ヤバいトレーナー達の日常集   作:ヘリオス待ちの一般トレーナー

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宴会芸は腹切に限る

 

「そんじゃ! 今年も新年度を迎えたってことで!」

 

「「「かんぱーい!」」」

 

 ガシャン! とジョッキが音を立てる。

 

 今日は中央トレセン学園恒例の新年度食事会。と言っても公的なものではなく、理事長やたづなさんなど重鎮は居ないただの飲み会であり、店も普通の鳥貴族である。

 

「店員さーん! 中ジョッキ三つ追加で!」

 

「ちょっ姐さんペース早すぎですよ!?」

 

「っさいなぁ。せっかくの飲み会なんだから飲まなきゃ損だっつの。あと頼んだのは全部アタシのだかんね?」

 

「カレンチャンに怒られますよ……」

 

「うっさいクソボケ。アンタはファル子の気持ちに早く応えてあげな」

 

「? はい」

 

「絶対わかってないでしょ。はぁ……ファル子も何でこんなクソボケを……っぷは! 店員さーん! 中ジョッキ三つ!」

 

「そろそろ本当に肝臓ぶっ壊しますよ!?」

 

 下座でいつもの軽口を叩き合う二人。クソボケと呼ばれる男は赤鬼とも呼ばれるスマートファルコンのトレーナーであり、浴びるようにビールを流し込む女はカレンチャンのトレーナーの片割れ。彼女はある日カワイイカレンチャンに耐えられなくなったある男の煩悩部分の分裂体ではあるが、それはさておく。

 

「そういや沖野は? スピカの勧誘メソッドとか訊きたかったんだけど」

 

「ああ、沖野さんはまたライトハローさんと食事に行ってますよ。サイレンススズカが凄い顔をしてました」

 

「やば、想像したらウケる。ハローちゃん肉食系だしなぁ……。んで相手はあの女好きでしょ? こりゃヤるのも時間の問題ね」

 

「まあ沖野さんはああ見えてかなりのやり手ですから……。僕らは一人担当するってだけでも精一杯なのに」

 

「お花ちゃんとか理子ちゃんなんてえぐいもんね」

 

「あと複数人を担当していて凄い人と言えば……、南坂ですかね?」

 

「そういやアイツもどこ行ったの」

 

 南坂とはカノープスを率いる若手のトレーナーのことだ。彼はこういった場の付き合いは悪くなかったはずだが、どうにも彼の姿はこの場にない。

 

「……聞きます?」

 

「何。また何かあったの?」

 

「……他言無用でお願いしますね」

 

「良いからはよ喋んな」

 

「……誘いに行ったんですけど、アイツその時ファインモーション殿下のSPに特尉って呼ばれてまして……」

 

「うわぁ……。そういや前はURAのお偉いさんに中佐って呼ばれてたわよね……」

 

「呼ばれてませんよ」

 

「「うわぁ!?!?!?」」

 

 突然聞こえるはずのない声がして二人して飛び退く。恐る恐る振り返ると、そこにはわざとらしいまでの笑顔を張りつけた南坂が二人の後ろに立っていた。

 

「すみません。野暮用で遅れました」

 

「み、南坂……」

 

「カレンチャンさんから伝言です。『飲み過ぎていたらカワイイの刑ね?』と」

 

「アンタ声真似上手っ!? 気持ち悪っ!?」

 

「ということでこのビール達は僕が没収しますね」

 

 そう言うなり南坂は所狭しと並べられた中ジョッキのビールをゴクゴクと飲み干していく。

 

「南坂!? 姐さんじゃないんだからそんなに飲んだら……!」

 

「大丈夫ですよ。僕はいくら飲んでも酔わないように訓練されているので」

 

「……お前、最近隠さなくなってきたよな……」

 

「さあ? 何のことでしょう?」

 

 これ以上は詮索するな。言外にそう伝えられた気がしたクソボケはぐっと押し黙る。平凡な人生を送ってきた彼にとって非日常の塊である南坂は後輩と言えど恐怖の対象でしかなく、そうする他なかった。

 

 ようやく腰を下ろした南坂は、いつもの笑顔で口を開く。

 

「そう言えばお酒のツマミにゴシップを集めてきましたよ。どなたのものを聞きたいですか?」

 

「誰言っても返ってきそうだな……」

 

「はいはい! 沖野とハローちゃん!」

 

「彼女はご飯に行かずに直帰されていましたよ」

 

「えっ!? 何で!?」

 

「サイレンススズカさんが『私の方が速いですよ』と言ってぐるぐる左回りをしていまして」

 

「「ああ……」」

 

