NieR : Breath of the Automata 作:たまごの文字書き
人類に栄光あれ。
「...ポポル」
「あまり喋らないで。」
「大丈夫さ。アンドロイドはこの程度の故障じゃ死なない。」
「でも私たちにも痛覚はあるわ。喋れば痛いでしょう。」
「...そうだな。」
沈黙。
「...アイツの言ってたこと、本当だったんだな。」
「...」
「ターミナルの話、A2は否定しなかった。」
「...そうね。」
「私たちには、レプリカントを作る力があるんだ。」
「...そうね。」
「でもそのやり方を、私たちは知らない。レプリカントを使った人類最後の生存計画──ゲシュタルト計画の内容を知っているのは、この世界じゃターミナルとA2だけだ。」
「でもあの機械生命体を信用するのはかなり危険だわ。人類の徹底した管理による保存。私たちにとっては願ってもない話だけど、奴が本当にその計画を実行してくれるのかは確証が持てない...」
「やっぱりA2を仲間にしておきたかったな。でも私たちの想定以上に、奴はこの世界の人類に肩入れしてる様子だった。」
「ええ。情に絆されずにさっさとデータを奪い取るべきだった。」
「でもそうしなかった。私も、ポポルも。」
「...」
沈黙。
「なあポポル。」
「なに?」
「人類って、なんだろうな。」
「哲学の話かしら?」
「いや、うーん...そうかもしれない。」
「珍しいわね。ポポルが学問の話題なんて。」
「う、うるさい。いやさ、人類ってのは、何を持って人類なんだろうなって思っちまって。」
「...?そんなの簡単じゃない。骨があって筋肉があって四肢があって胴に頭が付いていてそれで──」
「それで、魂がある。」
「...そうね。」
「私たちアンドロイドには、魂はない。当たり前な話だ。」
「...」
「なあデボル、魂って、なんだ?」
「それは...人類だけが持つ、根源的な何かよ。...魂を持たない私たちに理解できるものではないわ。」
「じゃあ、この世界の人類と私たちの世界の人類、どっちが本物なんだ?」
「...どういうこと?」
「どちらも魂を持っていて、見た目はちょっと違うけど...私たちの世界の人類は殆どいなくなって、この世界の人類は皆、厄災に見舞われても尚手を取り合って生きている。」
「...」
「状況だけを見れば、私たちが思い描く人類の方が実は間違っていて...この世界の住人が正しい姿なのかもしれない。いや、そもそも優劣なんて最初から無くて、もしそうだとしたら私たちは──」
「──デボル。」
「...ポポル?」
「喋らないでって、言ったはずよ。」
「...ごめん。」
月明かりの無い、新月の夜。
──────
〈はァーっ?!「忘れてた」だぁ?!〉
「すすす、すいません!!その、二号さんの仇を討つので頭いっぱいで...」
「私はまだ死んでないぞ。」
〈キミは黙っててくれ!全く、やっと出られたと思ったら...どうしてこんなことに...〉
リーバルが怒り心頭なのには、ちゃんと理由がある。まあ見れば分かるのだが...パーヤがデボルから力を奪い取る術を使った時、たまたまリーバルごと取り込んでしまったらしい。おかげで彼の魂はデボルから開放された訳だが...代わりにパーヤの魂と混ざってしまったって訳だ。要するに、ミファーが私の繰り手になったのと似たような状況である。
「ま、まあ結果的にリーバル様を助けることができたので良しってことで──」
〈良い訳ないだろう?!誇り高きリトの戦士がハイリア人の魂に取り込まれただなんて...リンクになんて説明すればいいんだい!〉
テバが宥めようとするが、リーバルはぷいとそっぽを向いて聞かない。
取り込んでしまった張本人のパーヤは、想像通りひいひいあわあわ忙しそうである。プライド高めで小言の多いリーバルと、内気な性格のパーヤ...相性は最悪だ。男性恐怖症に拍車がかからないことを祈るしかない。
「な、なんというか...リーバル様って、結構お若いというか...俺の想像力が彼を英雄視しすぎてたというか...」
「仕方ないだろう。インパのばあさんから聞いた話、リーバルが死んだのはまだかなり若い頃だ。寧ろ年相応ってもんじゃないか?」
「確かにそうだな...」
〈その保護者みたいな視線やめてくれよ...閉じ込められてた時間も含めれば、僕はキミたちよりもずっと大人なんだからな。〉
はぁと深くため息をついて、リーバルは格子の縁に寄りかかった。
「ごほん。と、とにかく一旦状況を整理しましょう。まず二号さんですが...具合の方は?」
「こんな見た目で説得力ないと思うが、命に別状はないってやつだ。応急処置も済ませてある。」
「良かったです。ハテノ村に戻るまでは、なるべく動かず安静にしていてくださいね。」
「ああ。...ったく、神獣戦はいっつもこれだな...」
「ははは...それで、テバさんの方は?」
「俺は何も問題なしだ。誰かさんがすごい速さで飛んで行っちまったもんだから、着いた頃には大体決着がついていたしな。」
「そ、その節は本当にご迷惑をお掛けしました...」
...?何か違和感が...
