走るための理由か……。
確かに満たされている、強いやつが熱いレースをしているところを見たい、そうとしか思っていなかったしな。
じゃあそれ以外に?
考えてなかった、そもそも俺がその中で戦うと思ってもなかったし。
「……どうした?ブラックアウト、足にまだ違和感があるなら言ってくれよ」
「いや、大丈夫だ、何も問題ねぇよ」
「そうか……問題ないならいい、まだ本調子じゃないみたいだし、何かあれば必ず声をかけてくれ」
単純な理由一つ作って、それで走れるなら……。
「そんな簡単にできるわけねぇか」
「ちょっと付き合いなさい」
「は、いやなんだよ」
「いいから」
腕を引っ張んなよ……あれってマインショックか?
「じゃあ走りましょうか」
「状況が呑み込めないんだが」
「私が頼んだんです、三人で走りたいなって思ったので」
……俺は連れてこられただけでなにも聞かされてないんだがな。
「いや、俺はまだ……走れないんだ」
「うだうだ鬱陶しいわね、あんたってそんなビビってるようなやつだった?情けないにもほどがあるでしょ、いつまでも走れない走れないって……私たちに負けるのがそんなに怖いの?」
「別にそういうわけじゃねぇよ」
「じゃあ走ればいいでしょう、さぁ並びなさい、走るわよ」
問答無用かよ……。
走れるのか?本当に?
「じゃあ合図するわよ……よーいドン!」
マインショックとルインローズが走り出した後を追いかけようとして足が止まってしまう。
「ブラックアウトさん……やっぱり怪我、怖いんですか?走れないのって走るのが怖くなってるから、だったりしますか?」
「違う……」
わからない、わからないんだ。
理由がないから走れない?ウマ娘が?
ただ走ることすらできない。
「じゃあこうします!」
腕を思いっきり引っ張られる。
今度は歩く速度じゃなくて走るような速度で。
……思わず一歩踏み出した、踏み出せた。
「……やっぱり走れたじゃないですか」
「なんでだろうな、さっきまで走れなかったのに」
「もっと簡単に考えましょう!怪我が怖くても私たちがいます!一緒に走ればきっと怖くなんかないです!克服するまでは一緒に走りましょう!」
こんなに積極的なやつだったっけ。
「もう大丈夫、かもな……あと俺は怪我が怖くて走れなかったわけじゃないからな」
「調子戻ってきたんじゃない?次は練習じゃなくてレースで走れるといいわね」
「あぁ、本調子に戻してからが本番だが、お前ら両方に勝ってやるよ」
「期待してるわ」
……もっと簡単か、本当にそうなのかもしれないな。
「……ありがとうな」
「今なにかいいました?」
「もっかい言ってくれてもいいわよ」
「なんでもない」
……
「ブラックアウト、レース復帰だって?どうせ調子が戻るどころか満足に走れないのにね」
「あの怪我からの復帰じゃね、私たちのレースにも出るらしいよ」
「まぁG3で一勝してそのまま引退でもする気でしょうね……調子が戻ってないようなやつに負けるつもりなんてないけど」
本当にそのまま復帰しやがったのか……。
というかペースが早いな、もうレースにも出る気か?
いくらG3で周りがそこまでだって言ったって、満足に走れるわけがないと思うが。
「マインショック、トレーニングやるぞ」
「はい!」
「ブラックアウトの復帰について何か知ってるか?前、練習一緒にしてただろ」
「なんでそれを知ってるんですか……?」
トレーナーを甘く見ない方がいい。
まぁやってるところがたまたま見えただけだが。
「……ブラックアウトさん、調子がかなり戻ってるどころか前より調子いいみたいですよ」
「復帰してから走れなかったって聞いたが」
「前の練習から走れるようになったみたいなんです、やっぱり私のおかげですかね?」
なんでこいつはこんなに自信満々なんだ……?
「……まぁそうなのかもしれないな、そうか、走れるようになったか」
「G3で復帰するみたいですし、見に行ってもいいですか?」
「いいぞ、俺もこの短期間でどうなったかも気になるしな」
もしG3でそのまま勝ってくるならすぐに当たる可能性もある。
対策は考えておくべきかもな。