【急募】見知らぬ世界で生きていく方法 作:道化所属
バレンタイン番外編です。
一年前にやろうとしたものがお蔵入りしてたので書き直しました。忙しいですけど月二で出せるように頑張っていきます。
甘い匂いがする。
珍しく、ロキの命令で男が全員ファミリアから追い出されたのだ。寒い日の中、外に追い出されたのに納得行かない男達も居たので軽くダンジョンへ行った後に飲み会を開いていた。
だが、街のどこからも何故か甘ったるい匂いがすると思ったら今日の日時を思い出してフィンもガレスも「ああ…、成る程」と納得し、ロキの思惑に乗っていた。
今日は乙女達が主役の日であるバレンタインデー。
この世界でもあるんだなー、とノーグは呑気に笑っていた。
「しかし、男性全員がファミリアから追い出されるのは珍しいな」
「ったく、俺はお陰でいい迷惑してんだ」
「まあこのメンツだからプチ遠征になったしね」
「偶にはこういうのも悪くなかろう。男だけで飲む以上、気楽に騒ぐ事が出来るわい」
「その場合、ミアの拳骨が落ちるけどな」
ノーグ、ベート、フィン、ガレス。
全員第一級冒険者の四人でパーティーを組んでのダンジョン探索はそこまで苦にもならなかった。フィンも指示をあまり出さない以上思う存分槍を振るい、ガレスやベートも満足行くまで暴れられたようだ。
ノーグに関してはレベル差もあり物足りなさもあったが、まあ元々休日だった以上そんなものだろうと納得していた。
「しっかし凄い量だなフィン。暫く甘いものが嫌いになりそうなレベルで貰ってんじゃん」
「それ完全にブーメランだよ。どうしたらいいかなこの量」
「あー、うん。毒がない奴を検閲して普通に食えば?」
「絶対胃もたれするんだけど」
フィンの横にあった紙袋にはコレでもかという程にチョコが入っていた。見た感じで数えるだけで30以上はある。小人族でイケメンアラフォーの未婚。未だ嫁候補を探しに探しているせいか、結婚したい男としてランキングの上位に位置している。
ノーグも隣に置かれた紙袋の中にはそれなりにチョコが入っている。ガレスやベートも何個か貰っている。
「罪な男達じゃわい。アミッドやあの小娘達からも貰ってるんじゃろ?」
「いや、まあ日頃の感謝って事で貰ったが、アイツらもお年頃って奴なのかねぇ。俺32だぞ?」
「君の場合は恩返しの意味の方が強いだろうけどね」
ノーグに関しては、暗黒期に色々と世話焼いた分の返礼とアミッドに関しては治療に役に立つ事をしている為のお礼の方が大きいだろう。本命とかそんなのはない事に関しては理解している。
まあまさか全員から貰えるとは思わなかったようだが。
「ベートだって貰ってんじゃん。五個も」
「るっせ、押し付けられたんだよ」
「食わねえのか?」
「……気が向いたらな」
ツンデレだ。
地味にあの紅娘から押し付けられたのはちょっと意外だったが同じレベルで強い女、ベートの好きなタイプに割と当てはまる。意外と正反対だが、あの堅物のポンコツエルフの団長なのだ。
「(というか、頑張れリーネ)」
早く強くならないとベートの気持ちが奪われるかもな。
「何笑ってんだよ」
「別に」
こういう事を言いたくないが、青春してるなと年寄りのような感想を溢し、酒を煽っていた。
★★★★★
「んじゃー、主役の時は来たで乙女達よ!男ども追っ払った訳やし、存分にバレンタインのチョコを作るでー!」
ロキの号令に女子一同はキッチンでチョコ作り。
グループを作る者達も居れば、料理が得意という理由から一人でテキパキと作業を進めている者もいる。バレンタインデーとは乙女達が主役であり、そしてある意味戦争とも言える。
オラリオで彼氏彼女のカップルはあまり多くない。
派閥内での恋愛を認めても他派閥との恋愛は諍いが多いからだ。ただし、乙女達にとってバレンタインデーとは諍いを無くすイベント。誰もがやっているからという名目で他派閥の男の人に渡す事も出来る。
乙女にとって恋愛成就が掛かっている戦争なのだ。
尚、恋愛に関して分かっていないポンコツ姫は成り行きで、暴食娘は恋愛に興味はないがチョコ作りに興味がある為参加していた。
「料理、得意じゃない」
「こういうんは気持ちや気持ち。乙女が頑張ってるという所だけで男はグッとくるもんやで」
「アタシは団長一択だけど」
「ティオネはブレないよねー」
各々、個性豊かなチョコを作り始めていく。
