NieR : Breath of the Automata 作:たまごの文字書き
前回でどうやら60話目だったようです。なんだかんだここまで来れたので、完結は目指したいと思います。
今回少し話が長いです。それでは。
人類に栄光あれ。
「覚悟しろターミナル。ここがお前の死地だ。」
刀の切先を仇敵の胸元へ向けて、私は静かに宣言する。
共に立つのは三人の英傑。その瞳には寸分の油断もなく、ただこの世界に仇なす者を冷たく見つめている迄である。
...いける。戦力差は十分。加えて私の義体はルーダニアの時から見れば大幅なアップデートが施されている。...人事は尽くした。
今ここで、必ずやつを仕留める。
『──クク。』
「...?」
『──ククク...ハハハハハハハハ!』
無機質な笑いの動作が、乾いた電脳空間内にしんと響く。
『嗚呼可笑しい。この程度で本当に私を追い詰めたつもりでいるとはな。』
──...え?──
一瞬。
ミファーが視界から消え、爆音とともに土煙が立ち上る。
「ミファーッ!!」
油断など、何処にもなかった。そんなことをする余裕すら無かった。
『仲間が気になるか?』
間近で注ぎ込まれる湿った声。少女の舌がれろりと私の耳の中をなぞり、私はその得体の知れないおぞましさに戦慄する。
「ふざけるな!」
乱暴に大剣を振り回し、その感覚を振り払うようにターミナルを遠ざける。奴は機械的な笑みを零して消えると再び上空に出現し、見下すように私達を嘲笑った。
『何人束になろうと、私には遠く及ばない。ガノンの尖兵すら倒せぬ雑魚に、一体何ができるというのだ?』
そう言って、再び消える。
『次は貴様だ。』
“ぐおッ──?!”
今度はダルケルの眼前に現れると、強烈なハイキックが彼の巨体を電子の壁に叩き付けた。
〈チィッ!〉
距離を取ったリーバルが矢の雨を降らせるが、ターミナルは予測済みと言わんばかりに軽々とそれらを躱す。
しかしそれらはあくまで囮。本当の狙いはその一瞬の死角をついたこの一撃であった。
〈悪いけど、貰ったよ!〉
リーバルは青白く光る弓に三本の矢をつがえると、ターミナルの背後から完璧な軌道で撃ち放つ。二つの矢が完全に逃げ道を無くし、残りのバクダン矢が奴の身体を粉々に──
『──同じ手が通じると思ったか?』
ターミナルは最後の一矢を右手で掴むと、まるで空間を捻じ曲げるかのように爆風ごと握り潰してしまった。
余った二つ矢が少女の頬を掠め、寂しい炸裂音と共に消える。
〈...バケモノが。〉
冷や汗を垂らす時間も与えずターミナルは肉薄し、リーバルの鳩尾に強烈な一撃を浴びせた。
三度目の轟音が鳴り響き、土煙が宙を舞う。
数分にも満たない、一方的な蹂躙だった。
『また一人、お前だけが生き残った。』
愉悦を噛み締める表情で、ターミナルは一人佇んでいるA2に話しかける。
彼女は自身の眼前で起きたことを未だに呑み込めていなかった。
一瞬で、仲間達が消された。また、一人になってしまった。
甘かった。私達に力をつける時間があったように、奴もまた成長していたのだ。それも私達以上の速度で。そんな簡単なことにも、バカな私は気がつけなかった。
...勝てない。仲間の力を借りても...奴には勝てないんだ。私が間違えたんだ。
勝手に倒せると息巻いて、仲間達を傷つけて...私のせいだ。
私だけが傷つけば良かったんだ。
最初から私だけで死ねば──
〈──あきら、めるなよ。ボクたちはまだ、闘えるぞ...〉
土煙の中から、声が聞こえる。
“...そうだぜ。俺たちはまだ、倒れちゃいねェ...”
もういい。そんな身体じゃ、もう何も。
──A2...まだ、終わってない...!──
もういい!私達は...!
『健気だな。...待っていろ、今トドメを刺してやる。』
「みんな、もういいんだ!早く逃げ──」
{──逃げるのはアンタさA2。そんなところにいたら、感電しちまうよ?}
『貴様──!?』
瞬間、強烈な閃光が視界を覆い、人工内耳を劈く爆音が私の義体を吹き飛した。
放たれた閃緑は喋る隙も与えずターミナルの頭蓋を直撃し、プスプスと銅線の焦げるくぐもった異臭が辺りを取り巻く。
どういうことだ。何が起こっている?これだけ強力な雷を降らせるなんて──
〈うまく...いったみたいだね。〉
“まったくだぜ...俺もヒヤヒヤしちまった。”
ハッとした私は、視界を上方向へ持ち上げる。そこには派手に立ち上る二つの煙と、破壊され役目を終えた趣味の悪い塔が、バツの悪そうな様子で佇んでいた。
「リーバルのバクダン矢...!」
──ウルボザ!百年ぶりだね...!──
ミファーの言葉に、私は確信を得る。コイツらは初めから...
