異世界平定戦記 ~元陰陽師は奇妙な縁から戦場を駆ける~ 作:きつねさん
無線機から流れている報告は悲惨の一言だった。とはいっても悲惨な状況なのは相手方の甲冑を着た連中ばかりで、こちらの損害は誤射による戦闘不能か負傷の報告くらいしかなく、反撃されたことによる損害はない。これが力の差かと思いながら目の前に表示されている偵察機による野戦モニターへの中継を眺めていた。
『こちらファング2!敵軍右翼の騎兵隊を一掃した!引き続き前線を食い破る!各車、投石機による攻撃に注意しろよ!アレだけの質量は受け止めきれないからな!』
『同じくファング3及び1。無線系統の故障で指揮を引き継いでいるものの、敵部隊の損害大。航空戦力はそのまま上空のドラゴンを始末してほしい』
『無茶言わないでよ!近接航空支援が主だと思ってたから対空武装が少ないの!あ、そっちのほうに二匹逃した!どうせこちらが優勢なんだから徹底的に叩き落して!少しでも数を減らすのよ!』
「・・・・・・優勢みたいだね、タチバナ君。このまま殲滅まで秒読みと言ったところか?」
「まだですよ、ロットマイヤー参謀。そちらの注文では相手方の戦力の8割を消失させる目論見でしょう?いくらうちの子たちと言っても無理がありますよ。ただでさえ関係ない連中も紛れているというのに連中の頭数はこちらの10倍以上なんですから」
それもあくまでも戦闘員だけで、後方待機の連中を含めたらさらに数は増えるだろう。何しろ今回の戦いはこちらの存在を認知し始めた”神性対象《イレギュラー》”。平たく言えば神と呼ばれる連中がこの世界にいるニンゲンに呼びかけて連合を作り上げているのだ。が、彼らはまだ現代兵器の火力というものを知らない。それも、異世界からの技術を用いて本来の技術水準を超えた技術を。
「ふむ。そうだな。今回は短い歴史の中でも3番目に該当するであろう大規模な武力衝突だ。もっとも、別のところも似たようなことをやっていれば多少順番が後ろになるかもしれないがね」
そういって高笑いをするロットマイヤーを横目で見ながら俺の副官兼秘書のようなことをやっているゼロに用意してもらったコーヒーを飲む。今回の戦闘では増援もそれなりに来てくれたが、そのどれもが異世界での戦闘を経験していない連中だ。相手の先手をくじいてこちらが主導権を握ることができたが、ここから先がどうなるかわからない。なにしろ向こうには文字通りの神がついているのだから。
「偵察機より入電。敵戦線の後方にてM型らしき装備を構えた集団を捕捉。ですが・・・ん、スカイアイ3、6,8消失!ドローンを見破られたようです!」
「そらみたことか。後方の特務に連絡。大物がやってきたぞ。前線の航空隊も含めた全戦力はいったん戦線を整理しろ。どうせこちらの損害なんてほぼないんだから下がった方がいいんだからな」
ゼロもすぐに支度にかかってくれるようだ。そこらへんに神殿やら祭壇やらを立てさせている割に表立って動きがなかったから厄介なタイプなのかと思ったが、どうやらそこまで脅威に思うことはなかったらしい。もっとほかの戦力を集めてから向かってくるかと思ったがと思いながら唖然とした目で次々と落とされていく子機を尻目に逃げの一手の偵察機たちを眺めていた。
「お、おい!このままでいいのか!あれはどう見たってエンジェルだ!とっとと迎撃の戦闘機を上げろ!でないとあの矢であっという間に地上の連中も串刺しにされるぞ!」
「ええわかっています。別のPMCであるならそういう手段もとったでしょう。ですが我々はそういった手段は使わない。異世界の技術を用いて作られた兵器がどれほどのものか見せてやりましょう。ゼロ、俺のスーツは用意できているんだよな?」
「私たちのリーダーがそんなことをしてほしくないんだけどね・・・・・・やるからには完璧にやり遂げるが信条なんだからできてるに決まってる。装備はアルファパックでいいんだよね?」
「まだ素性がつかめないが、たぶん飛行型が多いだろうからな。戦線も整理しているだろうし、降下力のものを持って行っても仕方がない。だが相手は遠近両方に対処してくるだろう。だからこちらもそれに応じた装備を整える・・・悪い、間違ったことがあったなら訂正してくれ。まだ自分が指揮官の器であるとは思ってないから心配なんだ」
ロットマイヤー参謀からは驚くような顔で、ゼロから呆れたような反応を受ける。PMCとして正式に成立してから半年。もともと趣味で戦略系ゲームや本を読み漁り、暇さえあれば戦記物の映画を見る。それが陰陽師としての自分の人生だろうと疑ってやまなかったが、まさか時代はこんな方向に動くことになるとは考えもしなかった。本当に人生はどの方向に向かうことになるかわからないなと思いながら後の士気は頼みますともう一方の参謀に伝えた。
「わかりました主様。ロットマイヤー参謀、あなたからも意見をもらいたいです。もし主様が戦闘中に敵が動き出したらどうしますか?今のところ膠着している状況ですが、もし数の有利を生かした突撃がくればいくら戦車であっても圧倒されてしまうかもしれません。現代の戦術を理解していない我々に教えていただきたい」
