異世界平定戦記 ~元陰陽師は奇妙な縁から戦場を駆ける~ 作:きつねさん
魔法世界フォール・アイラントの神であるフィス・ジェスタは、目の前で起こった異常にただ呆然とするだけしかできなかった。今までもこの世界に侵入してきた存在はいた。が、そのどれもが配下の天使たちに命令して連れてきた人間だし、その彼らによってこの世界は発展することができていたのだから。
だが、今は違う。今回の敵は明確にこの世界に対する侵略者のようなものだという配下の天使からの報告を受けた。同じこの世界の神である妹の魔王と呼ばれている彼女もこの事態を理解しているはずなのに一切の音沙汰がないとわかったときの行動は早かった。すぐさまこの世界の王族たちに使いを派遣し、持てるすべてを使って侵略者を討ち倒せと命令し、自分自身も本丸として出陣した。士気も、武具も、配下の天使たちも何の問題もないはずだった。
「報告します。突撃した騎馬隊は1万以上の死者とその倍の負傷者を数えております」
「大天使様!どうか配下の天使様たちを鮮烈に加えてください!そうでもしないと、先ほどの鉄の箱の進撃で兵たちの士気が落ちてしまっていて、とても戦える戦力にはなりません!」
「ジェスタ様。上で戦っている仲間たちは押しているようです。竜騎兵たちも進軍していますし、地上は諦めて空から敵を滅ぼしましょう」
「・・・・・・静かに!今、考えているところです。静かにしてください!」
温厚で、決して怒りを見せない神。そういった側面を見せているにもかかわらずジェスタはいら立ちを見せる。それで周りが引いているにもかかわらず、自分の思った通りに進まない現実を認めるわけにはいかなかったからだ。
「・・・・・・ええ。空の上にいる天使たちに伝えなさい。そのまま竜騎兵を前に出して突撃し、相手の頭上に炎の雨を降らしなさいと。そうすれば相手もさすがに」
退くことでしょう、という言葉は、突然の轟音によって打ち消されることになった。どういうことかと周りを見てみると上を見上げていることがわかる。それにつられて上を向くと、恐ろしい光景が広がっていた。
「空が・・・・・・割れている・・・・・・」
竜騎兵たちによって雲のように暗くなっていた空が、何本もの直線によって青空が見えている。だがそれがどういう意味なのかを理解する前に空から降ってきたものによって嫌でもジェスタは自分の予測が覆されてしまうことを悟ったために、配下の天使に自分の武具を用意してもらうように伝えた。
「は?いや、ですがジェスタ様、あなたはこの連合軍の中で最も重要なお方なのですよ?それなのに戦場に出向かれるとは」
「黙りなさい!・・・あれが見えないの?あれは、天使を騙る悪魔よ!今すぐにすべての天使に伝えなさい!この私についてきなさいと!」
まるで理解していない天使にいら立ちをぶつけながらも、あれほどの相手をどう対処するべきかと思わずにはいられない。不安を感じている自分に気付いたジェスタは、歯噛みしてその悔しさを誤魔化した。
数十分前・・・・・・
意識が飛びかけていたが、ようやく体が慣れ始めて周りの様子が見えるようになる。犬神たちもこちらの動きに合わせてくれたようで、誰一人落伍者を出さずに周りを飛んでいた。
「よし、FCSのロック解除。ここからが本番だぞ。ちゃんと仲間に対して撃てないかどうかの確認をしろ。銃を向けなくてもそれくらいのことならできるはずだ」
『了解』『ラジャー』
指示を出しつつ俺自身も視線でそばに飛んでいる犬神に狙いをつけているように腕を動かす。が、その瞬間に警告メッセージが表示されて手に持っていた銃がロックされた。
「よし。だが万が一にはこれが機能しない場合もある。その場合はロックの方向性を味方の信号である方に切り替えろ。でないと味方を討つ羽目になるぞ。いいな?」
二度目の返事を聞いたあたりでマイクに雑音交じりの必死そうな声が聞こえてくる。もちろん前線部隊は偵察機を除いて後退済み。その上でこの雑音は間違いなく偵察機だと判別がついた。
「聞こえてますか司令部!こちらストーク1!2及び3と共に撤退戦の真っ最中です!何とかドローンを使って嫌がらせはできてますが、武装がない我々ではドラゴンに食い破られる方が早いんです!どうか援軍を送ってください!」
「こちらユダ01。そちらの前方で待機中だ。すまん、俺のわがままに振り回されることになったな。ただちにそちらの位置座標を転送し、こちらの指示する射線上から退避せよ。そのまま手痛い反撃を与えて相手に精神的に追い込むつもりだ。聞こえているならすぐに送信せよ!応答もしくは退避しない場合撃墜する!」
