NieR : Breath of the Automata   作:たまごの文字書き

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新年明けましておめでとうございます。実は蒸発しておりませんでしたわたくしでございます。お待たせしたというレベルでは無いほど間が空きましたが、次話の投稿となります。
また空き過ぎないように不定期投稿していくつもりですので、本年も何卒よろしくお願い申し上げます。それでは。
人類に栄光あれ。


人形の記憶

~絶望~

 

雨。いつにも増して冷たく、苦しい。

小さな雑木林の中を、青年は姫君の手を引き走る。

ぼろぼろの姿で、何も出来ないままで。

荒い息だけが葉露に響く。刹那、姫君の足が縺れ、ぬかるんだ地面にべしゃりと倒れた。

青年は振り返る。無理もない。一体どれだけの距離を、彼らは走り続けていたのだろうか。

姫君の弱々しい声が、静かに雨音に交じる。

「どうして.....」

青年は退魔の剣を鞘へ仕舞い、彼女の側へぎこちなく寄った。

「どうしてこんな時に.....」

膝をつき、姫君と視線を合わせる。彼にできることなどそれくらいのものだった。

「神獣が.....ガーディアンが.....」

空は墨のように黒い。

「私達を襲うなんて...」

古代の遺物。「出来損ないの姫君」の、最後の希望。

「厄災に.....ガノンに奪われるなんて.....」

彼女に成し得ることは、何も無かった。

「ダルケルも、リーバルもミファーも.....ウルボザも...もうきっと神獣の中で.....」

彼女の脳裏に、彼らの最期がよぎる。水の有利を奪われ、その胸を貫かれるゾーラの姫、絶対防御を破壊され、巨剣に叩き潰されるゴロンの頭領、自慢の羽根を失い、光線に焼かれるリトの戦士、誇りである雷に撃たれ、宙を舞うゲルドの長.....

最悪の想定。誰もが予想だにしなかった。

姫君の瞳に涙が浮かぶ。皮肉にも、もうその姿に眉を顰める者などこの世界のどこにもいなかった。

「私のせいです!封印の力に目覚められず.....ガノンに立ち向かう筈の遺物達まで奪われ.....」

顔を覆い、姫君は絶望に沈む。

「私が.....私が今までして来た事は.....」

推し量れる者など、誰も居はしない。

 

「何の役にも立たなかった.....」

 

見上げども、曇天。

 

「だから大切な人達を!!...民を.....仲間を.....御父様を.....」

 

「死なせてしまった.....」

縋るものすらも、奪われた。

「やっぱり.....私は.....う、うあ.......うあああああ.....ッ!」

まるで自身を罰して欲しいとでも言うように、姫君は青年の胸にしがみつく。

その身に課された使命を達成できなかった苦しみと、それにより多くの人々を死なせてしまった後悔。責めてものと注いできた遺物への尽力の成果も、今では各地で民を殺して回っている。

 

たった一人世界を背負わされた彼女は、遂には何もなし得なかった。

 

そして、それを咎める者もまた、誰も居はしなかった。

 

.......。

 

十六歳の、少女の叫びがこだまする。

何を、言えばいいのか。

 

心を殺し続けた青年はただ、泣き崩れる姫君のそばにいてやることしかできなかった。

 

これは、在りし日の彼の記憶...

 

──────

 

戦況は硬直していた。パーヤとビューラの助けもあり、暴走するポポルを何とか拘束することに成功してはいるが...その束縛はあまりに不安定で、指先一つで軽々と崩れてしまいそうな何とも頼りないものだった。

「おいデボル!まだなのか...!?」

「もう少しだ...!二人とも、耐えてくれぇ...!」

ビューラの問いかけに、デボルが絞り出すように叫ぶ。ゲルド族の強靭な肉体を持つ彼女は瘴気に幾許か耐性があるらしく、常人ならば疾っくに骨だけになっているはずの怨嗟の呪いに、持ち前の気合いと根性だけで対抗していた。

「...ぐぅうう...!」

しかし、シーカー族はその限りでは無い。パーヤの両腕は共に肘から下が真っ黒に変色しており、皮膚はところどころ爛れ、見えては行けない部分が生々しく露出している。これ以上の腐食を避けるため引きちぎった服の切れ端で上腕を硬く縛ってはいるが、そんな努力の甲斐もなく、瘴気の禍はじわじわとその腕を喰らい尽くしていった。

「この程度...フロドラの雷に比べれば...!」

歯を食いしばって、激痛に耐える。最早なぜ力が入るのかも分からないようなグロテスクな両腕を押して、パーヤは決死の覚悟で光の綱を握りしめていた。

 

「アア...あアあああアアア...デボ...ル...でぼルゥ...」

他方、死力を尽くしている甲斐あって、ポポルを取り巻く瘴気は確実に少なくなっていた。先程までの暴走具合とは違い、今は頭を抱えてぶつぶつと姉の名を呟くばかりである。

 

