NieR : Breath of the Automata 作:たまごの文字書き
人類に栄光あれ。
リトの村頂上。
「こんだけで本当に足りるのか?」
腰には、五本のバクダン矢。防御装置の数は四つ。それぞれ一つずつと、予備が一本。これはテバに無理やり渡された。集中して狙うなら、本数は少ない方が油断しない。後戻りできない時の方が、いつだって頭は冴えているんだ。
「ああ。矢より寧ろ弓の数の方が気になるくらいだ。」
「そっちは安心しな。うちの自慢の弓職人がガッチガチに作った改良版ハヤブサの弓だ。ちょっとやそっとじゃ壊れねぇ。」
「期待している。」
この世界には銃がない。火器の使用方法なら私にも心得があるが、弓はさすがに使ったことがない。そこでこの前試しに試射場で練習してみたところ、弓の方が私の力に耐えきれずに全壊してしまった。申し訳ないことをしたと思っていたのだが、どうやらこれがハーツの職人魂に火をつけたらしく、たったの三日で私が使っても壊れない弓を仕立て上げてくれた。それも四つだ。
ただ、今回射止めるのは的ではなく、遥か遠くを悠々と飛行する神獣ヴァ・メドー。当然出力も変わってくるから、一本放てたら御の字と言った所だろう。
まぁ雑談はこの辺りで終わりだ。
アレを、撃ち落とす。
「...よし。」
私は腰にしばりつけたバクダン矢を一本取り、弦にかける。先端に火薬がたっぷりと詰め込まれたこの矢は、私が狙いを定めるとチリチリと火花を散らし始めた。
一度、呼吸。狙うはメドー本体ではなく、その周りを浮遊している四つの制御装置。
外さない。極限状態の中、視界が冴え渡る。ブラックボックスから発せられる熱が、義体の中心から指先まで行き渡り、闘えと私を昂らせる。
不思議な感覚。気持ちは昂揚しているのに、思考は驚く程に落ち着いている。
息を止める。ぎりぎりと、限界まで引き絞られた弦。
ふっ。
指を離す。
一瞬。
全ての時間が止まってしまったかのようなその刹那、とてつもない反動が轟音と共に私を襲った。
だがこの程度の威力、アンドロイドの義体はビクともしない。
「うおおお?!」
しかし、爆風とも呼べるその風圧はテバの身体を吹き飛ばすには十分だったらしい。
そして矢は────寸分の狂いもなく、命中。
防御装置が一つ壊れ、残すはあと三つとなった。
「やれやれ...分かってはいたが、やっぱりとんでもないねぇヤツだな...」
空中で姿勢を立て直したテバが、私の射線に入らないよう飛行する。
次。
同じように矢を弦に掛け、ぎりぎりと引き絞る。
...素晴らしい弓だ。人外の出力を耐えきるだなんて。
指を離す。
爆音。
空気が無くなるほどの風圧。
────命中。
さすがに限界を迎えたか、一本目の弓は粉々に砕け散った。
二つ目の弓を手に取り、矢をつがえる。
残りの二つの防御装置も、その弓ですんなりと破壊できた。
防壁を失ったメドーが、激怒しているかの如く咆哮をあげる。
本番はこれからだぞ。
三つ目の弓を引っ張り出し、私は足元に突き刺した青白い刃の矢を手に取る。
古代兵装・矢。
プルアから手渡された品だ。太古のオーバーテクノロジーで造られたその矢は、あらゆる生命体を一瞬で消滅させてしまう程の力を持つ...らしい。「アンタなら投げても使えるっショ」とか言ってたが、まあ投擲道具があるに越したことはない。
目には目を、古代兵器には古代兵器をって訳だ。
「テバ、力を貸せ。私だけの力じゃコイツは届かん。」
標準をメドーに絞りながら、私は彼に合図する。
私の指示を確認すると彼はするすると下降して、私の隣に着地した。
「今度は下敷きになるなよ。」
「...分かってるさ。」
存外素直な奴だな。
弦に矢を掛け、ぐいと引く。
...重い。バクダン矢とは比べ物にならない程のエネルギーを感じる。
「...テバ!」
「任せな!」
引き絞った弓を文字通りその足で鷲掴みにし、更に弦を両の手で引き伸ばす。
限界まで出力を上げている状態であったが、私とテバは存外落ち着いていた。
まるでひとつの生き物のように互いの呼吸を合わせ、視線を統一する。
青白い光の先。
力は緩めず、集中力は最大限に。
その時は、一瞬。
瞬きすら許されない、一瞬。
────放つ。
神速の域に達したその白き閃光は、吸い込まれるようにメドーの左翼に達し、貫いた。
ふっ。
...一呼吸。
そして爆音。
先程までとは比べ物にならない反動が私を襲う。
尋常ではない風圧が巨大な竜巻を形成し、私の身体を空中に吹き飛ばす。
テバは反動が来る前に私が眼下の村の方へ投げ飛ばした。
空を舞う感覚は存外気持ちよく、吹き乱れる旋風の中、私は青空とひとつになっていた。
だが、そんな自由な世界も束の間、大地の重力が私を地上へと引きずり下ろす。
プルアに付けてもらった『反重力装置』を起動し、左手を宙に伸ばす。青白い光がポッドのカタチを形成し、私はそれに捕まる。
ふわふわと下降しながら、私はテバがしっかり着地できていることを確認した。
「そんなことまでできるのか。芸達者な奴だな。」
「褒めても何も出ないぞ。それと──」
「それと?」
「長くは浮けないから、ちゃんと受け止めてくれよ。」
「はぁ?!」
テバが無事二度目の下敷きを達成したことは、言うまでもない。
──────
片翼を破壊されたメドーは、ゆっくりと旋回しながら先程まで私たちがいた村の頂上に器用に着地した。
「...ほんとにアンタ一人で行くんだな。」
「ああ。神獣内は危険すぎる。実際私も何度も死にかけた。」
「アンタが言うなら無理に連れてけとは言わねぇよ。ただ──」
「ただ?」
「絶対、生きて帰ってこいよ。」
「ははっ。なんだ、そんなことか。」
「笑い事じゃねぇぞ!こっちは心配して──」
「大丈夫だ。死にかけはしたが、死んではない。それに──」
「?」
「──今度一緒にサーモンムニエルを食べるって、村の子どもたちと約束したんだ。」
「...やっぱりアンタ絶対子ども好きだろ。」
「そんな訳あるか。約束を破りたくないだけだ。」
メドー撃墜を手伝ってくれたテバとハーツに礼を言って、私は神獣へと向かう。
確かに子ども達の為もあるが、私が生きて帰る理由はそれだけじゃない。
絶対に、帰らないといけないんだ。
彼女に、ちゃんと謝るために。
そして想いを、伝えるために。
...この時はまだ、あんなことになるなんて思ってもいなかったのだ。
最近転天を見まして。純度の高い百合成分の摂取に成功したはいいものの、本作では主人公二人を自分で引き裂いてしまった為に悶々としているなうでございます。
メドー編もおおよそシナリオは完成しているので、今後の展望にご期待ください。