いつものようにターフの上に立っているのに、いつものような感覚じゃない。
緊張してる?そういう感じでもない気がする。
「ずっとそわそわしてなんだか落ち着かないわね?そんなので勝てるの?」
「ブラックアウトさんでも緊張することがあるんですね、なんだが親近感がわきます!」
「あんたは緊張しすぎなだけだと思うわよ」
……あっちは有馬記念本番だというのにあまりにもほんわかしすぎな気もするが。
「緊張じゃない、とは思っていたけど緊張なんだろうな……すこし落ち着いた」
「そう、ならいいわ……最高のレースにしましょう?」
「はい!負けませんから!」
ゲートがずいぶんと狭く感じる。
大丈夫……大丈夫だ、これが最後だからな。
集中しろ。
自分に言い聞かせて平穏を保つ。
今までボケていた感覚がピントが合うようにはっきりしてくる。
「ゲートが開いてレースが始まりました!流れるようにスタートしました!」
スタートは完璧、先頭は……ルインローズか。
まだ始まったばかりだ、焦って空回りだけは避けないとな。
「先頭ルインローズ、二馬身離れてメイルナイン少し後ろにショウチュウカン……一番後ろにマインショック、後続はかなり固まった状態です」
攻めるなら中盤以降だ。
スピードを上げてるルインローズのせいかレース全体がかなりハイペースだな。
他が振り落とされるのは時間の問題か。
「先頭から最後尾までかなり短い団子の状態です!ルインローズは依然先頭、このまま逃げ切れるか!?」
二つ目のコーナー、中盤は超えたか?
ルインローズもスピードを上げたな。
逃がすわけねぇだろ。
「ルインローズがスピードを上げたがそれに合わせて後ろも続いています、果たしてもつのでしょうか?」
十中八九持たないだろうな、ルインローズとマインショック……俺以外は。
予想通りというべきか無理にでもついて行っていた逃げや先行組がすでに速度を落としてきている。
まだ終盤に入ったばかりだというのに。
……後ろからマインショックも上がってきているな。
「最終コーナーに入りました、先頭はルインローズ三馬身離れてブラックアウト……マインショックが速度を上げてきている、かなり早いが仕掛けるつもりか?」
すでに前にいるのは俺とルインローズだけだ……いや、すぐ後ろにもマインショックが来たか。
「コーナーを抜けて最終直線!やはりというべきか先頭からルインローズ、ブラックアウト、追い上げてきたマインショックの三人が直線に入った!」
速すぎるだろ、さっきまで最後尾だったんだよな?
ルインローズにも追いつけてないのに……スパートをかけるべきだな。
「ブラックアウトがさらに加速したがそれ以上にマインショックが追い上げてきている!マインショックがブラックアウトにならばない!そのまま一歩先まで行ったぞ!」
マジでかよ……残りは500とかか?ルインローズとの差もそこまでない。
「マインショックとルインローズが競り合っている!勝つのはどっちだ!」
勝つのはどっち?どっちだと?
勝つのは……。
「勝つのは俺だ!」
「先頭二人に対してブラックアウトが再加速!並んだ横一列!そのままゴール!!!結果が出るまでおまちください」
足……またやったな。
転んだとかじゃないが負荷がかかりすぎたか。
……よくここまで持ってくれた。
「悔しいけど、おめでとうって言っておくわ」
着順の先頭は俺の番号、ほんのわずかな差だった。
「……強敵を超えるってのは嬉しいもんだな」
「手、貸しましょうか?」
「頼む」
はれやかってのはこういうのなのかもしれないな。