プロローグ
「悪魔と言うものは」
三人の男を引き摺るにはこの身体はあまりにも貧弱で、私の右ひじからはビキビキと人間らしい悲鳴が上がっている、それを私は徹底的に無視する。
「悪魔と言うものは聖書の衣に砂糖を振りかけて、いい香りのする文言でもって善なる者を誘惑するらしいがね、佐藤クン?」
放り投げた拘束された三人の男にヒィと目的の女が声を上げた、やりすぎただろうか?。
「君ならこいつらが誰なのか分かるんじゃないか?夢見の魔法少女、ドリーシープ。佐藤眠莉と呼んでも?個人的にはネムリさんと呼びたいが」
「……なんなんですか?貴方…こんなの犯罪ですよ?」
素晴らしい職業倫理だ、目の前の私と言う分かりやすい悪に対して魔法少女としての誇りを即座に取り戻している。構えられたマイク型メイス、彼女は格闘戦向きの魔法少女では無いが、それでもただの人間である私の頭をスイカの様に叩き割る事が出来るだろう。
「分かって居るさ、だが、ある意味での誠実さとして君には受け取って貰いたい」
構えが下がる、良かった興味を抱いて貰えた様だ。
「誠実?これが?こんなもののどこが一体誠実さなんです?」
「君の復讐の協力者としての誠実さ、君の肯定者としての誠実さ。その辺りかな?まぁつまりだ。君のお母さんへ捧げる復讐に協力させて欲しいんだ、もちろん君のお母さんは復讐等望まないだろう。誠実に日々を働き君を育てた、借金もせず苦労を厭わず、不正を行わず」
結果
「自殺に見せかけてこの三人に殺された、そうだろ?その辺りまではネムリさん、独力で調べがついている筈だ」
あぁ、目が変わった。いい目だ、獣の目、人を殺す生き物の目。
「ふふふ、良い眼だ、こいつらは君の為に用意したんだよ」
「好きにしていいとでも?イカレてる、それじゃあまるで私が」
一人目の男の首を掻き切る、
「君のお母さんが勤めていた工場の工場長。勤務記録を改ざんし、君のお母さんに過度にアルコールを飲ませ河に投げ込んだ内の一人、君のお母さんは体質の問題でお酒を一切飲まなかった。外道だ、大丈夫だよ、全て私のせいにすればいい」
彼女の目がぬらぬらとした光を帯びる、何も言わずとも怒りに震えているのが分かる。
「手を出さずとも良いさ、普段から君のお母さんに酷いセクハラを行って居たコイツは。酔わせた君のお母さんの写真を幾つも残していた本物の獣だ、コイツが撮っていた画像データはこの中にある。コレを然るべき機関に提出したならば君のお母さんの名誉回復の一助となる筈だ」
「もっとも、遺族の君は眼を通さない方がいいと思う」
成人男性の私でもかなり胸糞の悪い写真が沢山有った。そう言って私は型落ちしたデジカメを足下に置きインサイドキックで彼女の方に滑らすように蹴る。
君達魔法少女は人間の夢と希望を守るため日々命懸けで戦っている、だけれど君は知っている筈だ。人の形をした獣どもの何とこの世に多いことか
「私は知って居るんだ、君の中に抑えがたい獣の居ることを。君の中の煮え立つ怒りを。もし恩義に感じて貰えるなら私に少しだけ協力してほしい、夢見の羊、魔法少女ドリーシープ。私の為の魔女となれとは言わない、ただ少しだけ、私が力を貸してくれと言った時に力を貸して欲しいんだ。難しいかい?それとも、この場で私を八つ裂きにしてしまうかい?」
私は、君の中の全ての邪悪を肯定するよ?
そう言って私は二人目の喉を掻き切った。
ーーーーーー
私には前世の記憶がある、と言っても特に語るべき所のあるものでもない。ただ、強いて言うならば寂しい人生だったろうか?家族は居たが関わりは薄く、温かみには欠けた様に思える、真っ当に悪事を働かず生きて病によって壮年の近づいた年頃に死んだ。残す家族の居る人生では無かったし生来の家族も私が死んだとて各々きっとそれなりに幸福に生きていくだろう。強いて心残りがあるとすれば大好きだったインディーズゲームのアニメ化を待たず死んでしまった事だろうか?
