キリーナ・ジーナスは不服であった。
各種感知や未来予知すら可能とする魔法少女達の魔法によれば間もなく大規模な魔王軍の攻勢が予想されるとブリーフィングで報され、各魔法少女と騎士のペアが重要な任務を与えられる中、彼と優秀な彼の相棒に与えられた任務は前線から遠く離れた野良の、専門用語で言うところの潜在的魔女の捜索でしかなかったからだ。
「何を拗ねているジーナス」
すり鉢状の魔法少女学園の大講堂の中、ブリーフィングが終わり殆どの魔法少女や騎士達が出て行き、それでも大規模作戦の興奮に人だかりの生まれている。
その中を泳ぐようにして自分の横に来た人物に振り向こうともせずジーナスは答えた。
「百合華さん、すみません、少しだけ一人にしてください、今はなんだか冷静になれそうな気分じゃありません」
本人は知らぬところであるが、ジーナスは本編主人公の一人である。喜怒哀楽、そして王道の五つを背負う選択できる主人公達の中でジーナスは哀しみを背負う主人公であり、その生い立ちから来る慈悲と哀しみはともすれば彼を良く知らぬ人間からすれば一種頑固であるとか、もう少し意地の悪い表現をすれば意固地に彼を見せていた。
「君、自分のせいで私に対して意味の無い任務が割り振られたと自分を責めていた?」
そんないつも無表情で分かりづらい相棒の心配そうな声の指摘にジーナスは堪らず彼女の方を振り返る。
「違いますか?そうじゃ無きゃ貴女程優秀な人がこんな仕事を割り振られる理由が無いでしょう?」
褐色の肌に生来の白髪に近い色素の薄い髪、赤身がかった瞳にうっすらと涙すら浮かべながらジーナスは自分の敬愛する相棒を睨んだ。氷結の魔法少女フロウリリー、ストーリー上存在する彼女彼らの物語を経た二人は深い絆で結ばれていて、だからこそジーナスは明確に自身の優秀な相棒を軽んじる様なこの采配が許せなかった。
「違う、ジーナス、今までにこの任務で6組ものペアが帰還不能に陥ってるとしたらどうする、それ程危険な任務だから私達が選ばれた、君は優しそうな見た目のわりに直情的で深く考えようとしていない」
「どういうことです?6組も?そんな事あり得るんですか?」
魔法少女の能力は各々の個人的な心の形に影響を受けると言うのは学園で魔法を学ぶ時最初に教わる所である、故に魔法少女の魔法は千差万別同じものは無く、だからこそ充分に訓練を受けた6組もの魔法少女が戻らなかったと言うのはあり得ない話だった。
仮に1組2組はたまたま魔法の相性で一方的になぶり殺しにすることが出来たとしてもそんな偶然が6回も続く筈がないのだ、誰かは後に続く魔法少女と騎士の為、何らかの情報を残す筈。今更ながらジーナスは自分の認識が酷く感情的で愚かなものだったと気付き始めていた。
「漸く気付いた様で良かった、本当ならこの仕事は拗ねる時間より遺書になんと書くか悩むような任務」
フン、と一見すると無表情のまま呆れた様に鼻から息を吹く相棒に慌ててジーナスは自身の認識を改めるべく頬を強く何度も叩く。バシバシと大講堂に鳴り響くその音、フロウリリーは何処か嬉しそうに殆ど無表情のままその音を聞き自身の自慢の相棒が気合を入れなおすのを見詰めていた。
「だけど、そんなに危険な任務だとしたら大丈夫なんですか?今回の任務、僕たちの他はサポートにパートナーの騎士も居ない魔法少女が一人つくだけだって言ってましたけど」
「ふふふ、相棒、君は優しい人だがあまりにも魔法少女と言うモノを知らなすぎる、心配。逆、今回私達は彼女のサポートにつけられた」
最強の一角、不死鳥の魔法少女が全てを解決する。私達はただ熱海に向かい彼女に求められた仕事をするだけで良い。
「理解??」
そんな相棒の問いに、ただジーナスはこくこくと頷く他無かった。