NieR : Breath of the Automata 作:たまごの文字書き
人類に栄光あれ。
誰かが、呼んでいる。
助けを、求めている。
その声は次第に遠く、小さくなっていく。
待って。お願い、行かないで。
死なないで──
「二号さん!」
がばりと起き上がる。
荒い呼吸。全身にびっしりとかいた汗。
「夢...」
いつもそうだ。誰かが私を呼んでいる夢。その人の元へ、どうしても行きたくて。でも、どうしても届かなくて...
...やめよう。考えたって、夢は夢だ。どれだけ頑張っても届かない彼女への諦めきれない気持ちが...きっと悪夢となって私を掻き乱しているのだろう。
ふと思い出して、私は周囲を見回す。山の際から登ってくる太陽を確認し、今が早朝であることに私は気がつく。
リトの村に着いたところまでは何とか覚えている。そこから...多分疲れだろう。どうやら私は眠ってしまったらしい。
丁寧に布団をたたみ脇に置いてあった荷物を手に取ると、一人のリトが丁度部屋に入って来るのが見えた。
「お、目が覚めたか。三日も起きないもんだからもうダメかと思っていたが──」
お、男の人...
「あ、あの、その、え、えっと...」
やはり殿方とお話するのは、心の準備ができていないと難しい。
「...会話は苦手か?まあいい。俺の名はハーツ。テバの友人だ。」
「あ、は、ハーツ、さん...名前は...聞いています...わ、私は...そ、そのぱ、パーヤと申しまして...」
「...ほお。アンタがパーヤさんか。A2から話は聞いているよ。今テバを呼んでくるから、ちょっと待ってな。」
行ってしまった...うまく、話せなかったな。
二号さんから私のことを聞いてるって言ってたけど...二号さん、どんなことを話してたんだろう。
そんなことを考えていたら、数分もかからないうちに、テバがばさばさと音を立てて部屋の前に着地した。
「やっと起きたか。飯も用意してあるから食いな。話はその後だ。」
そう言って植物で編まれた包みを渡される。
「あ、ありがとう...ございます。」
開いてみると、中には普通より少し大きめのにぎり飯が二つ入っていた。
「あ、え、あの...」
「米は嫌いか?ハイラル米はそっちの地方の特産だと聞いてたからてっきり──」
「あ、いえ!そうではなくて...その、こ、こんなにも頂いて...よろしいのでしょうか...?」
「なんだそんなことか。気にしないで好きなだけ食ってくれ。また目の前でぶっ倒れでもされたらたまったもんじゃないからな。」
「お、お恥ずかしい限りで...」
自身の醜態に合わせる顔もなく、私は羞恥心で爆発しないように無心になってにぎり飯を口に入れる。
「...!お、美味しい...!」
「いい食べっぷりだな。A2も美味そうに食ったいたよ。あんときゃカッシーワのとこの飯だったがな。」
まあウチの嫁さんのにぎり飯の方が100倍美味いからアンタは大当たりだ、なんてふんぞり返って笑うものだから、思わず私もつられて笑顔になってしまう。
「おお、やっと笑ってくれたな。アンタもA2もずっと何か思い詰めた顔をしてたから...」
言われてハッとする。あの日を境に笑顔どころか他人との会話すら、私にとっては少ないものとなっていた。
「あ、ありがとう...ございます...」
目頭が熱くなるのをぐっと堪えながら、私には勿体ないくらいの朝食を、私は空っぽの胃の中に詰め込んだ。
──────
「それで、だ。アンタもやっぱりメドーに向かうのか?」
「は、はい。早く二号さんを助けないと...」
「気持ちはわかるがな...アレに近づくのは危険だ。事実A2も行ったきり、帰ってこない。アイツの手に負えない何かなら、誰が行っても同じだ。こんだけの日数が経っても帰ってこないなら...アイツはもう、死んでいるのかも──」
「死んでなんかない!!」
怒りの感情が、私の体を勝手に突き動かす。
「あっ...す、すいません。」
