被害は少なくない。

 一番は毒性にやられた人間が多いことだろう。耐毒装備を整えて万全を期したベヒーモス討伐は『デダイン』の砂漠を黒く染め上げる程の毒を撒き散らし、歴戦の戦士に少なくない損傷を残した。

 

 

「あの逃げ腰サポーターは?」

「奴なら毒には侵されておらん。疲労困憊じゃけどな」

「えっ」

「なんでも炎の付与魔法で熱消毒が出来たらしくての。サポーターが発現するような魔法ではないんじゃが、そのおかげで毒を防ぎ、重症のザルドを運んでたわい」

 

 

 ノーグは呆気に取られた顔となった。

 いつも逃げ腰で逃げ足だけならファミリアで一番と呼ばれたあの男に魔法が発現するなんて、予想外も予想外だった。

 

 

「アイツ魔法使えたのか……」

「ゼウスが言うには発現したのはつい最近らしいがの。どっかの誰かさんを見て、憧れが昇華したとかなんとか…」

「…………」

「照れとるのか?」

「うっさい」

 

 

 顔を逸らしたが、僅かに頬が熱くなっていた。

 とはいえ、サポーターだから前線で戦わない為、使う機会が殆ど無い気もする為、宝の持ち腐れと不憫に思っていた。

 

 そんな事を考えていると診療所の扉が開いた。頭に包帯を巻かれ、腕がギプスで固定されて布に吊られ、ザルドの次に重傷であったマキシムが入ってきた。

 

 

「おい、何故立ち歩いとる」

「暇だったんだ。つか、解毒は出来た筈だ」

「もう治ったの?」

「俺は雷で毒を燃やしてたしな。【精癒】も【耐異常】も軒並み高い」

 

 

 マキシムは最もベヒーモスと戦い続けた。

 決め手に欠けていた巨獣殺しが通じずに殿を務めて毒に侵されて戦えなくなった団員を退かせていた。ザルドの苦肉の策が無ければ、ベヒーモスを一人で抑えた後に撤退していただろう。

 

 そのせいか、怪我はメナでさえ治せない程に()()()()()()()()()()()()()()。ディアンケヒトとミアハの二人の神がかった手術さえ無ければ二度と使えない程にだ。本人はケロッとしているが、軽く強がっているのは明らかだった。

 

 

「ドロップアイテムはどうするの?あのままじゃ、影響は出るだろうし」

 

 

 ベヒーモスから出たドロップアイテムは未だ『デダイン』の黒の砂漠に放置されている。というのも回収し、処理するだけの余力もなく、耐毒装備でさえ防ぎきれなかった事から治療の為、回収は出来ず魔石を砕けるだけ砕く事しか出来なかった。ベヒーモスから出たドロップアイテムにも毒があり、処理に困ってはいた。

 

 

「処理はお前に一任しようかと思う」

「待て、なんで?」

「お前なら毒を凍結させて持ち運べるだろ。燃やすわけにもいかねぇしな。毒煙撒き散らすし」

 

 

 そもそもベヒーモスの焼却はマキシム達の巨獣殺しの策だった。灯油、火炎石、様々なものを使いベヒーモスの毒を焼却する筈だったのだが、撒き散らされた毒ならまだしも、焼かれたベヒーモスの肉から発生した毒煙が余りにも酷く、燃やす策はベヒーモスに対しては失敗の一言に尽きた。

 

 

「次の討伐はお前達だろ?なら餞別だ。上手く使え」

「使えるのか?」

「それは知らん」

 

 

 無責任なと心の中で呟く。

 ベヒーモスの毒を解析出来ればザルドの症状を和らげる薬を作れるかもしれない上に、ベヒーモスの毒は下界最強の毒だ。海の王獣の討伐に使えるかもしれない。ノーグは一度ヘラにその提案を持ち帰る事にした。

 

 

 ★★★★★

 

 

「………」

 

 

 風が吹いていた。

 テラスから見上げる空は満天の星、観るもの全てを魅了するように輝いている。綺麗で、美しくて、惹かれてしまうくらいな夜空が目に写る。いつも、此処で飲む夜酒が好きだった。心が落ち着くようで、嫌な事全てを忘れられるようだから。

 

 なのに、心が晴れない。

 偶に飲む酒も、今は不味かった。飲んでもアルコールの酔いが回らない。体質的に強い自負はあるが、全く酔えないのは初めてだった。

 

 

「………クソッ」

 

 

 未来を知っているわけではない。

 自分が出来ることなどたかが知れている。

 

 ザルドがああなったのは俺のせいではない。俺は全知全能ではないし、英雄でもない。救う事が出来ると言われたらそれは無理だと断言出来る。けど、未来を知り得る存在に踊らされて、生きている自分が今はとても嫌気が差した。

 

 割と遊ばれている自覚はある。

 それでも、割と助かっている部分もある。だから信頼はせずとも信用はしている。

 

 その存在が最初に漏らした言葉が胸に引っ掛かっている。

 

 

『超絶ヤンデレ女神と下半神直結爺が()()いる訳か』

 

 

 ()()、とは。

 三大クエストが終わった暁には、【ヘラ・ファミリア】や【ゼウス・ファミリア】がオラリオから居なくなるという事なのだろうか。それとも、この三大クエストで命を落としてしまう事があるのだろうか。

 

 あの最強の英傑達が、あの最強の女帝達がいつか消えるかもしれない。その答えが分からない。分からないから不安だった。未来なんて分からないのが普通だ。未来を知らないから恐怖する自分がとても滑稽に思えて自嘲を溢す。

