NieR : Breath of the Automata 作:たまごの文字書き
始まりと出逢い
…笑い声が聞こえる。
「すまないな…」
光の柱。そっと、手をかざす。
崩れゆく。電脳世界の崩壊と共に、その「塔」は自らの存在を失っていく。
「こんなに世界が綺麗だって、気づかなかったな…」
差し込む光を見上げながら、A2はそう呟く。
崩れゆく。崩れゆく。
求めるように、呼ばれるように、右腕を天にかざす。
「みんな…今、行くよ…」
薄れゆくA2の意識と共に、誰も知らない一つの物語が今、終わった。
そして。
壊れた人形の息吹と共に、誰も知らないもう一つの物語が今、始まる。
NieR : Breath of the Automata
…声が聞こえる。
…誰かが触れている。
…誰かが見ている。
重たい人工皮膚をゆっくりと動かし、ぼんやりとした視界を広げる。
…女性?
自らの意識が曖昧なせいで、何を言っているかよく分からない。
確か私は…9Sから論理ウイルスを除去して…それで塔の崩壊とともに…。
「...そうか。私は...」
私は、死んだのか。
だんだんと、思考回路にかかったモヤがほどけていく。
五感が研ぎ澄まされ、自分の義体が再起動し、最適化されてゆく。
これがいわゆる死後の世界ってヤツなのだろう。人形にもそんな世界が存在したってだけでどうしようもなく救われる。
…温かい。
触れているその手は温かく、壊れた機械の心を優しく包み込んだ。
温かい。優しい。幸せな気持ちになる。やっと、やっと私は…。
「よん…ごう…」
声にならないような声をかける。
「…!起きましたか!」
返ってきたのは、聞いたことの無い声だった。
一気に現実に引き戻される。
四号、じゃない。
.............どうやら私はまだ死んでいないようだった。
また、みんなのところに...いけなかった。
「私は…また、死に損なったのか。」
深いため息とともに、私──ヨルハ機体アタッカー2号は未知の場所で再起動を果たした。
...ゆっくりと義体を起こしてみる。動作系に異常はなさそうだ。それにしても...ここはどこだ?
見たことのない部屋だった。恐らく木で造られているのだろう。角の方に台があり、火の灯った棒きれと本...?のようなものが置いてある。起き上がろうとして手を動かすと、私の身体に布が被せてある。そしてこれは恐らく...枕だろう。どうやら私はふかふかのベッドで丁寧に寝かされていたらしい。そして何より...世界が暗い。形容し難い違和感を感じる。
「あ!あまり動いては...」
そういえばと声のする方向を向くと、額に大きな瞳のペイントをした少女が心配そうにこちらを見ていた。
「…誰だお前」
不機嫌全開で少女に声をかける。
「わ、わたくしですか?わたくしはその、ぱ、パーヤと申します…そ、それより...」
パーヤと名乗る女は、見たことの無い装束をしていた。
当然ヨルハのものではない。
...イヤな予感がしてくる。見た感じこの女は敵ではなさそうだが、警戒するにこしたことはない。
「パーヤか。いい名だな。介抱してくれたこと、感謝する。」
とりあえずここを離れよう。外に出て情報を手に入れる必要がある。コイツに聞くのもいいが自分で見た方が早い。
「あ、待ってください!お怪我を...」
「?アンドロイドのくせに義体を気遣うのか?これくらい大したことない。」
「あんど...ろいど?」
パーヤは理解ができないと言わんばかりにきょとんとしている。めんどくさいな。
「お前もそうだろう?何言ってるんだ。」
「い、いえ、わたくしはその...あんどろいど族?ではなく...シーカー族の人間でして...」
...本当に何言ってるんだ。
深いため息とともに、私はいらだちを表にしない程度に諭す。
「...人間どものまねごとをするんならやめておけ。そういう連中を見たこともあるが虚しいだけだぞ。それに...」
人類はもう、滅びている。
この世界は虚無でしかない。意味なんて、何もない。
存在しない主君を模倣する彼女を見ていると、なんだか苦しかった。
「え?あっ、えと...もしかして貴女のいうあんどろいど族は"人間"ではない感じで...?」
...呆れた。ここまで来るともう重症だぞ。
「...もういいわかった。世話になったな。礼を言う。」
「あっ、あの!」
止めようとするパーヤを無視して私は立ち上がる。そういえば得物は...あった。足元に横たえてある。
白の約定。私と2Bの約束の剣であり、そして...私と9Sの...呪いの剣。
...感傷に浸っているヒマはない。とにかく現状を知らないと。
いつの間にかポッドもいないし、何より9Sの様態が気になる。
