異世界平定戦記 ~元陰陽師は奇妙な縁から戦場を駆ける~ 作:きつねさん
足早に野戦陣地の指令室からすぐ近くにある『試験本部』と殴り書きされている移動式格納庫の中に入っていく。すでに中は俺の指示を受けて各部署からここに所属している連中が装備を身に着けているところだった。
「あ、あるじだ!」「主様も出撃するのか?」「そんな、これが初めての実践だから見に来たんだよ」
そう口々に言っている皆の間を潜り抜けて『JUDAS01』と書かれている装備を吊り下げるためのラックの前につく。そこでいったん足を止めて俺は後ろを振り向いた。格納庫とはいっても装備の収納場所と試験や装備の切り替えのための場所が分けられているためにここは非常に狭い。そんな場所でも誰かの肩がぶつかることなく並んでいる彼らの姿を目に焼き付けながら口を開く。
「みんな、聞いてほしいことがある。まだ換装途中のやつはそのままで聞いてほしい。・・・今回の戦いは、これまでの一方的な戦いには決してならないと断言できる。何しろ相手は戦闘データでしか戦ったことがない天使と言われる連中だからな。死者が出てしまうかもしれないというのも俺は覚悟しているくらいだ」
そういったところでみんなの顔つきが変わる。そりゃそうだろうな、何しろ模擬戦や天使と戦った連中にその動きを再現してもらって戦ったことはあっても実戦は初になるんだから。怯まないはずがないだろうなと考えながら話を続ける。
「だが安心しろ。そうであったとしても開発に携わった連中はこれでなら倒せると言っている。装備に関しても順次更新が続けられるらしいし、お前たち以外にもこれを扱える奴が来てくれれば頭数だって増える。そのためにも実践データは非常に大事な代物だ。難しいとは思うが必ず生きて帰れ。いいな?」
「はい!」「了解!」「承知しました主様」
その場にいる全員が手を頭上に突き上げ、士気をアピールする。こいつら自身も元は消耗品として扱われるような存在だった。だが今は違う。彼らはもう俺の家族に等しい。そんな連中に命を落とされるなんてことをされるわけにはいかない。実践データ云々の話もただの方便だ。
「それと、今回は俺自身もイレギュラー迎撃に参加する。損害を増やさないように前線も下げさせているからな。だが現在偵察機の連中は今まさに撤退している最中だ。ドローンを使って足止めはしているだろうが、彼らを助けるためにも戦術的に高レベルの思考が必要になるはずだ。だから俺も参加する」
「ん?え?主様も出撃するの?」
が、ここにきてそれまで少しずつ溶けていた緊張の雰囲気がここにきて急に元に戻った。まずい、最後のは余計だったかと思って弁明しようとしたが、隣でいつの間にかスーツに身を包んでいたゼロがあきれた様子で口を開く。
「緊張することなんてないよみんな。だってタチバナなんだよ?いつも隠れてコソコソ努力やってるような人がやられることなんてない」
クスクスと笑われたような気がする。ダシにしてくれたなと小言を挟む暇もなくゼロはさらに俺でも士気が上がるようなことを言ってきた。
「あとは、タチバナがいないと判断するのが難しいかもしれないことも否定できないわね。衛星からの情報もないここでは偵察機からの情報が主な情報源になるんだから。でも何よりも私たちが嬉しいのは、そんな人が私たちのことを考えて一緒に戦ってくれることだと思わない?昔を思い出してみなよ?誰もかれもが保身に走って私たちを壁にする、見捨てる、裏切る。そうして死んじゃった仲間もいたのにまだ誰かを信じようとして今まで封印されてきた。とっくの昔に愛想を尽かして消えちゃった子もたくさんいるのにね。でも今は違う。この人は私たちと一緒に戦って、一緒の目線に立ってものを考えて、最終的に私たちを鼓舞するために来てくれた。この恩義に報いらない子はここにいないわよね?」
