【急募】見知らぬ世界で生きていく方法   作:道化所属

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 皆さま、大変申し訳ありません。
 アンケートで変更しなくていいとの事でしたが、私自身が黄金時代を追求したいというプライドもありまして八スレ目を勝手ながら書き直させて頂きました。アンケート協力してくれたのに申し訳無さで一杯です。

 ご迷惑をおかけした事、このままの方が良かったと思う人もいるかと思いますがご了承願います。

 お詫びとして今日の18:00にもう一話分投稿させていただきます。
 
 それで許してもらえると幸いです。



九スレ目

 

 

 

 パチパチと拍手する音が聞こえた。

 暗闇の奥から出てきたのは無邪気そうな顔をして嗤っている二人の妖精の姿がそこにはあった。

 

 

「おめでとう!ふふふ、本当に凄いわ!そう思わないヴェナ!」

「ええ姉様!あんな怪物を倒しちゃうなんて!流石今勢いに乗ってるファミリアね!」

 

 

 拍手をしながらこの場の空気に水を差す小さなエルフ達、白い肌と黒い肌のコントラストが異色の雰囲気を醸し出し、何よりこの場所は階層主が出現していたにもかかわらず、笑ってはしゃいでキャイキャイと緊張感がない。それが何処か気持ち悪い。

 

 

「これはこれはリヴェリア様!初めまして!」

「私達は貴女を尊敬しているわ!エルフの習わしを尊重する王女様!私はとってもとっても尊敬(軽蔑)しているわ!」

「リヴェリア、あんな頭悪そうなモノクロエルフと知り合いなのか?」

「初めましてとあちらが言っているだろう」

 

 

 ノーグは二振りの剣を抜く。

 念の為、というわけではない。ただ、この二人の妖精から感じる嫌悪感。この二人を生かしておくのが危険だと本能が悟っていた。

 

 

「ゼウスの言ってた『メスガキ悪堕ち』ってこんな感じなのか」

「おい待て、ゼウスに何を吹き込まれた」

 

 

 リヴェリアは神妙な顔をしてノーグに視線を向ける。子供に何を吹き込んでんだと若干変態の好々爺に怒りが湧く。教育に悪すぎる。

 

 

「でも今日は貴女の挨拶はついで。目的は貴方」

 

 

 白妖精(ホワイトエルフ)のディナがノーグに指を向ける。

 

 

「俺?」

「ええ!随分と姿が変わったようだけど、()()()()()()()()()()()!」

「だとしたら滑稽だわ!ねえ、あの子は何処?」

 

 

 ドクン、と心臓が高鳴った気がした。

 ヴィルデアの真似、という言葉の意味をノーグは知らない。だが、何故か心を揺さぶる。何処かで聞いた事のあるような言葉に反応する。

 

 

「……何の、話だ」

「アレ?通じてないようね姉様?」

「おかしいわね?惚けている訳では無さそうだけど」

「私達一度会ってるのだけど憶えてないなんて悲しいわ!」

 

 

 会った事のある筈がない。

 冒険者になってからノーグはあんなエルフ達を見た事が無い。と、否定を口に出来る筈なのに、頭の中に流れる嗤う二人の顔が浮かぶ。いつ、何処であったかなんて憶えてはいない。

 

 けど、会った事がある気がした。その言葉は間違っていなかった。

 

 

「あっ、そういえば彼ってヴィルデアの事を別の名前で呼んでなかった?」

「あっ、そうそう!確か名前は––––」

「何、言って」

 

 

 動揺、困惑、そんな状態のノーグにヴェナは決定的な一言を口に出した。

 

 

「––––()()()、だったかしら?」

 

 

 カチリと頭の中で音が聞こえた気がした。

 聞いた事がある、で済ませられないような一言がまるで足りなかったパズルピースを埋める。記憶の奥底に眠っていたかのような光景が頭の中に浮かび出す。

 

 

「フ……ララ」

 

 

 知っている。

 知っている!知っている!!知っている!!!

 何故、どうして、あり得ない、何処で、何時、何で、意味が分からない、思考を放棄したい、何も考えたくない、何も思い出したくない。

 

 ノーグの頭の中で駆け巡る記憶。

 後悔、絶望、憎悪、それら全てがごちゃ混ぜになって襲いかかってくる中で、目の前に浮かぶのは()()()()()()姿()

 

 

「あっ……ああ……!」

 

 

 自分が知りたくもあり、知らなかった自分の過去。

 頭にフラッシュバックする光景。目を閉じても、耳を塞いでも、まるで怨嗟のように頭に流れてくる記録。そして生まれ変わるような、自分が書き換わるような消失感。過去の自分と今の自分が対立して無理やり掻き回されているようだ。

 

 今の自分が滑稽か、過去の自分が滑稽か、いや、今の自分は()()()()()()、それすら判断出来ずに混乱に堕ちる程に。

 

 

『ずっとずっと、大好きだよ……愛してる■■■』

 