{いいかいA2?ヒーローってのはね、遅れてやってくるモンなのさ。}
敵を欺くにはまず味方から。
...英傑ってのはまったく、食えない奴らばかりである。
──────
「協力しろ、だと?何を言い出すかと思えば──」
「──ビューラ様。」
敵意をむき出しにするビューラの言動を、パーヤが制す。
...彼女の言う通り、デボルに加勢する筋合いはこれっぽっちもない。それも先刻まで命のやり取りをしていたと来れば、尚更である。
...しかし状況が状況だ。ポポルの様子は明らかにおかしいし、脈動する禍々しい瘴気はさながら時限爆弾のようであった。
デボルの言うことは正しいのだろう。このままだとポポルの暴走によって、この辺り一帯は向こう何百年もの間誰も立ち入ることのできない死の大地と化す。生憎暴走アンドロイドの対処法なんてハイラルに住む私が知るわけ無いし、何より見るからに時間が無い。
「...貴女は妹を止められるのですか?」
私は努めて冷静に問う。
「...!も、勿論だ!頼むもう時間が──」
「──例えそれが彼女を殺すことになっても?」
デボルの動きが止まる。
二号さんの話ではこの双子、元の世界では迫害を受け続けていた身分らしい。心無い言葉を投げられ、言われのない暴力を受け続け...それでも自身の罪を懺悔し、悠久の時の流れを二人きりで支え合って生きてきた。彼女たちの関係は、私には到底理解できないほど深いものなのだろう。だが。
「貴女の要求は分かりました。ですが貴女は私達の『敵』です。協力を仰ぐなら、その信用に値する相応の覚悟を見せて頂きたい。」
共闘を持ちかけてくるあたり、デボルの脳内に打開策が無いわけでは無いらしい。だがそれも恐らく最悪の場合──と言うか想定される殆どのシチュエーションにおいて、彼女は妹を殺す決断を迫られるのだろう。
「もう一度言います。」
私には、その苦しみが痛いくらいよく分かる。
深く呼吸をして、私はデボルの瞳をじっと見つめて言った。
「貴女はポポルさんを殺すことができますか?」
永遠にも思える程重苦しい、刹那の沈黙。
最悪の選択を迫られたデボルの表情は見るに堪えないものであったが、それでも私は彼女から目を逸らさなかった。
「それは、できない。」
それが、デボルの出した結論だった。
「...交渉決裂のようですね。では──」
「──でも。」
彼女の言葉は、終わっていなかった。
「...アタシが全部助けてみせる。ポポルも、皆も。」
私を見つめる彼女の瞳は、眩しいくらいに澄んだものだった。
「アタシさ、気づいたんだ。今までお前たち達のことを『出来損ない』だのなんだの言って...本当の気持ちに蓋をして、記憶を追い求める自身の行いを正当化し続けていたんだ。この世界の人間はアタシ達の犯した罪を知らないから...その優しさに胡座をかいていた。私はただ、お前たちがくれる甘い蜜だけを醜く啜り、裏ではその優しさを壊す手伝いをしていた。だからさ、本当に出来損ないなのは、恩を仇で返し続けたアタシの方だったんだ。」
彼女は続ける。
「罪人の分際で、アタシには沢山の友ができてしまった。薄っぺらいアタシの感情に、この世界の皆は無償の愛で応えてくれた。そしてアタシは...守り続けたい沢山の笑顔を見た。」
彼女の瞳からはいつの間にか涙が零れ落ちていた。
「だから...アタシはどちらも救いたい。無茶苦茶言っているのは分かってる...我儘にしか聞こえないことも知っている...でも...一度だけでいい。怪しいと思ったら直ぐに斬り捨てて構わない。だから...だから頼む!アタシのことを信じてくれ...!」
私ハッとした。
たった一つの愛とこの世界を天秤にかけて──彼女はどちらも救う決断をした。例えそれがどれだけ無謀な賭けでも...彼女は最後まで足掻き続けるという選択をしたのだ。それはあの時、私にはできなかったことであり──そして今の私が、二号さんの隣に立ち続ける理由そのものだった。
彼女は、私と同じだ。
沈黙の果てに、私は静かに口を開いた。
「分かりました。」
「貴様!この女を信用する気か?」
ビューラは当然否定的だ。だが、私も折れる訳にはいかなかった。
「はい。どの道私達だけでこの状況を解決することは難しかった。事態を収束させ街の人達を守る為にも、彼女の助力は必要です。それに──」
私はビューラに向き直り、その力のこもった瞳を正面から見つめ返す。
「──感じるんです。これだけ強い意志があれば、きっと。」
私の思いを聞いて、ビューラが何を考えたのかは分からない。だが彼女は目を閉じて深くため息をつくと、呆れたと言わんばかりに肩を竦ませた。
「...全く。こんな小娘の勘に賭けるとは、私も鈍って来たのかもしれぬな。」
「ビューラ様...!」
「作戦を言え。まさか丸腰で突っ込めなんて言わんよな?」
得物の柄を握り直し、私たちはデボルの元へ集まる。
「みんな...ありがとう。...時間が無い。よく聞いてくれ。」
全ては、全てを救うために。
オケコン当たりました!!!やったーーー!!!