パーヤとやらには助けてもらった恩はあるが...それはまたの機会に返そう。焦りと不安に駆られながらも、私は外への扉を開けた。
そして、息を呑んだ。
暗かった。空が漆黒に染まり、木造の家々から暖かな照明が漏れている。山間に作られたこの集落はとても落ち着いた雰囲気をまとい、静かに私を取り囲んでいた。
「...夜...の国?」
自転の止まってしまった地球のもうひとつの世界。正直言ってそれ以外何も知らない。
夜空に吸い込まれるように私は外へ出ると、風景を確かめるように道なりに歩いた。
...美しい。世界はこんなにも...こんなにも、きれいだったのか。
見上げた世界はどこまでも広く、大きく...逞しかった。私の存在なんて、塵よりも些細なものに感じる。
私はしばらくの間、何も考えずに歩き続けた。
村はとても静かだった。聞こえるのは虫の囁くような鳴き声だけで、他に言語化できる音は一切存在しない。
ふと思い立って、私はこの村の全貌を見ることにした。一目で収めるには、あの大きな建物の裏山がいいだろう。
脚部に力を入れて、どん、大地を蹴る。その後更に空を蹴り飛ばし、上へと進む。
山腹に突き出した鳥の巣や突起を足場にしながら進めば、山頂は割と簡単にたどり着けた。
「...なんだこれ。」
頂上には、模様の刻まれた石とよく研がれた刀が突き刺さっていた。
「これは...」
柄に手を添え少し力を入れると、それは持ち主に応えるようにするりと抜けた。
「...残心の、小刀。」
無意識に、その刀の名が口から零れた。
別に知っていた訳でもない。ただ、そうだと思ったのだ。
無骨ながらも機能美に満ちたその刀は、私をその場に釘付けにするには十分だった。私は何も考えず座り込み、しばらくこの刀と2人きりになった。
...どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。刀を縦に持ち、その刀身をくるりと回した時、キラリと強い光が私の視覚レンズを突き刺した。
ハッとして我に返り、周りを見渡す。
...なんだこれ。少し世界が明るい。夜の国じゃないのか?ここは。
オレンジ色の光が、いつの間にか私の背中から迫ってきていた。
暗黒の世界はぐいぐいとその光に押しやられ、地平の彼方へと戻ってゆく。私は刀を手にそっと立ち上がり、自らの背後を照らす光の正体を見た。
「これは...」
その世界は、大地の息吹に包まれ、輝いていた。
天と地の境から、強烈な光が昇ってくる。それは闇を照らし世界を照らす、太陽そのものだった。
「.......よあ...け?」
「左様でございます。」
いつの間にか、私の隣にあの女がいた。だか、そんなことはどうでもいい。
...美しかった。闇と光の交わるその一瞬に、私は魅了されていた。
それと同時に、私は本能で理解した。
...震えが止まらなかった。
私は気づいてしまったのだ。この場所が、この村が、この世界が...いや、この世界線そのものが──。
「...パーヤとか言ったか。」
口の中が乾く。ブラックボックスが振動している。形にならない感情が、私の喉から溢れ出ようとする。
「は、はい!」
もし、そうならば。もし、この世界が、私のいた世界と異なるものならば。
「お前は...本当に、人類、なのか?」
暖かな太陽の光が私の義体を突き刺す。やわらかな風が私の首を絞め、息を止めようとする。
「...はい。」
一瞬の沈黙の後、彼女はハッキリとこたえた。
「私は...私たちシーカー族は生物学的には人類に分類される種族です。」
視界が揺らぐ。義体の温度がぐんと上がるのを感じる。わたしの...私の前に、存在しないはずの...滅びたはずの人類が、いる。
「...さ、さわっても...いいか...?」
「え、ええ...構いませんが...」
震える手でその柔らかな手に触れる。目覚める前、この手は確かに私に触れていた。壊れないように、壊さないように...そっとその頬を撫でる。すぐに分かった。そこには確かにホンモノの血が流れていて...確かに、ホンモノの生命があった。
涙が止まらなかった。人類への愛は私たちアンドロイドにとっては所詮刷り込まれたプログラムに過ぎないのかもしれない。けれども。けれどもそれだけで...それだけで私には十分だった。喜び、悲しみ、憎しみ、慈愛、怒り、欲望...様々な感情が...そして散っていった仲間への想いが込み上げてきて、訳が分からなくなって...私は...A2は。...二号だった私は、幼い子どものようにその手の中で泣きじゃくった。
読んでくださりありがとうございます。NieRとBotWって世界観どちらも美しいですよね。壊さないように頑張りたい。
誤字脱字や私自身の解釈不足等ありましたらコメントにてお書きいただけると幸いです。