生チョコ、クッキー、ガトーショコラ、それぞれ作るモノは変わってくる。ある者には感謝を、ある者には友愛を、ある者には恋を、バレンタインはチョコで繋がる特別な日なのだ。
「アキさんはラウルさんにですか?」
「いやみんなに渡せる奴にはするけど……レフィーヤは?」
「皆さんにお世話になってますし、クッキーとかにして配ります。あとは友チョコとかでアイズさん達にも」
甘い匂いがキッチンを埋め尽くす。
失敗したら笑い合って、味見しては美味しいと絶賛したり乙女達のささやかな青春が此処にある。
「レヴィス、手伝って」
「手伝うのはいいが剣を置け。何に使うつもりだ」
「?チョコを刻むんじゃないの?」
「包丁でやれ」
ロキは酒を飲みながらその光景を眺めている。
年寄り臭い感想ではあるが、乙女達が騒ぎながら誰かのためにチョコを作る光景はグッとくる。子供達の細やかな青春はとても良い酒の肴となっていた。
そんな隣に居た堪れない顔をして監査役として壁に背を預ける副団長の姿が。
「リヴェリアは作らへんのか?」
「市販のものを買った。というより、前回の影響で義理で渡したノーグが悲惨な目に遭っていただろ」
「そーやった。エルフの影響」
前回のバレンタイン、義理とはいえ配る形で渡そうとしたのだが一番初めに貰ったノーグに対してエルフの過激派が暴走。本人はため息をつきながら鎮圧していたが、その影響も加味してリヴェリアは参加不可となった。その上、若い乙女達の甘酸っぱい会話についていこうとするのは客観的に見ても痛々しい気がしたので監査役としているだけだった。
「そういえばノーグは実家に戻ると言ってたぞ」
「えっ、そうなん?アイズたん達渡せへんやんけ」
「一度ホームに戻ってから走って行くらしい。まあアイツの脚なら二十分もかからないだろうし」
オラリオ最速の脚は健在だ。
世界の裏側だろうと彼が本気を出せば1日で辿り着けるだろう。オラリオ一番の派閥として名を馳せているのはやはり
「リヴェリアはノーグの事どう思っとる?以前と比べて」
「丸くなった方だろう。自己完結の戦闘力で最強を追うあの頃に比べれば、優しくなった方だ」
「歳月は人を変えるか。ええなぁ、ノーグ」
「いや、元々アレが本来のノーグだろう」
奪われない為に強くなり、幸せを追い求め続けた男の答えは今でも変わらない。【修羅】なんて二つ名が付いていた頃は苛烈で失った重さを背負い、走り続けた。ただ最強の意味を知っているから次代として強くなる義理だけの為に強くなって、意味は空虚なままだった。
今は、強くなる事に意味があるから強くなり、守りたいものがあるから走り続ける。だから、変わったものがあるとするのならそれはノーグの脚を止めさせるだけの『理由』が出来たからだろう。
「ノーグも成長したなぁ」
「全くだ」
あんなに小さかったのに、今では英雄と呼ばれてる。その成長を深々と噛み締めて年寄り臭い感想を二人はこぼした。
「リヴェリアは相手いないの?ノーグには居るのに」
「馬鹿アイズ。意外ともう歳だし……手遅れの可能性を示唆するな」
「アイズ、レヴィス、ちょっとこっちに来い」
二人に妖精女王の拳骨が振り下ろされた。
★★★★★
「ただいま。待ったか?」
「ああ、この紙袋?あの小娘達から世話になってるお礼だとよ。律儀だよな」
「拗ねんなよ。俺の気持ち知ってるくせに小娘達に靡くわけねえだろ。ゼウスじゃあるまいし、俺はちゃんとお前一筋だよ。心の余裕を持ちな」
「まっ、それでも妬いてくれるのは嬉しいけどな。あっ、ちょ、痛い痛い!脇腹突くな!?」
「………おっ、お前もチョコ作ってたんだな」
「失敗したかも?どれ?……あっ、苦い」
「ビターチョコ使ったのか。確かに甘くないけど、苦過ぎってわけじゃないし、俺は好きだぞ」
「これはベル用?ああ、アイツ甘いの好きじゃなかったしな」
「おっ、ラッピングされてある。ありがとう、食べてみてもいいか?」
「どれどれ、おお……生チョコだ」
「ん……おおっ、美味しい!コーヒーの生チョコか。しっとりとした甘さの中にコーヒーの苦味が合うな」
「良かったら一緒に食べようぜ。明日休みは取ったからゆっくりしてられるし」
「チョコ、ありがとな」
「ハッピーバレンタイン── ◼️◼️◼️◼️◼️」
──このルートに辿り着ける確率は限りなく低いものとする。