NieR : Breath of the Automata 作:たまごの文字書き
4600UA感謝です。
人類に栄光あれ。
「...ぅあ、あ...」
身体が石のように重くなり、倦怠感で目眩がする。それもそのはずだろう。瞬間的とはいえ、自我データの容量を超える挙動をしたのだ。反動がないはずがない。だが、ターミナルに悟られない且つ一撃で奴を仕留めるにはこれしか無かった。
反動は私を床に無理やり叩きつけ、全身を拘束する。世界が私の意図の真逆に働くような感覚だ。声を出そうとしても出ないし、立ち上がろうとしても指一つ動かせない。
「二号さん!」
パーヤとミファー、ダルケルが駆け寄ってくる。私は何とか首を縦に動かし、自分が無事であることを意思表示する。
──手当するね。──
ミファーが私の義体に手をかざす。暖かい光が私の中を巡り、少しずつ身体が軽くなっていく。
──...外傷は無いけれど...データの配列がバラバラだわ。かなり時間がかかりそう...──
“ ああ、気にするな。直るまでここにいていい。”
ダルケルは優しく笑い、どかりと座り込む。
“ にしても飛んでもねぇ速さと火力だったな...俺にゃなんも見えんかったぜ。やるな、A2!”
ぽんぽんと頭を優しく撫でられる。なんだかよく分からないが、心の底がぽかぽかしてくる。
とにかく、よかった。これで奴は──
『交渉決裂だな。』
「...!!逃げろ!」
赤い光線が私たち目掛けて一直線に飛んでくる。癒しによって辛うじてく動くようになった義体で、私は三人をできるだけ遠くに投げ飛ばした。
どん。
痛みはない。代わりにまたしても一切の身体の自由が効かない。
パーヤが苦しそうな顔をしている。ミファーが怯えた顔をしていて、ダルケルは巨大なハンマーを手に持ち、守護陣を展開して完全に警戒している。
なんで、そんな顔するんだ。
聞きたくても、声が出ない。代わりに口が勝手に動き、何かを話しているようだが、私には全く聞こえない。
私は、どうなっている?
『おっと、キミだけ除け者にするのは良くないな。』
ターミナルの声が聞こえ、周りの音が聞こえるようになる。
「二号さん!乗っ取られてはいけません...!」
乗っ取られている?
──A2!意識を保って!──
そうか。私の義体は今、奴に主導権があるのか。
“ そんな奴に負けるんじゃねぇ!お前はもっと強えはずだ!”
クソッ。分かってる。分かってるよ!でも...
『この義体の持ち主が目を覚ますことはない。』
そう。動かせないんだ。義体の制御権を完全に乗っ取られている。私が何を言ってもパーヤ達には聞こえないし、逆に彼女らが何を言おうと、私はどうすることもできない。
まさか、こんなことになるとは。自分の無力さを恨む。悔しい。悔しくて仕方がない。だが、アイツらならできる。奴を...ターミナルを止める唯一の方法。そしてアイツらも、それをわかっている筈だ。
奴を私ごと、殺してくれ──
──────
戦況は泥沼を極めていた。
ターミナルは私の義体を最大出力で使い回し、一方的に攻撃を仕掛けている。
ダルケルが壁を作って守り、ミファーが癒しの力で傷を回復するものの、反撃を加えるパーヤの手には迷いがあり、致命傷を与えられずにいた。
『ハハハハハ!さあ!お前に“二号さん”が殺せるか?』
私の声で、私の身体で、私の武器で、ターミナルは猛攻を加える。
「お前が...二号さんを...語るな!」
パーヤがクナイを構え、私との間合いを詰める。
『ほら、刺してみたまえ。』
ターミナルは両腕を挙げ、一切の防御手段を捨て去った。
「...っ!」
クナイが刺さる直前でパーヤは身体をぐるりと捻り、私への致命傷を避けて蹴りを入れる。
『どうした?今までに何度もチャンスはあっただろう。どうして刺さない?どうして殺さない?』
「分かりきったことを...!」
──パーヤ。もう覚悟を決めないと...──
「でも...!」
“ ...こんなことは言いたかねぇんだが...俺達ももう、持たない...”
パーヤはハッとする。ミファーの身体は傷だらけで、ダルケルの緋色の守護陣はもう、大きな亀裂が入って長くは持ちそうになかった。
「そんな...」
動揺するパーヤに、ミファーが優しい声で語りかける。
──A2が貴方なら、きっと殺すよ。──
「...そんなわけ──」
──分かっているでしょう?人類と機械の違いを、彼女が一番理解している。──
「...でも!」
──トドメは貴方が刺して。ターミナルは今、慢心している。今が一番のチャンスだよ。貴方にしかできないの。A2も、貴方に殺されるなら...きっと本望だと思う。──
「そんな...そんなぁ...!」
パーヤはその大きな瞳に大粒の涙を浮かべる。
──私とダルケルで何とかして隙を作る。お願い。覚悟を決めて。──
ミファーはそうパーヤに言い残し、再び散開した。
『作戦会議は終わったか?そろそろ終わらせようではないか。』
ターミナルはそう言いながら、消耗の激しいミファーとダルケルを攻撃する。
二人は協力して応戦するものの、ダルケルの護りが破壊され、ミファーの槍は私の白の約定によって弾き飛ばされる。
だがその隙をついてミファーが取り押さえ、ダルケルがターミナルを羽交い締めにすることで、奴を拘束することに成功していた。
“ いまだパーヤ!もうここしかねぇ!”
──お願い...!──
「...っ!うあああああああ!」
叫び声を挙げ、震える手でパーヤが私の懐へ入る。
そうだ、それでいい。
クナイが私のブラックボックスへ一直線に伸び、私の皮膚を切り裂き──
「...ごめんなさい。ミファー様、ダルケル様、二号さん...」
クナイが私の人工皮膚を引き裂く直前、パーヤは手が止まる。
「私には...私にはどうしてもできないです...」
一瞬の静寂が訪れる。
『貴様の負けだ。死ね。』
ダルケルとミファーを弾き飛ばし、ターミナルが大剣を振り上げる。
『なら...私が...自分で...やる...』
『なに?』
渾身の力を込めて、私はターミナルから一瞬だけ制御権を取り返す。
震えるパーヤの手を掴み、自分の胸に向ける。
『...貴様!それを刺せばお前も死ぬのだぞ?!』
『お前...を、道ずれにして...な!』
力を込める。皮膚が裂け、赤いデータが血のように傷口から流れ出る。
『うああああああああ!』
『やめろおおおおおお!』
だが、刃はそれ以上進まなかった。
「駄目...二号さん...死なないで...」
パーヤの手は、クナイを手放していた。
『やはり人類は愚かだ。』
再び制御権を私から剥奪したターミナルは、振り上げた大剣でパーヤを肩から胴にかけて切り裂き、その剣で私の胸を突き刺した。
鮮血のデータが流れ落ち、あたりは真っ赤に染まる。
奴は私の義体から抜け出し、切り落とされた頭を自身の首に戻す。
『...ルーダニアはくれてやる。...そこに倒れている阿呆どもに免じてな。』
消耗しきった声で奴はそう言い残し、最初からそこにいなかったかのように、跡形もなく姿を消した。
“ ...ミファー!手当を!”
──う、うん!──
ダルケルの声でミファーは気を取り直し、私とパーヤの傷を手当する。
──お願い、二人とも頑張って...!──
真っ赤な世界にその声は、やけに大きく響いて聞こえた。
題名でガッツリネタバレしてるタイプのやつ書いてみたくて書きました。結末分かってて、そこへ向かって物語が収束していくというのもまた美しいと私は思います。