NieR : Breath of the Automata 作:たまごの文字書き
少しですが、高評価を頂けているのもとてつもなく励みになっております。モチベーション爆上がりします本当にありがとうございます。
人類に栄光あれ。
更に半年が過ぎた。
ハイラルで過ごす日々に、主立った変化はない。過ぎ行く時間を空虚な瞳で見送る生活にも、そろそろ慣れてきた頃合である。
パーヤはハテノ古代研究所へ運ばれた。プルアの元で精密検査を行っているのだが、流石の彼女も医療となると専門外である。症例が珍しいのも相まって、治療は難航している様子だ。勿論私も定期的にハテノ塔への『転送』を使用して見舞いに行っている。初めは毎日来ていたのだが、プルアに煙たがられたので三日に一度にしている。
空いた二日間で、私はゾーラの里の復興に協力していた。ミファーの暴走による地震の被害は思ったより大きく、建て直しには多くの労働力を必要としていた。人外の私にとっておあつらえ向きの仕事である。里のゾーラ族ともすんなりと仲良くなることができたので、労働環境については概ね満足している。
ただ、混乱を避けるために私がアンドロイドであることは隠しておくことにした。耳の大きさでハイリア人では無いことがバレそうにはなったが、突然変異とか適当な言い訳をしたら存外素直に信じてくれた。
それで里をぶっ壊した張本人──そんなこと言ったら本当に泣き崩れてしまうので、本人の前でネタにするのは控えている──のミファーだが、結局ゾーラの里には出向かなかった。本人曰く、
──御父様やシドに会いたいし、里のみんなに謝りたいのは確かだけど...死人の私が会いに行ったら、いろんな覚悟を踏みにじってしまうような気がするの。ガノンとの戦いで親しい人を亡くした仲間は沢山いる訳だから...なんだか私だけズルしているような気がして、やっぱり行けない。みんなにも、私の存在は内緒にしておいて。──
だそうだ。まあ、本人が行かないと言うなら無理に連れて行きはしない。
ちなみにリンクとやらは今、各地の祠を巡って修行中らしい。1年前はリトの村に向かっていると聞いていたが、私が起きた頃にはもう既に神獣ヴァ・メドーから赤い照準線がハイラル城に合わせられていた。流石は勇者、仕事が早い。
近況報告は以上。それはそうとして、今日は三日に一度のハテノ村来訪日である。何でもプルアから「大事な話がある」そうで、いつになくソワソワしているところだ。...頼むからいい話であって欲しい。
ゴクリと人工唾液を飲み込み、意を決して研究所の扉を開ける。
視界に入ったのは、なんとも言えない表情をしているプルアだった。その隣には、様々な色の管が繋がれたパーヤが寝かされている。
「...来たぞ。」
「長旅ご苦労サマ。」
「...日帰りは長旅じゃない。それで──」
「いい話と悪い話、どっちから聞きたい?」
そう来たか。
「...いい話から。」
一瞬、沈黙。
「...パーヤちゃんを目覚めさせる方法が分かったワ。」
「本当か?!」
机に手をつき乗り上げる。がたんと音を立てて、椅子が床に転がった。
「ええ。でもそれの方法が...悪い話につながっているんだけどネ。」
プルアが目を逸らし、眉間に皺を寄せる。
「...教えてくれ。」
私は静かに訊ねた。
「...まず、いつも言ってる通りパーヤちゃんの身体は健康そのものヨ。目立った外傷は見られないし、脳の神経回路にも異常はない。」
「じゃあなんで──」
「自分で閉ざしているみたい。」
「自分で...?」
プルアはゆっくりと語り始める。
「人間は...とてつもなく大きな感情の揺さぶりが起きた時、防衛本能が誤作動する場合があるワ。この子には、今それが起きている...恐らく電脳空間で致命傷を受けたショックか、はたまた別の要因か...とにかく、その大きな何かが彼女の心象内で解決しない限り、意識が戻ることはナイの。」
プルアは小さくため息をついて、パーヤの頬をそっと撫でる。
「じゃあ、パーヤが自分で心の問題を解決できなきゃ──」
「死ぬまで目を覚ますことはないでしょうね。」
愕然とする。世界が一瞬で色を失ったかのような。鋭利な刃物で、喉をかき切られたような。視界が霞む。信じたくない。思考回路が現実を受け入れまいとする。そんな、ウソだ。そんなはずない。
「落ち着いて。まだ話は終わってないワ。」
狼狽える私を見て、しっかりしろとプルアが窘める。
「いつまで待っていても埒が明かないしネ。私たちの側からもアプローチできないか、今日は試してみたいの。」
「私たちから?」
「そ。キミ、ルーダニアのメイン制御装置に侵入できたでショ?それと同じように、パーヤちゃんの脳内にダイブしてみようってワケ。」
パーヤの...脳内に?
言われたことを、何とか平静を取り戻したばかりの頭に押し込んで理解する。
「...でも相手は人間だぞ。ルーダニアは人工的に作られた機械だったから入れたってだけだし...そもそも人間の身体にはアクセスポートがないじゃないか。」
「アクセスポート、あるよん♪」
私の言い分に、プルアはニヤリと笑って返す。
「実は...誘導石と人体を接続することに成功しちゃったの。」
チェッキーポーズを取る彼女を見ながら、私は聞いた言葉を反芻する。
誘導石と...人体を?
「リンクがこの前言ってたんだけど...シーカーストーンを使えば、どうやら生身の人間も古代の遺物にアクセスして干渉することができるらしいんだよネ。」
チェキチェキとポーズを変えて、彼女は続ける。
「じゃあ逆ができてもおかしくないんじゃないの?って、アタシは考えたワケよ!」
バッチリ決めポーズをかまし、彼女はどや顔でなにかの装置を起動する。
「というわけで!擬似的にその状況を再現してみましたー!」
パーヤに繋がれていた管の何本かが青白く光り、脈打ち始める。
「お、おい!どうなって──」
──誘導石に触れてください──
突如として私の視野内に、青白い文字でアナウンスが表示される。指示の先を見れば、研究所に置かれていた青色の誘導石が橙色に点滅していた。
「ぶっちゃけ試作もいいとこだから、キミの身に何が起こるのか全く想像がつかない。けれどもし成功だったら──」
「やる。パーヤを救えるなら...なんだってするさ。」
この言葉に嘘はない。彼女のためなら命だって投げ出せる。...私に命はないけれど。だが...
「私が壊れる分には別に構わないが...パーヤは安全なんだろうな?」
そこだけは確認しておきたい。装置のエラーで死なれては、元も子もないのだ。
「そこはダイジョーブ!私の身体でプレテストはしてあるから、被検体の安全は保証するヨ。」
「とんでもないことしやがる...」
呆れるのもバカバカしくなってきたので、私はさっさと誘導石の前へ向かう。
「準備はいい?」
プルアが最後に問う。
「ああ。必ず...必ず起こしてみせる。」
決意を胸に灯し、私は右手を装置にかざす。
──アクセスを確認しました。インポートを許可します──
身体が青白い光に包まれ、私の意識は誘導石の中へと溶けていく。
「待ってろ...今行くからな。」
やっと掴んだチャンス。必ずモノにしてやる。
クリスマスの夜なので一人寂しく書いておりました。
いいもん別に辛くなんかないし。