「む、そ、そうか?そうだな、私自身もこういった戦闘は初ではあるが、そうだな・・・・・」
「・・・・・・ふっ。若いやつには逆らえないってことか?ま、そんなことはどうだっていい。ちゃんとみんなで家に帰り、そして報酬を手に入れる。俺にできることはそれくらいだからな」
なんてことをゼロに言いながら格納庫へと向かっていく。まだ上の連中は撤退している最中だろうし、そこを襲われればひとたまりもない。これが最善になると信じて俺は走っていった。
20ⅩⅩ年。表立った国家間の戦争はほぼ終わりを告げた。世界的な資源の危機と天候の不安定さは国連を通して何度も議題に上がり、結果的に過去を水に流し、未来へと手をつないで歩んでいくという方向にかじ取りをした世界は、一部の狂った人間によるテロリズム以外の国を跨いだ戦争は終わり、代わりに残ったのは協調に耐えられない国を嘆いた連中によって起こさせる紛争だった。
当然、そういったことは体力の短い後進国のような様々な面で成熟が進んでいない国家がほとんどで、軍を動かそうにも内戦による混乱やそれの飛び火によって自国に被害が出ることを恐れた先進国は、それぞれの間に課せられた目標を達成しなければいけないことも手伝い、ほとんどの場合で介入することはなかった。
そうした国々の戦乱をおさめるようになるのは、民間軍事会社、すなわちPMCの働きが大きなものを示すようになった。国家間のしがらみにとらわれず、自分たちの利益のために仕事を欲する彼らが結果的に国をまとめ、一つの方向に向かって進めるように進んでいく。だが、そんな彼らも仕事が終われば用済みとなって消されるものも多くあり、複数の国をまたがって支社を置く規模のものであっても明日がどうなるかわからないような生活を強いられている。そういった者たちによってその年に起きたことは奇跡に等しいことだとその当事者たちは口を揃えるほどの出来事が起こるまではそうなるのも無理はなかった。
ある年を境に起きていた各地に起こる怪事件。科学者たちは口をそろえて妙なことが起きていると言い、陰謀家たちがPMCの混乱を招くための流言飛語だとわめいているさなかに”それ”は起きた。
突如として世界各地に発生する空間異常。そこからどこからともなく出現した未知の装備を身に着けた者たちによる襲撃により、世界中が混乱の渦に飲み込まれた。アメリカでは事件を受けて非常放送のレベルを一日に何度も入れ替え、ヨーロッパ各地では中世を彷彿とさせる略奪が起こり、中国では異民族の反乱だという噂によって多くの犠牲者を出す。そんな中でも混乱する状況に惑わされずに整然とした対応ができた正規軍がどれほどいたのかは混乱が収まってきた現在においても判明していない。何しろ空間異常・・・以下ゲートから出現した者たちは、まるでゲームの中からそのまま表れたのではないかと思えるようなドラゴンやゴブリン、オークといったモンスターたちなのだから。それで混乱しない方がおかしいと言われていたが、決してそういったことに惑わされない集団が世界各地に点在していた。PMCである。
ほとんど実戦を経験することがなかった正規軍とは違い、PMCはいずれ訪れるであろう混乱する世の中を制御するための会議を秘密裏に行っていた。それが自分たちの利益になると信じて競合相手とも手を結ぶ契約は、この『ゲート発生事変』を境にして完全に締結され、彼らは”民間軍事連合”。PMUを名乗り、混乱した各地の街を開放することに力を注いでいく。もともと軍を抜けた者たちが正規の教官などを招いて集団訓練を行っていたのもあり、実戦を経験した彼らの戦闘力は正規軍を凌駕していた。その力を持って蛮行を働くモンスターたちを殲滅している彼らが民衆にどういった目で見られていたのかは想像に難くない。
結果的に、アフリカにてすでに自国を維持するのが困難なほど疲弊していた国の首相や大統領と言った者たちはそんな彼らに国の明日を託すのがいいだろうと考え、そのままPMUに国を売却するほどの事態が起こるほどの活躍を見せた彼らの影響力は事変以降の世界を大きく動かすほどの力を有することになる。どうやら人類を脅かすほどの脅威が差し迫った時にお互いの垣根を越えて団結するということは現実のものであったようだ。
・・・・・・そんなことを、実習なのか説明している光景があって思わず足を止めてみてしまっていた。本当にそれが俺の知っている歴史とピタリと一致しているからだ。手元になる資料のようなものを持っている男の周りに周りにこれからPMUに参加するらしいメモに必死に書いている連中のようにならなかったなと思いながらその光景を見ていた。
「タチバナ!」
「ああ。わかってる。・・・・・・当事者じゃなかったのに説明がされなかった俺は一体何なんだろうな。まあいまさら気にすることでもないか。
それから数か月後にその理由が判別するんだが、もちろんそれを知ることはなかった。