「...パーヤ。お前、そんなに流暢に男と喋れたっけか?」
「え?あ、テバさんとですか?テバさんは...その...最初にできた、男性のお友達なんです。この村に来てからとても良くして頂いて...」
ほんのりと頬を赤らめて言うパーヤの表情に、私の感情はどこかもやもやしてくる。
「おいテバ。リトってのは浮不倫合法の文化なのか?楽しそうだな。」
「はぁ?!誤解を招くようなこと言うんじゃなぇ!俺はサキ一筋だ!...ったく、パーヤとはそういうんじゃねぇよ。安心しな。」
そういうテバの目に嘘はない。まあコイツは良くも悪くも正直な奴だから、信用はできる。
「二号さん...もしかして、嫉妬、してくれたんですか?」
意外だと言わんばかりの表情で、パーヤが私を覗き込む。
「う、うるさい。別に...別にそういうんじゃない。」
周りがくすくす笑い始める辺り、どうやら私の顔は想像以上に赤いらしい。
「と、とりあえず、皆さんご無事で何よりです。あとは──」
〈──そういうキミはどうなんだい?〉
「え?」
暫く沈黙を貫いていたリーバルが、徐ろに口を開いた。
〈手のひら、見せてみなよ。〉
パーヤは一瞬その大きな瞳を見開き、そして直ぐに、俯いた。
「...気づいていたんですね。」
言われた通り広げられたその手のひらには、どす黒い血液がべっとりと付いていた。
「パーヤ、お前...!」
〈さっきの咳払いの時だろう?上手く誤魔化したつもりなんだろうけど、安い演技ってのは見られたものじゃないからねぇ。〉
「...」
はぁと一つため息をついて、パーヤは口を開いた。
「敵から力を奪い取るあの術式...実はまだ上手く使いこなせていないんです。式自体は合っているのですが...上手くエネルギーを変換できなくて、内臓に負荷がかかってしまうんです。」
ボコブリン程度の相手なら問題ないんですけどね、と、彼女は困ったのような笑みを浮かべる。
「でも...私はどうしても二号さんを助けたかった。そしてどうしても...どうしてもあの人達を、許せなかった。だから自己責任なんです。私は自分のために勝手に──」
「──そういうところが、許せないって言っているんだ。」
自分でも驚くほど低く、重い声が、私の口からずしりと漏れ出した。
「アンドロイドと人類、命の重みを考えろって、私は何度も言ったはずだ。私はこの世界の『部外者』だから身体が壊れても替えが効くし、何よりお前と違って『生きて』ない。お前たち人類の方が、圧倒的に大切な存在なんだ。」
パーヤは何も言わない。
「お前を傷つけないために、ハテノ村に置いていった。お前を傷つけさせないために...お前に酷いことをした。お前を傷つけないために...全部お前のためなんだ!こちらに来ないように伝言も残した!傷つくのは替えが効く私だけでいい!それなのに...それなのにお前は...!どうして...どうして私の言うことが──」
「──違う!」
怒声が響く。見たことの無い表情。彼女は...パーヤは、激怒している。
「確かに貴方は私たち人類より頑丈かもしれない...でも貴方だって不死身じゃない!感情があるし、痛みだって感じるのでしょう...?そんな辛いこと、「アンドロイドだから」の一言で片付けられる話じゃない!」
息を荒らげて、彼女は吠える。こんな姿、初めてだ。一瞬私は彼女の剣幕に凄んだ。だが、それも一瞬のこと。この話は...この話だけは──私も曲げるわけにはいかない。
「でもそれが一番簡単なんだよ!わかるか?合理的なんだよ!肉体的な苦しさや痛みはいつか終わる。そして私にはそれに耐えることが可能な機械の身体がある!お前にそれがあるのか?急所を殴れば素手でもコロッと逝っちまうその身体でいつまで戦えるってんだ!確率の話さ!死にやすいお前と死ににくい私、どっちの命が軽いかなんてバカの私でも分かるぞ!」
「それでも貴方はこうして死にかけたじゃないですか!二号さんの身体はただ死ににくいだけで、死なない訳じゃない!私が来なかったら貴方は...貴方は今頃どうなっていたか...っ!そこまでして私を泣かせたいのですか?そこまでして...そこまでして、私が泣くのを天国からニコニコ見守っていたいのですか!」
「そんなはずがないだろう!!私は、私はただ──」
話の終わりは何時まで経っても見えてこなかった。どちらも譲らないし、そもそも譲る気なんてさらさらなかった。...違うんだ。こんなことが言いたい訳じゃないんだ。想いは同じなはずなのに...分かってはいるのにこんなにもすれ違ってしまう私の心が──その感情こそが、何よりも憎くてたまらなかった。
「──このわからず屋!私は貴方が思うよりもずっと、貴方のことが心配なんです!!」
「わからず屋はお前だろうが!私だって──」
〈──いい加減にしなよ。そんなくだらない理由でぎゃーぎゃー喚かれると、イライラしてきて仕方がないんだよね。〉
鶴の一声。リーバルの放ったその一言は、場を沈めるのには十分すぎるものだった。
この二人カップル設定のはずなのにいっつもケンカしてんな...一生納得しなさそうな雰囲気を感じてます。