黒い刺客に成り代わったブルボン推しがデビューを1年ゴネる話   作:ィユウ

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新年最初の投稿です。そして祝、10話目突破。

無料10連でサポカSSRを何も引けず、育成ウマ娘の方も中々星3が引けずにいるので祈願という意味も含めた投稿。

タイトル詐欺になりかねない展開がずっと続いてたので、ここで半分回収しておきます。


PAGE:10 『RE/STORE ここからが本番』

「トゥルットゥットゥットゥー……休みはどこに巡ろっかなーっと」

 

 機嫌よくスキップをしながら寮の廊下を移動するライス。

 

 チームのトレーニングに明け暮れる中、与えられた完全オフの日を楽しみにしているようだったが、トレセン学園のルールにおいて生徒が無断で学園外に出かけることは禁じられており、プライベート等の理由で外出するには寮長の許可を必要としていた。

 

 そこで彼女の左手につままれていたのは外出届の書類であった。補足するなら門戸はさほど狭くなく、大まかな出発・帰還時刻と、行動範囲や動機などを記せば大抵はOKが出る。

 

「ただいまー、ロブロイさん」

 

「あ、おかえりなさい、先輩」

 

 自室にたどり着いたライスはロブロイを一瞥すると、早速書類を書き上げてしまおうと筆記用具を引っ張り出して紙を机に置き、椅子に座ることもせずに記入していく。

 

「買い物ですか?」

 

「うん、色々と欲しいものが出来たから今度はあちこち巡ろうと思って」

 

 最近はよく外出していたこともあり、ロブロイは慣れたように訊いてくる。

 

「ええと、雑誌とか、ぬいぐるみとか、あとついでに一人カラオケもしたりとか……」

 

「はぁ、随分贅沢なさるのですね」

 

 指を折りながら目的を列挙していくライスに対し、驚きながらプリントに記入されていた日付を盗み見ると、ちょうど自分の休息日と被っていることに気付いたロブロイは、数秒の間逡巡したあと同行を申し出てみることにした。

 

「ええと、もしよろしければ、なんですけど、その日は私も空いていて暇をしていたので……その外出、私もついていってもよろしいでしょうか?」

 

 とはいえ言った直後にやはり不躾だったかと思い、ご迷惑でしたら今度で構いませんので……と小さく付け加えるが、すぐに表情を笑顔に変えたライスはこう応えた。

 

「うん、もちろんだよ! ロブロイさん!」

 

 するとプリントに向き直って記入事項の調整を行い始めたライスに安堵して礼を述べたものの、ロブロイは肝心なことを忘れていた。

 

「じゃあロブロイさんも外出届持ってこないとね」

 

「はっ、そうですね」

 

 盲点を突かれ、やることリストにプリントの確保を放り込んだロブロイ。しかし扉に足を伸ばそうとしたところで、ライスに待ったをかけられた。

 

「あっ、でももともと色々買い集めるつもりのお出かけだから、ロブロイさんにつまらない思いさせちゃうかも……」

 

 もともとのテーマがデュオ向きではなかった、と懸念を口にしたライスに対し一瞬言葉を詰まらせたロブロイだったが、引き下がる気はもとよりなく、クワっと気を込めた彼女はすぐさま発言した。

 

「面白そうだからついていくのではありません。プライベートをただ──」

 

 句読点によって一瞬、間を空けてしまった。それが命取りだった。そのたった一瞬の間に先輩後輩の関係を視野に入れてしまったロブロイは勢いをここまでしか持たせられず、用意していた台詞、いや名詞と言うべきか。それが適切であるかの確信を失い、代わりの言葉を探そうとして声が塞き止められてしまったのだ。

 

「と、友達と過ごしたいから……ではいけないでしょうか?」

 

 結局目の前の相手との関係を形容する名詞がそれ以外見つからずに発言を強行するも、着地点が大幅にズレ込みながら言い切ると、ライスは苦笑しながら言葉を返してくれた。

 

「ううん。じゃあとことん付き合ってもらうね、ロブロイさん!」

 

「は、はいっ! よろしくお願いします!」

 

 しかし羞恥にも似た緊張が限界に達したロブロイは、カッと熱くなった顔面を隠すように踵を返し、そのまま部屋を出た。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「行こう行こう! ロブロイさん!」

 

「わわっ、ちょっと待ってください」

 

