NieR : Breath of the Automata 作:たまごの文字書き
18000UA本当にありがとうございます。引き続き本作をご贔屓にしていただけると幸いです。
今回は少し文量が多くなってしまったのでご注意を。
人類に栄光あれ。
「へい、醤油ひとつ!」
快活な声と共に、私の前に一杯の麺が提供される。しれっと隣に座っている双子の片割れを尻目に、私は箸を割って合掌した。
「いただきます。」
直ぐにポポルにも品が出され、綺麗な所作と礼節を持って食べ始める。私も彼女のことをなるべく意識しないように麺を口に運ぶが、正直気が気じゃない。
「なあ──」
「──話は後よ。まずは目の前に出された食事に没頭しなくちゃ。大将にも失礼でしょう。」
「ああ...そうだな。」
そう諭されて、私は改めてラーメンと向き合う。濃厚なスープから漂う刺激的な香りを感知して、私は自分が無い腹を空かせていた事を思い出した。
さすがに使い慣れてきた割り箸を使って、するると麺を啜る。口の中に広がる贅沢な味わいに心を撃たれつつ、私は手の動きを邪魔する髪を耳にかけた。
「貸してあげるわ。」
ポポルが私に、小さな黒色の輪を渡す。
「...これは?」
「何って、髪留めよ。全く...ここまでお洒落に無頓着だとあの子も苦労するでしょうね。」
「...悪かったな世間知らずで。」
貰った髪留めで自らの長髪を縛り、私は人生初のラーメンを夢中で堪能した。...まあ気が気じゃないのは変わらなかったが。
「ご馳走様。」
「ご馳走様でした。とても美味しかったわ。」
「ありがとさん!ところで赤毛の姉ちゃんよ、いつもの巻き毛の方はどうしたんだい?」
「ああ、あの子なら家で休んでるわ。ちょっと怪我しちゃって上手く動けなくてね。」
「そいつァ気の毒な話だ...元気になったら、また二人で来てくれよな。」
「ええ、言っておくわ。それより貴方、今日のはいつもより味付けがしっかりしているのね。」
「お、わかるかい?さすがは天下の赤毛姉妹!実ァ今日の仕込みは──」
仲良さげに、ポポルと大将は話を進める。どうやら彼女はここの常連のようだ。私にはそれが意外に思えた。こうも楽しそうに話す彼女が何故...何故あんなことを。考えても理解が追いつかない。彼女にとって、ハイラルの人々はなんなのだろうか。彼女は何がしたいのだろうか。複雑な思考が苦手な私はただ、その姿を呆然と見つめていることしかできなかった。
「あら、待っていてくれたのね。」
「髪留め...まだ返せてないからな。」
「あら、律儀なこと。でも、本当にそれだけ?」
風が二人の間を通り過ぎ、一瞬の静寂。
「...お前には聞きたいことが山ほどある。」
「私に殺されるかもしれないのに?」
「だとしたら私はとっくに死んでいるさ。」
ポポルは一瞬固まって、それでくすりと笑った。
「ふふ。それもそうね。ああそう。胸の修理は順調かしら?」
「おかげさまで難航中だよ。全く、手駒欲しさに無理やりブラックボックスをぶち抜くとか狂気の沙汰だぞ。」
「それはその...ごめんなさい。私達も、焦っていて。」
想定外だったポポルからの素直な謝罪によって、何だが調子が狂ったような感覚になる。いや、寧ろ「思い出した」のかもしれない。元来彼女はこういうアンドロイドだった。あんな狂気じみた瞳ではなく、優しく慈愛に満ちた目をする女だった。だからこそ私はあの時、そうだな...恐ろしかったのだ。彼女の真意が分からなかったから。私の知っている、「デボル・ポポル」ではなかったから。
「...お前は...いや、お前達は今、何がしたいんだ?」
ポポルが足を止め、私と向き合う。
「何って?」
「あの時お前は、ハイラルに生きる人々を『出来損ない』と言った。だがさっきのアレはなんだ?お前達の言う出来損ないと随分楽しそうに話してたじゃないか。あれは紛れもない「会話」だ...それも心からの。あの時確かにお前は会話に心を踊らせていた。「感情」が見えた。上辺だけの作り笑いだなんて言わせないぞ。」
