黒い刺客に成り代わったブルボン推しがデビューを1年ゴネる話   作:ィユウ

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レースをやりますが、前半の実況台詞はほとんど原作のコピーだったりします。ライスを抜く以外あまりやることがありませんでしたので。


PAGE:12 『RE/SPECT 成就─菊花賞─』

 自分で望んだので仕方ないことだが、レースにまつわる諸々の肉体労働と、生徒会の頭脳労働を両立するのは難しい。

 

 初めてのレースから2日経ち、休養をある程度終えたことで再び事務作業に加わることになったライスはそんなことを考えていた。

 

 ルドルフは外回りに出て、ブライアンはいつもの如くサボりを敢行し、それを血眼になってグルーヴが捜索に出かけて……といった流れでひとり生徒会室に取り残されたために、誰の声も聴けず退屈していたのもあったのだろう。

 

 こういうとき頼りになるのはテイオーだが、彼女はそんな日に限って来ない。それでも誰か訪ねてこないだろうか、と願っていると、意外にも救いの手が差し伸べられるのは早かった。

 

「失礼。リギルの東条よ。ブライアンとライスはいるかしら?」

 

 ノックののち聞こえてきた声は、自らの師のものだった。

 短く返事をして迎え入れると、見回すうちに在室者がライスしかいないと気付いた東条は頭を掻きながら連絡事項を伝えてきた。

 

「来月、貴女とブライアンを連れて偵察に出ることになるわ」

 

「ほう」

 

 開口一番に放たれた要件に、思わず洩らす。確定事項として告げられたのは予想外だったが、11月に見に行くものには心当たりがあったライスは詳細を探ることにした。

 

「偵察というと……行き先は京都ですか?」

 

「ええ、菊花賞よ。貴女にとっては一番確認しておきたいレースの筈だから」

 

 やはりか、と考え込んだライスは、次に起こすべき行動を導き出すとすぐさま返答する。

 

「ならブライアンさんを探さなければいけませんね」

 

「そうね。心当たりはあるかしら?」

 

「うーむ、サボりの途中に電話に応じる方とは思えませんし……ひとまずトレーナーは屋上を探ってください。私は外の適当なところを探してきます」

 

 進展があれば連絡を取り合おう、という旨を告げ、書きかけの書類を定位置に追いやると、東条と別れ外出した。

 

(さーて、久々のガチシークだな……)

 

 ブライアンのサボりをグルーヴに通報することは少なくなかったが、大抵外回りの最中に見つけることが多かったので、本気で探そうと思って探すのはさほど多くなかった。

 

 いつもなら2回に1回くらいは見逃してやるのだが、今日はタイミングが悪い。必ずブライアンには来てもらう必要がある。生徒会室を離れる、とだけ生徒会のグループチャットへ投稿すると、人通りの少ない場所を中心に巡っていくことにした。

 

 

 

 その後、ライスらより先にブライアンを発見したグルーヴと挟み撃ちにする形で彼女を捕らえ、共に生徒会室に戻りながら偵察の件を告げた。そのとき若干細められた瞳には、サボりを阻まれたことへの煩わしさがあったのか、渇きを満たす強者への期待があったのかは、ライスには判別がつかなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 京都レース場パドック。国内最高峰のグレードであるGIに属するレースへ出走する猛者たちが、世界にひとつしかない各々の勝負服を纏って姿を現していた。

 

『さあ続いては既に二冠を掴み、無敗三冠という偉業に手をかけようとしている圧倒的1番人気! 7番ミホノブルボンの登場です!』

 

 主役の登場に、ボルテージの上昇具合は留まるところを知らず。この場にいる何千何万もの観客や、このレースを液晶越しに見守る者たちなど様々な想いが、ここ京都レース場に集約されているかのような盛り上がりだった。

 

 このレースの観戦のために府中からやってきたリギル三人は、観客とは一歩引いた位置からそれを見守る。

 

「中々な熱気ね。去年のテイオーのダービーと同等……いや、それ以上よ」

 

 教え子二人の間に立つ東条は思わずそう溢す。去年メンバー全員を引き連れてダービーを観たときとは、一線を画す熱狂ぶりだったからだ。

 

「……ふん」

 

「これが、私が走るはずだった舞台の……空気……?」

 

 寡黙なブライアンとは対照的に、ライスはこの熱気に圧倒されているらしい。メンバーの中で最も新参の彼女は、去年のダービー観戦には同行していない。もしプライベートなどでレース場に赴いたことが無いとすれば、これが初めての生のGI観戦ということになる。