 お出かけの当日、いつになくノリノリなライスにロブロイが引っ張られる形で、二人は書店に入っていく。

 

 入店するや否や真っ先にスポーツ関連のコーナーに駆け込んだライスは、すぐさま目的の雑誌を発見した。

 

「あった! 『二冠ウマ娘 ミホノブルボン特集』!」

 

 表紙に愛しの愛バが全面的に主張されたそれを手に取ると、他にも直近で行われたGI──主に日本ダービーの──特集の雑誌などを次々カゴに放り込む。

 

「え、え? これら全種類買うんですか?」

 

「もっちろん!」

 

 困惑気味なロブロイの問いにウキウキになりながら返すと、ついでにネクストブレイクと銘打たれたデビュー間近ウマ娘たちの特集雑誌をカゴに放り、次はロブロイの守備範囲である伝記、物語ジャンルのコーナーに行こうと誘った。

 

(はは……いつもは逆だったんですけどね)

 

 ライスから見た自分はこんな感じだったのだろうか。普段と一風変わった様子の先輩を前に首元を掻きながら歩み出すロブロイであったが、一日はまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 書店を数軒巡ったあと、ゲームセンターに入った二人は、ウマ娘を象ったぬいぐるみを封入したクレーンゲームに興じていた。

 

 萌え系のグッズを血眼になって獲りにいくという、前世の自分であれば少々気恥ずかしく感じる行為ではあったが、ウマ娘という外見がその辺りのハードルを取り払ってくれた。

 

「もっと奥、もっと奥……そこです!」

 

「オッケー!」

 

 機体の側面から見張るロブロイの合図に合わせボタンから指を離した。アームを開き目標に向かって降下していくクレーンを、固唾を飲んで見守る。

 両脇からガッチリと対象を挟み込んだクレーンはやがて上昇し、初期位置に移動していく。

 

「よっしゃ取れたぁ!」

 

 そのままクレーンから取り出し口へ落ちてきたターゲットにガッツポーズを取るとすぐ手を伸ばし、ひとしきり眺めると頬をこする。

 

 戦利品の正体はもちろんミホノブルボンを象ったぬいぐるみである。ゲームでよく見るぱかプチとは異なり、まるで絵文字から抜き取ったようなシンプルな顔立ちをしていたそれは、アニメでテイオーがクレーンゲームに興じる隣に確認されたシリーズだ。

 覚えている限りではヒシアマゾンやオグリキャップのみしか映っていなかったが、他にも存在するのではと探し回った結果、やはりあったのですぐさまトライした。

 

 クレーンゲームは無策で挑むと苦戦するという前世からのイメージがあったので、500円硬貨二枚で済んだのは幸運と思えた。

 

「よかったですね、先輩……あ!」

 

 労いに駆け寄ったロブロイが、驚くようにここではないどこかに指差していた。

 

 その方向を見やると、手のひらサイズまで縮んだぬいぐるみらが入った別機体があり、そこには当然ミホノブルボンの姿もあった。

 

「これは……ふ、やるしかねえなァ……オイ」

 

 思わず自分を偽る仮面を被ることを疎かにしてしまうほどの興奮に包まれつつ、片腕をグルグルと回しながら歩み寄ってゆく。

 

 その形相はロブロイ曰く『刺客』そのものであったという。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 とあるカラオケボックス。お出かけの締めとして入店した二人はソフトドリンク片手に歌唱に明け暮れていた。

 

「恋は~ダービー! 胸が~ドキドキ~、あぁお祭ーり騒ーぎだ~!」

 

 ライスが歌うのはテイオーのソロソングとして知られる『恋はダービー』。

 これは東条にライブパフォーマンスを仕込まれる中で気付いたことだが、ウマ娘の声帯を得た今、高音を求められる大抵のアニメソングを原曲キーで歌えるのだ。

『WINNING THE SOUL』を始めとするライス未歌唱のウマ娘楽曲も例外ではないことに気付くのに時間はかからず、思い付く限りのGI用歌唱曲などを打ち込んでは歌っている。

 

(あぁたんのしいっ! 爽快っ!)

