「靴がダメになった?」
「はい……」
これでいくつめだ全く……俺の財布が飛ぶんだぞ?
それだけ練習に対して集中してるってことではあるんだが。
「あれほど力を入れ過ぎるなっていってるだろ……お前の脚力は脅威的だが、同時に諸刃の剣なんだ、無茶はし過ぎるな」
「加速の時の力の入れ方とか……掴めそうなんです」
「急成長は負担がかかる、焦るのはわかるがゆっくりと伸ばしていけ……それに狙うのは菊花賞だ、長距離はこっちの土俵なんだからな」
「……私は全部勝ちたいです」
ほう……やっぱりブラックアウトがいい方向に動いてるな。
ここまでやる気になっているのはデビューだけだった気がするぞ。
「勝ちたい、強くありたいと願うのは個人的にはいいことだと思うし大歓迎だが……それの引き換えで体を削るようなことはするな、今日のトレーニングは終わりだ、予備の靴もないしな」
「すみません……」
「夢を支えるのも無茶を止めるのもトレーナーの仕事だ、お前は走ることを考えてドーンと構えてろ」
熱が上がってるのはいい傾向だが、ここまで集中しすぎるのも良くないな……。
「ただし、あくまで目標は菊花賞だ、怪我をしそうだと感じたら菊花賞以外のレースは止めるからな」
「わかりました」
わかりやすいぐらい不機嫌そうにしている。
口と態度があってないな……どれだけ走りたいんだ。
「……スペースがあるかによるが、トレーニングルームにいくぞ、事前申請はしてないから運だ」
「いいんですか?やるトレーニングって決めてると思うんですけど」
「いったろ、お前は走ることだけ考えろって、こっちで調整しておく」
「ありがとうございます!」
思ったより伸びてくれるかもなぁこりゃ。
……
「いいね、タイムが縮まってる……それに体力も少しずつ上がってきたんじゃない?」
「体感じゃわかりゃしねぇよ、どっちかっていると二回目の加速がつかめてきたっていうのが正しい気もするがな」
正しい体の使い方、一番息が長く続くタイミングをみつける。
これなら対長距離でも活かせる気がするな。
ただ持久力を求めて闇雲に走ったって駄目だ。
持久力は一朝一夕で身に付けられるようなもんじゃねぇ……なら伸ばしながら他のことも掴めばいい。
「中距離なら安心できるかもね、これは」
「まだだ、まだ足りねぇ……中距離だけじゃだめだ、長距離も勝てないと先につながらねぇ」
「背負い込みすぎるのは良くないからね?目の前の勝利を願うのもわかるけど、三冠は大事だよ」
「俺の目標は三冠じゃねぇ、三冠は通過点だ……全勝、引退まで全勝を目指す」
それで見せつけて夢を魅せてやる。
「……願うのは勝手だけど、目標は身の丈に合わせないとダメだからね」
「あ?」
「今は目の前のレースを見なよってこと、わかりやすい強敵がいるんだからね」
「……足掬われねぇ程度には気を付けるさ」
「いい心構えだね、よし、じゃあもう一本いこう」
……
「よく目標達成できたね、我ながらかなりきついぐらいな量にしたと思ってたんだけど」
「トレーニングすら達成できなくていったい何に勝つって言うんだ?」
いいね、急激だが無茶ではない。
これなら怪我もないだろう。
「さぁ、レースまであと少しだ、無茶なトレーニングはまた今度ね、レースの走りを考えておかなきゃ」
「マインショックがどこで仕掛けてくるかだな」
「まぁ中盤には上がってくると思っていいよ、多分このレースを勝ちに来ると思うからね」
「なんでそう思うんだ?」
「君と同じで売られた喧嘩は買うタイプだろうし、負けず嫌いだろうから」
結構わかりやすいんだよね、マインショックさん。
あれで気弱なのが不思議なぐらいには自信もあるみたいだし。
「意外とよく見てんだな、レースのことしか考えてないと思ってたぞ」
「そんなわけないでしょ、というか勝たせなきゃいけないんだから敵の視察観察ぐらいするさ」
「勝てると思うか?」
おや?珍しく自信がないのか?
いつもならもっと自信満々って感じだけど。
「あれ~ビビってるの?」
「煽んな、そんなんじゃねぇよ」
「……大丈夫さ、こっちの土俵だからね、僕の目を信じてくれていい」
多分彼女は君の影も踏めずに終わる。
ブロックをしのげないだろうから。
「それなら安心だわ、ありがとよ」
「じゃあレースに備えて今日は終わり、しっかり休養を取りなよ」