「あと一押し...!いける...!」

デボルの顔に幾許かの余裕が浮かぶ。胸に突き刺さる光の綱も青白い色が深みを帯びており、瘴気に押し勝てていることは明白だった。

もう少し。あと少しで、ポポルを救うことができる。

 

「うおおおおッ!!踏ん...張れェエエ!」

 

紛れもない勝利の兆しが、すぐそこまで迫っていた──

 

──筈だった。

 

 

ぐしゃり。

 

 

「え?」

 

鈍い音だった。

 

刹那、デボルの視界が、なにか大きな物体に遮られる。

「なっ──」

 

黒色に埋もれた、人間の腕。

パーヤの左腕が、ちぎれ飛んでいた。

 

光の綱が制御を失い、瞬く間に赤黒い力に呑み込まれる。

玉座の間には水を得た魚のように再び瘴気が満ち、ポポルの身体を覆い尽くそうとしていた。

 

「パー、ヤ...?」

 

ありもしない静寂。

耳の奥がつんと痛む。

全てが静止した世界の中で、デボルの瞳はその絶望を静かに焼き付けていた。

恐怖に気圧されるように、デボルは背後を振り向い──

 

「──行ってッ!!」

 

声の限り叫ぶ声が、彼女を暗闇から引きずり出す。

 

無くした左腕をそのまま叩きつけるようにして、パーヤはデボルの背部を力の限り殴打した。

 

「なッ?!」

空っぽの肺に鞭を打ち、風の加護をその背中に叩き込む。瞬間、デボルの身体はポポル目掛けて矢のように飛び出した。

 

「ポポル...さんを...!」

 

なぜ、そこまで。しかしそんなことは後で考えろと、彼女の視線は驚く程に真っ直ぐだった。

 

「...ッ!...おぉぉおおおおお!!!」

デボルは前を向いた。闇に包まれゆく妹目掛けて、疾風の如く駆け抜けた。

「...!アアああああアアあァァア!」

ポポルの感情に呼応するように、赤黒い瘴気が最後の反撃をする。

だが狂気に血走ったその瞳には、今にも溢れそうな大粒の涙も同時に浮かんでいた。

意識が元に戻ってきている。

最後のチャンス。

襲い来る魔の波を、絹のように滑らかに躱す。

顔と顔が触れ合うその距離まで肉薄。

 

そしてとうとう、デボルはその手に覚悟を握りしめた。

 

「デボル...............死んじゃイヤ...」

 

妹の瞳は虚構を見つめていた。アタシの知らない、知ってはいけない未来のことを。

記憶の残滓は鮮明な形を帯びて、私の虚無を埋めていく。

 

「君とは、戦いたくなかったよ。」

「...本当に...戦いたくなかった...」

 

言葉が溢れてくる。アタシじゃないアタシの心が染み渡り、ポポルの心の深淵を覗かせる。

 

「一人で生きるには...この世界は寂しすぎるんだ。...時間が多すぎるんだ。」

 

深い、深い絶望と共に、アタシの死を記した最後の記憶が完成する。

人類は滅びた。たった一人の妹の為に、   は世界を滅ぼした。

 

アタシ達の罪だ。そしてその罪は永劫に消えることは無く、その意味も見いだせず、アタシたちはただ、絶望の螺旋に囚われ続けた。

 

「...でもな。」

 

でも。そんな世界でも、何かがある。ここに来て気づいた。いや、来る前から気づいていた。どんなに絶望しても、どんなに苦しくても...彼らは、生きていた。

 

「なあ、ポポル。」

 

彼らは生きていたんだ。どんなに苦しくても、どんなに打ちのめされても...何にも縋れず、祈りすらも届かない厄災の日を経ても...彼らは、生きていたんだ。

 

「あの時、アタシたちは守れなかった。」

 

そして...今も戦っているんだ。人間の身でありながら、絶望と怨念に蝕まれ続けながら──そしてその姿は何よりも強く、何よりも美しく...何よりも、儚かった。

 

「...守れなかったんだ。」

計画も、人類も...   のことも。

 

「デボル...?」

ポポルが顔を上げる。呪いに瞳を侵食されながらも、その目は確かにアタシの瞳を捉えていた。

 

「でも今は違う。全部思い出した。全部、分かった。」

心が震える。空っぽの魂に、熱い火が点る。

 

「...貴方も見たでしょう?私達が何をして...どうなったのかを。」

デボルは知っていたんだ、私よりも先に。そしてその深すぎる絶望に呑み込まれ、息ができずにいたんだ。

「そうかもしれない。でもやるんだ。ハイラルも、A2も...そして、『彼』も。全部守るんだ。それで、それで今度こそ──」

 

視界を覆う真っ黒な世界の中、デボルは力いっぱい、ポポルの身体を抱きしめた。

 

 

 

「──今度こそ、帰ろう。」

 

 

 

──────

 




実は少しだけ書き溜めをしていた分遅くなっているのもありまして...言い訳でしかないのですが。
そのせいかピアノコンサートが全く当たらず昇天でございます。
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