魔法少女学園戦記
世界を滅ぼすべく異世界から攻め込んでくる魔王軍、そいつらから世界を救う為に魔法少女達が戦う学園SRPG。
主人公は魔法少女との契約により力を得る騎士として魔法少女との仲を深めて行き同じ様な騎士の級友やヒロインたちと魔王を倒すべく日々を送りその中で恋や青春を謳歌する。命がけの青春を送る魔法少女達の輝きは多くの人を魅了し根強い人気に十年の時を経てついにアニメ化に至った作品だ。評判がイマイチだったスピンオフ書籍化や一年でサービス終了したスマホゲームなど多くの苦難はあったもののそれでも着々と人気を積み重ねて行き、やっとの思いでアニメ化に至ったのだ。
その放映2ヶ月前に私は死んでしまった。
本当に惜しい、いっそあの世が有るのなら化けて出てやろうか。だがまぁ、死んでしまうものはしょうがないか。
死の床でそう思ったまま永遠に目を閉じた私が生まれ変わったのは、魔法少女学園戦記の世界だった。
来世と言うのか、今世と言うのか。幸せだった。押しが弱いが美人で家族思いの母、熱心に働いて居るが記念日や日々の小まめな連絡は欠かさない寂しがり屋の父。そして魔法少女に憧れる妹。病死した前世とは違う暖かな家、帰るべき場所と言えるモノの存在は二度の人生を通して私を幸福で満たすには充分であった。
「〇〇、その、調子はどうだ?」
「〇〇、仕事は順調?」
「〇〇お兄ちゃんが先生になるなんてねぇ?大丈夫?生徒に舐められてない??」
幸福だ、幸福だった、こんなにも幸せで良いのか不安になる位幸せで、だから、私は。
「ご家族は異世界軍との戦闘に巻き込まれ、天下の安寧の為の礎となられたのです」
そう言えばこんなシステムもあったなと、そう思うので精一杯だった。被害システム。基本的に市街地で行われるシュミレーションパートの中で敵と味方の攻撃で市街地に出た被害が換算され戦闘終了後の経験値と報奨の換算に影響を与える。
当然だ、そうだな。ビルが壊れたり公園が焼けたり。ゲーム上はそれだけだったが、そうだな、そうだ、それだけで済むはずが無いんだ。
私の家族はただシステムの一部として死んで、見知らぬ主人公達の経験値となったのだと、そう言う事なのだ。
「ははは、ははははははは、ははははははははははははははははh」
ふざけるな
ふざけるなふざけるなふざけるな!!!
殺すなら私だろう、死ぬべき人間が居るなら私だろう?大して意味もない二度の人生、何度も考えた。きっと私と言う命は本来生まれるべきではなかった命なのだ、それが妙な隙間を与えられそこに潜り込むように人生を送り、あぁ、幸福だった、幸福だったとも、だけれど一番幸福になるべき人達は私の家族だった筈だ!!暖かで本来の命を持った彼らだった筈だ!!!
それがこんな、こんな。
「…今日は、妹の誕生日でした」
やっと捻り出した私の言葉に、二人きりの霊安室で私を眺めていた女性自衛官は表情一つ変えず私に答える。
「現場でご家族を発見した魔法少女が言うには、妹さんを庇うようにしてご家族は折り重なっていたようです」
個人的な意見ではありますが、立派な最期だったと私は考えます。
そう言って彼女は部屋を出ていって、それからどれぐらい時間が経っただろうか。
私は必死に誰の戦闘に家族が巻き込まれたのかを考えていた。
「誰だ、原作の開始までまだ三年はあるこの時期に魔法少女だった連中??モブ魔法少女なら分からないがここまで大規模な戦闘、ネットで見る限り幹部クラスが出てきたと言うなら当然人類側も釣り合う魔法少女が出動した筈、誰だ?誰だ誰だ誰だ?街の惨状は?SNSを見る限り不自然な火災や硝子化現象は起きていない、何か超大型の動物に噛られた様な跡もない、あぁ、ビルが綺麗に二つに切れているなら出てきた幹部クラスはアイツか、なら必要以上に民間人を巻き込むような真似はしなかった筈、だったら、だったら!」
「魔法少女がやったとしか」
しかも状況から推測するにこの戦闘に出てきた魔法少女は
「魔法少女スターゲイザー、君なのか??」
前世の推しが、私の家族を殺したとしか
夢見の魔法少女ドリーシープ!彼女は頭をポンポンするか子守唄を聞かせた相手を眠らせる能力を持つぞ!!
低レベルユニットの内は眠らせた敵ユニットにクリティカルでメイスをぶちこむ撲殺羊だが、レベルが上がると対象ユニットの状態を1ターン前に巻き戻す代わりに眠りの状態を付与する能力を得る激強ヒーラーになるのだ!
能力の根拠としては対象の時間を五分だけ巻き戻し更に長くグッスリ眠れる様にすると言うもので、二次創作で大暴れするタイプのキャラだ!!
眼鏡おっちょこちょいだぞ!眼鏡掛けたまま眼鏡を探したりしている!!ドジだな!