ずうずうと地響きが続く、超大型魔獣の投入により魔王軍有利のまま蹂躙される関東のとある街、キリーナ・ジーナスは自分達新入生練習班の引率である死にたがりの魔法少女を必死に地面に取り押さえていた。
周囲には怯えて小さく縮みこまるか諦めた様に必死に名前すら知らない何かに祈る学園の同級生達、満ちる負の空気に気持ちが萎えるがそれでもジーナスは微塵も諦めては居なかった。
「新人、何故邪魔をする、私がおとりになれば君達ぐらい容易に逃げる時間を稼げる」
魔法少女に選ばれると変身前の身体能力すら強化される。実際、ジーナスが必死に地面に押さえつけているこの少女も一見するとただの怪我人(それも大怪我人だ)であるにも関わらず、押さえ込んでいる状態から何度もジーナスは吹き飛ばされそうになっていた。入学以前から対魔法少女や魔獣を相手として想定したサンボを師匠に習っていなければここまで完全に押さえ込むことは出来なかっただろう。
現状の全てが変身を維持する体力すらなくなりただの少女に戻った死にぞこないでもおとり位は出来ると言う彼女の言葉、その明確な根拠となってしまっている。その事実がジーナスは酷く腹立たしかった。
「確かに、先輩のおっしゃる通りかもしれません」
「だったら」
どこまでも冷静な調子で言葉を続けようとする先輩に、ジーナスは感情的になると勝手に流れ出してしまいそうになる涙を堪えながら必死に言い返した。
「でもっ!!それじゃあ先輩が死んでしまいますっ!!そんなの!絶対に認められません!誰かの命で誰かの命が助かるなんてっ!!人間って!命ってそうじゃないでしょう!」
幸い今は魔獣の足音により彼らの言い争いは誰の耳にも届いていない、だがいつか、そのうち、物陰とは言え誰かの、もっと言うのならば魔王軍の構成要員の耳に届くかもしれない。そうなれば抗う余地などどこにもない、多少は訓練を受けていたところで誰かの騎士ですらないジーナスと、仮に素の身体能力が伸びていようと右足が千切れかかり右腕が折れ左腕は指の酷く削れ血を流し続けている少女。現状、この場に居るなかで戦う勇気のある人間は彼ら彼女ら二人だけだ。
しかもそのうち一人、本来なら全員の安全を保障するべき魔法少女の先輩は魔王軍の奇襲により完全に死にかけ、人間よりも死人に近い【死にかけている】それが【まだ死んでいない、だがこれから死ぬ】に変わるのはジーナスにとってどうしたとて避けぬばならない事だった。
その為には眼前の少女を黙らせねばならない、ジーナスは漠然と抱えていた覚悟をはっきりさせて深める、だが、たかが二歳年上の少女、本来なら何の痛痒すら感じず抑えきり必要なら失神すらさせられる筈なのに身体の下、関節と重心を服と体重の小まめな移動によって完全に制した筈の先輩魔法少女からの打撃で骨が折れ、ジーナスは酷く吐きそうな心地になって居た。
「イノチ命五月蝿い、命で命を助ける。それの何が悪い、死ぬべき人間が死ぬ。おかしな話じゃない、それが嫌だと言うなら君は生き延びて強くなるべきそして死にそうな明確に助けられる誰かを助ける、それなら私は喜んで死ねる、だから退いて」
一見氷の様な表情のまま、的確にジーナスの重心が揺らぐのに合わせて拘束を抜け出そうとしながら顎に拳を決めて来る少女にジーナスの気持ちは小さな少年に戻りただ必死に言葉を紡いでいた。
「嫌だ、絶対に嫌だ、誰かが死んでそれで僕や誰かが生き延びたって、そんなの何にも幸せじゃない、きっとある筈なんだ、皆で必死になって、血を流したって生き残れる道がある筈なんだ!!諦めない!嫌だぁ!諦めない!絶対に諦めない!!」
「そんなもの、ありはしない。そんな夢は夢でしかない、甘えた事を言う前に現実を知るべき。現状、君達が生き残って逃げ切る為に私がおとりになるのが一番確実」
「すみません先輩、そんなの、クソくらえですっ!!!」
ふー、新人、それは私が人殺しだとしても同じことを言える???
いや、評価伸びすぎじゃない?赤ワインのおかげ?