「鬱陶しい」
ユーリは口に思わず口に出した、変身の速度や迷い無く不死鳥の魔法少女を救出するために捨て身で動いた事、その点には多少驚かされた。
だが何も問題ない、圧殺するだけだと34番までを開放して襲ったが崩れない。
そうだ、崩れないのだ。
何か特別な事をしている訳では無い、ただランスを振るい倒せる相手から倒して行く。避けられる攻撃は避け、どうしても受けねばならないものは器用に致命傷を避け出血したとて最小限のダメージに抑えて出血自体も傷口を凍らせてすぐに対応してのける。
かといって隙を生み出そうと相棒の魔法少女や死体同然の不死鳥の魔法少女を狙った攻撃に関しては、寧ろこちらの隙と捉え、爪で削る様に徐々にユーリに攻撃出来る様に立ち位置を動かしながら防ぐのだ。
「鬱陶しい」
再度口に出す、ただ硬い、ひたすらに硬い。ただの人間ならば何分と保たない量のとっておきの死霊達がたかだか一人の男を殺せない。それが腹立たしくて堪らない、お前は一体なんなのだ。先生、どうしてこんなヤツが居るなら教えてくれなかったの?
「あぁもう!!全員!手段は問わないからアイツを殺して!!」
その言葉に34番までの死霊達が殺せる様に鎧騎士に殺到する。
別段、ユーリは全ての死霊に対して指示を出している訳では無い。契約によってユーリに力を貸す番号持ちと人格から丁寧に削ぎ落した人形の二種類が居り、番号持ち達に関しては大まかにユーリが指示を出した後、各々で経験に基づいた最適化を行ってその指示を遂行している、人類史にこびりつく人間の殺し方と言うものについてのプロフェッショナル達が二度目の人生モドキのなか己の目的をユーリに履行させるため最大限で相手を殺そうとしているのだ。
なのに殺せない。
魔法の力があるとは言え12歳でしかないユーリが全ての指示を出して居るのならしょうがない、どう頑張っても殺せない。などと言う事もあり得るだろう、だが死霊達はユーリを通して目的を共有し行動を共にし、相互に作用する事によって最善を選択している、その上で殺せないのだ。
魔法少女の愛による強化と能力の共有による換装を踏まえても人殺しの専門家達の中から更に選りすぐりを選んで契約した死霊達ならば簡単に殺せる筈なのに、あの男は上回っているのだ、単純に人間としての性能でこの状況を凌いでいるのだ。
「アナタ、化け物なんですの?」
もはやどちらがどちらの命を狙っているかも分からない状況、先生の感覚を伺ってみれば真相にたどり着けるかも。不安そうにしていたらヤツは予想外で、無反応ならば想定内。ユーリは信用されている。
そう思うが最早魔法を通して先生を伺うことも出来ぬ程の忙しさに戦場は至っている、あぁ本当に鬱陶しい。
「あぁ!!」
先生を思い気が取られミスをした、ユーリの焦りが伝わり2番の集中が途切れる、そこを突くように男と相棒は協力し2番を消滅させる。再度呼び出すには死霊とはいえ時間が掛かる。
ユーリには理解も出来ない原理で生み出された紫の火焔は、多くの実験で2番が消滅すると消える事が分かって居る。男と相棒の魔法少女が合流し不死鳥の魔法少女を真ん中に、踊る様に周囲の死霊達を蹴散らし始めた。
換装し、寒々しい色をした氷のドレスを纏う魔法少女。そんな相棒を守る様にランスを振るい少しづつ周囲の死霊を圧倒し始める男。あぁ、魔法少女と騎士とはそんなにも通じあって居るのか、言葉の一つも発さず連携し34番までの呼び出したの死霊の全てを今度は無傷のままあしらってのける。どんどんと動きのキレが増していく。
あぁ、迫って来る、少しずつ、少しずつ。ユーリに近づいてくる二人はいずれユーリに致命傷を与えるだろう。魔女であり、魔女であるからこそ強化されたユーリの身体能力であったとしても二人の放つ氷塊とランスの前ではきっと殺される。ユーリにはそれが分かる、死の支配者であるからこそ分かるのだ。
濃厚な死の香り、だが、ユーリにはどうでも良かった。
羨ましい、あぁ羨ましい、魔法少女と騎士と言うのはどうしてあんなにも強く結びつき合っているのだろう、あぁ、ズルい。
先生はユーリの騎士では無い。
今までも、きっと、恐らく、これからも。
分かって居る、先生は私を沢山褒めてくれる。きっと、ユーリが求めたなら愛している様に振る舞ってくれる。だがそうだ、先生はユーリの騎士では無い。先生はユーリの事を微塵も愛しては居ないのだ。
「あぁ…」
先生が魔法少女や魔女に対して冷たい言葉を吐く時、先生が世の不条理に大して皮肉を言う時、先生が遠い何かを見詰めて酷く苦しそうに眉を寄せ苦しんでいる時。
どれだけそばに居ても先生はユーリと大事な何かを共有しようとはしないのだ。
多分、三年だけの短い時間、一番近くで先生を見て来たから分かった事として、先生は魔女も魔法少女も大嫌いなのだ。だから、つまり、その、先生にとってユーリは有能で居続けないと傍に居る事も抱きしめる事も愛を伝える事も許されないのだ、先生にとって有能で居続けないとユーリは先生の幸せを祈る事すら許されないのだ。
なのにアイツラは私の目の前であんな風に幸せで愛し合い通じあった姿を見せびらかす、ユーリは酷く自分が萎んで行くのを感じた。私と言う存在は一体どれほど惨めなんだろう。この世で一番で唯一無二で、世界中の輝きをかき集めても及ばない様な相手はユーリの事を全く愛していない。
「…もういっか」
羨ましいなぁ、誰にも聞こえない声でそう呟いて、ユーリは自身と契約した中で最大の番号である契約した1200番までの死霊全てを召喚した。
パソコン買い換えますわ。