「いや、悪いのは俺の方だ...配慮が足らなかった。アンタにとってA2は、それくらい特別な人なんだよな。」
「...はい。私にとって一番大切で...憧れの人なんです。だから──」
「だから?」
一呼吸。
「──だからこそ、助けたい。もう二度と、あの人を失いたくないんです。」
この意志だけは、曲げられない。
「...わかったよ。アンタがメドーへ行くことを許可しよう。」
「ほ、本当ですか──」
「──ただし!俺もいくことが条件だ。これ以上行方不明者を増やす訳にも行かないからな。」
覚悟を決めた顔で、テバが立ち上がる。
「二人でA2を助けよう。」
そう言って彼は優しく微笑むと、羽の形をした右手をこちらに差し出す。
「は、はい!ありがとうございます...!」
その握手は男の人と交わした、初めての、そして かけがえのない友情の証であった。
──────
神獣突入が決まってからの時の流れは早かった。武器の手入れや足りない装備の購入を済ませ、最後にテバさんの奥様のサキさんとお話をして──とっても優しいお方でした。絶対に二号さんを連れて生きて帰ってくるようにと、風切羽のお守りまで頂いてしまいました──いざ出発。
「準備はいいな?」
「はい!大丈夫で──」
ぐらりと、世界が揺らぐ。
な、なに、これ──
──────
...笑い声が聞こえる。
「すまないな...」
光の柱。そっと、手をかざす。
崩れゆく。電脳世界の崩壊と共に、その「塔」は自らの存在を失っていく。
「こんなに世界が綺麗だって、気づかなかったな...」
差し込む光を見上げながら、A2はそう呟く。
崩れゆく。崩れゆく。
求めるように、呼ばれるように、右腕を天にかざす。
「みんな...今、行くよ...」
これは在りし日の彼女の記憶──
──────
これは...もしかして...
「...い!...おいっ!おいパーヤ!どうしたんだ?」
「行かなきゃ...二号さんが...二号さんが、危ないんです!」
衝動に駆られるまま、私は駆け出した。
「はぁ?!危ないって、どういうことだよ!」
呼ばれている。助けを、求めている。
崖を持てる最大の速さでよじ登り、リト村の頂上、メドーの足元まで駆け上がる。
「...っ!速すぎんだろ!こっちは飛んでるってのに全く追いつけねぇ...!」
私は黒煙の立ち上る左翼に飛び乗ると、ぽっかりと空いた風穴から中に侵入した。
二号さんは。二号さんはどこ?
声がは聞こえる。助けを呼ぶ声が。その声は、確実に強くなっている。
直立しているメドーの胴体部を駆け上がり、ついに私は頭部の制御装置前までたどり着いた。
影は三つ。
一人は、だらりと脱力している女を片手で持ち上げていた。
一人は、その女の胸に右腕を突き刺していた。
そして最後の一人は──四肢を枷で繋がれ、両腕を掴まれて持ち上げられ、胸部を貫かれて動けなくなっているA2だった。
「二号さん!」
袖に隠した三本のクナイを、突き刺された腕めがけて投げつける。
不意をつかれたのか、こちらの攻撃に反応が遅れたその女はばちりと嫌な音を立てて腕をA2から引き抜いた。
「誰だ...お前!」
接続を強制的に解除された反動で、A2が意識を取り戻す。
だがその様子は明らかに消耗していて、今にも倒れそうだった。
私の存在に気がついた彼女が、驚愕の表情をみせる。
「...な、なんで...ここ、に...」
その言葉を最後に、彼女はがくりと膝から崩れ落ちた。
ぶつり。
私の中で、何かが切れた音がした。
「誰かと思えば、パーヤちゃんじゃないか!せっかく来てくれた所悪いがあいにく私たちは今お取り込み中で──」
「殺す。」
「はい?」
「貴方達は今、ここで私が殺す。」
許さない。絶対に。
最愛の相手を傷つけられた人間は、時に、魔物以上に恐ろしいものである。
前話の、パーヤサイドのお話でした。
リーバルトルネード無しでリト村の頂上までよじ登るのはなかなか大変...ですがシーカー族の身のこなしなら、あっという間でしょうか。
BotWにもトーレルーフは欲しいですね。