NieR : Breath of the Automata   作:たまごの文字書き

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お気に入り追加が200件を突破しておりました。多くの方々に読んでいただけていることを肌で感じられて非常に嬉しいです。今後も本作をご愛読頂けますと幸いです。それでは。
人類に栄光あれ。


再戦:人形と概念

神獣ヴァ・ナボリス最深部。メイン制御装置。

電脳空間内は赤紫色の瘴気に満ち満ちており、通常のハッキング時に見るそれとは似ても似つかぬ様相であった。

肌に絡む蜘蛛の巣のように鬱陶しいそれを右手で振り払いながら、A2は険しい表情で進む。...敵はいつ現れるか分からない。どこから攻撃してくるかも分からない。どこまでも収まらない底無しの不安は、彼女に嘗ての降下作戦を想起させる。髪の毛の先まで警戒心を研ぎ澄ませてその不愉快極まりない感覚と格闘しながら、彼女はひたすらに歩き続けた。

 

...どこまで進んだのだろうか。見えてきたのは巨大な尖塔。そこには誇り高きゲルドの戦士の魂が、まるで戦利品を誇示するかのように仰々しく縛りつけられていた。

「...ガノンってのも趣味が悪いな。」

ナボリスの繰り手、ウルボザの魂。本来であれば神獣内にいる雷のカースガノンを下すことで彼女を解放できるはずだが、内部から無理やりこじ開けてしまうのも悪くない。しかし。

 

『良い場所だろう?A2。』

 

瘴気の霧を縫うようにして、引き攣った笑みの少女が堂々と現れる。

...この悪趣味なアートにたどり着くまで、奴はずっと隠れて私の様子を見ていたとでも言うのだろうか。そう思うと身の毛がよだつ。

『ハッキングとは驚いた。全てにおいて念入りな対策をしていたつもりだったが──こちらの防壁プログラムをいとも簡単にすり抜ける未知の攻撃...どうやらあのハコも無策ではなかったようだ。』

おぞましい声。決して耳に馴染むことのないその声は寸分も調子を違えることなく、機械的にA2に話しかける。

「久しいな、ターミナル。元気にしてたか?」

彼女の表情も崩れない。多くの仲間を殺し、最愛の人を傷つけた全ての元凶を前にして、A2も冷静さを保つことができていた。

『「久しい」?ハハ。久しい、か。...随分とこのくだらない世界に染まったものだA2。我々にとって数年の時など、息を吸うよりも短いというのに。』

ふわりと空中に漂う少女は、その見た目には到底似つかわしくない低い声でA2を嘲笑する。

「まぁね。存外ワタシはこの世界を楽しめている気がするよ。」

A2は少女との会話をさらりとあしらい、静かに脚部へのエネルギーに集中する。

狙いは一つ。一撃で、奴を仕留めるために。

 

「...お前さえいなければ...なッ!」

跳躍。薄ら笑いを浮かべる少女の眼前に一瞬で接近し、彼女は迷わずその巨大な剣を振りかざした。

しかしターミナルは表情ひとつ変えずに片手を前に出すと、赤子をあやすかのように受け流した。A2は一瞬目を見開いたが、直ぐに向き直りその巨大な得物を軽々と振り払う。電子の火花が激しく散り、金属と金属のぶつかり合う嫌な音が鳴り響く中、ターミナルは心底面倒くさそうな表情で左手を腰の後ろに当て、剣撃にすら目を向けることなく片腕一本で全てをいなしていた。

『遅いな。』

振り上げた剣の軌道を指先でするりと変えると、ほんの一瞬の隙にA2の胸に手のひらを当て、とんと押す。

「なッ...?」

肉薄していたはずのターミナルが、次のフレームには遥か遠くに映る。

 

いや、違う。私が弾き飛ばされているのだ。

「...バケモンが...!」

瘴気で覆われた電脳空間に、どんと鈍い音が響いた。

 

