どうして私はこんな生き物になってしまったのだろうか。
人と比べて恵まれた生まれ育ちだと言うのは自覚している、常に優しい両親、優しく私の名前を呼んでくれ、失敗する度、優しく笑って助けてくれる兄。単純にお金だけで見たって私は自分の周りの誰よりも恵まれていたと思う。分かってる、それは分かってる。
「御影、何時かお前にも大事な何かが見つかる、才能や大切な人かも知れない。それを大事にして生きて行けば良い」
「ははは、またお前は派手にやったな。良いか?どれだけ悪い事したって僕は御影のお兄ちゃんなんだからな、嫌になるまで幾らでもやってみれば良い。一緒に謝るし一緒に解決策だって考えて見せるから」
「良かったら、御影ちゃんの趣味には合わないかも知れないんだけどね?お母さん実は若い頃ピアニストになりたくってね?それで、ピアノは難しいかもしれないんだけど、良かったら一緒に何か楽器を練習してみない?お父さんはああ見えて若い頃はギターが趣味だったのよ?お兄ちゃんも何か初めて見ようかなって言ってるし」
運よく生まれて、運よく手に入れて、運よく素晴らしい人達が家族で。あぁ、愛してたよ、お兄ちゃんもお父さんもお母さんも。あなた達からガッカリされたくて、嫌われたくて物語の様な不良の真似事をしたってそれでも根気強く私と向き合ってくれて。
ねぇ、愛してたよ。愛されてるのもちゃんと分かってたよ。だけど、だったら、だったら、だったら!!!
「御影?無理に勉強を頑張らなくても良いんだぞ?気長に自分に向いてる道を見つければいい、お前はそんな風に兄さんのスペアになろうとする必要は無いんだ」
「ん?どうした?何か手伝いたいって、あぁーそうだなぁ…、じゃあ丁度息抜きがしたいと思ってた所でな、ドライブに付き合ってくれないか?え?あぁ、これは大丈夫だから、七星重工の跡取りとして経歴にも気を使わないといけないからな、その為の校外活動と言うか。御影には色々難しい話になっちゃうからなぁ…じゃあ何か軽く摘まめる様なものを母さんと一緒に作ってくれないか??」
「えっ?どうしたの?御影ちゃん?料理を教えて欲しい?…そうねぇ、貴女も何時か結婚するのだものねぇ、使用人に任せてばかりだと確かに格好がつかないかもしれないけど、へっ?今日の晩御飯は私が作る?駄目よ、包丁なんて持ったら危ないでしょ、とりあえずお部屋で勉強してて頂戴?御影ちゃんが手伝うにしたって使用人と打ち合わせしてからになるから」
あぁ、檻だ、檻。暖かで柔らかな絹と綿で出来た檻、私に絡みついて決して離れようとしない檻、決して出れない揺籃の檻。
ねぇ、私の事を愛していたのならどうしてそんなに何事も無い様な顔をして私の事を出来損ない扱いする事が出来たの???息が出来ない、息が、ガァッ、カッ、はぁ、あぁぁ、カッ、私は、ガッ。
息が詰まる悪夢に目が覚める、その度にどうしようかと考える。あの人達を殺そうか、それとも自分の命と言うものをさっぱりと捨ててしまおうか。いざとなればどうとでもなる、細長いドアノブを目の奥に突っ込んでやる。きっと何時も余裕をもって生きているあの人たちも私の死体に少しは焦るだろう。
あぁ、決めた、殺そう。
そうして私は計画を練る、全てにおいて私の上を行く人達だ、だからきっと私如きが考える様な殺人計画なぞ上手く行くはずもない。だとしても、私は私の中のこれと向き合わねば生きていけない、私と言うものが決定的に失われてしまうのだ。私は私の中の殺意に誠実に向き合わねばならないのだ。
そうして改心した様に言われるままに生きて三年が経って、殺せてしまった。
家族三人の心底驚いた表情、何故ともどうしてとも問いかける間もなく私は彼らを殺して、それで、それで…それで?
それで私はどうしよう、父の言葉だ、見つけたそれを大事に育てて行けと。まさか人を殺す事、その計画、殺人における総合に置いてこの世に比類ないと思って居た私の家族全員に勝っているとは。これを、これを育てるのか?
