NieR : Breath of the Automata   作:たまごの文字書き

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いつも通り大変長らくお待たせいたしました。スパンもありましたので今回そこそこ長めです。それでは。
人類に栄光あれ。


双子人形の大喧嘩

「うウウ...コロす...ぜんぶ殺してやル...!」

 

ポポルの様子は限界に近かった。周囲にはいつの間にか紫色の瘴気が漂い、彼女のどす黒い負のエネルギーに呼応するかのように、ポポルの身体を覆い尽くす。かつてのミファーのように、ガノンの瘴気には心の暴走を助長させる力があるようだ。

 

「ああアアアああア゛アァ゛アアッ!!」

 

叫び声一つで、強力な衝撃波を生む。近づくだけで体組織をズタボロに破壊するそれに身体を抉られること数回、今はビューラが突き刺した大剣の陰に隠れてはいるが...どこかウタのようにも聞こえるその声を聞き続けていると、こちらも気が狂いそうになる。

「...本当に良いのですか?」

私は隣で機を見計らうデボルに声をかける。彼女の立てた作戦は確かに有効かもしれない。だが...それはあまりに危険な賭けだった。賛同した以上否定をするつもりは無いが、剣を支えるビューラの表情には、未だ幾許かの陰りが見え隠れする。

「心配するな。...アタシの妹だ、自分でケリをつける。それにもし、アタシがヘマをしたら──」

デボルは左手に忍ばせた私のクナイをくるりと器用に回すと、逆手に持ち直して視線を前方に向ける。

ポポルが叫びが止んだ。同時に、周囲の瘴気が少しだけ薄まる。

 

「──その時は、ポポルを殺してくれて構わない。...そういう約束だったろう?」

 

パーヤが顔を顰める間もなく、デボルはまるで演舞のようにさらりと影から掛け出すと、近くに転がっていた瓦礫を力強く砕いた。その音に反応し野生動物のような感覚反射で剣を振り回すポポルだが、デボルは慌てる様子もなく、瞬きの合間にするりと背後に回り込む。

だが、今のポポルに通常の戦闘技術は通用しない。口の端から獣のように唾液を垂らす彼女は敏感に姉の気配を察知すると、そのままの姿勢でぐるりと首だけを回し、振り下ろされるクナイをがちりとその白く美しい牙で受け止めた。

「アハハはハ!デボルぅ...楽シイねェ!」

先端が浅く喉の奥を切り裂き口内からごぼごぼと人工血液が流れるが、ポポルがそれを気にする様子は全く無い。膠着した戦況も束の間、彼女包んでいた瘴気がぶわりと霧散し、顎門のようにデボルに襲いかかった。

「パーヤ、今だ!」

「はい!」

背面のデボルに執着している分、正面が手薄になっている。どす黒い瘴気がデボルの肌に触れる直前、私はポポルの胸元にばしりと青の札を貼り付けた。頭上に青白い紋様が浮かび、「印」の設置が完了した。...だが。

「ッ...!デボルさん!」

間に合わない。瘴気は既にデボルの視界を埋め尽くし、ポポルの姿を完全に覆い隠していた。

 

「こンの...バカヤロォォオッ!」

 

デボルは大声をあげると、自身を省みることなくもう片方の腕を瘴気の壁にずぶりと突っ込み、予め隠していたもうひとつのクナイをポポルの身体に深々と突き刺した。

 

「アアあアあぁァアアアアアッ!」

 

