NieR : Breath of the Automata 作:たまごの文字書き
ついに決戦となります。頑張れパーヤちゃん。
人類に栄光あれ。
凄まじい殺気。
...本気だ。
一瞬でも彼女から気を逸らそうものなら、私たちは確実に死ぬ。
そう思わせる確信めいたオーラを、彼女は全身から発していた。
脚部に力が入り、重心が大きく下に傾く。
──来る。
きん。
音だけが、私の傍を通り抜ける。
同じ間合い、同じ殺気。
だが、彼女の両腕には、私が貫いたA2の義体があった。
「ごめんなさい、二号さん。今はどうか傷の処置に集中を。」
「パー...ヤ、奴の...中に...英傑の、魂が...」
「...貴重な情報、感謝します。もう喋らないで。」
彼女らの一通りの会話が終わってから、私たちはこの数秒の間に何が起こったのかを、やっと理解した。
「...見えたか?」
「いえ...A2につけた枷も外れている。衝撃を与える前に切断したみたいね。」
「ウソだろ。...人間の出せる出力をとっくに超えているな。あの刃が私たちに向いていたらと思うと...」
「ぞっとしないわね。...でも所詮彼女も紛い物の人類、生身の身体である以上私たちに分があるわ。」
「ああ。本気でいくぞ。」
ポポルが制御装置の後ろまで後退し、強化魔法をかける。これは、この世界に来てから思い出した力。彼女の舞は、私の力を増強させる。恐らく私たちがまだ、レプリカントとやらの管理をしていた頃の力なのだろう。
内側から力が溢れ出し、体の隅々まで感覚が研ぎ澄まされる。ポポルと私は今、しっかりと繋がっている。寧ろその感覚こそが、私にとっての何よりの強化術だった。
A2を無理のない姿勢に寝かせると、パーヤは再びクナイを構え、こちらを睨みつける。
「お前には助けてやった恩がある筈なんだがな。」
「ええ。今でもとても感謝しております。だからせめて、苦しまないように死なせてあげますね。」
彼女の抱く憎悪は、私たちの計り知れない領域まで達していた。
...話が通じる状態じゃなさそうだ。
「行くぞ。」
「参ります。」
語りたくば、どちらかが相手を捩じ伏せるまで。
──────
──意識が安定化してくる。
『回復薬』。プルアが作ったアイテムのひとつだ。私の体内にあるナノマシンの量を増やし、活性化させるものである。即効性があるため応急処置には非常に便利な薬なのだが...どうやらパーヤが投与してくれたみたいだ。胸部には穴が空き、ブラックボックスも剥き出しの状態ではあるが、五感だけは何とか取り戻せた。
パーヤとデボルの戦いは、想像を絶するものだった。強化されたデボルの強烈な一撃を、パーヤがぎりぎりのタイミングでいなす。その隙を狩り取るように、無駄のない身こなしでパーヤが背後に回り込む。だがデボルも背後の敵を強引に剣で薙ぎ払い、初めの間合いに戻る。
人間離れしたパーヤの身体能力──元々そうではあったが、見ないうちにとんでもないものになっている──と強化を付与されたアンドロイドの身体能力。本来圧倒的力量差のある筈の人類と機械の戦いは、完全に互角の様相を成していた。
だが、互角という言葉には語弊がある。力の差は無に等しいが、人間はアンドロイドと違って体力の限界がある。いくら超人的な力を持つものでも、生物である限り、無尽蔵なスタミナを手にすることは出来ない。そうなってくるとこの戦い、時間が経てば経つほど不利になるのはパーヤの方。それを理解しているのか、デボルの戦いは急所を突き刺して確実に相手を殺すことよりも、あえて隙を晒し、そこを徹底的に防御するといった、敵の運動量をあげて体力切れを狙うものだった。
「どうした!私を殺すんじゃなかったのか?」
「言われなくても...!」
両者の武器が激しくぶつかり合い、ぎりぎりと火花を散らす。
デボルが無理やりパーヤを振り払い、2人の間合いは再び振り出しに戻った。
私の脇に着地した彼女の息は荒く、額には大粒の汗が浮かんでいる。
「随分と疲れているようだな!そんなんじゃA2を守るどころか、足でまといでしかないぞ?」
「...分かってます。そんなこと。」
パーヤが俯く。
「どんなに努力したって、どんなに頑張ったって...私は人間です。アンドロイドの二号さんには...追いつけない。貴方もアンドロイドなんでしょう?これだけの斬り合いをして、息ひとつ乱していない。」
「ほう。やっと自分の立場を理解したみたいだな。そうだよ。私たちアンドロイドはお前たち人類とは違う。わかったんだったらさっさとA2を──」
「──でも。」
彼女の言葉に力が篭もる。
「でも、人間は強くなります。今は貴方たちより劣っていても、いずれ必ず貴方達を超えます。」
パーヤは右手のクナイをその場に突き刺すと、袖から青色の札を手に取る。
「何十年、何百年かかっても...その先に、その子孫に伝え、改良し、そしてまた子孫に伝え...そうしていつか必ず...強大な力へとたどり着きます。」
目を閉じて深く深呼吸をし、彼女はその大きな瞳を開く。
