NieR : Breath of the Automata 作:たまごの文字書き
人類に栄光あれ。
帰りの道のりは、とんでもなく長いものだった。
私が負傷した分移動速度は大幅に減衰し、戦力にもなれないから夜間の移動もできない。
ラネール湿原をデスマウンテンの麓からぐるりと回り道して通り過ぎ、馬宿に着く頃には二週間が過ぎていた。
旅の中で癒しとなったのは...ミファーの存在だ。100年後のハイラルは彼女にとって新鮮なようで、変わったものに目を輝かせ、変わらないものに思いを馳せていた。
そんなこんなで、一ヶ月ほどかけて何とかカカリコ村に戻ってきた私たちだが、パーヤとの仲は...微妙なままだ。旅の途中も相当気まずかったんだが...なんせあの後のことを私は何も覚えていないから、私はなんも言えない。
いや、本当に覚えていないんだ。ミファーと繰り手の契約をしてからパーヤに...
そこから先のデータが、完全に削除されている。
どうやらその時の私が自らデータを削除したっぽい。
本当に何があったんだよ...
───大丈夫?───
声の方向を向くと、そこにはミファーがいた。
契約のおかげで、私の近くなら自由に動き回れるらしい。
私は傷口を広げないために部屋で寝かされている。
この村では直せないから、せめて悪化させないようにとの事だ。
「...大丈夫だ。それより───」
タイミングよく扉が開き、パーヤが入ってくる。
「お目覚めのようですね。」
「あ、ああ。」
パーヤが一口の大きさに切りそろえられた赤い果実を私の前に起き、食べるように促す。
...うまい。
「リンゴです。このあたりでもよく取れるのですよ。」
淡々とパーヤが話す。
...なんか声が冷たい。
「なあパーヤ───」
───おいしい...!───
ミファーがしゃくしゃくとリンゴをかじっている。
「良かったです、ミファー様。」
パーヤがニッコリとミファーに微笑む。
対応が違いすぎる...
「外でもっと貰えますよ。」
───そうなの?行ってくる!───
ふわふわと浮遊ながら、ミファーが部屋を後にする。
「一般の人の前ではちゃんと歩いてくださいねー!」
はーいと返事が返ってきて、その後暫く沈黙が続く。
「さて...」
ばたりと戸の閉まる音がするとパーヤが口を開いた。
「二号さんは...好きな人は、いますか?」
...いきなり来たな。
真っ直ぐな瞳。気圧されるくらいに。
「...何が言いたいのかよく分からん。この世界にきて間もないし、そもそも私はアンドロイドで───」
「はぐらかさないで。」
その声は真剣そのものだ。
「.....分からない。」
押し負けて、私はゆっくりと応える。
「仮に恋だとしても所詮、偽物の恋だ。アンドロイドの感情なんて、プログラムに過ぎない。」
それを聞いて、パーヤが即座に否定する。
「いいえ、それは違います。貴女は確かに...確かに、生きています。私は知ってる。...あの日の涙は、プログラムだったのですか?」
初めてここに来た日。パーヤの胸の中で流した、涙。
.......。
パーヤは...ずるい。いつだって、私の心に滑らかな絹のように入り込んでくる。
「続けて。大丈夫ですから。」
優しい瞳で、パーヤが私を覗き込む。
深く深呼吸をして、私は本心を打ち明けた。
「...お前が何を言おうと...私は、アンドロイドだ。」
その事実は、変わらない。
「人間によって、人間の世界を取り戻すために造られた、使い捨ての命だ。」
パーヤは黙って聞いている。
「そこには明確な差がある。何をどう足掻いても...消えない、大きな溝がある。」
辛くなって、私は目をそらす。
「...お前が私に...その、好意を抱いてくれていたのは...知っている。でも...」
罪悪感が、私の心を蝕む。
「それでも私はアンドロイドで、お前は人間で...お互いに、違う。」
それもまた、現実。
「お前は私なんかじゃなくて、もっと普通に...同じ人間に恋をすべきなんだ。」
ぎりぎりと心が締め付けられる。
でも、人類の繁栄を邪魔するアンドロイドなんて、本末転倒そのものだ。
「これは...私自身の問題だ。お前はその...何も、悪くない。」
パーヤが俯く。
時間だけが、過ぎていく。