『変わらない様子で何よりだよA2。その短絡的な思考回路も何一つ変わっていない。』

彼女は肩を竦めて、土埃まう瘴気の中へ語りかける。

『お前は私には勝てない。それはルーダニアで証明されただろう?物理的強さも、判断力も、心的な強靭さも。何一つとして私に勝る物モノがないのだから。』

カタカタと気味の悪い笑い声を上げて土煙に近づくと、ターミナルは瓦礫の中からA2を引きずり出した。

『カースガノンとの接続は切られたが、それは貴様も同じこと。あの者の援護無しで貴様に何ができる?それなりのアップデートを重ねてきたようだが、その程度の小手先の技術で私を止めることは不可能...』

叶わぬ話だとつけ加えようとしたその時、ターミナルは違和感を覚える。

『...何がおかしい。A2。』

無理やり引きずり出された彼女の口元には、狙い通りとでも言わんばかりの笑みが浮かんでいた。

「本当にワタシが無策でここに来たと思ったのか?...機械生命体の集合知が聞いて呆れる。」

 

ヒュウ。

 

鋭い音と共に、一本の矢がターミナルの急所へと吸い込まれていく。

死角から放たれたその一撃が奴の心臓部を貫かんとする──その時。少女の上半身があらぬ方向に曲がり、その矢をいとも簡単に掴んでみせた。

『バカも大概にして欲しい。こんな前時代的な戦術で──』

 

〈──分かっていたさ。お前がイキがってボクの矢を『掴む』ことくらいね。〉

 

矢の先端には、大量の火薬が埋め込まれていた。

 

『小賢しいマネを...』

急かされるように進む火花にターミナルが気がつく頃にはもう、その視界は爆発の閃光に埋め尽くされていた。

 

ドォン...

 

大爆発が巻き起こり、激しい黒煙が立ち上る。

「おい!私を殺す気か!」

〈フン。人使いの荒いキミのことなんて知ったこっちゃないね。〉

 

──もう...!仲良くしなきゃダメだよ!A2、ケガはない?──

 

“それなら大丈夫だ!このダルケル様の守護陣があるからな!”

 

リーバル、ミファー、そしてダルケル。彼女の加勢に来たのは、なんと百年前の英傑達だった。

『...どうなっている。』

煙幕から這い出た少女の表情は珍しく焦燥を示しており、不機嫌そうな手つきで各地のモニタリング映像を展開した。それもそのはず。今はハイラル全土が暴走ガーディアンに手一杯で、ナボリスに英傑が集合できる余裕なんてあるはずがないのだ。

 

──水場に誘い込んでオレ達の有利な場所で戦うんだ!百年前の雪辱...今、ここで晴らすゾ!

──皆ボクに続くゴロ!ガーディアンなんて、頑丈なゴロン族の敵じゃないゴロ!

──地の利は空を飛べるオレたちにある!ヤツの弱点は眼だ!思う存分叩き潰せ!

──歩兵隊、前へ!わらわが来たからにはもう大丈夫じゃ。皆の者、慌てず訓練通りに!今こそゲルドの誇りを見せるのだ!

 

そこに映っていたのは、先人の意志を継ぐもの達による激しい抵抗の様子であった。

それは予てから準備されていたもの。百年前の戦禍を、繰り返さないために。

『...人間風情が。』

異界の地を甘く見たか、はたまた別の理由か。何れにせよ、今ハイラルを騒がせている諸悪の根源が劣勢に立たされていることは事実だった。

 

「──たった百年。私達にとって、それこそ瞬きする間より短い時間だ。」

ミファーの手を借り、私は立ち上がる。

「だが、その百年に...お前が嘲笑ったその刹那の時間に、お前は負けたんだ。」

 

いつの間にか瘴気も薄くなってきていた。どうやらリンクも外でやりたい放題やっている様子である。

ミファー、ダルケル、リーバルの三人の英傑も臨戦態勢をとる。

私は大きく深呼吸をした。

...一人では敵わないことは明らかだ。

 

でも、仲間と一緒なら。

 

静かに剣を握り直し、眼前の人類悪に刃先を向ける。

「覚悟しろターミナル。ここがお前の死地だ。」

 

終幕の時は近い。




ナボリス編も後半戦。戦闘の様相も激しさを増しております。
そういえば、NieR15周年のオケコンが決まりましたね!当選していることを切に願うばかりです。
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