計画の会場に選んだビルの高層階にあるレストラン、返り血に濡れたまま窓から外の景色を見れば眼下では高層ビルの明かりが生み出す夜景をかき消すように不死鳥の魔法少女と呼ばれる少女が魔王軍の名も知れぬ大勢と戦っている、戦っている?薙ぎ払って居ると表現するのが適当だろうな。あれならばまだ私の方が丁寧に殺した。
気配の一切は無かった。だが、背後から声を掛けられる。
「願いは叶いましたか?七星さん」
背後から抑揚の薄い声が掛けられる、驚いて振り向くとそこにはどこにでも居る様なたいして特徴の無い顔をした男が立っていて、私は瞬時にどうするか考えようとして、止めた。もう、何もかもどうでも良かった。
「叶ったのだろうか?分からない、君は?悪魔かなにかなのかい?」
「残念ながら違います、悪魔なら良かったのですが」
「ふふふ、悪魔なら良かったって。人生でそんな言葉を聞く機会があるとは」
ははは、眼前の男は酷く乾いた声で笑う。なんて下手くそな愛想笑いなのだ。父の周囲に居た人々はもう少し器用に嘘をついて居た。
「悪魔なら契約次第で貴女の家族を蘇らせることも出来たのでしょうけど」
「悪魔には無理さ、あの人達は皆天国へ行っているだろうから」
「なるほど、では地獄に行く貴女はこれから永遠に孤独に苛まれる訳ですね?」
あんまりな言葉に手に持っていた量産品のネイルハンマーを握り直し正体の知れない男を睨む。だけど、そうか、確かに私は地獄に行くのだろうな。その手のモノは信じた事が無いが男の言う事は間違っては居ないだろう。
「そこで御影さん」
「名前で呼び合う仲では無かったと思うがね?そもそも名前は調べたのか?」
「えぇ、貴女の言うところの悪魔らしいですからね、私は」
話を戻しますと、御影さん。私も地獄に堕ちる様な身の上でして。良ければなのですが、どうせ今後の人生貴女死人同然に生きて行くだけでしょう?
「良かったら私と一緒にビジネスを始めませんか???」
他人行儀に自分の命を使い捨てるのではなくて、目的に向かって行動してみるのも今後の人生の選択としてはありだと思いませんか?
眼前の男が私に問う、あまりにも怪しすぎる。
「君はちゃんと自分で考えてそんな事を言って居るのか?それとも裏には誰かがいるのか?ビジネスと言うからにはある程度は両親と兄の見よう見まねで対応してあげられるとは思うがお互いの信頼関係の構築から始めるべきだろう」
「前向きな姿勢を示して頂けるだけ有り難いですよ、手始めに情報を売りたいのです、いかがでしょうか?価値が分からない相手には難しい提案ですが七星さんならば問題ないでしょう」
良いだろう、だが仮にここで私が君との商談、君が言うところのビジネス?に応じたとしてもだ、君が私の必要とする情報を持っているとは思えないがな?見ての通り、私はもう終わってしまっている。
「何の情報が出せると言うんだ??」
端的問い掛けた私の言葉に男は微笑む、今度は一見嘘とは見えない上手な笑い方だった。
「貴女の今後の人生の目標、それに足りうる情報です」
魔法少女スターゲイザーの殺し方ですよ。
「それが本当なら、私も興味があるが」
だが、あまりにも都合が良すぎる。人殺しの私に魔法少女の殺し方の情報を持ってくる見ず知らずの悪魔の様な相手なんて。君は私の幻覚か何かなのか?
「残念ながら単なる人間ですよ、だけれど貴女が抱えるその可能性をこの場だけで否定しきるのは私には難しい」
ですが、医者でも無きゃ確認出来ないですよ、医者にかかるにはお立場もあって難しい部分もあるでしょう?幻覚だと思うなら一旦その体で話を進めて頂いても構いません、いずれ私がちゃんと生きた人間だと確信していただける瞬間も来るでしょうしね。
まぁそれまでは、壁でも話すと思って適当な話して頂いても結構、なんなら悩みだって聞きますよ?
さぁ、安全な道を確保しています、お屋敷への道を案内致しますよ。そう言って血塗れの私の手を取る男に連れられて歩きだす。そうか、そうだよな。大事な事を聞いていない。
「父の口癖だ、ビジネスをするなら相手の目的をちゃんと把握するのが大事なんだと。君の目的はなんなんだい?その」
「先生と、仲間達にはそう呼ばれています。悪魔や、おい、や幻覚呼ばわりだけでは話辛いでしょう?」
「そうか、では先生。君の目的はなんなんだ??」
世界中を道連れにすることですよ、七星さん。
なんだかとても疲れていて、私は肝心な部分について聞くことを忘れていた。
道連れって、誰の?何に??
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