日本史に関しては詳しくないのだが、仁徳天皇がその土地を「熱い海」と評した事から名前が決まった土地に私達は今向かっている、うろ覚えの知識に頼りたくなる程現状は私の不利、誰を相手に不利か?身内同然の私の魔法少女からの徹底的攻勢に対して不利と言う話だ、二度と聞くな(怒)
「先生、どうされたんですか?急に旅行に行こうだなんて、ユーリとしては先生の言葉に是非も無い訳ですが、その、正直気恥ずかしいと言うか、ユーリ、お泊まり旅行なんて初めてなので色々優しくして欲しいと言うか…」
熱海駅まで関西は新大阪駅から新幹線で大まか三時間、関東なら目黒駅から二時間位だろうか。目下一番の問題は隣の席で酷く上機嫌に鼻歌を奏でている私の自慢の魔女に実は今回の旅行はバチバチ完全に仕事だと伝えるタイミングを逃してしまった事だろう。
「ふふふ、先生、どうしたんですか?急にユーリの事を見詰めたりなんてして、何時もしかめっ面で新聞とかSNSを見ながら良く分からない事をブツブツ言ってるだけなのに」
私の自慢の魔女、ユーリ君。発育不全は幼少期の環境のせいだろうか?今年で十二歳になるにしてはかなり標準を下回る身体(後見人の贔屓目を含んだ言葉選びだ、彼女は現状ジェットコースターにすら乗れない成長具合である)で脚をブラブラさせながら私の腕に組みついてしなだれかかっている。
「いや、何だろうな、その、あー、なんだ、たまにはこういうのも良いかなと思ってね」
どうだい?彼女の顔を覗き込みながら車内販売の女性を呼び止め何処で作られたとも知れない高級なコーヒーと彼女に小まめに確認を取りつつ同じぐらい高級で産地の知れないオレンジジュースを注文する。
その全てが終わるまでの間考えて居た事は一つだ
(どうかこの車内の人間全員が私とユーリ君を通報しません様にっっ!!!)
どこからどう見ても犯罪の香りしかしない見た目でありながら完全に男女の距離感を無遠慮に醸して来るユーリ君に肝を冷やしていたが私の願いが通じたのだろうか、仮に神の様なモノが居るのならば私の様に超絶に年下の女性に苦労しているのかもしれない。兎も角、私達は無事に熱海駅についたのだった。
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「先生、一体いつまでここで海を眺めているつもりなんです?」
流石に夢見心地で居たユーリ君も何か変だと気付いた様で、ヤシの木が背後にぽつねんと立っているベンチに座り続ける私に抗議の声を上げ安物のジャケット袖をクイクイと引っ張る。
「ユーリ君、今から私は君に正直に全てを話そうと思う、だから怒らないで欲しい。もっと言うと泣かないで欲しい、約束してくれるなら全てを正直に話す」
「嫌だ、先生ソレすっっっっっっごくズルいですよ?分かってます?泣きます、地面を転げまわってユーリの人生の初めてを全て捧げたとか大声でわめきます、だからそれがいやだったら後ろの温泉宿に泊まりましょう、今調べたら星が二つ半らしいですよ!!先生!!おまけに温泉に関しては文句なしって口コミがこんなに沢山!!!」
そう言って私の右ひじをベンチに座りながら引っ張りつつこっそりと起伏に乏しい胸部を私の右ひじに擦り付ける。なんなら右の手首は厚手の黒タイツに包まれた太股と彼女の股座が織り成すゴールデントライアングルに挟まれており間もなく十一月に入ろうと言うのに非常に暖かい。はぁぁぁ…
「ユーリ君?」
別段起伏に乏しい女性の体に興奮する様な性癖は無いのだが誰からこう言う変な手口を覚えて来るのか、ネムリ君、君なのか?え、おい?大概にしろ、確かに君は歳の差の激しいボーイズがラブしている同人誌を愛していたと言うかなんなら愛用していたが異性愛に関して平行移動させてそのまま当て嵌めるのはあまりにもナンセンスだと誰か君に教えっ、いや、まぁ、居ないか、何と言うか意図せず暗い気持ちになってしまった。
「先生、そんな事仰らないで?ね?ただ温泉に浸かってまた明日から頑張ろうって、それで良いじゃありませんか?」
そう言って私に懇願するユーリももう気づいているだろう、水平線近く、距離の問題で小さく見えるが旅館らしき影が海の上に突然現れた事に。
【ユーリ、私の魔女、私をあの水平線の宿まで連れて行っておくれ】
雪国の山中、彼女の地獄の全てであるあの国の言葉で請願すれば彼女は悲しそうに跪き私の左手を取って口づけを薬指にする
「あぁ、ごめん、こんな身勝手を、だけれどあの宿に居る魔女は必要なんだ、私の目的の為に。ごめんよ私の魔女」
跪いて口づけを行う彼女を見下ろしながら私は言い訳としか表せない言い訳を口にする。そんな私を睨み付ける様に彼女が私の左手の薬指に噛みつき、犬歯により破れた皮膚を越え溢れ出た血を啜りながら唸る様に私の命令に答える。
【先生なんて大っ嫌い、嘘、大好き、】
れろりと彼女の舌が私の薬指を舐める。
【嘘、嘘、大嫌いなんて嘘、先生、大好き、先生】
彼女の唾液に乗せて思念が届く、私は右手で彼女の頭を撫でながらただ黙って彼女の抑え様の無い思いを受け止める。それしか無いのだ、最早まともな食事も受け付けぬ枯れ木の様な私の身体は復讐の全てを彼女に依存するしか道が無いのだ。
【先生、どうして?なんでそんなに魔法少女が憎いの?なんで私の事ちゃんと見てくれないの?先生、先生、先生先生先生先生先生先生先生先生先生、好き、貴方が好き、この世の何より好き、貴方が生きてくれるこの世界が好き、先生が教えてくれた全てが好き、先生の口から一度でもこの世に生まれた言葉の全てが好き】
「ユーリ、私の魔女、ユーリ。お願いして良いかい?」
「はい、先生」
「たった今から君には自分の全てを捨てて貰うよ?私の目的の為の道具になって貰う」
いいね?私の魔女、君は私の命令の通りに動いてもらうよ?これはその為の儀式だ。
「はい、先生、助けて貰ったあの日から、私の全ては貴方のモノなんですよ?そんな問い掛け、今更過ぎますよ、先生」