 

 

「……馬鹿みたいだ」

「何がだ?」

「うおおっ!?!?」

 

 

 動揺し過ぎてテラスの手摺りから滑り落ちる。

 落ちる俺の手を掴む。落ちても大した痛みはないが、むしろいつの間にか背後にいたアルフィアに心臓がバクバク言ってる。

 

 

「馬鹿っ、動揺し過ぎだ」

「いきなり背後に居るからだろっ!?」

「全く」

 

 

 ヒョイっと身体が浮き、テラスに引き戻された。

 よかった、酒の入ったグラスもテラスから落ちていない。少し安堵の息をこぼした。

 

 

「で、何が馬鹿みたいだ?」

「あ、いや……」

 

 

 未来の事は知らないが、未来を知っている存在から未来を聞けないから怖いなんて抜かせる訳もない。とはいえ、アルフィアは大抵の嘘は勘で見抜く為、今心の中で思った事を素直に口にした。

 

 

「あと半年で、リヴァイアサン討伐だろ?ザルド達がああなってんの見て、少し不安になっただけだ」

「お前らしくないな」

「いや、俺は……」

 

 

 お前らしくない、かぁ。

 一体どんな俺が俺らしいのか。冒険者になった理由も、生き様も中途半端で誰かに定められたような在り方をしてる俺はどんな生き方が俺なのかわからない。

 

 

「強くならなきゃ生きられないから強くなった。それだけだったからなぁ」

 

 

 俺は()()()()()()()()()()

 野望や渇望、歪んだ感情が無ければ冒険をする意味などない。一族の復興、未知の探究、まだ見ぬ世界を見る為、あの三人は明確な野望や願いがあった。

 

 でも、俺は少し違う。

 恐怖心というべきか、生きる為に強くなる。強くならなければ生き残れないこの世界で、死にたくないから強くなるのは間違ってはいないと思うが、それはある程度強くなったら果たされてしまう事だ。

 

 

「奪われない強さを持ったら、虚しくなんのかねぇ」

 

 

 明確な野望がない。

 天啓で知らない人間に生き様を委ねて、今は強くなったら終わってしまう目標。これから更に強くなり、誰にも奪われない強さが手に入れたのならその時、冒険者を本気で続けていられるのか。

 

 何の為に強くなりたいという言動が果たされたら、今度は強さに何の意味を持てばいいのか。

 

 

「一つ、強くなる為の理由を私が言おう」

 

 

 アルフィアがテラスの手摺りに座った俺の隣に座ると、ただ一言告げた。

 

 

 

「『英雄』になれ」

 

 

 

 唇に浮かぶ笑みが、緑と灰色の異色双眼(オッドアイ)に見つめられ、僅かに胸が熱くなる。

 

 

「俺が?」

「お前なら至れるだろ。余りある才能が無駄であるものか」

「俺がねぇ……ガラじゃないと思うけど?」

「誰よりも強くなって、理由が無くなったらでいい。それを目指すのも、悪くはないだろう」

 

 

 理由なく強くなるくらいなら、確かにそれもいいのかもしれない。俺は正直、この世界で異物みたいなものだけど、それでも生きているのだ。いつか理由を失ったのなら、それを目指すのも悪くないのかもしれない。

 

 

「……そうだな。本当の意味で最強になったら、考えてみる」

「お前ならなれるさ。私と違ってな」

「皮肉か?お前の方が先に最強になるだろ」

 

 

 アルフィアが最も女帝に近い才能。

【ヘラ・ファミリア】の中でも異端の才能を持った魔導師、絶対に俺が最強になる前に最強の座を奪っているだろう。だって想像が容易過ぎるし。

 

 

「そうだな。お前が最強に至る時、最強の壁として立ち塞がってやる」

「はっ?破る壁が分厚過ぎるから却下」

「殴るぞ?」

「それはもっと嫌だ」

 

 

 最強の階段を上がり、女帝を超えた先がアルフィアとか笑えない。オラリオ最強を超えられる日が来るのか、正直想像もつかないので、アルフィアから最強の座を奪うのは遙か先の未来になりそうだけど。

 

 

 それでも、少しだけ気が楽になった気がした。

 俺はきっと全てを救う事は出来ない。手の届く人しか救えないちっぽけな人間だ。それでもきっと、強くなり続ける。生きる為以外に強くなる理由を示してくれたのだから。

 

 強くなったその時は、本当の意味で護れるようになれたのなら、その時は……

 

 

「アルフィア」

「?」

「俺、お前と出会えてよかったわ」

 

 

 夜空に浮かぶ月を見上げ、静かに酒を呷った。

 

 

 ★★★★★

 

 

「………」

 

 

 無言のままテラスから出て行くアルフィア。

 ノーグは追いかける様子もなく月を見上げている中、アルフィアは自室の扉を乱雑に閉め、ベッドに顔を埋める。

 

 

「アレは……卑怯だろ」

 

 

 分からない感情とむず痒い感覚、そして何より酒を飲んだ訳でもないのに身体が熱くなった。ベッドから見える姿鏡を覗くとそこに写る自分の顔を見て額を抑える。

 

 

「私は私で……重症か」

 

 

 その顔は、誰が見ても分かるくらいに赤く染まっていた。

 

 





 アルフィアは強いけど恋愛に関しては恋した事無さそうだから弱いと思う(偏見)

 ★★★★★
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