自身の中にかかるモヤを晴らしたくて、私は彼女に強く問いつめる。
ポポルは小さくため息を吐いて、ゆっくりと口を開いた。
「...少し、歩きましょうか。長い話になるわ。」
──────
この世界に来た時、私達の義体はボロボロで...簡単に言ってしまえば、死にかけていた。まあ9Sを「塔」に入れるために自我データを犠牲にしたんだもの...当たり前の話ね。でも、私達は一人の技師に助けられた。その技師はとても変わっていたけれど、とても優秀だった。見たこともないであろう「アンドロイド」というマシンを完璧に修理し、整備、改良までしてくれた。そう。彼はとても優秀だったの。だから彼は気づいた...私達の「罪」にね。
記憶領域にぽっかり空いた虚無の空間を見つけることなんて、彼には造作もないことだった。そこにあったはずのデータは一度貼り付けられた後ズタズタに切り裂かれ、破壊されていた。彼は私達に尋ねた、「これは何か」と。
でも、私達は答えられなかった。だって知らないんですもの。私達はそれが同型モデルが犯した詳細不明の「罪」であり、その贖罪のために生かされているということしか知らない。だから罪状なんて知らないし、そもそも知る由もなかった。...でも興味はあった。当たり前でしょう?同胞が何をしてしまったのか...それが分かればこの「償い」も、私達にとってなにか意味のある行為になるかもしれない。
私は彼にデータの修復を頼んだ。アンドロイドの私達ではたどり着けなかった真相に、私達とは異なる技術を持つシーカー族なら届くかもしれない。何故かは分からないけれど、私達はそう確信していた。そしてそれは、正しかった。
長期に渡る解析の後、彼は破壊された「罪」を復元した。と言ってもほんの一部分だけれどもね。でも...でもそのたった一欠片が、私達の全てを変えた。
記憶の一部を知ってから...何かに呼ばれるているような、何かが訴えかけているような焦燥感が芽生えてきたの。初めは恐ろしかったわ。私達は触れてはいけない禁忌を犯してしまったのだと。でも同時に、絶対に手に入れなければならないモノだと直感で理解した。使命感って言うのかしら。私達はこのために生かされているんだって。だから私達は更に「罪」を求めた。その意味を、記憶の呼び声を。
「罪」が復元される度、その声は大きく、聞こえやすくなった。ノイズが多く入り交じったものではあるけれど、その内容は主に二種類。
ひとつは「人類を生かせ」。
これは後にターミナルや貴方から「レプリカント計画」のことだと知ることになるわ。そしてもう一つ。
「もう一度、彼とやり直せたら。」
これについては、手がかりひとつ掴めていない。恐らく罪を犯した同胞の私的な感情に由来しているのでしょう。「彼」が誰なのか。「もう一度」何をやり直したいのか...それを知る手前で、「罪」の解析が頓挫したわ。より複雑で緻密なデータの抹消痕跡を辿るためには、技師の持つ設備と知識では不十分だった。私達は絶望した。けれど、そんな事はお構い無しに「声」は日に日に強くなっていく。「人類を──」「もう一度──」
声を聞き続けていると、私が私じゃ無くなってしまいそうになる。怒り、悲しみ、憎しみ...何に対して抱いているのかも分からない純粋な負の感情が流れ込んできて...おかしくなってしまいそうだった。今だってそうよ。気を抜けば声が私達を支配しようとする。「罪」はそれだけ重く「罪」であったということね。
だから私達は「遺物」を求めた。ロストテクノロジーであるそれらを解析すればまだ見ぬ技術や知識が手に入るはず。それがあればもしかしたら──「罪」の解析がさらに進むかもしれない。そんな思いで、私達は神獣ヴァ・メドーに向かった。そう、貴方とこの世界で再会した思い出の場所よ。繰り手の魂を吸収して──彼には申し訳ないのだけれど──そのエネルギーを使ってメドーの制御権を掌握、その全てを解析する予定だったわ。そして私達を止めに来るであろう貴方を仲間に引き抜く。...まあ、全ては失敗に終わったのだけれどもね。