 

 誰だ、とは言えなかった。

 知っていた。忘れなかった。塗りつぶせないほどに大切だった記憶が今の自分に突き刺さる。でもそれは今の自分ではなく、過去の自分に対しての言葉、揺さぶられる心と記憶の混乱。堪らず、ノーグは剣を落とし頭を抱えながら膝を突いた。

 

 

「ぐっ……っあ……!」

「ノーグ!?」

 

 

 耐え難い吐き気。酷い頭痛。

 知らない、知っている筈のない記憶、自分の存在が不安定になるような瓦解する感情。いっそ全て吐き出せればどれだけ楽か。口元を押さえて吐き気を噛み殺した。

 

 

「思い出したかしら?」

「っ……話す事はねぇ…失せろ糞餓鬼……!!」

 

 

 気を失ってる場合ではない。

 此処はダンジョン、思い出以上の生存本能が意識を手放すのを無理矢理止めた。頭の痛みに耐えながらも虚勢の言葉を放ち、立ち上がる。

 

 

「どうやら今日は無理そうね姉様」

「仕方ないわヴェナ、とりあえず今日は帰るとするわ」

「このまま逃すとでも思っているのかい?」

 

 

 ノーグの前に立ち、槍を構えるフィン。

 あの二人がどちら側なのか、それはもはや明白だろう。オッタルもノワール達もフレイヤの戦闘員も武器を構えている。

 

 だが、その二人の後ろから白い宗教服を着た信者のような姿をした人間達が二人の前に立つ。全面戦争の賽は既に投げられた。

 

 

「思ってるけど?おチビさん」

「行きなさい。信者達」

 

 

 二人の指示に一斉に走り出す信者達。涙を流しながらナイフを構え、叫びながら冒険者に襲いかかる。動きは大した事のない、恩恵を授かって間も無い素人の動き。だが、その目は血走り、心は既に壊れていた。

 

 

「愚かなるこの身に祝福をぉぉぉっ!!」

「咎を許したまえカーナ!」

「ソラキ、どうかこの精算をもってええ!」

「あぁ、来世で会おうグーマン!!」

 

 

 狂気とも呼べる心の叫び。

 死を恐れてそれでも死ぬ事を恐れない『捨て駒』の狂気に一瞬呑まれる道化の眷属。だが、そんな中でただ一人、一瞥すると全員の前に立つ巌が剣を構えた。

 

 

「Lv.1程度の連中が捨て身だと?数で圧倒すれば勝てると思ったのか?」

 

 

 失笑、そして有象無象に落胆。

 

 

「腹立たしい」

 

 

 オッタルは一閃、振るった。

 それだけで信者達は薙ぎ払われ、肉塊に晒された。だが、吹き飛ばされてもなお執念深くオッタル達に近づこうとする。

 

 そして結果は同じ。

 吹き飛ばされ、薙ぎ払われ、白装束の信者達は徐々に命を散らしていく。その結果を見たガレスもノワール達もフレイヤの戦闘員もオッタルの蹂躙戦に参戦する。

 

 

「まあ流石。やっぱ今の時代、数より質よねヴェナ」

「そうね姉様。やっぱ信者達じゃ傷一つ付けられないわね」  

「「でも、強さと勝つ事は別よ」」

 

 

495:名無しの冒険者

オラトリア編の死兵じゃね?

496:名無しの冒険者

自爆装置ってこの時代に存在したっけ?

 

 

 頭痛がする中、『天啓』に目を見開く。

 そしてそれと同時にフィンが信者達に括り付けられているある存在に気付き、それよりも早く黒妖精(ダークエルフ)のディナから莫大な魔力が滲み出ていた。

 

 

「【開け、第五の園!響け、第九の歌!】」

「––––オッタル!ガレス!信者から離れろ!『火炎石』だ!」

「っ!?」

「チッ!?」

「【木霊せよ、心願(こえ)を届けよ––––!】」

 

 

 何もかもが遅かった。

 フィンは叫び、リヴェリアは詠唱、オッタルとガレス達が信者達を薙ぎ払うが、死体が多すぎる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな最悪な光景が脳内に過る中、()()()()()()()()()()展開される毒々しい紫の魔法円(マジック・サークル)が四つ。既に詠唱を唱え待機状態とした臨界寸前の砲門の行先は決まっていた。

 

 

「【ディアルヴ・ディース】!!」

 

 

 灼熱の業火が()()()()()()()()()()()

 火炎石を持っていた信者の一人が爆発する。そして爆破は次の火炎石を誘爆、それが徐々に連鎖となって道化と美の女神の眷属達を呑み込んだ。

 

 

 ★★★★★

 

 

 二十七階層

 死体の火炎石全てが誘爆すれば崩壊するほどの大爆撃。

 この爆撃で生きられる程の存在はいない。頑丈さに取り柄のあるオッタルやガレスでさえ、盾無しで至近距離の爆撃を喰らえば四肢が四散するだろう。

 

