NieR : Breath of the Automata 作:たまごの文字書き
人類に栄光あれ。
「テバ!行ったぞ!」
「ああ見えている。任せろ。」
ぎりぎりと引き絞られたその弓弦は、持ち主の手が離れたその瞬間、大砲のような音を立てて矢を吐き出した。弾丸にも引けを取らないその強烈な一撃は、まるで初めからそう動くよう決定されていかたかのように獲物へと吸い込まれていく。刹那、どすんと鈍い音を立てソイツは動かなくなった。
「...見事だな。」
私は周囲の安全を確認してから、獲物──イノシシ──のもとへ近づく。放たれたその巨大な矢は獣の硬い頭蓋を余裕で貫通し、寸分の狂いなく急所を貫いていた。
「村一番の弓の名手だからな。これくらいは御茶の子さいさいってもんさ。なんせあの英傑様の末裔と共に神獣ヴァ・メドーの暴走を止めてた立役者で───」
「おいハーツ!その話はするなと言っただろ!」
テバと呼ばれたリトの男は頭上を滑空しながら、私たちがいる場所から少し離れた木の上に着地し、次の獲物を探している。
「すまんね姉御さん、アイツ、メドーと闘った時に脚をやられてな。傷はもう治ったが『肝心なところで使いものにならなかった』とか言って悔しがってるんだ。」
なるほどな。神獣との闘いを経ているのであれば、この腕前も納得が行く。私も二体の神獣と対峙してきたが、それぞれ誰が死んでもおかしくない危険な闘いだった。暴走した神獣のもとへ赴き、生還するだけでも相当な猛者であることは伺える。
「と、まあこんな感じで狩りをするのが俺たちのやり方だ。次はあんたにも手伝って貰うぜ。」
ハーツが私の肩をぽんと叩く。
「ああ、分かった。要するにイノシシをぶっ殺せばいいんだろ?」
─────────
カッシーワの前でひとしきり泣いた後、私は恥ずかしさで死にそうになっていた。当たり前だろう。見ず知らずの恩人に食事まで頂いて、それを私はぎゃん泣きでお返ししたのだ。こんなバカなアンドロイドの話を私は聞いたことがない。...まったく、この世界に来てからは泣いてばっかりだ。
彼は、私について特に深く詮索はしなかった。だが、代わりに詩を歌ってくれた。柔らかな声で紡がれるその歌はどこか暖かく、それでいて力強いものだった。聞き終わる頃には私のバイタルも安定し、普段の精神状態を取り戻せていた。
「辛い気持ちはお察しします。私の歌がどうか、貴方の心の助けとなりますように。」
そう言って、彼は再び詩探しの旅へと出向いて行った。
見た目に反して、風のように掴みどころのない男だったな。旅に生きる者であるということは、またどこかで会えるかもしれない。その時には...私ももっと、前を向けているといいな。いや、もう決めている。私のすることは、決まっている。自分の不甲斐なさにケリをつけるためにも、まずはメドーの調査を終えなければならない。...それにしても、リト族には大きな借りができた。図らずして目的地に辿り着けたところだし、何か手伝えることはないか───
─────────
「こんなもんで足りるか?」
「...あ、ああ。むしろ大収穫といったところだが───」
その辺にいたイノシシを三匹ほど軽く締め上げたところで、狩りは一度中断した。テバとハーツはどこか腑抜けた顔であんぐりとしているが、このくらいの動きはパーヤにだって簡単にできる。私がアンドロイドであることがバレない程度に上手く調整できたはずだ。
「...アンタ、ほんとに人間か...?」
...勘がいいな。
イノシシの下処理を施し村に持ち帰る途中、彼らは私に合わせて徒歩で村まで戻ってくれた。テバとハーツは小言を挟んではよく口喧嘩をしているが、なんだかんだいって大元の部分で互いを理解し合っている良い友情に見えた。私が仲がいいんだなと呟けば、
「「仲良くない!」」
と、仲良く返してくれるんだからそれくらいには仲が良いのだろう。
そんな二人を後ろからまじまじと見つめていたら、今度はテバから私に話題を振ってきた。
「ところであんた、リトの村が目的だって言ってたが何か届け物でもあるのか?」
「いや、違う。アイツだ。」
私は空を指さす。テバの顔が険しくなる。
「神獣...」
三人は空を見上げる。
雲ひとつない晴天の空を、悠々と羽ばたく巨大な鳥。その姿は神々しくもありながら、どこか物々しい不穏な影を落としている。
メドーの繰り手の名は確かリーバル。お前は...