 

 ファンとしてはこの肉体がもたらす中で最上級とすら言える恩恵を、ただひたすらに享受した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 その後、カラオケボックスを出た二人は、夕暮れに迎えられながら帰路についていた。

 

「フーフーフーフン、フーフンフン、フフンフフーフフフンフンフン……」

 

 手足が生えたガラケーが踊る姿を脳裏に想起しながら、鼻唄を歌うくらいにはご機嫌なライス。

 

「えっとその、楽しかったですね。今日のお出かけは」

 

「うん! とっても! 相当! ものすごくっ!」

 

 そんなにですか、とライスの勢いに気圧されるロブロイ。

 同室として生活すること二年となるが、素面でこれほど感情を剥き出しにしているのを見たのは初めてかもしれない。

 

 それにしても──。

 ロブロイはふとライスの両手にぶら下がる袋を見やった。

 右手に雑誌、左手にぬいぐるみの集合体を詰め込んだそれらは、ほぼすべてが特定のウマ娘を扱ったものであった。

 

「その中に入っているもの全部、ブルボンさんのグッズですよね?」

 

「うん、そうだよ? ほら」

 

 ライスはそう言うと、パンパンに膨張している左手の袋の口を開く。

 

 ベッド周りに置き回るんだ、と楽しげに語る彼女を前に、ロブロイはある一言を思い出す。

 

 ──今は色々貯めてるの。二年後まで、その時まで待たなきゃいけないんだ

 

 かつて自分が入学して間もない頃、寮内のライスのスペースに最低限の日用品以外存在していなかったことを不思議がって訊いたときの返答だ。

 

 思えば彼女のスペースに物が増え始めたのは、あの時からちょうど二年後にあたる今年から、いや正確には昨年末ごろであった。

 

 最初は誰かに押し付けられでもしたのかと思っていたが、今日の様子を見る限り彼女の待つ二年後は既に始まっていたのだと確信に変わった。

 

「かなりひいきにしているのですね」

 

「もちろん! 私ブルボンさんの大ファンだから!」

 

 ライスはそう誇らしげに語る。

 ミホノブルボンといえば朝日杯FS、皐月賞、ダービーというGI3勝を含め計6勝、それも無敗のまま快進撃を続けるニュースターウマ娘だ。

 スプリンターの血統ながら、血の滲むような特訓の末にそれを乗り越えているというフィクション染みたバックストーリーや、前年でテイオーが故障離脱により達成できなかった『史上二人目の無敗三冠』という称号に手を掛けようとしている事実も手伝って、彼女の人気はもはや社会現象級とすらいえた。

 

「ふふ。まぁここまで物語の英雄染みた方も珍しいですからね」

 

「うんうん、それにね、サイボーグ感あふれる無機質キャラなのに意外と抜けてるところも多くて──」

 

 すると、どこから仕入れてきたのかわからないブルボンのお茶目なエピソードをひたすら乱発しだしたライスに、二つの意味で驚愕を隠せないロブロイ。

 

「──でも、ものすごく頑張り屋で、誰よりも努力してるから。私は大好きなんだ」

 

 やがてレースの方に話題が移ってもそのまま語り続けたライスが話を結論付けようとしたとき、異変が起きた。

 

「──だからね、三冠を獲るのはきっとあの人なんだよ。なんたって私が居な──」

 

 そこで急ブレーキをかけたように声を体内に引き戻したライスは、台詞を土壇場で差し替えた。

 

「──ぃぁっ、わ、私に言わせれば、あの人を倒すには実力だけじゃ足りないから。膳立ても何もかもを踏み潰す覚悟が必要だから」

 

 慌てて言い切ったライスの顔色は、先ほどの高揚が嘘のように青ざめていた。

 

「その、たくさんの人に応援されてるから、応援のパワーっていうの? なんかスポーツで言うホームやアウェイとかそんな感じのハンデを背負わなきゃいけないし、これだけの人気なら勝ったあとだって大変になるの。なんで三冠の邪魔するの、って言う人はきっと少なからず居るし」

 

 つらつらとブルボンを倒すために障害になるであろう事柄を挙げていくライスだったが、これより後の言葉はロブロイはあまり覚えていない。

 

 ライスの持論は、なるほど納得はできるしもっともであると言えた。しかし彼女が言いたいのは本当にそんなことだったのだろうか。

 

 数年共に暮らしても、外出を一日共に楽しんでも、未だライスシャワーというウマ娘はロブロイにとってまだまだわからないことだらけだった。




偽ライス君「やべ調子乗って口緩みすぎた」

次はようやくデビュー回。
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