確認するべき事がある。
私は布団に寝転がりながら横に居るユーリ君の頭を撫でた。いや、叶うならば難しいあれやこれやは遠くに追いやってこのまま二人ゆっくりと過ごしていたいがそうもいかないのだ、予定なら一日か二日程の時間差でこの宿に到着している筈の主人公勢力が未だに来ていない。来なければ来ないでこのまま休暇を合わせて味わうのもやぶさかでないが、トラブルだけは避けねば。
楽しそうな鳴き声を上げるユーリ君の喉元をくすぐると彼女は楽しそうに私の脇腹に甘く噛みつく。あぁ面倒だしかし確認しなければ、あまりにも私の記憶から乖離しすぎている。
「ユーリ君、ちょっとだけ仕事してきたいんだけど良いかな?」
んにゃー、もはや人間語すらない返事が帰って来る、落ちぶれた生き方なりに四ヶ国語位はそれなりに仕えるのだが猫そっくりの言語は大学で習わなかったしその後の十年近くのサラリーマン生活でも学ぶ機会は無かった。
「まぁまぁ、そうわがまま言わないでくれよ、すぐ戻るから」
顎の右側に口づけを受け背中に回された腕が緩められたので恐らくこのコミュニケーションであっているのだろう。布団から出る私にはこう解釈するのが精いっぱいであった。
ーーーーー
「一つ聞きたいことがあるんだが」
そう問いかけると厨房で虚空を見詰めながら手遊びに興じていたヤツザキさんがこちらを慌てた様子で見る。どこにでも居る、などと言う表現は自分の生まれた世界を認識している以上怠惰な表現でしかないのだが。そう言う面倒臭い表現を抜きにすれば彼女はどこにでもいる少女の様な様子で私の問い掛けに答えた。
「はい!何でしょうか!!」
窓の外からは潮騒が聞こえ、遠くに見える夜景は恐らく熱海のものであろう。また同じ位置に3日かけて私達は戻って来ていた。しかし、聞くべきはそこではない。
「妹さんは元気かい??」
確信の表層をあえて爪を立てる様に撫でる、あまりにも記憶から変化が起きすぎている。そもそも私自身が異分子なのだからそれ以外が元のままかどうか確認すべきだ。
「あー、以前にお越しになられた事がありましたでしょうか?」
たどたどしい彼女の敬語に私は笑顔のまま答える。
「あぁ、君達の両親がまだ健在だった頃に訪れた事があってね、その時は連れも居ない一人旅だったが覚えてないかな?」
嘘である、その頃私は人生の幸福に夢中になって居た。
「あー!失礼いたしました、台帳に名前が無かったもので初めてのお客様かと」
「あー、その頃は苗字が違ってね、詳しくは聞かないで貰えると助かる。長い話になる割に明るい話題じゃないからね」
これもまた嘘だ、生涯で結婚しようと思った事もそれに値する程誰かを大切に思った事も、今も昔も一度もありはしない。
「あぁー…そのぉ、妹も元気ですよ!昔から病弱で、三階は従業員の居住スペースになっているのですがそこにおります。良かったら呼んで来ましょうか??」
あぁ、なるほど、知るべき事は知れた。どうやら彼女の状況は私が知るアプリ版のストーリーと大差無く悪化している様だ。私は笑顔を浮かべたまま顔の前で手を振り彼女の提案を断った。後は必要な連中の訪れを待つだけだ。
「いや、いいさ。君が覚えて居ないならもっと小さかった妹さんだけが私を覚えていると言う事は無いだろうしね。すまない、変な事を聞いてしまった」
ところで
「他に従業員は居ないのかい?こちらのわがままで、朝食を部屋に持ってきてもらっているけれど負担になって居ないだろうか?」
「あー、今は従業員は私だけですがぁ、大丈夫ですよ!久しぶりのお客様なので張り切って食事は作らさせて頂いております!逆に、ご不満などありませんか??」
彼女の問い掛けにとても美味しいよと答えて、適当に切り上げ部屋に帰ろうとした所で私は窓の外の景色に気付いた。
火焔を纏ってこちらに劫火の球体を撃ちだす魔法少女。