そして、彼らは叫ぶ。タチバナ様に栄光あれと。かつて彼ら・・・犬神と呼ばれる人工的に生み出された妖怪を使役していた連中の血を引いているものとして、そこまでの信頼を置いてくれることにこれ以上ないくらいの高鳴るものを感じて涙ぐみそうになってきた。
「もう。しっかりしてよタチバナ。みんなを率いらないといけないのに泣いちゃったらどうしようもないよ?まったくどうしようもないんだから・・・・・・」
「ふっ。悪いな。だが本当にうれしかったんだよ。・・・養子に引き取られた俺が家族の愛ってのを知ることはなかったからな」
陰陽師となったのは、ほんの少しだけだがそういった血筋があって縁のようなものを感じたから。だが実際の仕事は大したものじゃない観光の案内やら昔の蔵書の整理だけ。そんなのだから同じ昔のものならこっちの方が面白いと戦争の話、特に近現代戦の話や戦術を読み漁る日々から一転、かつて自分たちの主人に裏切られた連中に信頼されている。それがとても心に響いたと言ったらにっこりとほほ笑んだ。
「なら、イイ所見せないとね?ほら、さっさと装備をつける!」
「ああ、そうだな。整備兵!俺の装備を頼む!」
ゼロの言葉にすぐに応じ、隣の区画で待っていた整備兵を呼び寄せてラックの後ろにある端末を操作してもらう。すると上から青い色の防弾チョッキのような物を被せられて肩のあたりにフックがかけられて宙づり状態にされる。そして、足元の何重にもロックが仕掛けられている銃でも生えてきそうな隔壁からゆっくりと”それ”が出てきた。
現在において一般的に採用されている歩兵装備であるエクゾスーツ。それを近未来型混成技術の粋を集めて今回の天使のようなイレギュラー向けに開発、量産化する『神払い計画』の集大成たる『Tactical Anti Irregulars Armament Weapon』。頭文字をとると名称がよくないとのことでアンチイレギュラー、略してアイレと言われている最新鋭の装備は、そのあまりにも人間を引き離す性能により、対妖怪として生み出された犬神の強靭な肉体でないと扱うことすらできないというとんでもない代物だ。
「整備兵、ほかのところにいる犬神を連れてきてくれ。彼らの助けが必要だ」
「了解です。機体の調整は人数によって変えます。・・・よし、立ち上げられた。装着開始」
整備兵が端末を操作すると同時に、胴体につけられていた防弾チョッキのような形の緩衝材がすぐさま全身を覆い、下から上がっていくアルファパックのアイレが装着されていく。緩衝材とは言うものの、あまりの負荷に全くと言っていいほどその役割を果たしてくれないために役立たずの代物ではある。だがあるのとないとでは全く違うし、最新の緩衝材なだけあって装甲が破壊された後でも多少の防護性能がもあるから必須といえるものだ。
そして、その緩衝材は内部に含まれているナノマシンによって神経伝達の補助を行える。これを装甲内の緩衝材に対応した接続部によって直感的な操作を行えるようになっているという効果もあってまるで体が一気に膨れ上がったような感覚を味わった。
「全長が搭乗者の頭部込みで3メートル50センチ、全備重量5.65トン。人型の体裁を保っているとはいえ、ああいった相手と比べるとやはり巨大という印象が強いですが、技術の進歩は素晴らしいですね。巡航状態での最高速は時速500キロ。戦闘状態に移行しても200キロを出すのですから、元の世界でしたら革新的な装備になるでしょうね」
「その数値は全備で出せるんだろ?つまり素の状態であればもっと出せるわけだ・・・・・・異世界からの魔法技術を科学的に再現したら超小型核融合炉みたいなものができたから実現したって聞いたが本当か?」
「そのはずです。某ファンタジーゲームでいうところのクリスタルみたいな魔力を凝縮した水晶から機械的に魔力を引き出すことで実現したのかアイレというわけです。・・・よし、脚部までの神経伝達完了。続けて装甲圧のチェック・・・・・・完了。装備を出します」
