NieR : Breath of the Automata   作:たまごの文字書き

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お待たせしました。7800UA、感謝しかないです。皆様が読んでくださることが何よりのモチベーションとなっております。本当にありがとうございます。
第四章、本格始動です。
人類に栄光あれ。


人形は分からない

「が...はっ...」

透明の体液を口から零して、パーヤは私の足元に崩れ落ちる。

「言っただろう。お前を連れては行けないと。」

出力を抑えた自らの右拳をそっと開き、私は彼女に手を差し伸べる。

「まだ...まだ!」

そんな私の手を強引に振り払い、彼女は再び戦闘態勢をとった。諦める気は毛頭ないらしい。

「...頼むパーヤ。もうやめてくれ。これ以上お前を傷つけたくない...」

聞いてはくれないと分かっていても、私はそう言うしかなかった。当然パーヤは私の言葉に聞く耳を持たず、クナイを構えて一気に間合いを詰めてくる。だがその動きにいつも通りの俊敏さと華麗さはなく、闘いに身を置く者ならば、彼女が本調子ではないことが一目瞭然だった。

私は振りかざされる得物を左手で軽くいなし、前傾姿勢になった彼女をどかりと地面に組み伏せる。

もがき苦しむする彼女の声が、聴覚センサーをびりびりと揺らす。それでも私は、彼女を離さなかった。ここで彼女を解放すれば何度も立ち向おうとすることくらい、思考が苦手な私にでもわかる。彼女の体力が尽きるまで、私は彼女を組み伏したまま動かさなかった。

 

どれ程の時間が経っただろうか。彼女の手足はもう藻掻くことすら叶わず、呻く声は啜り泣きへと変わっていた。

「私...足でまといです...情に流されて、冷静になれなくって、そのせいで英傑の皆様や二号さんまで傷つけて...それで、自分は動けなくなって...不甲斐ない...不甲斐ないです...」

戦う意志が完全に潰えたのを確認して、私は彼女をそっと解放する。

パーヤは弱々しく身体を起こし、美しくも儚い所作で、そっと正座する。

彼女の頬を流れる涙を止めてやりたいと願ったが、それでは私の意志が揺らいでしまいそうで、怖かった。

「わかってるんです。私なんかじゃ、ダメだってことくらい。二号さんにはもっと強くて、頼りになる人が隣にいるべきなんだって...」

嗚咽にも似た様子で、彼女は自身の胸の内を吐露する。

「私はずるかったんです。貴方のことを好きだと言って、貴方を私のもとに縛りつけてたんです。今だってそう...こんな事言っておきながら、まだ貴方に縋りつこうとしている...」

苦しそうな彼女の表情は、最早先刻の模擬戦闘の痛みからではなく、自身の心の暗い部分を、誰もが見て取れる明るい部分に引きずり出される苦悩に耐えようとする顔だった。彼女の心の底にあった、私に対するコンプレックス。どことなくそれを、私もわかっていた気がした。

「私が引けばいいんです。私が貴方から離れればいいんです...こんなこと貴方に言ったら、貴方は私を慰めるしかないって分かってて...分かってても...辛くて...苦しくて...」

パーヤの介抱をしている間、彼女はずっと悩んでいたのだろうか。私には分からなかった。私への愛情だけを勝手に理解したフリして、彼女の苦悩に寄り添えなかった。

パートナーとしての資格で言うならば、力量不足云々よりも相手の苦痛に気づけなかった私の方が失格だ。

...分からない。こういう時、どうやって声をかければいいのか。声をかけたとして、何を言ってあげればいいのか...

寧ろこんな私が、彼女をただ傷つけていた私が...彼女の隣にいていいのだろうか。そもそもアンドロイドの私と一緒にいることは、彼女の将来に良くないはずだ。絆されているのは彼女ではなく私の方で...彼女のより良い未来を案ずるならば、ここで距離を置くのは機会なんじゃないか...?

あれこれ思考を巡らせても、何一つ結論を導き出せない。こういう時9Sならば、論理的で理想的な回答を見つけ出せるのだろう。いや、彼じゃなく2Bだって...死んでいった嘗ての同胞たちだって。ちゃんと感情と向き合えるアンドロイドならば、誰だって答えられるのだろう。分からないのは私がバカだからじゃない。私の怠慢だ。

 

私は感情から逃げていたのだ。復讐という都合のいい理由を盾にして...私は自分の感情を隠していたのだ。

 

『感情を持つことは禁止されている。』

 

では何故私たちに心がある?何故笑う?何故泣く?何故怒る?何故...何故、恋をする?

分からない。全てから逃げていた私には、何も分からない。

息を絶え絶えにしながら咽び泣く彼女の姿を前にして、私はただ、呆然と立ちすくむことしかできなかった。

 

──────

 

結局私は、北東に向けて逃げるように一人で出立した。泣いているパーヤには何もしてやれず、ただ「待ってる」とだけ伝えて、その場を後にした。何度も考え直したが、これが一番いい結論だとしか思えなかった。今だってそう思っている。でも...でも、何かできたんじゃないか、もっとやり方があったんじゃないか。...そう思えてならない。

もやもやする思考回路を振り払うように魔物を蹴散らしながら、私はデスマウンテンの麓を回るようにして森林の塔へとたどり着いた。

パーヤと行動を共にしていた時よりも、今度の旅は遥かに早いペースで進んでいる。当然だ、私はアンドロイドなんだから。運動性能は言わずもがな、人類と違って無尽蔵に走れるし、休憩や睡眠も最低限で事足りる。

 

これが一番効率がいい。これが最適解なんだ。

 

.......。

 

何かが違う。と、思う。復讐に身を投じていたあの頃のような...何か心にぽっかりと穴が空いてしまったかのような、無気力な感覚。意志を見いだせず、ただ行動の意味だけを見ているような...まるで人形になってしまったかのような、そんな感覚。

 

...人形なのにな。バカバカしい。

 

ふと、空を見上げた。いつか見上げたあの日のように、その空は夜であった。やや欠けた月がしんしんと世界を照らし、その周りには小さな星々がきらきらと輝いている。

...おかしい。

この夜空に慣れ親しんで、もうかなりの月日が経つ。その時間のせいなのだろうか、どれだけ目を凝らしても、私はこの壮大な夜景に、一片も美しさを見出すことが出来なかった。

塔にかぶさった大きな髑髏の上にばたりと寝そべり、あの世界で見た最後のように、手をかざす。

...美しくない。私が見ているこの世界は、このハイラルは...色褪せてしまった。

理由なんて、分かっている。いや、もしかしたら何にも分かっていないのかもしれない。だから、今更引き返すのも何かが違うような気がして...そもそも私にそんな権利はないような気がして...

 

...分からない。

 

私はただ、この色褪せた夜景を、無気力に見つめることしかできないのであった。




いきなり雲行きが怪しくなって参りましたね。でも、こういった、醜いと分かっていても感じてしまう劣等感や嫉妬って、ありますよね。NieRの二次創作を書くにあたって、そういった負の感情は大切にしたいと思っています。
アニメめちゃんこおもろいですね。カイネさんにチラ見できて感動です。A2はまだかなあ...
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