──────
「じゃあ、お前達は別にハイラルを支配したいんじゃなくて...」
「...「罪」を明らかにしたいの。それが私達の使命であり...そして救済でもある。もう、止まることはできないわ。例えそれが...この世界に歯向かう行為だとしても。」
「...」
私はしばらくの間、言葉を出せずにいた。彼女らはパンドラの箱を開けてしまったのだ。そしてそれは一度開いたら決して戻ることなく、永遠に二人を苦しめ続ける。その苦しみから開放されるために、二人は進むしか無かった。禁忌の中身を、取り出すまで。
「それを達成する上で、ターミナルとの協力関係は合理的だった。彼はハイラルのデータ世界も掌握し得る強力な存在よ。タブーな存在であることはわかっているけれど...最悪彼の理想が実現したとしても、ハイラルを滅亡させることはないわ。」
そう言って、ポポルは目を伏せる。
「...今を生きる人々は。」
私の言葉にびくりと肩を震わせ、彼女自身の中にある罪悪感を見え隠れさせる。
「明日を夢見る子どもたちは。ヤツに選ばれなかった、残り全ての民はどうなる。」
「...全員、死ぬでしょうね。」
彼女の目が泳ぐ。
「...お前はそんなとんでもないことに手を貸しているんだぞ。人類を護るんじゃなかったのか?」
「...この世界にいる人々は「本当の人類」じゃないわ。だから別に何人死のうと──」
「──それがお前の本心か。それがお前の心からの願いなのか。そうやって勝手に理由つけて無理やり自分を偽って納得させて...それで満足か?違うだろう。...私達には感情があるだろう。魂のない機械でも心なら!人の喜びを分かち合えて、他人の死に涙を流せる感情が──」
「──もう遅ェンだよッ!何もかもッ。」
一瞬の沈黙。
その言葉に驚いたのは、私ではなく彼女自身であった。ハッとした表情で口を塞ぎ膝から崩れ落ちる。身体をぎりぎりと抱きしめて声にならない何かをぶつぶつと呟いている。まるで得体の知れない何かに怯えているような、それでいて何かを...見つけてしまったかのような。
「そんな...私...なんで...記憶...?創る?何を?もう一度彼に...ああ、こんな言葉、言ったことなんて...」
「お、おいポポル、しっかり──」
私が彼女を介抱しようとした、その時だった。
どん。
目も開けられないほどの激しい閃光と共に、鈍い爆発音が辺りに鳴り響く。
「おいお前ッ──」
「──ち、違うわ。私は何も...」
音のした方向に振り向き、ポポルは固まる。
「そ、そんな...ウオトリー村が...」
「どうなってやがる...」
村の上空にはいつの間にかどす黒い雲が覆いかぶさり、昼間だと言うのに漆黒の世界をその一点のみに形成していた。降り注ぐ落雷は家々に直撃し、木製の素材は緋色の炎と黒色の灰をごうごうと吐き出している。子どもは泣き喚き、大人は怒号を上げて走り回る。女どもの悲鳴が村中を飛び交い、それはもう阿鼻叫喚を現世に体現したかのような、文字通りの地獄絵図であった。
「A2、私──」
「──「罪」だか何だか知らないが...私はお前と違って彼らを見捨てるようなクソったれじゃない。」
また一つ、爆発音が村にこだまする。パーヤやプルアは無事だろうか。
「.....判断は任せる。お前が自分で決めろ。」
私の言葉を聞いてポポルは数秒の間俯いて目を泳がせていたが、なにか決意したようにきゅっと手のひらを握り締め、視線を上げてこくりと頷いた。
「行きましょう。考えるのはその後からでもできるわ。」
かなり長くなってしまいました...というわけで、ウオトリー村編も熱を帯びてまいりました。女性陣の水着いちゃいちゃデート...の雰囲気では無いですね明らかに。