両脇からアルファパックの標準装備である独自規格のアサルトライフルと巡航状態で変形する槍が現れてそれぞれ背部につけられているハードポイントに装備される。そこから先は予備弾倉や追加の装備を選べるのだが、俺は3×3の構成で予備弾倉と足元の追加のミサイルポッド。そして切り札の円筒型の装備を腰に二本装備させて主機と直結させるという構成にした。
「お待たせしました!」「主様、遅れてすいません」
その装備を装着されているところでいつの間にか周りに犬神たちがやってくる。
「よく来てくれた。言いたいことはあるだろうが、見ての通り俺はこいつを動かさないといけない。だからお前たちの妖力を貸してもらいたい。・・・すまないな。しばらく不自由をかける」
異世界のゲートが開いてから、世の中ではある事象が発生している。それが、かつて魔法だとか妖術だとかと言われていたものの再発生だ。その流れを受けて一応正当な血統を持っていた俺は陰陽師の力を使うことができるんだが、その中の一つである『犬神の妖力を自分の身体能力の強化に転用する』ということがある。アイレを使う時には必須ではあるんだが、それをやったやつは例外なく数日寝込むことになってしまう。が、そこにいる連中は笑顔でそんなことありませんよと言ってくれた。
「ここで寝ちゃっても大丈夫でしょうから」「皆さんも優しい方が多いですから、数人いなくなっても大丈夫なはずです。だから気にしないでくださいよ」
そういいながらそっとアイレの装甲に手を当てる犬神たち。そこから不思議な温かさが伝わってくると同時に、全身に力がみなぎるようなものを感じてありがとうと言ったころには、すでに犬神たちはふらふらとしながら近くの整備兵に倒れかけるところだった。
「・・・・・・彼らのことを頼むよ」
「任せてください。我々としても彼らの心情をよくしておきたいですからね。・・・最終チェック完了しました。試験場を流用したカタパルトも準備できています。動作プログラムは組んでいるのでそこまで自動で動かせますが、いかがいたしますか?」
「いや、自分の足で歩く。そいつらがそうしていたんだ、俺がそうしないのは格好がつかない。そうだろ?」
脇に整備兵こそいるものの、犬神たちが来た時には距離をとっていた。意識を失う寸前までそいつらがいる方向に歩いていたんだからそれと同じことを俺がしないわけにはいかない。安全装置を解除してくれと言って肩の固定していたアームを解除し、隔壁の上に着地した。
「ぐっ、やはりそれなりに衝撃が来る。だが問題ない、すまないが案内を頼む。慣らし運転もしたい」
整備兵の案内に従い、慣れない地上走行を何とか扱いながら電磁式のカタパルトに向かう。そして、脚部を固定するソケットに足をつけて前傾姿勢をとった。
「・・・・・・この体勢といい、電磁式なんてものといい。考えたやつは確実にあっち側の人間だな」
「?何かおっしゃいましたか?」
「なんでもない。それよりもカウントダウンを頼む」
顔のあたりのシャッターを起動し、それまで生身だった頭部も装甲に覆われる。そして様々な装備の状態などをチェックしているうちに、マイクから聞こえてきたカウントダウンが0となる前に俺は名乗りを上げた。
「コミヤ・タチバナ。ユダ01発進する!」
コアからのエネルギー供給を受けて通常よりもさらに加速した電磁カタパルトの衝撃はGにして5もの負荷をかけることになる。一瞬だけ意識が飛びそうになるのをこらえながら機体を操作して空へと羽ばたいていった。
あまり異世界系作品を読まないので何とも言えないですが、ああいった異世界の神みたいな外部からの介入があったら現実世界に何らかの影響が出るんじゃないかと思ってしまいます。というか別の世界から知識を持った存在を持ってくるって相当に危険なのではというのは言ってはいけないことでしょうか