NieR : Breath of the Automata 作:たまごの文字書き
20000UA超、感謝致します。ウオトリー編もあと二幕で一区切りです。引き続き本作をお楽しみください。それでは。
人類に栄光あれ。
突然豪雨と雷鳴が止んだと思ったら、空には黒色の両腕の、ぼろぼろの少女が浮かんてんいた。
否、落下しているのである。
「パーヤ!!」
保護していた子どもを他の大人に預けると、A2は無我夢中で走り出した。
クソッ。こんな時に全速力で走れない自身の義体が憎たらしい。落下が予測される地点には、今の脚力では到底間に合いそうになかった。
「...ポポル!」
幸いなことに、パーヤが落下するであろう場所には、既に人影があった。上を向いて期を見計らっている辺り、彼女なら間に合いそうである。
だが、その様子はどうにもおかしかった。
何かに駆りたてられるように、見開かれた瞳孔。不自然につり上がった口角。そして何より、左手に握られている鋸のような片手剣。
まさか。そんな──初めからパーヤを殺すつもりで...?
「...めろ。」
ありったけの力を込めて、駆ける。パーヤはもう、地上からでも簡単に視認できる位置にいた。
「...やめろ。」
ポポルが跳躍する。間に合わない。追いつかない。
「やめろォォオオ!!!」
私の声は──届かない。
ポポルの影が、パーヤと交差して、少女の身体から真っ赤な鮮血が──飛び散らない。
ポポルが剣をふりかざす直前、ハッとしたような表情をすると、くるりと体を捻りながら右手にパーヤを抱え、そのまま勢いを殺すように崖に剣を突き刺した。
がりがりと音を立てて減速、そして地上に着地。荷物を肩にかけるようにパーヤを担ぐと、ポポルは駆けつけた私と対峙した。
──────
デボルを傷つけられた。
私のせいだ。私が上手くサポートできなかったから、私の力不足だったから...
「人類を──」
「もう一度──」
声が聞こえる。罪人が抱いた負の嘆きが、私の感情を蝕んでくる。
「...うるさい。」
怒り、憎しみ、悲しみ、苦しみ...黒い色をした重い感情の群れが、私を取り囲んで離さない。
「うるさい、うるさい、うるさい!!」
気が狂いそうになる。もういい。止めてくれ。これ以上私達を壊さないでくれ。
左手に持った刃をぎりぎりと握り締めて、苦痛に耐えていたその時。
ぶわり。
黒雲が霧散し、辺りは嘘のような快晴に包まれた。
そして宙から一人の少女が、風に服を靡かせながら落下している。
「パーヤ...」
どうやら装置は取り外せたようだ。だが様子がおかしい。その両腕は黒色に焼け爛れていて、その瞳は固く閉ざされたままであった。
『──あの女を殺せ。』
ヤツの言葉が耳に残って離れない。その言葉が思考回路で反響する度に、私の中に眠る罪人の声も大きさを増して響き渡る。
「もう一度──」
「もう一度──」
『殺せ。殺せ。殺せ。』
もうやめて。お願い。
鋸状の刃をぎりぎりと握り締め、ポポルは駆け出す。
少女の落下地点を予測し、跳躍。宙を蹴りあげて、加速。
『殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。』
やめて。お願い。助けて。誰か──
「ポポルさん。俺はあんたとデボルさんに──」
白髪の青年。忘れてはいけない、名も無き男の声。
──────
「ポポル...あ、ありがとう。助かった──」
「──動かないで。」
彼女の声で、辺りにぴんと緊張の糸が張り詰める。いつの間にか、ポポルは担いだパーヤの首筋に片手剣を当てていた。
「...どういうつもりだ。」
私は少し強気に出る。私自身戦える状態の義体ではないが、それはポポルも同じように見えた。額の発汗量は尋常ではなく、息遣いもかなり荒い。
「貴方からしたら私は敵対存在。それに今回はお仲間さんも多いのでしょう?まともに戦えば人数不利になるわ。」
ポポルは鋸状の刃に力を入れ、パーヤの首の皮膚にぴりと傷をつける。
赤い血がぷくりと膨れ上がり、そのまま首筋を流れ落ちた。
「...いいだろう。要件を言え。」
ポポルは深く呼吸をして、静かに言う。
「私の姿が見えなくなるまで、私を攻撃しないこと。それが約束されないのなら、このままこの子の首を掻き切るわ。」
彼女の声は本気だ。精神状態が安定していないのだろう。言動に余裕がない。
「分かった。ただパーヤは直ぐに解放しろ。その両腕は早急に処置を施さないと危険だ。彼女は...私たちと違う。分かるだろう?」
ポポルは少し長く考えて、こくりと首を縦に振った。
「.......この子はデボルを傷つけた。でも、今日は殺さないであげる。...この子がいなければ、ウオトリー村は救えなかった。」
言葉とは裏腹に彼女は優しくパーヤを肩から降ろすと、衝撃を与えないようゆっくりと寝かせる。
「感謝する。...もうすぐ私の仲間もお前の存在に気がつく頃だ。身動きが取りにくくなる前に早く行け。」
「...そうさせてもらうわ。ああ、それとあとひとつだけ。」
ポポルは駆け出す脚を止めると、くるりと振り返る。
「この辺りに来たのなら、ヤシノ遺跡へ行くといいわ。100年前の落し物が見つかるかも。」
「...?よく分からないが、行ってみる。──ついでにひとつ、私からもいいか?」
呼び止められたのが意外だったのか、彼女は振り返らずに足を止める。
「何?」
「...どうして、パーヤを助けた。人質なんて取らなくても、お前なら簡単に逃げられただろう。」
彼女は少しの間黙り続けて、やがて諦めたように振り向いた。
「私も...分からなくなっちゃったのかな。」
「...?それってどういう──」
──A2!パーヤは?!──
後方から声をかけられ、私も後ろを向く。
「ミファー、プルア!...おいポポルもうこれ以上は──」
視線を戻す頃にはもう、彼女の姿はどこにもなかった。
最近一話一話が長くなってきていたので今回は少し短め。フリーレンについての何かも書きたいなとは思いましたが、作品自体の小説性が高すぎて自分が何かを加えるのは野暮だと判断して書かないことに致しました。