『ちょっと、タチバナ。言いすぎじゃない?・・・でも、できない場合は仲間に撃たれることになるんだよ。だから、少しでも自分たちが活きたいと考えているんだったらすぐにそうして。じゃないと手加減はできないよ』
少したって、すぐにディスプレイに偵察機からの位置座標とご丁寧に敵の配置まで教えてくれる。だが無線機の性能が優秀なゆえにかなりの距離がある。ここから救援というのは難しいと判断した俺は、すぐに部隊全員に連絡を取った。
「全員に通達。これより偵察機の観測データから相手の陣形に向けてベータパック装備者による一斉攻撃を行う。アルファはただちに射線上から退避、および追撃のために準備。ガンマは念のためにベータの援護だ。もしこちらの動きを予想しているのなら必ず攻撃が来るはずだ。警戒しろ」
『了解!』
俺の指示はやはりこいつらにはよく効くらしい。すぐに言われたとおりに陣形を組み換え、ベータを中心にした射撃陣形へと変更される。
『チャールズ3、レールガンの出力45%』
『コリム1から4は現在63%まで上昇中!』
『突入口を開ける。マイロン隊は1から指示する箇所の付近に一斉発射を』
「うんうん。うまいことやっているようで安心するぜ」
ベータパックの最大の特徴である同時並列型魔導コアの起動音が爆音で流れているのを横目で聞きながら一団を俯瞰できる位置にまで移動する。クリスタルから流れるエネルギーを並列化し、使用可能な出力を跳ね上げるのが重装化を目的としたベータパックだったが、無理やり並列化処理をやってるから異常な駆動音がしてしまって大規模な戦いじゃないと扱いが難しいし、武装もレールガンやら高出力レーザーといった火力重視で継戦能力が壊滅的な装備ばかりだから開幕の一撃を撃ち込んだら装備を放棄して白兵戦に移行するか、もしくはせっかくの重装化による防御力も捨てて燃費のいい兵装を予備として持っていくかという二択を迫るという面倒極まりないものだが、こうして相手との距離が離れていて、なおかつ脅威を知らないとなればその破壊力を存分に生かすことができる。今回は手の内を全部見せて対策を取られないようにするためにレールガンだけしか用意しておくように伝えていないんだが。
『こちらストーク1!観測情報に補足しときますが、相手は統率が取れてないみたいで密集しています!そちらが正確に当ててくれると信じて狙いやすい位置に移動しますので、どうか当てないでくださいね!』
「了解だストーク1。安心してくれ、こいつらなら必ずやってくれるさ。・・・・・・聞こえているな!あいつらがいいところを見せようとしているんだ、絶対に当てろよ!」
『はい!』『了解ですユダ01』
既にHDDの共有機能で狙いをつけている分隊は最大の効果を与えることができる地点を狙っている。あとは俺の指示があるまで引き金を引かないだろうが、これで一体どれだけの死人が出るのだろうかと考えると少し寒気がする。
(いまさら何を考えているんだか。こいつらは全員血にまみれた生活をしていたんだ。そんな犬神たちをまた戦場に駆り立てたのは他ならない俺。そうであるなら血をかぶることを恐れてはいけない。そしてそのうえで幸せでいさせるのがこの道に引き込ませた俺のやるべきことじゃないか)
既に済ませた覚悟は振り返るものではない。そう心に言いながら偵察機からの更新された情報で最適とされた位置に群れが来た瞬間に俺は叫んだ。
「撃て!」
そして周りが見渡せる位置から見えたのは、ソニックブームを発生させるほどのレールガンによる一斉射撃。そしてその数秒後に見えた景色は、空を覆っていた黒い雲に向こう側の景色が見えているというものだった。
『・・・・・・こちらストーク1!効力射による最大効果確認!あのドラゴンども、自分たちに何が起こったかわからずに混乱していやがるぜ!』
「そっちの援護があったからな。で、全体のどれくらい削れた?」
『あ、ああ・・・・・・そうだな、大体3割ってところか?馬鹿みたいに数がいたからそこまでかもしれないが、とにかく援護に感謝する!こちらは全速で撤退し、得た情報を持ち帰る!』
「了解だ。・・・・・・よし、野郎ども!ドラゴン退治に出発だ!派手に潰せ!」
『イエッサー!』『任務了解!』
威勢のいい声を上げながら突っ込んでいく犬神たちの後ろに俺もついていく。さて、ここからどれだけの手駒を釣り出せるか?