あと少し!このままなら行ける!
ゾーン……やっぱり俺にもあったんだ。
見てくれトレーナー、これで俺もあの二人に負けねぇよ!
「……目が覚めたか」
白い天井。
ここどこだ?
「トレーナー?なんで俺寝て……あ」
左足の包帯、自分の体中ガーゼやら処置の後がある。
そうか……。
「トレーナー、治るのいつまでかかるって?どうせ聞いてるんだろう?……なんで黙ったままなんだよ」
嫌な予感、肌を生ぬるいような感覚が抜けていく。
「いいか、落ち着いて聞け、お前の足はまだ無事だ……無事だが今後同じようなことが起これば、二度とは走れない足、それどころか歩くことすらままならない足になる」
「冗談ってわけじゃなさそうだな……そうか、走れない体になるか」
「決めるのは君だ……このまま走るか、やめるか」
俺はどうしたいんだろうか……多分このまま走っていてもあの二人には勝てる保証はない。
それに俺の目的は強いやつが現れるのを望むことだ。
ルインローズもマインショックもレースで光る逸材といえるだろう。
なら俺はいなくてもいいんじゃないのか?
「……少し一人にしてもらってもいいか?」
「わかった、何かあったら呼んでくれ」
左足にそっと触れてもギプスの感触ばかりでふれているかもわからない。
一体どのタイミングだったんだろうか。
ゾーンの後踏み込んで?それともゴール前に足でもかけていたんだろうか?
今となってはわかるはずもない。
「潮時だったんだ」
口に出して納得させる。
俺の目的はレースに強いやつを呼ぶこと、それが叶ったんだ、なにも問題はないはずだ。
あの二人は俺よりも……俺よりも才能があるんだ。
ここで俺は終わりでも、きっと二人がまた熱のあるレースをしてくれる。
だからってこんな……?
納得できるわけ……ねぇだろ。
普段なら出てこないような嗚咽、菊花賞から感じていた不安と現状が押しつぶそうな現実として目の前にある。
それがどうにも息苦しくて情けなくなった。
……みっともねぇ。
……
「ブラックアウトさん、走るのやめちゃうんでしょうか」
「……わからないわ、私は……走ってほしいと思ってる」
「私もです、まだ二回負けた分の一回しか取り返してないですから」
「私はそれ以上なんだけどね……とはいっても決めるのはあいつよ、慰めにでも行く?」
電話がかかってくる……相手はブラックアウトさんのトレーナーだった。
「ブラックアウトが目を覚ました……それと医者からの最終的な診断結果は二度同じことが起きてしまったら歩くことすらできない、だそうだ」
「……今から行きます」
「あぁ……頼む」
「……トレーナーか、大方目を覚ましたとかそんな感じかしら?」
「行きますか?」
「愚問ね」
トレセンの入り口にはすでにタクシーが一台止められていた。
「呼んでおいた、さっさと行って……あいつをここから逃がさないわよ」