NieR : Breath of the Automata 作:たまごの文字書き
人類に栄光あれ。
「...研究所から凡そ二週間。まあ予定通りだな。」
モヨリ橋を越えてハイラル平原を横断。嘗て宿場町の賑わいを見せていた跡地群を駆け抜け、断崖絶壁そびえ立つ始まりの大地を横目で見学。デグドの吊り橋を塞ぐように寝転がっているヒノックスを奴の断末魔と共に叩き起こし、小腸のようにうねるゲルドキャニオンするりと通り抜けてみれば、広大なゲルド砂漠のご登場である。
「ええ。暗くなってはきましたが...今日中にカラカラバザール到着をめざしましょう。」
「そうだな。...で、お前なんでそんな暖かそうな格好しているんだ?」
パーヤの服装がいつの間にかモコモコになっている。
「知らないのですか?砂漠の夜はとても冷えるのです。日中こそ灼熱ですが...放射冷却の影響で氷点下まで下がります。そのような薄着で突破しようだなんて、自殺行為ですよ。」
そう言って、彼女は手袋を私に放り投げる。
「貸してあげます。こんなこともあろうかと、予備を持ってきていたんです。」
放物線を描いて飛んでくる防寒具達をぱしぱしと手に取りながら、A2は夜の砂漠という概念を自身が知らないことを思い出した。
「用意周到なことで...だが、生憎アンドロイドの私には必要ないみたいだ。」
「いいえダメです。こんな寒い中で防寒具ナシのハイリア人なんて誰もいませんよ。二号さんがアンドロイドであることは私含めた数人しか知らないんですから...はい、これも着てくださいっ。」
パーヤの荷物袋から、私用の防寒具がまだまだ出てくる。...そんなに沢山どこにしまっていたんだ。
「あたた、かい。」
「寒さに耐えられるからと言って、寒くないわけではないのですね。」
装備の再確認を終えたパーヤが顔を上げる。
「...機械にも感情はあるんでな。」
「なら尚更持ってきておいてよかった。」
彼女の笑顔が眩しい。
「ありがとう。いくぞ。」
意外と素直に、感謝の気持ちが唇の間から滑り落ちた。
「...!はい!」
その後やけに元気の良かったパーヤが魔物を全てなぎ倒し、カラカラバザールまでやることがなかった私の話はもういいだろう。
──────
「...えらく時間がかかっているな。」
「そうみたいですね...何かあったのでしょうか?」
早朝、ゲルドの街。門前には長蛇の列ができていた。街の内部は男子禁制である為、入るには検査を受ける必要があるとは聞いていたが...今日はいつにも増して入念なご様子である。
「...ふむ。お前も違うみたいだな。通っていいぞ。次!」
直射日光に思考回路を焼かれそうになりながら待つこと数時間、ようやく私たちの番が来た。
「お前たち、随分と変わった格好をしているな。」
門番の視線がきつく刺さる。以前であれば睨み返しでもしていたが、私もこっちの世界に来てからそれなりに経つ。こういうのは穏便に済ませるのが大人ってヤツだ。
「カカリコ村から来ました。ゲルドの街からは随分と遠いですから、この装束もあまり見ないのでしょう。」
パーヤも相手が女性である為、普段通り会話が成立している。
「そういうことだ。もういいか?」
「カカリコ村...ふむ。お前達、ここには何用で来た。」
門番の視線がさらに厳しくなる。あれ、おかしいぞ。
「用ってそりゃあお前たちが呼んだんだろう。ナボリス解放の手伝いを──」
「──ナボリスだと?貴様それを何処で聞いた!おい!コイツらを捕らえ──ぐあっ」
パーヤを取り抑えようとした衛兵を、私の本能が無意識に張り倒す。
「──二号さん!」
「...!」
刀に手をかけようとしたその時、パーヤが私の前に両手を広げた。
「...面倒事を増やさないためにも、ここはどうか穏便に。」
気がついたら、ゲルドの女が一人伸びていた。パーヤの制止がなかったら今頃何をしていたか...考えたくもない。
私は黙って起き上がり、両手を上にあげる。
「...悪かった。降参だ。」
最悪な歓迎を受けたことに変わりはないが...まあとりあえず目的地には何とかたどり着けたようだ。
──────
「...どういうことだ。」
連れてこられたのはゲルドの地下牢。砂岩と鉄格子でできたシンプルな部屋に放り投げられた私たちは、この珍事態の状況確認を急いでいた。
「分かりません...嵌められたのか、それとも...」
衛兵の様子を見るに、ナボリスについて知っていたことがタブーだったらしい。となるとその救援要請をしてきたとかいうゲルドの斥候が怪しくなってくるが...
「うるさいぞ!囚人は大人しくしていろ!」
看守役のゲルド人が、大声で会議を遮断する。
「なあ...お前、静かにしてるから何で捕まってんのかくらいは教えてくれないか?こっちも突然こんなとこに詰め込まれちゃあ大人しくしてられない。」
私は最後の望みをかけて、務めて冷静に聞いてみる。
「分かりきったことを!何を企んでいるか知らないが、ここからは出さんからな。」
こちらの努力の甲斐もなく、向こうは全く聞く耳を持とうとしない。クソッ。こんな鉄格子、子指一本でひとひねりだと言うのに...騒ぎを大きくすれば、それこそナボリスへ近づくのは面倒になる。
状況が詰みかけていたまさにその時、牢の外から騒がしい声が聞こえてきた。
「なりません族長!罪人の面会など!」
「罪人と言っても、まだ疑いがかけられただけなのじゃろう?それに──」
「──疑いと言っても間違いありません!この者達が間違いなく雷鳴の兜を盗み出した主犯です!」
「はあ?!私が盗みだって?」
「黙れ!」
あまりに身に覚えのない疑いをかけられていて、思わず声が出てしまう。衛兵の制止を振り切って牢の前に立ったのは、十歳ほどの幼いゲルド族だった。
「ルージュ...様?」
パーヤが驚きを隠せない表情でいる。このガキ、どうやら有名人らしい。
「そなたらが、雷鳴の兜を盗んだ犯人か?」
「いいえ、違います。私たちは盗人ではありません...」
パーヤが姿勢を正して返答する。なんだ、王族か?