「それが、人間の力。諦めの悪い先人達が残した知恵と力の伝承の先に──私は今、こうして立っているのです。」
音よりも早く、彼女はデボルの懐へと間合いを詰める。
不意をつかれ、反応の遅れたデボルの背中に、彼女は右手の青札を貼り付ける。振り返りざまの一薙ぎを跳躍して躱すと、先刻突き刺したクナイに繋がれた細い糸──光の屈折具合で、その時まで見えなかった──に引っ張られるようにして慣性を変え、再びデボルの背後に回り込むと貼り付けた青札の発する特殊な紋様ごとその背中を斬り裂いた。
「チィ!」
ぎりぎりで体勢を変えることでかすり傷で済んでいたが、デボルがダメージを負ったことには変わり無かった。
「デボル!」
「大丈夫だ。心配するなポポル。...出力を上げる。バフの量を上げてくれ。」
「でもこれ以上は貴方にも負荷が──」
「そうでもしないと、あのバケモンには勝てないさ。」
ポポルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。あの子は人の身でありながらこんなにも強く──
「...5分よ。それ以上は持たない。」
「ああ。そんだけあれば十分だ。」
「ええ。寧ろ一分も要らないほどです。」
「っ!?か、身体が...?」
重厚な殺気。
青白い光がデボルからパーヤへと繋がれる。先程青札を貼り付け、斬り裂いた箇所だ。
「『印』を繋がれた時点で、貴方の負けですよ。」
デボルから何かが吸い出され、パーヤの身体へと流れ込んでいく。
「この術は、印を結んだ相手から力を吸い取るもの。そして奪った力を使って──」
パーヤの周りに、青白い光の球が三つほど浮かび上がる。それは人の形を成し、もう1人のパーヤを作り出した。
「──分身を作り出せる。100年前の厄災大戦時に使用された、シーカー族の奥義です。」
力を奪われたポポルと、4人に増えたパーヤ。この戦いの決着は一目瞭然である。
「参ります。」
そこからの戦いは目も当てられない程の、一方的な蹂躙だった。
──────
「これで、二号さんがされた身体と同じですね。」
四肢の関節を砕かれたデボルが、膝から崩れ落ちる。
「...そうだな。これで...満足かよ...」
「いいえ?まだ一つ、残っています。貴方は最後、二号さんの胸を貫きました。」
デボルの表情が固くなる。
「だから私も同じように、貴方の胸を突き刺します。」
クナイを逆手に構え直し、パーヤが腕を高く振り上げる。
「...一つ教えてやる。」
「...辞世の句なら受け付けていませんよ。」
「戦いにおいて...一番、油断する時ってのは...いつだか知ってるか...?」
「...っ!まさか──」
「──勝利を確信した時だよ。まだ経験が浅いねお嬢ちゃん。」
いつの間にかパーヤの後ろにいたポポルが、その腕に円状の光を纏う。
その指先が向かうののはパーヤではなく──A2の方。
「二号さん!!」
...間に合わない。完全に油断した。
「終わりだなパーヤ!この戦い、お前の負けだ!」
ハッキング攻撃。A2の剥き出しのブラックボックスに、ポポルが侵入しようとするその時──
一本の矢が、彼女の肩に突き刺さった。
「ぐぁっ...」
ポポルがよろめき、後退する。
「チッ...脳天を狙ったんだが...避けられたか。」
純白の両翼をばさりと羽ばたかせて、彼はA2の元に着地する。
「...テバさん!」
「A2は大丈夫そうだ。ちゃんと意識はある。」
「ありがとうございます...!なんと御礼を言ったらいいか──」
「──そんなことよりアイツらだ!」
ハッとして振り返る。そこにはボロボロになったデボルを抱えて、外に飛び降りようとするポポルの姿があった。
「...デボルを傷つける奴は誰であろうと許さない。次会ったら...必ず貴方を殺す。」
「待て!」
時すでに遅し。双子のアンドロイドはメドーから飛び降り、闇夜の中へと消えていった。
「逃がした...私のせいです。私が感情に左右されて、復讐しようとしたばかりに...」
「いや、いいんだ。」
そう言ったのはA2だった。
「あんなに、酷い事をしたのに...そうやって私を想って、くれていただけで...私は、嬉しいよ。」
「二号さん...私──」
〈──ゴホン!いい感じの雰囲気のところ悪いが、そういうのは他所でやってくれないか?メドーは神聖な場所なんだ。〉
「ああ、すまない...」
...あれ?謝ってから気がつく。
「今喋ったの、テバか?」
「いや?俺じゃないが...」
「私も違いますよ?」
「じゃあ、誰が──」
〈ボクだよ僕!このメドーの繰り手、リーバルだ!!全く、どいつもこいつもその人型の神獣のことばっかりで僕のこと忘れやがって...〉
「「リ、リーバル様ぁ?!」」
「叫ぶなよ...傷に響くだろ...」
リーバル曲はホントいいんですよね...英傑達の詩の方の「孤高の戦士リーバル」の転調する感じたまらんです。本当に最高。ちなみに英傑なの中だとダルケルがかなり好きです。イケおじ万歳。