宿全体を包もうとした火焔を甲冑の武者が切り裂く。次弾を打ち込もうとした不死鳥の魔法少女に旧日本軍の制服を着た青年が銃弾を撃ち込み、随伴である氷結の魔法少女達に陰陽師の様に見える男が紫色の炎を撒き牽制する。
「参ったな、本来こうなる筈では無いんだが」
不評であったアプリにおいて迷家の魔女のストーリーは固定として氷結の魔法少女を相棒とする【哀】編の主人公ペアがアシスタントキャラクターとしてついてくるだけで、上位魔法少女三人の内一人がついてくるのは、何度も失敗したプレイヤーに対するある種の救済措置としてのみであった筈だ、全く、この状況をどのように考えれば良いのだ?救済措置の必要な程に私の工作が上手く行っていると言う事なのか、それとも単に運が悪かったのか、固定されている未来の修正力の様なものが働いて居るのか。
ともかく、こんな所で私の魔女の力を見せるつもりは無かったのだが。
「ユーリ君」
居るのは分かっている、でなければいかに優秀で最高で唯一無二の私の魔女とはいえこうも的確に私を守るような反応が出来る筈が無い。小さく、愛しい人に囁くように言葉にすれば当然の事として物陰から彼女が姿を現した。
「はい、先生」
本当に聡い子だ、あぁ、普段は変態的な様子で自身を誤魔化しているが、彼女は何て素晴らしいのだろう。この世の外に居る存在。そもそもとして救済など存在していない強大な力の塊。私は彼女を後ろから抱きしめる様に跪き耳元で囁いた。
「私の魔女、不死鳥の魔法少女が相手だ。1番から55番までは解放を許可。それ以降は決して見せない様に。こんな所で君の力の一端でも知られるのは計画に無かったがしょうがない、あの魔女の撃退でもって私達の力量と言うものを図ろうじゃないか」
「撃退ですか?先生」
あぁ、本当に聡い子だ。
「そうだ、出来るかい?」
殺してはならない、彼女は使える。……はははッ使えるだと。だがそうだ、彼女は使えるのだ。腐れエナドリの不死鳥。
彼女はこちらに振り返り裂ける様な笑顔を浮かべる、私はただ祈る様に彼女の額に口づけを交わす。
「当然です、先生。私は貴方の魔女ですから」
そうして彼女は窓ガラスを突き破って外に飛び出していく、残るは私の仕事であった。私は腰を抜かして床にへたり込んでいるマヨイガの魔女に向かって歩みを進める。交渉だ、ただの人間でしかない私は彼女に請い願いそれで計画への歩みを進めるしかないのだ。
「ヤツザキさん、そのぉ、こんな状況で言うのも何かおかしな話なんだけど。事業融資とか受けてみる気は無いだろうか?」
ーーーーー
不死鳥の魔法少女と呼ばれ始めて何年経っただろうか。
不死鳥の魔法少女と呼ばれている少女、陽佐木ヒナ(ヒサギヒナ)はそんな事を考えていた。眼前では明らかにヤバイ存在の武者がすり足でこちらに向かって来ている。参った、背後にはクソゴミ新人が二人。本来なら引いている様なクソ以下の状況でも引けない。
正確無比、それでいて性根の腐り具合と潔癖症気味の執着を感じさせる狙撃をキメてくる古臭い軍服の男に、コスプレ野郎が生み出す見ただけで生理的嫌悪感をかんじさせる紫の火焔。海上でありながら焔が消える様子は無くごうごうと燃え盛って居る。
「あぁクソ、クソクソクソ、いつかクソ山喰わされる日が来るとは思ってたがよりにもよってこんなクソ新人共のお守りのタイミングかよ!!」
相手の魔女の能力がしれない、どうする、切るか、飛び切りを切るしかないのか?逡巡は僅か、魔女と魔法少女の決定的な違い、ヒサギは支援用魔獣を呼び出す。
「あぁクソぉぉぉ!!来いよぉ!フェニキアァァ!!」
天上より橙色の光を振り撒く小さな不死鳥が降り立ちヒサギの頭上に止まる、すり足でこちらに距離を寄せ、間もなく一等両断の距離に至ろうとしていた武士を着地の風圧で遠く吹き飛ばす。
魔法少女の真なる相棒、マスコットの到着。
「タイミングが遅すぎる。細かい指導は後にしてやるから、ヒナ。ここからは全力だぞ、決して死んでくれるなよ」
マスコットは即座に自身のエネルギー供給源である魔法少女に指示を飛ばし、その後の指示と同時に今後の対策をアドバイスする。
ちいさな対策に励む彼等の前に、窓ガラスを突き破り先生の魔女であるユーリが降り立ったのはほとんど同時であった。