喉から血が出そうなほど悲痛な叫びが、部屋中に響き渡る。

「ぐあっ...」

「チィッ!」

パーヤとデボルはその衝撃に耐えきれず、強烈な勢いで吹き飛ばされる。

まずい。このままでは外へ──

「──任せなァ!」

飛ばされた先でビューラが腰を低く構え、その強靭な肉体でガッチリと二人を受け止めた。

「アタシが指示したとはいえお前...人間とアンドロイドをまとめて抱きかかえるなんて、どんな馬鹿力だよ...」

「フン。この程度、ゲルドの戦士には朝飯前よ。だが──」

誇りに満ちた表情で軽くあしらうビューラだったが、無理を押したデボルの痛々しい様子には流石に顔を顰めざるを得なかった。

「...これくらい、なんてことはないさ。」

瘴気に触れたデボルの左腕は、焦げ臭い臭いと共にぐずぐずと爛れ落ち、内部の金属骨格が痛々しく露出していた。だが、事態はそれを気に出来るほどの余裕を持ち合わせてはいない。

 

「むしろここからが、踏ん張り時だろう?」

瞬間、ポポルの身体が石のように硬直する。その胸に突き刺さったクナイが青白い光を強烈に放ち、彼女の赤黒い負の力を吸い出し始めた。

「デぼルぅ...アァあああ゙アッ!」

薄暗い赤と青が混沌とするその光は吸い込まれるようにこちらへと延び、デボルの心臓部にずぶりと突き刺さる。

「ぐあッ...」

その正体は、ポポルの中で作り出された純粋な「悪意」。人を怨み、世界をも滅ぼさんとする狂気の思念がどろどろとデボルに流れ込み、ぼろぼろの義体を更に赤黒く腐食させていく。

「デボルさん!」

 

「触るなッ...!」

想像もつかない激痛の中、デボルは鋼の意志で意識を保ち、自身の義体に手を当てて暖かな光を作り出した。

「これは...」

 

「...アタシ達デボル、ポポル型アンドロイドには...治癒能力が、備わっているんだ。これの、おかげで向こうでも何とか...戦闘員扱いぐらい、までは...して貰えてた。」

その光は体内を侵食する怨念を一瞬で浄化し、さらさらと乾いた砂塵へと変えていく。

「『作戦通り』...ですが...」

パーヤの秘術でポポルの魔力を吸収し、その憎悪をデボルが全て浄化して受け止めきる。それが彼女の立てた作戦だった。しかし。

「くそッ」

2人を繋ぐ紫色の光が、段々と赤黒く染まっていく。拮抗が崩れてきていた。

 

「妹が悪いことしたら...アタシが何とかしないとだよなァ...」

デボルが吐血する。いくら治癒能力があったとしても、ポポルの怨念による汚染度は圧倒的だった。

微かにポポルの指先が動き始めている。拘束が解けるのも時間の問題だ。

分かっていた。あんな大それたことを言ってはみたが、変えられない運命があることは、自分が一番よく知っていた。

 

「ごめんなぁ...ポポル...助けて...やれなくて...」

再び血を吐き、とうとう床に膝を着く。デボルは自らの限界が近いことを悟ると、再び自身の三式戦術刀に手を添える。

アタシの負けだ。妹を、救えなかった。だがせめて──せめて最期だけは、私の手で...

「ぐゥ...ァ...アア...ッ!」

ばきばきと音を立て、とうとうポポルの義体が動き始めた。

刀を支えに立ち上がり、パーヤと視線が交わす。

 

お前は...後悔するなよ。

 

思いが伝わったのか、彼女一度大きく頷くと、デボルの後方へ瞬時に退却した。

そうだ。それでいい。あとは私が──

その時だった。

 

ぼろぼろの義体の脇からするりと両腕が伸び、赤黒く染まった光の綱をがっちりと掴んだ。

 

パーヤの腕だった。

 

「馬鹿野郎!お前何して──」

 

「──全部救うんでしょうがッ!」

 

デボルの制止を振り払い、パーヤはその綱を鞭のようにポポルの身体に縛り付け、再び拘束した。

「ガ...アァア...!!」

「させるか!」

怒り狂うポポルを、今度はビューラが羽交い締めにして離さない。怨念に触れた肌がぐつぐつと汚染されていくが、二人はそんなことに目もくれなかった。

「どう、して...」

デボルは唖然としていた。ポポルの拘束が達成され、デボルに事態を収束させる力が足りないと分かった以上、二人に協力するメリットはどこにもないのだ。なのに──

「──約束でしょう!私は...わたくしは、貴方の思いに賭けたんですから...!」

「──何を弱気になっているのだ...!勝手に降りられると、思うなよッ!」

 

