『ちさたき』を特等席で見るために 作:セーフハウスの窓
私は今、日が暮れた中廃墟ビルの側で外から様子を窺っています。
なぜかと言えばついに私の初任務の日が訪れたからです、任務内容は潜伏したテロリスト集団への襲撃!
……いや、とてもじゃないけど6歳の子供にやらせる事じゃなくね?
私にとって初任務であり、それがテロリストの襲撃……難易度が高すぎない?普通はもっと単純に単独犯狙いとかじゃない?
しかし幸いなことに
とはいえ、任務開始前にして震えてきやがったぜ……まあ流石にここまで危険な任務が初だとは想像もしてなかったし。
「流石のゆかりちゃんも初任務は怖いかしら?」
見かねたペアであり先輩のファーストリコリスの人が話しかけてきてくれた。
ちなみにこの人が私が唯一北海道支部のリコリスで私が負け越してるベテランさんで、この人がいれば任務失敗はないだろうと言える、それくらい強い人。
正直この人もだいぶ人間卒業しかけてると思う、反射でも筋肉の動きを見てるとかでもなく経験から来る勘で射撃を避けるのはどうかしてる。
「これは武者震いってやつですよ、この私の初任務ですから」
ビビってる内心を隠して不敵に笑いながら応える。
なんでそんなことしてるのかって言えば有能アピールすることで本部招集を狙っているからだ。
私の身体操作は表情も当然その範疇に含まれているので作ろうと思った表情を作れるし、出したくない表情は出さないようにできる。
じゃあなぜ震えてたかって?
私にもわからない、震える腕を抑えられなかった、制御しようとした体が言うことを聞かないなんて経験はこの体に生まれ変わってから初めてだ。
「頼もしいわ、それじゃあ任務内容は頭に入ってるよね」
「はい、私は上層の窓から侵入して襲撃」
「その通り、私は真正面から陽動を兼ねて襲撃、挟み撃ちの形ね」
実に脳筋な作戦だが、それをやれるだけの実力が私と先輩にはある、それがこの作戦が採用された理由だ。
というかこの人一人でも余裕で制圧できる、それが赤服、つまり今日私は引率の先生付きでピクニックに行くようなものなのだ。
そう思ったら体が軽くなったような気がする。
突入前に装備の最終確認を行う。
私のメインアームはM1911A1コンパクトのカスタム銃、グリップのパーツを削りスリムに仕上げている。
そうしないと私の手じゃ握れないからね……
装弾数は6発、チャンバー内に事前装填しておけば更にプラス1発。
弾はフルメタルジャケットの45口径と通常の物を使用、予備マガジンも問題なし。
サプレッサーもすでに装備しておく。
こんな見た目でも防刃、簡易防弾と万能な制服に解れ無し。
格闘戦用のナイフも良し、砥いだばかりなのでよく切れるだろう。
フラッシュとスモークグレネードもそれぞれ良し。
そして今回使う特殊装備のグラップリングフックも来る前に整備したので異常なし。
それらすべてをカバンに詰めたことで全装備の点検が完了したのと同時に作戦開始時間となる。
先輩と互いに頷き合い、先輩は正面へ私はビルの側面へと回る。
屋上にあるフェンスへと照準を合わせてトリガーを引くと拳銃型のフックショットからグラップルが射出されて引っかかる。
念の為下からグイグイと引くが外れたりフェンスが壊れるような様子もなく問題ないと判断した私はロープを掴み、垂直な壁を勢い良く登る。
通常であれば一歩ずつ踏みしめるように登るのだが、ロープがしっかり固定されているなら何ら問題はない、私の身体能力なら一気に登る程度造作もないことだった。
目標の高さまでたどり着いたら突入予定の部屋内部に人がいないか確認をして、壁を思い切り蹴って振り子のように窓に体当たりをして中へ突入する。
その際にガラスの破片が目に入ったりしないように目元を覆うことも忘れない、体は防刃性能付き制服があるので問題ない。
「先輩、こちらは到着しました、そちらは?」
《さっすが速いね、相手は情報通りマシンピストル及び拳銃で武装、正面にもバリケードが築かれてて少し苦戦中》
苦戦中とは言っているが声はまだまだ余裕そうで、おそらく私の引率として来ている分本気は出さないようにしているのだろう。
なんせ赤服らしく並みのセカンドリコリス複数人を相手して問題ないのだ、今更テロリストごときに苦戦する人でもなかろう。
とりあえず下からの襲撃者への対応でてんやわんやのテロリスト達に後方から奇襲を仕掛ける。
階段を下り廊下に出る前にクリアリング、通路には人影なし……と。
「襲撃者が一人だと?そんなわけあるか!何人やられたと思ってんだ!」
「どこからここの場所が漏れやがったんだ!」
「とにかく武器と爆弾を纏めろ!移動するんだ!」
近くの部屋の中から無線か何かで指示を出す声、というよりもはや怒号が聞こえてくる。
カバンからフラッシュバンを取り出して慎重に声が聞こえた部屋へ、そして扉の前でピンを抜きながら室内へ強行突入して室内の状況確認。
「な、なんだこのガキ!」
突然部屋に飛び込んできたのが10歳にも満たない子供だと知って動揺している様子が分かる。
室内にいたメンバーは4人、マシンピストルで武装しているいかにもチンピラみたいな奴が二人と、しっかりと防弾装備に身を固めたリーダー格の人物が二人。
この二人の顔は事前に与えられた情報で見た主犯格の二人と一致する。