<ボクの声が聞こえているかい?>
突然聞こえたその声と共に、私の意識は『夢』の世界に引き込まれた。
─────────
~英傑 リーバル~
空を舞う神獣、ヴァ・メドー。それを村から見つめる、英傑の服装を身にまとった青年がひとり。雄大な自然と、古代英智の結晶たる神獣が織り成す美しい景色に、さらさらと風がなびく。
風は更に強く、大きく集まり、青年の足元に旋風を構成した。
その空気の螺旋と共に、リトの英傑リーバルが空を舞う。風の流れを乱さない見事な身こなしでするすると高く飛び立ち、そしてくるりと身体をこちらに向けると、雪のように静かに着地した。
「どうだい、今の?君にはとても真似の出来ない芸当だろ?」
勝ち誇った顔で、リーバルは青年を見下ろす。
「上昇気流を発生させ、空高く舞い上がる僕の技───」
見せつけるように、彼は青年に教える。
「空の支配者リトの中でも、芸術品とまで呼ばれるテクニック...」
右の羽で、ぐっと握りこぶしを作ってみせる。
「この技を以てすれば、厄災ガノンに対して有利に戦いを進められること間違い無しだよ。」
どこか嬉しそうに説明を終えたリーバルは、背中に手を組んでまるで問題児を窘める教師のように青年の元へ歩み寄る。
「そして一族でも最高と称えられる弓の使い手...つまり、この僕リーバルこそ、厄災討伐の要に相応しい戦士って事さ!」
青年は顔色一つ変えずに、黙って彼の力説を聞いている。
「.....なのに僕に与えられた役目は君の援護だ。」
恨めしいとでも言うように、リーバルは青年を睨みつけた。
「君がその古臭い退魔の剣とやらの主ってだけで!」
リーバルが吐き捨てる。
「愚の骨頂だよね?」
青年は顔色一つ変えない。
「おや、怒ったのかい?それなら勝負と行こうじゃないか?場所は.....そうだな。あそこなんてどうだい?!」
指の先に示すのは、空高く舞い上がった神獣ヴァ・メドー。
「ああ、ごめんごめん。君は一人じゃあの神獣に行くことさえ出来ないんだっけね?」
嘲笑を浮かべ、これが性能差だと言わんばかりにリーバルは青年を煽る。
再び旋風が巻き起こり、彼は飛び立つ。渦巻く風を器用に乗りこなしながら、リーバルは青年をバカにするように笑ってメドーへと消えた。
これは、在りし日の彼の記憶...
─────────
「何かがあったのは間違いないが...実際メドーはリト村上空を滑空しているだけで特に危害は加えて来ない。放っておいても大丈夫なんじゃないか?」
ハーツの声で、私の意識は『夢』の世界から引き戻された。あれは確かに、メドーから...いや、リーバルからのメッセージだ。夢を見るからになかなかいけ好かないやつだったが...ルーダニアの時のことを考えると、救難信号である可能性が高い。
「...それを今から調べに行くんだ。有事のことなら遊んでいる暇はない。それに───」
「それに?」
テバの瞳が真っ直ぐに私を貫く。いい顔をしている。自分の中で何か核となるものを手にしたような、そんな顔。
私は迷ってばかりだ。羨ましくも思える。
「───いや、なんでもない。私自身の話だ。」
そう。これは私自身の話。私は何がしたいのか、私がどうしたいのか。いつまでも悩んでいるフリをして、先延ばしにしていただけ。でももう分かっている。私は、私の心は───
「着いたぞ。手に入れた獲物はこっちに運んでくれ。」
...迷っていても、仕方がない。今はただ、彼らを助けることと神獣攻略のことだけを考えればいい。それが終わったら...全部無事に片付いたら───
想いを、ちゃんと伝えるんだ。
リーバルやリトに関する曲は全ていいですよね。本当に全て大好きなのですが、私は特に「飛行訓練場」が好きです。皆さんはBotWでどの曲が好きですか?感想頂けたら幸いです。