ハッとした。そうだ。この二人は初めから──

「...ハハッ。」

デボルの光が少しずつ強まる。それは思いに応えるかのように。

 

「すまない。アタシらしくなかった。」

デボルが立ち上がる。もうその瞳に、諦めの二文字は映らない。

二つの覇気がばりばりとこの玉座の間を満たし、互いの力は再び平行線となった。

 

「...さあ、姉妹喧嘩と行こうじゃないかッ!」

 

──────

 

「お前が...ウルボザ?」

{全く、化け物でも見たって顔だねぇ。A2。そんなことより──}

ウルボザは再びその「影」に強烈な雷を浴びせる。しかし、今度は効いている様子はなく、煙幕の中に佇む「ソレ」は、もはや怒りを抑えることをしなかった。

 

『今のは──痛かった。』

 

「ッ...!」

殺気。

{アタシの撃てる最大出力だったんだが...いい目覚ましになったってところか。}

“へッ、冗談キツいぜ、ウルボザよぉ...”

ダルケルが守護陣を展開し、皆を護る体勢をとる。奴の次の一撃が、ここにいる誰かを──いや、もはや全員をこの世界から消滅させる力を持つことを、彼は本能で察知していた。

 

だがその一撃はついぞ放たれることはなく、ターミナルはゆっくりと背を向けた。

 

一瞬の沈黙。

「...どういうことだ?」

 

『怒り...憎悪。この感情は興味深い。明確に人を強くする、直接的な感情だ。だが──』

 

煙幕が晴れた直後、ターミナルは不自然な動きで身体を反らした。

 

『──それは瞬間的なものでしかない...特に、このような状況に於いてはな。』

 

▶ ︎ゼァッ!!

 

虚空を割くように、リンクの強烈な一撃がその場を容赦なく破壊する。

しかしそれは既に奴に予見されており、その不自然な姿勢によって髪の毛一本の距離で綺麗に回避されていた。

──リンク!──

彼がこちらに来たということは、同時に外──ナボリス内──での戦いが終わったことを意味する。辺りの瘴気も消滅し、カースガノンが敗れ去ったことは明白だった。

〈これで六対一。モチロン、アンタの「乗っ取り」も警戒済みだからね。ここにいる連中は、「誰かを犠牲にできる」人間だ。〉

リーバルが上空からターミナルに警告する。

 

『フン...嘘では無いようだな。流石は死に損ない、恐怖が感じられない。』

やれやれと言うように、ターミナルは肩をすくめる。いつの間にか、ウルボザの雷による傷は跡形もなく消滅していた。

『今回はここで手引きにしよう。「目的」は既に達成されている。』

{そんな簡単に逃がすと思うかい?ここはアタシのテリトリーさ。無粋な奴は生かしちゃおけない──}

 

 

『──面倒をかけるな。』

 

 

再び放たれる強烈な殺気。

先程までとは比べ物にならない鮮烈な「死」のイメージは、ここにいる全員の足を釘付けにするには十分だった。これだけ作り上げてきた自分達の優位性も、奴の思念ひとつで簡単に崩せてしまうのか。

ターミナルの姿がデータの霧となって消えていく。だが、誰も手を出せない。

 

『また逢おう、A2。次が──最後になるかもしれないな。』

 

そう言ってにやりと笑うと、奴はこの空間から綺麗さっぱり消滅した。

呼吸を忘れていた全員が、無意識に滲んだ額の汗にようやく気がつく。

「ターミナル...お前は...」

 

勝利の余韻など、どこにもありはしかった。




オケコンチケットとパンフが届きまして、大変満足しております。NieRシリーズももう15周年か...とても楽しみですね。
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