 誰もが死を覚悟した。

 大爆撃を止められない。逃げる暇もない。盾何枚かで防げる程の規模ではない。

 

 そして爆撃は––––

 

 

「ハァ…ハァ……!!!」

 

 

 –––––誰一人として死へと誘わなかった。

 

 

「ノーグ!お前……!?」

 

 

 広がっていたのは白銀の世界。

 そして最大出力で世界を凍て付かす藍色の焔。ノーグは『天啓』が見えた瞬間に即座に詠唱し、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 此処は27階層。

巨蒼の滝(グレート・フォール)』の滝壺であるこの場所は()()()()()()()()()。その特性もあり、凍て付く速さが誘爆し切るよりも先に作用し、結果的に誘爆する事を防いだ。

 

 

「でかしたノーグ!最高の判断だ!!」

「ああ……ちょっとヤバい『天啓』が来てな」

 

 

 藍色の焔が消え、ノーグは倒れる。

 息切れと意識の低下でまともに動けない状態にオッタルは寧ろ称賛する。無理をしてでも藍色の焔を顕現したのは最良の選択と言えるのだから。結果、その代償が支払われているのも当然だろう。

 

 

精神疲弊(マインドダウン)か。無理もない」

「助けられたから何も言えないが、無茶し過ぎだ!」

 

 

 リヴェリアが駆け寄る。

 死兵だけを凍らせるだけの魔力操作といい範囲といい、無茶をしたノーグに自分のローブを被せて包む。ノーグの身体はまるで氷のように冷たくなっていた。これで生きていられるのか不安なくらいに。

 

 魔法を放った二人の妖精は既に姿を消していた。逃げられたのだろう。

 

 

「まだ間に合う。俺はあの妖魔を追う」

「やめろオッタル…お前が死ぬぞ」

「何?」

 

 

 その一言に振り返り殺気を滲ませるオッタル。

 

 

「俺があの妖魔に遅れを取ると?」

「タイマンなら百万回やったってお前が勝つよ。俺もお前の強さは知ってる」

「なら何故」

「そんな妖魔や信者達を()()()()()()()()()()()()()()()は、一体どれほどの強さなんだ?」

 

 

 その言葉にオッタルは瞠目する。

 あの妖魔達は魔法円(マジックサークル)が展開されていた以上、【魔導】を持ったLv.2程度だろう。そして恩恵を受けて間も無い死兵。そんな下級冒険者を無傷のまま27階層に連れてこられる存在が居る。

 

 

「フィン、お主はどれほどのレベルなら可能だと推測する?」

「低く見積もってもLv.5がいるね」

「俺も同じ意見。此処で藪を突いて蛇が出れば誰かは死ぬぞ」

 

 

 それは本意ではないだろう。

 遠征の勝利に水を差され、煮湯を飲まされた屈辱は存在するが、報復に動く事は出来ない。低く見積もってもLv.5であるならば、勝てたとしても間違いなく消耗しているこちらに戦死者が出るだろう。

 

 敵の案内役が追撃してこなかったのも、分が悪いと思ったのだろう。階層主討伐の消耗、そして火炎石の誘爆死兵、それだけやっても倒し切れるか不安があったのか襲ってこなかった。

 

 

「今回の遠征は階層主への完全勝利が目的だ。今回は諦めろ」

「いずれ女神に向けられる刃を見逃せというのか?」

「向けられる刃を砕ける強さを持てという意味だ。今はまだ俺達の誰もが持ってないよ」

 

 

 このメンバーの中で単独でLv.5級の存在に勝てる冒険者はまだ居ない。連携すれば話は別だが、あくまで遠征は階層主の討伐まで。そこまでが協力関係であるに過ぎない。お互いのファミリアのみで別行動したところで結果は目に見えている。

 

 

「––––帰還する」

「悪いなオッタル」

「女神の顔に泥を塗るわけにはいかん。今回は乗せられてやる」

 

 

 オッタルは渋々ながら了承し、帰還の準備を整える。フレイヤの戦闘員もそれについていくように歩き始めた。

 

 

「ハァ…ごめんリヴェリア。大分キツい」

「元より動けないのだろう。全く」

「わっ」

 

 

 限界まで振り絞った結果、身体に負担がきて動けないノーグをリヴェリアはため息を吐きながらも背負っていた。

 

 

「ありがとう」

「これくらいはさせろ。助かった」

 

 

 リヴェリアの背中はローブで包まれた中でも暖かく感じた。ノーグの身体が冷え切っているのもあるのだろうが、ただ今の暖かさに身を委ね、僅かに頰を緩ませ意識を落としていた。

 

 27階層、アンフィスバエナ討伐は【ロキ・ファミリア】【フレイヤ・ファミリア】の完全勝利という形で幕を閉じた。

 

 




 
 お詫びとして18:00にもう一話分頑張って投稿します。
 良かったら感想・評価お願いします。モチベが上がります。

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