「早い早いブラックアウト!後続を引き離しぐんぐんと速度を上げていく、ペースが落ちていません!」
……遅い。
周りの足音はもう聞こえねぇ。
手に汗握る? 固唾をのむ?
はっ、今のレベルじゃありえねぇ。
「そのままゴール!皐月賞を取ったのはブラックアウト!二着は……」
「つまんねぇ」
肩で息をするもの、立っていられないもの……憎たらしそうにこっちを睨むもの。
だからなんだ?
「ブラックアウト、ナイスファイト」
「どこがだ……トレーナー、次のレースに集中するぞ」
「ブラックアウトさん! 一言、一言お願いします!」
「出直せ雑魚共」
「えっ? いやブラックアウトさん!?」
マスコミを無視して控室に入る、いつも以上のマスコミの量だ、流石にG1は人気だな。
……このG1にどこまでの夢があるのか。
「結構遠くに来たもんだね」
「まだ始まったばかりだぞ、三冠、話はそっからだ」
「……やっぱりつまらない?」
目を合わせないことで返事をする、俺より三つ前の世代、それは黄金とも呼べる最高の世代だった。
夢を見た、いや……魅せられた。
何度も何度も見た、握りしめた拳が熱を強くもつほどに。
……今のレースにそれがあるか?
「ぬるいんだよ、どいつもこいつも……先輩の背中を追いかけるだけで、走ることにすべてを賭けねぇ」
だから、新しい風を吹かす、俺自身が。
「君はいつも変わらないね」
「だがついてきてくれんだろ」
「……とりあえずは三冠を一つ取ったことを祝わなきゃね」
……
「聞いた? ブラックアウトさん、また負けた子にひどいこといったんですって」
「私は笑ってたって聞いたわ」
話声がするがそんなものを気にしたところで意味はない。
噂話ばかり好きな連中の戯言だ、ほとんど合ってはいるが。
俺が入ったところで教室内が一度静かになるがしばらくすると元の喧騒を取り戻した。
最近はいつもこうだ。
「ブラックアウトさん、あなたレースをなんだと思ってるの?」
珍しく直接突っかかってきたな、こいつは……皐月賞にいた気がする。
面倒くさそうだ、無視するか。
「大体、マスコミに対しても失礼です、いっつもインタビューを無視して……それどころか悪態をつくような態度」
くどくどとしつこいな……まだ朝礼まで時間があるし教室じゃないところで過ごすか。
「ちょっと! どこへ行こうというの!……あなたのようなのがいるからレースの格も落ちるんです!」
「お前みたいな雑魚がいるからレースの格が落ちるんだろ?競うレベルにすら達してねぇのに騒ぐなよ、負け犬」
……教室に戻る気にもなれねぇな、サボるか。
……
「さぼりたいからってトレーナー室に来るのはお門違いだと思うんだけど」
「ここ以外過ごすところがねぇんだ」
「友達ぐらい作ればいいのに」
「いらねぇ、俺は勝負をするためにここに来た、仲良しごっこをしに来たんじゃねぇ」
全く……ブラックアウトはいつもこうだ、志が高いが故のプライドがある。
トレセン学園を変える……多くの人に夢を与えるようなレースをする、か。
そのために周りを煽って火をつけさせるってやり方は過激だと止めるべきなんだろうな。
その目標に同意してしまった以上、止める気はないけど。
……ここ数年のトレセン学園のレベルは落ちている。
二世代、三世代前の伝説達が引退した、というのが大きいがそれを含めても格段に落ちている。
レコードを超える、どころか近い数字すら全く出ていないのだ。
いわば燃えるような熱さが無い。
目が肥えているというのも大きいだろうが。
「ブラックアウトさんのトレーナーさんですよね」
ブラックアウトの教室の担任の先生?
……たださぼったんじゃなくて問題起こしてさぼってるな?
「はい、どうしましたか?」
「いえ、ブラックアウトさんを見かけなかったかなと……」
「……いえ、見ていませんね、こちらの方でも探しておきます」
「ありがとうございます、お願いしますね」
扉が閉められて足音が遠ざかっていく。
「……言わねぇんだな」
「嫌なことあると尻尾が垂れたまま動かないからね、君は」
「……少し横になるわ」
返事を返す前にさっさとソファーに横になってしまった。
大事にならなければいいけど。
感想、評価をぜひお願いします。