チンピラより優先して潰すべきは主犯と判断してフラッシュバンを部屋の中央へ投げ捨て、私は近くにあったテーブルを蹴り倒し背を向け耳を塞ぎながらしゃがみ込む、テロリスト達も慌てて避けようとするがもう遅い、すぐにグレネードは起爆する。
保護しても多少三半規管はやられるが、そんな程度で制御を失うほど私の体はヤワじゃない、すぐに片膝立ちになってテーブルから頭と銃だけを出して即座に主犯の男二人を狙ってトリガー。
頭を狙って殺すのは容易いけれど、無力化して生きたまま捕らえる方が本部の印象が良いだろうと思い狙いはそれぞれ腕と脚にした。
トリガーは4回、二人の上腕と太腿にそれぞれ1発ずつを撃ち込むと二人はうめき声を出しながら倒れこんだ。
残ったチンピラ二人は……別にわざわざ生け捕りにする必要もないか、それぞれ頭を狙って弾丸を叩き込むと丁度マガジン内の弾が尽きてホールドオープンになったので新たなマガジンを差しこむ。
念の為部屋に隠れてる奴がいないか確認したら、生け捕りにした男達にあの千束達が使ってたワイヤー拘束する銃、ボーララップを巻きつけ手足を使えないようにした後簡易的な止血を施す。
せっかく生け捕りにしたんだから失血死なんてされたら困るからね。
「クソッ!こんなガキの殺し屋がいるなんて聞いてねぇ!」
殺し屋だなんて失礼な、やってることは確かにそうだけどこれでも平和のためのお仕事なのだ。
とりあえずまだまだ元気そうだったので蹴りを叩き込んで気絶させておく。
「先輩、リーダーの男性二名を捕獲しました、そちらはどうですか」
『ゆかりちゃんやるぅ!抵抗は散発的になってきたね、あと2、3人も居ないかな?』
さすが先輩、やっぱり私要らなかったんじゃね?
このまま行けば私の初任務もつつがなく終わるだろう。
6歳にして初任務でテロリスト制圧、更に主犯格二名の捕獲……これは大戦果と言っていいんじゃないか?
支部の司令にも本部へ異動したいって話しもしてるし、この調子でどんどん成果を上げて──
「死ねやクソガキ!」
──本部を目指すぞ!
なんて考えながら外へ出て下へ向かって先輩の援護をしようと思っていたら、別の部屋に隠れていたのかあるいは下の階から上がってきたのか、テロリストの一人が待ち構えていた。
しかも手に持ったマシンピストル─形状からしてMAC10─の銃口は既に私に向けられており、トリガーも今まさに引かれた。
このままでは、死ぬ。
そう思った瞬間、まるで時が止まったかと錯覚するほど景色がゆっくりになる。
銃口から今まさに飛び出そうとする弾頭も、花火のように散るマズルフラッシュも目で追うことが出来る。
普通の人間ならばこの景色が遅くなったところでどうにもならない、すべてがゆっくりに見えているように自分の体もゆっくりと動くのだから、結局のところ反応は間に合わない。
しかし私は違う、人知を遥かに超えた反射神経を持つ私だからこそ、私は私の体を最も自在に操ることができる。
普通に避けても間に合わないと判断した私は左手で壁を殴りつけた反動も使って横へ飛びながら銃を向ける。
続々と私がいた筈の場所を弾丸が通り抜けていくのを見送りながら弾をお返しする。
体勢も悪ければ片手で握るにはまだ大きすぎる拳銃なのも相まって一発で殺しきる様なことは出来なかったが、腹部に着弾して射撃を止めることには成功した。
その瞬間時の流れが元に戻り、そして同時に体中をアドレナリンが、とてつもない快感が駆け巡るのを感じる。
私は勝った。
私が生き延びた!
死が目前に迫った危機的状況をすり抜け、戦いに勝利した!
体を起こし男のそばへ行き頭に照準を合わせる。
「私の勝ち」
「ば、バケモンが……」
トリガーを引き男の命を終わらせる。
あぁ、なんて甘美な感触……
おそらく骨が折れてるだろう左拳の痛みすら、勝つために負った怪我と思えば心地よい。
今まで胸の奥底に溜まっていた不快感の正体を今ここで理解した。
ずっと私は物足りなかったのだ。
手加減をして挑まなければならないことが。
使用する弾薬が実弾ではないことが。
なにより……本当の命のやり取りが無かったことが。
早い話が私は戦闘狂らしい。
それもただ戦えれば良いわけではない、自分のすべてを振り絞り、どちらが死ぬかわからない命がけの死闘を演じなければ私の体は満足できないのだ。
だからこそ私は私の体を意のままに操れるし、体のリミッターが存在していない。
その欲求が今初めて満たされた。
その証拠にあの胸の不快感が今は全く無い。
相手は格下だったとはいえ私の不意をつき死ぬかもしれないと″思わせてくれた″。
《ゆかりちゃん聞こえてる?ゆかりちゃん?》
「あぁ先輩、すみませんちょっと油断して奇襲を受けましたがこちらの階は制圧できました」
《よかった、上の階からとんでもない音したからなんかあったのかと思ったよ、こっちも掃討完了したし帰還しようか》
「はい、先輩」
これは厄介な体質だ……リミッター以上に……
なにせ普段はコントロール下にある筈の表情すら取り繕えない、きっと今鏡を見たらとてもじゃないが正義側の人間が浮かべてはいけない笑顔を浮かべているだろうというのがわかる。
今思えば任務前に震えていたのもついに実践へと出られるという歓喜の震え、すなわち本当に武者震いだったらしい。
え、私本当に大丈夫?リコリス追放されたりお尋ね者にされたりしない?
私はこれからこの衝動と付き合っていかなきゃいけないのか……
先輩
サードリコリスから叩き上げでファーストリコリスになった人
蓄積された経験から勘で射撃を回避してくる本物の化物の一人