「おい落ち着けマインショック、客が多いのは驚くことだろうが、慣れなきゃ満足行く走りなんかできねぇぞ」
「だ、大丈夫……です」
右を見ても左を見ても人がいる状況、地方なら場所のおかげで誤魔化せたけど……。
どうにも落ち着かない。
視線が強く刺さってくる感覚がある。
「ゲート入りだ、いいか……落ち着いて行けよ、仕掛けるタイミングは早めにってことだけ守れれば勝てる」
「はい……」
ゲートに立ってもどうにも落ち着かない……。
あっ開いた!?
「まずいまずいまずい!」
追い込みだから大丈夫、大丈夫なはず!
と、とにかく後続についていくようにしなきゃ。
いやでももうちょっと位置を上げた方が?
ブロックされてて今自分がどのあたりなのかもわかんない……。
視界が白黒に見えてくる。
呼吸が荒い……中距離ならこんなに疲れるはずないのに。
あれ……仕掛けるタイミングってどこだっけ。
最後の直線まで後少し?
まだ二人しか抜けてない。
これじゃよくて五着。
負ける?
負けたくない。
足がとても熱い……まだ届くはずだ。
白黒だと思っていた視界が色鮮やかに……ゆっくりに感じる。
さっきまで力の入らなかった足が自然に動きだした。
……
なんだ……?
悪寒?恐怖?
今の感覚は?
後ろから迫ってくるとてつもない気迫。
「マインショックがスピードを上げた!追い上げてきている!」
間に合うわけがねぇ、間に合うはずがねぇ!
さっきまで振り向こうと思えばそうできるだけの余裕があったはずだ!
「先頭のブラックアウトとの距離はわずか一馬身!とんでもない速度です!」
「なんでっ、並べるんだよっ!」
あと少し、あと少しなんだ!
「負けてたまるか!」
「ブラックアウト!一歩前にでて……そのままゴール!一着ブラックアウト二着マインショック……」
ギリギリかよ……余裕ありで勝てるとすら思ってたのに。
中距離でここまでか……。
……
「……マインショック、足見せろ」
怪我は……ないな、異常もない。
「さっきの急加速、自覚してたか?」
「いいえ……勝ちたいって思ったらなんだか足が熱くなって、気が付いたらあんなに早く走れて」
「ゾーンってやつか……あそこまでとは」
「ゾーン?」
「ゾーンは強いウマ娘によく見られた現象というべきか、いつも以上の力が引き出せる、なんて言われてる」
中距離でここまで伸びたなら長距離なら……狙えるかもしれねぇ。
だがあれは間違いなく危険だ。
「一応言っておくが、あれがもし狙ってできるなら禁止だ……あんな急加速、今回はなにもなかっただけで次に何も起きないという保証はない」
「わかりました」
「だがまぁよくやった、あそこから二着だ、上々だろう……ハンカチぐらいは貸してやる、次で勝てばいい」
「はいっ……」
……
「ここからの加速だ、どう思う」
「異常、の一言に尽きるね……レース開始から中盤以降までははっきりいってレースに集中できてないというか、これは勝てると思ってたんだけどねぇ」
「明らかに雰囲気が変わった時、悪寒がした……あれはまずいっていう感覚だ、そして俺はこれに覚えがある」
多分トレーナーも気が付いているだろうな。
昔の強者達がそうだった。
「あぁ、いわゆるゾーンだろうね、これは」
「……地方の時ってそんな雰囲気あったのか?」
「いや?レースは見れる映像一応全部見たはずだけど、強いけどここまでではなかったと思うよ……隠していたか、はたまた強者に負けたくないという気持ちがそうさせたのかもね」
あの加速が狙って出せるなら長距離じゃ勝てないと断言できるな……。
「どうする」
「どうするって言ったってねぇ……やれることやるしかないでしょ、ゾーンに入られないことを祈るしかない」
流石にこの不安の種は予測してなかったな……。
菊花賞……ますます楽しみになってきた。
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