サイド【星に手が届く様に1】
魔法少女スターゲイザー
最強の魔法少女にして三人の対魔王軍の切り札、その筆頭。
能力は至ってシンプルなものだ。
【応援してくれる人間がいる限り決して死なず、応援の分だけ強化される】
と言うもので、魔王軍の目的がストーリー上人類の家畜化による祖国のエネルギー問題の解決である事を考えるともう完全に殺しようが無いと言うのがネット住民含め魔法少女学園戦記のファンたちの中での共通認識であった。
分かりづらい?考えてみて欲しい。
前提
・彼女は既に最強の魔法少女として地球上すべての人類に周知されている
・アンチ、信者問わず人類文明が滅びに瀕した分だけ彼女に助けて貰うしかないと言う認識が深まっていく
・そもそも日頃から配信や魔法少女学園演劇部(劇団ぐりしゃ、妙な名前だ)の活動を通して現状国内外多くの人間から支持を得ている彼女は既に人類の生み出す力では殺せない程強化されている
箇条書きにして見てこんな所か、最早ため息すら出そうもない。
余りにも過剰すぎる。実際ゲームの中でも彼女は魔王軍の三分の二を道連れにやっと封印されただけで公式に一度も負けて居ない正真正銘の化け物なのだ。
「だが、どうにかして、どうすれば?」
誰も居なくなった家の中、独り私は考える、ありとあらゆる記憶を掘り起こせ、絶対に方法はある筈だ。
「無ければ作り出すだけだ、そうだろ?」
荒れた家の中、家族写真の中の皆だけが私を応援してくれて居た。
ーーーーーー
半年後
東ヨーロッパ 某国
『本当にコイツで良いのかい?チャイニーズ!もっとマトモで使い易いガキならいっぱい居るぜ!!』
ヤニで黄ばんだ歯と胃が悪いのか酷く匂う口臭、私の縦横二倍はあろうかと言う大柄な白人の男が私に下品な笑みを浮かべてそんな事を問うてくる。何処かから子守歌の様なハミングの聞こえる中、私は未だにイントネーションの不確かな現地の言葉で同じ様な下品な言葉を返す、外道め、同じ空気を吸っていると思うと吐き気がしてくる。
『あぁ、見た目が気に入ったんだ、幾らだい?』
簡単な値段交渉、何の値段かは口にしたくも無い。人間と言うものの邪悪に吐き気がしてくる。日本円にしてみればゲーム機のカセット二つ分と言った所だろうか、そんな値段で交渉が終了する。
『きっかり二時間だ!楽しみな!』
腐った男がカーテンで簡単に仕切られただけの部屋を出ていく、外は一面の雪景色で隣町まで山を二つ越えて20キロと言った所だろうか、誰からも見つからない様な寂れた街でこうも簡単に人身売買が行われている。
眼前には辛うじて入浴はさせて貰っているのだろうか?商品として問題の無い程度に見た目を整えられた少女が死んだ目でボロボロのテディベアを抱きしめている。売れやすいようにだろうか?サイズの合わない薄手の寝巻を着せられアバラの浮いた脇腹が透けていて、寒いのだろう。酷く冷えた室内に震えている。
ようやく、漸く見つける事が出来た。
「ユーリちゃんだね?」
現地で買った厚手のダウンジャケットを脱いで彼女の肩に掛ける。良かった、人違いじゃ無かったらしい。少女の目の焦点が少しずつ私の顔に合わさっていく。
「えっ、あっ、私、あっ、あの」
痩せてしまった結果ぎょろりとした瞳いっぱいに涙を貯めながら彼女は久しぶりに話したであろう日本語で何かを私に伝えようとしてる。
「シー、静かに、今私の友達が外で待ってくれているんだ、一緒に日本に帰れる様に彼女にお願いしてあるから行こうか?」
カーテンの外に連れ出そうとすると、涙を流しながらもそれとは別に彼女の身体の震えが一層深くなる、そうか、そうかそうか、彼女を縛っているのは恐怖か。そうだろうな、魔法少女の身体能力の向上を考えれば薬物に依る中毒症状は望めない、しかしだ、魔法少女とはいえ素体が九歳の少女ならまだ暴力に依る洗脳も有効だろうからな、ははははははは、ははははhahahahahahah
「あっ、あっあのっ、」
私はただ彼女を抱きしめていた、理由など無い、あったとしてもそれはこれから死体の山を築こうとする私が口にして良いものではない、だから、ただ、ただただ抱きしめた。
「大丈夫だよ、もう大丈夫、これからはずっとずっと大丈夫だからね」
彼女を抱え上げる様に立ち上がりカーテンを開け外に出ると外に居るはずの人間は全て眠りについていた。いつの間にか子守歌の様なハミングは止んでいる。
「ネムリさん、力を貸してくれてありがとう」
影からすぅと浮かび上がる様に魔法少女ドリーシープが現れて、僕に抱えられたまま涙を流す少女を首を傾げて見つめた。何だろうなこの子は仲良くなってまだそんなに時間は経ってない筈だが日に日に態度がヤバい感じになって無いか??
「毎回聞くのも嫌なんですけど、先生、貴方一体何者なんですか?いきなりプライベートジェットに乗せられたと思ったらこんな東ヨーロッパで人助けって、スーパーヒーローか何かで??」
それに、そこで言葉を区切った彼女はスンスンと鼻を鳴らすとこの子、魔法少女ですね?そんな風に言葉をつづけ瓶底の様な眼鏡越しに私を見上げて来る。参ったな。と言うか魔法少女は匂いで分かるものなのか?
「何度だって言うがね、ネムリさん。私はただの先生だよ。幾つかの手品の種と隠した目的が一つだけあるただの人間さ」
それに君も人助けは嫌いじゃないだろ?ね?だからそんなに睨まないで、今度プライベートジェット使わせてあげるから、駄目?