「参ったな、よりにもよって不死鳥か」
ハズレだな、今回は
そうして、熱波と轟音が私を
ーーーーーー
新幹線から降りた後、口にしたくもない観光の果てに不死鳥の魔法少女は海岸にてベンチに座っていた。ジーナスはただただ立って彼女の話を聞いて居る。
「おい、クソ新人オス、魔女相手に最初にするべき事は何か分かるか?」
隣に立つ相棒は楽しそうにキラキラとした目でこの性格ドブ女を見詰めている、こうなると工夫無く自分自身で答える他無い。
「オスって……その、民間人の避難勧告でしょうか?」
ジーナスは自身の常識に則って答える。
「二十点だクソカス新人オス、避難を察知して魔女が雲隠れしたらどうする?」
例え魔女を取り逃したとしても民間人に被害は出すべきでは無いだろ、言葉にしないだけの理性はジーナスにもあるが表情筋は年相応に素直だ、ジーナスの表情を見て不死鳥の魔法少女は続けた。
「だからお前はクソカスゴミ新人なんだ、仮に取り逃がしたとしてその先に発生する被害が今までその魔女が発生させた被害より下回る確信があるのか?もしそいつが反社会的勢力と結びついたら?もっと悪けりゃ魔王軍と合流する可能性もある」
不死鳥の魔法少女が海を指さす、その方向に相棒と二人して振り向けばそこには三階建ての旅館か、あるいわ民宿と呼ぶのが適している様な建物が姿を現していた。
「おめぇあの姿から相手の魔法と人物像が何処まで推測できる?クソ新人メス」
このドブ女っ!怒りは感じながらも師匠との生活で叩きこまれた修正で上位者の話は黙って聞く癖が出てジーナスは反抗する事が出来なかった。尊敬する先輩をクソ呼ばわりしてこの人は、許しがたい。そう思う。
「恐らく空間型の魔女、あの大きな疑似餌の姿は実力の過小評価に繋がりがちだけど恐らくあれは魔女の執着があれに繋がっているから、故に本人を見つけ出すなら宿泊施設に関連のある人物で、今まで学園から派遣されたペアが皆熱海に向かって消息を絶った事を考えると恐らく熱海にも関連のある人物が浮かび上がる」
「マシな方のクソだな,てめえは」
続けろ、その言葉にジーナスの相棒は続ける。
「人物解析は専門部署に任せるとして、恐らく宿をベースにした魔法なら空間を操作する能力者か宿自体を一種の体内にする同化魔法と考えるのが自然に思う」
じゃあどうする?楽しそうにそう言いながら不死鳥の魔法少女はエナジードリンクの大型缶を傾け一気に飲み干す。流石僕の相棒だ、嫉妬のかけらも無くジーナスはそう思った。こんなドブ女ですら彼女の才能は認めざるおえないのだ。僕の相棒は最高だ。
「それは、周囲の住人に避難勧告を出したのち包囲する?とか?」
カランカランと不死鳥の魔法少女はエナジードリンクの缶を投げ捨て、缶はそのまま転がり続け砂浜へと落ちて行く、マジかよとジーナスが思った瞬間には不死鳥の魔法少女は変身を済ませベンチから立ち上がって居た。
「ゼロ点だっつってんだろぉ?てめぇもカスかよぉ」
焔を纏い不死鳥が飛翔する。
「良いか?よく覚えとけ、魔女は見つけたら殺せ!!空間操作系の魔女なんてのは大体自分のフィールドを形成してそこに引きこもるクソゴミ引きこもりだ、そのクセ接点は現実空間に取らなきゃなんねぇんだからあんなもんな、燃やすか爆破すりゃ良いんだ、そうすっと勝手に穴倉から本体が出てくっから後は本体ぶち殺すんだよ!」
分かったかぁっ!?!!?
不死鳥の形成する火焔の羽から火球が旅館の方角に飛ぶ、ジーナスと相棒はただ目の前の状況に唖然とし半開きの口のまま事態を見守っている。
「返事はァァッ!!!」
こくこくとジーナスは頷く他なかった、現状、全てが不死鳥の下に推移していた。
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