こんな顔をする彼女を初めて見た。悲しそうな顔。苦しくなって、私の方から彼女を抱き寄せた。彼女は、嫌がらなかった。
「...私、不安だったんです。」
ぽつりと、パーヤが話し始める。
「二号さんと初めて出会った時...心臓がどきどきして、顔が熱くなって...病にかかってしまったのかと思っていました。」
恥ずかしそうに、パーヤが打ち明ける。
「貴方と行動を共にして、目を合わせる度に、話す度に...どんどん離れられなくなって、胸が苦しくなって...」
腕の中で、少女は顔を紅くする。
「それで、二号さんとミファー様がその...口付けをされた時...やっと、これが恋だってわかったんです。」
パーヤが私と目を合わせる。
「私は...この感情を...初恋を、まだ失いたくない。」
愛おしいその頬には、大粒の涙。
「二号さんは...私のこと、その...嫌い、ですか?」
「そんなわけが無いだろう。」
私は即答する。
「じゃあ...好き、ですか?」
「.....分からない。私はまだ、お前の全てを知らない。でも───」
柔らかな笑顔。真っ直ぐな瞳。暖かな肌。艶やかな唇。優しく、慈愛に満ちた心。私以外には内気な性格。だが、とても頼りになるその実力。
この一ヶ月で見てきたパーヤとの記憶が、鮮明に思い出される。
もう、気づいていた。パーヤがミファーに呑み込まれた時、私は本気で激怒した。彼女が私にとっていつの間にか、かけがえのない存在になっていた。
そしてこの一ヶ月間、私は喪失感に満ちていた。この世界に来て間もないのに、まるでずっと前から出会っていたかのように、パーヤは私にとってなくてはならないものだった。
「──でも、この世界で私のことを『二号』って呼ばせてるのは、お前だけだ。」
ぽつりと呟く。
旧友のみに許した、ありのまま自分の名。私の原点であり、全て。
恥ずかしくなって、私は目をそらす。
それを見て、パーヤはにっと笑って言う。
「...じゃあ、脈アリってことですね。」
「え?」
「私、二号さんの特別な何かになれた...ってことでしょう?」
「だ、だが私は女でアンドロイドで...」
「女同士は嫌ですか?人間は嫌いですか?」
「そういう問題じゃ───」
パーヤが私を押し倒す。
「私は、いつでも準備できてます。」
胸元のボタンを外し始める。
「...おい!」
「私、本気ですよ。」
パーヤの真っ直ぐな瞳が、私の心を掴む。
「...わ、わかった。考えを改める。だからやめてくれ。そういうのはその...勢いじゃなく、ちゃんと、したい。」
めちゃくちゃ恥ずかしい。言葉にするのは...やはり苦手だ。
「そ、そう...ですよね...」
パーヤも恥ずかしくなったのか、はだけた服を戻して端に座り直す。
ちょっと沈黙。
「考えを改めると言ったが...今のところは、だからな。私たちはまだ会って間もないし、それに私は未だにお前が人間と恋仲になろうとしないのを許してはいない。できれば他に良い奴を見つけて、普通の幸せを手にして欲しい。」
私から切り出す。
「でも私がそう言っても、お前は聞かないんだろう?」
見つめ合う。
「はい。」
パーヤは笑顔で応えた。
私も腹を括る。据え膳食わぬはってやつだ。
「そうか。ならもう...私たち、恋仲になるしかないな。」
彼女の笑顔に釣られて、私も破顔する。
「よろしく...お願いします...!」
嬉しそうに笑い泣きをしながら、パーヤは応える。
「ああ。よろしく。」
そう言って不器用に彼女を抱き寄せ、抱擁する。
温もりが、私の身体に伝わってくる。
そっと緩め、視線が絡む。
徐ろに、パーヤが瞼を閉じる。
愛おしい、私の、パートナー。
薄紅色の唇に、私は自らの唇を重ねた。
一旦ここで、一章を終わりとしたいと思います。
正直ここまで続くと思ってませんでした。
引き続き頑張ろうと思います。
あと、感想や次はどこに向かって欲しいとかあったらコメントください。
誤字脱字、解釈不足等ありましたらコメントにてお伝えいただけると幸いです。
この次の話「人形と人間」は「NieR Breath of the Automata R-18」(あらすじにURL記載)の方から閲覧できます。
こちらの話を読まなくても、次の話は違和感なく読むことができます。
勿論R-18要素を含むので、閲覧の際にはご注意を。