「……焦るな、大丈夫だ、すぐに走れるようになる」
「はぁ、大丈夫……大丈夫だ」
まだ完治してなかったのか?
あれから経過を見ても全く問題もないし、医者からも走っても大丈夫といわれていたはずなのに、ブラックアウトの走りはタイムが戻らないどころか、格段に落ちたままだ。
「……一度切り上げよう、休んで切り変えるべきだ」
「わかったよ……」
原因はわからない、走ることに恐怖している素振りもない、走っている途中にあの状態が戻っているという感じもない。
いったい何が原因であそこまで走れないのか。
「あいつ、大丈夫なの?」
「わからない、僕にはどうしようもないことだけは確かなような気がするよ」
「私やマインショックでどうにかできるかしらね?」
「どうだろうね……走ることへの決心はできてそうだけど、それとは違うのかもしれない」
ブラックアウトはターフに立ったままで動こうとしない。
いや、走ろうとしているのか?
「……ダメね、走り方も気迫も以前とは全くの別物、走り方はなにかしら身体的な原因があるかもしれないから仕方ないにしても気迫がないのはなんなのかしら」
走り出したはいいもののすぐに止まってしまう。
気迫か……確かにそうだ、気合いが入ってないというか、心ここにあらずって感じがしている。
「先戻ってるわ」
「あぁ、タオル置いてあるから、持っていきなよ」
タオルだけ持って建物に入っていった。
……どこかで好転できればいいが。
……
もう一回……もう一回だ。
ゲートが開く……今!
ダメだ……どう、どうやって走ってたっけ?
なんで思いだせないんだ。
「ありえねぇだろ……クソ」
「もう寮に戻る時間じゃないかな?トレーニングに精を出すのはいいことだが、学園のルールに反するのはいただけないな」
あれは……生徒会長か?
俺しかいないし気づかれないと思ったんだがな。
「そういうあんたもここにいるんだな」
「敬語はやめたのかい?」
「俺とあんたしかいないのにわざわざ取り繕う必要もないだろうに」
「ふむ、まぁその方が前の時よりいくらか話もしやすいしね、ほら」
投げ渡されたのはそこらの自販機で買えるようなスポーツドリンクだった。
「さて……どうしてそんなに焦っているんだい?大丈夫、ここには私と君しかいないからね、それに私は秘密は守る主義だ」
「……いうつもりなんかねぇよ」
「……なぜかうまく走ることができない、このままでは二人に追いつくどころか、レースに戻ることもできない、といったところか」
図星だ、なにもいう気もおきないし、何か言えることもない。
「ずいぶんとわかりやすかったしね、君は自分でおもっているより単純だよ?」
「そこまであっさり当ててるんだ、そうなんだろうな」
「……強き者をこのレースの場に呼ぶために走っていると聞いた時にそれを肯定していたね、今一度自分で考えてみたまえ、それが理由なら心のどこかでそれに対して満足しているのではないか?」
強いやつを呼ぶ、燃えるようなレースをする……。
マインショックはその考えにぴったりだろうな、ルインローズもそうだ。
才覚もあって努力もかかさない、つまり俺の目標は達成しているようなものだ。
「目標は失うと前が見えなくなるものだ、おそらく今の君は何を目標にすればいいかわからず、どこかで満足しているのだろうな」
「満足……か」
そうなのかもしれない、理由がなければ案外動けないものだ。
「……もっと気楽に走ってみるのはどうだ?ただ仲間と、友と走るだけ、それほど簡単な理由でもいいと私は思うんだ」
「考えておく」
「あぁ、そうしてくれ……さ、寮に戻りたまえ、もうすぐしまってしまうからね」