「お前達が持っていった荷物を調べれば分かるだろう。第一私はその雷鳴のなんちゃらなんてモノ知らん。」
「お前!無礼であるぞ!」
「よい。...雷鳴の兜は既に返ってきたのだ。リンクの手によってな。しかし...」
「...しかし?」
ルージュの瞳が一瞬、揺らぐ。
「しかし兜を盗んだ犯人は、もう一つの重要な秘密を持ち出したらしいのじゃ。それが──」
「──ナボリスの防壁解除、でしょうか?」
パーヤが何か合点が言ったように答える。
「やはり知っているではないか!ルージュ様、この者たちが犯人に──」
「──黙らぬか!この者たちが盗人であると言うにはまだまだ証拠が不十分だろう!第一この者達はイーガ団では無いではないか!」
「しかし...!」
「もうよい!下がれ!族長命令だ!」
鋭い視線を送り、ルージュと呼ばれた小娘は衛兵達を黙らせる。族長命令...やはりこの街の長のようだ。
少女の気迫に何かを感じたのだろうか。衛兵達は渋々承諾すると、どこか感心した様子で去っていった。
「...あのように口答えされてしまうとはな...やはり族長としての威厳はまだわらわには...」
「いや、今のお前はなかなかにカッコよかったぞ。よくやったルージュ...様。」
私の言葉を聞いて、ルージュはまるで親に褒められた子どものように、しばらく目を見開いていた。しかし直ぐに我に戻ると、咳払いをひとつ挟んで言葉を続ける。
「敬称は必要ない。お主、A2であろう?母上から話は聞いている。」
母上?どういうことだ。
「...何故知っている?私の知人にゲルド族はいないぞ。」
「それはおかしな話だな。そなたはウルボザ様と仲が良かったと聞いているが?」
益々訳が分からない。私が...ナボリス繰手の友人だと?
「だとしたら、今頃私はヨボヨボ婆さんか墓標の下だ。ウルボザは100年前の大戦で死んだと聞いているぞ。」
「ああ...だが、お主は『あんどろいど』なのだろう?悠久の時を生きる、枢の人間だと。」
「!」
...どうやら私のことは凡そ全て知っているようだ。話の流れを聞くに、100年前の変な噂話と混同して認識されているようだが...私のことを知るデボルやポポル、ターミナルとの接触があったとするならば、この小娘のことも納得が行く。
「私の事はよく知っているようだな。それなら話は早い。ここから出してくれないか?私らはあんた達ゲルド族の斥候からナボリス解放の救援を受けてきたんだが...」
「──それが引っかかるのだ。ナボリスの電磁防壁の解除は、この街において最重要機密になっておる。各地の神獣を荒し回る者がいるとの情報があったからな。そなた達の耳に入っているということは...まあ知られたのがそなたらで良かったが...とにかく、ナボリスのことを外に漏らした者がいるということじゃ。」
「それが雷鳴の兜を盗んだイーガ団...ということでしょうか?」
パーヤ顎に手を当てて話に参加する。
「左様。雷鳴の兜が無くなったのは、電磁防壁解除の直後。まさにリンクとわらわがナボリスに出撃する直前であった。つまり、兜を盗んだ者はこれがなければナボリスには近づけないということを知っていたのじゃ。」
「なるほどな...だから神獣についての限られた情報を知っていた私たちを捉えたと。にしては少々阿呆が過ぎないか?そんな大事な情報、衛兵に堂々と喋るような奴が犯人なはずがないだろう。」
「わらわもそう思ってここに来たのじゃ。それにまあA2の脳筋ぶりを考えると、犯人と疑われても納得がいくがな。実際この牢もそのうち破壊して無理やり脱出するつもりだったのだろう?」
「...お前の母親は余計なことを言う性格だったみたいだな。」
無駄に当たっている分腹が立つが、この少女が中々の切れ者であることはよく分かる。将来有望だ。
「まあ、その衛兵のことは許してやってはくれぬだろうか。そもそも電磁防壁の仕組み自体も分かってはおらぬのだ。防壁へのエネルギー供給は東の方角...凡そフィローネ地方から流れてきていたことは分かっているのだが...どういう原理で、何故突然解除されたのかも分からん。少しでも情報を持つ者が現れたら捕らえよと、命じていたのはわらわじゃ。」
東...フィローネ地方から電力の供給。...まさか、フロドラの...?
パーヤとも視線が合う。どうやら同じことを考えていたらしい。
「それについてなら、思い当たる節がある。もしかしたら役に立てるかもしれん。」
「本当か!そうであれば、こんな場所で立ち話する内容では無い。ここを出るぞ。ビューラ!」
「は!」
ビューラと呼ばれた巨躯の女がルージュの背後から現れ、鉄格子を拳で破壊する。
「...誰が脳筋だって?」
「鍵がなかったからな。これくらいは仕方あるまい。」
...話しが合いそうで何よりだ。
お久しぶりでございます。今年もよろしくお願い致します。
ナボリス編に本格突入です。ルージュもなかなか推せるキャラクターなので丁寧に書いていきたい。
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