「まあ沖野さんは満足したサイレンススズカさんが帰るなりたづなさんとバーに向かわれましたが」

 

「「ああ……」」

 

 クソボケとはまた異なるクソボケっぷりに二人は納得の声を漏らす。と言ってもたづなさんが相手であればまた勧誘でもしているのだろう。そんな二人の推測は当たっており。

 

(……幻のウマ娘、トキノミノル。まさかとは思いましたが……、やはり彼の目は侮れないということですね)

 

 これ以上は野暮だと南坂は思考を打ち切る。探ったのは自分ではあるが、それはそれとして本当に隠さなければならない問題に関しては人並み以上のリテラシーを発揮するのだ。

 

 まあ話しても何の問題がないと感じればペラペラ話すが、それもまた彼の隠す素性に基づく言わば〝情報強者〟としての哲学。

 

「にしてもあっちはまた凄い盛り上がりですね。あっ、またグラトレが士道不覚後なんて言って腹を切ってますね」

 

「また? 店員さんに迷惑かけんじゃないわよあの男」

 

「何で二人はそんなに平然としていられるんですか!? 切腹ですよ!?」

 

「いつものことでしょ」

 

「それがまずいんじゃないですか!?」

 

 そう心配しながらもそちらへ向かう様子は特にないクソボケ。彼もまた中央トレーナーの異常性に染ってきている。

 

 男連中で盛りあがっているクソボケ達とは反対側のテーブルは、異様な光景だった。

 

「だっははは! コイツまた腹切ったぞ! ニシトレ! 介錯してやれ!」

 

「い、嫌ですよぉ! そんなことしたら死んじゃいますって!」

 

「アロンアルファ付けときゃ治る治る! いけ!」

 

「来い……ニシトレ……!」

 

「何で本人も乗り気なんですか!?」

 

 無茶振りされるニシトレと呼ばれた彼はニシノフラワーを担当することになった小柄な新任トレーナー。腹を切った男はグラスワンダーを担当するこれまた若手のトレーナーであり、爆笑しながら介錯を強要する彼はサクラバクシンオーのトレーナーである。

 

「良いかニシトレ。……介錯ってのは相手を尊敬するからこそ出来る、言わば一生に一度だけ訪れる一大イベントなんだ。その役目を、アイツはお前に託した」

 

「グラトレさんが……僕に……?」

 

「ああ! お前はその覚悟を踏みにじるのか?」

 

「……いえ」

 

「男ならデケェ声で宣言してやれ!」

 

「僕は! 彼の首を斬り落とします!!!」

 

「だっははは! よく言ったニシトレェ!」

 

「コラ。あんまり後輩をからかうんじゃありませんよ」

 

「ンだよ南坂ァ。こっからが面白いんじゃねェか」

 

「はっ!? ぼ、僕またからかわれていたんですか!?」

 

「少しは人を疑うことを覚えましょうね。……ましてこの男のことは」

 

 どこからともなく取り出した刀を抱えながらニシトレはあわあわと焦り出す。止めたのは南坂であり、バクトレは悪どい笑みを浮かべながら彼へ穏やかでは無い視線を向けていた。

 

「てめえは変わんねェな? またオレをしょっぴくか?」

 

「今更小悪党に用はありませんよ」

 

「そうやって舐めてかかった結果が大統領暗殺ってのは笑えねェな」

 

「……詐欺師風情が調子に乗らないでくださいね」

 

「権力の犬にトレーナー業は荷が重いんじゃねェのか? そういうのは担当にG1を勝たせてやってから言いやがれ」

 

「ちょっ、それは禁止カードでしょう!!! 彼女達だって一生懸命頑張っているんです! 大体あなたはサクラバクシンオーさんの望みである全距離制覇を適当な嘘八百で騙して……!」

 

「その結果スプリンターズステークス連覇だぜ? アイツの全距離制覇はここからなんだよバーカ」

 

「……やはりここで殺しますか。ニシトレさん、刀を」

 

「えっ? えっ!?」

 

「ニシトレ。拳銃(チャカ)渡せ」

 

「嫌ですよぉ!」

 

 持ってること自体は否定しないニシトレ。そんな非日常をチラチラ覗き見るスマートファルコン担当のクソボケは、身体をガクガクと震わせながら。

 

「……と、トレーナーになったの……間違いだったかなぁ……」

 

 阿鼻叫喚の飲み会に、本気で進路を後悔しているようだった。

 

 





あらすじでも書きましたが、この作品では書く上で一番都合の良い設定にしてますので、この世界線のグラスワンダーはお花さんではなく不死身の男に担当されています。
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