 しかし発言にあたって過去の助動詞を誤用しているあたり、相当動揺しているようだ。

 そのあたりの耐性の付与がいずれ必要か、とプロファイリングしたところで、出走者全員の顔見せを見届けると東条らはその場を後にした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『さあ、いよいよ、いよいよ始まろうとしています。クラシック三冠レースの終着点、菊花賞! 我々は今年こそ、偉業の目撃者となるのでしょうか? その答えが、この京都の地で今より示されます!』

 

 開幕を告げるその一言で、レースの結末を一目見んと集った観客たちの熱気はピークを迎えた。

 

 東条やブライアンと居る内に、ようやくこの空気に体が慣れ始めてきたばかりのライスは立ち眩みを起こしかけるが、どうにか踏ん張る。

 

 やがて平静を装える程度まで持ち直した彼女は、ターフに視線を固定する。

 

「このレース、ブルボンが予想通り圧倒すると思う?」

 

 ふと東条から投げられた質問に、ライスはわずかに考え込む──ブライアンは興味がないようだったが──。

 いちファンであり、その最大の懸念分子を自ら取り払った身としては是と答えたいが、無論万が一もあり得る。そこで彼女は、一人のウマ娘を挙げることにした。

 

「12番次第じゃないですか?」

 

 ライスが口にしたバ番に入るのは、会見にて打倒ブルボンを掲げ、先頭は渡さないと大啖呵を切ったウマ娘だ。名は違ったが、彼女の正体については心当たりがあった。

 

「ほう。確かに彼女は重賞2回の優勝を果たしている身だけれど、それは2000m以内の話よ。上振れを期待するとしても、果たしてブルボンに勝てるほどかしら?」

 

 どこか挑発するような声色で、そう問うてくる東条。

 わかってるくせに、と内心で毒づいたが、突っつかれては語らずに居られないライスは息を吸い込むと持論を展開しだす。

 

「ええ、勝つかと問われれば可能性は低いと言うほか無いでしょう。しかし勝ち負け云々の問題ではなく、その存在自体がブルボンさんにとって厄介になり得ます。邪魔が入らない先頭に立って一定のペースを保ちながらスタミナを適切に使いきる戦いをする……いやしなければならないあの人には、それより前を行かれる大逃げはまさに天敵ですからね。道中で持久力を失えない以上、スタートから独走するか競り合いうかして封殺する手段は取れないし、自滅を待つにしてもレース展開をハイペースに歪められていればそれもままなりません。そこをライ……失礼、タンホイザさんか誰かに突かれて勝ちをふいにする可能性だって十分にあります。要は掛かりのリスクをほぼ確実に突き付けてくる恐ろしさを12番の方は持っているということですね。そうなればブルボンさんがどう妥協していくかという点に今日のレースは焦点が置かれることになるのですが、今年に入ってから誰も前に立たせることなくレースを勝ち続けているワケですから、最前列での駆け引きについてどれほど適性があるか未知数であって──」

 

「ええ、もう結構よ、ありがとう」

 

 うんざり顔の東条の一声で発言をシャットアウトされたライスは、不満気に頬を膨らませる。

 

 やがてほとぼりが冷めると、ひとり出走表を取り出し眺めだす。詳細を把握していないワケではなかったが、なんとなくもう一度確認しておきたかった。

 枠番などを見て回ると、ブルボンやタンホイザはそれぞれ7番、10番と史実通りの位置だった。そして次に本来自分が納まるはずだった番号を見やる。

 

(8番に入ってるのは……スペインジェラードっと)

 

 前世で見た名の気がするが、見ていないような気もする。実名ではない、いわゆるモブウマ娘の名前は大体がそんなものだから仕方がない。備考の欄を読んでみると、どうやらトライアル競走の『セントライト記念』にて3着を獲ったウマ娘らしい。同レースには本来のライスも出走していたはずなので、繰り上がる形になったのではないかと思えた。

 

(さて、ライスがいないとなればどう転ぶか)

 

 タンホイザや12番の存在など懸念点を消せない以上、『番狂わせ』の可能性はやはり否定できない。歴史には修正力がある──タイムスリップが扱われるフィクションの世界でそう聞くことはよくある。

 ライスひとり抜けてもブルボンが勝てるとは限らないのだ。

 

(まあ正直……ここで勝たなくたって、元のまま進むだけさ)

 

 しかし極端な話、ブルボンの勝敗にはさほど執着していなかったりもする。無論三冠を獲ってくれるなら嬉しいが、逆に言えばそれだけだ。シニア級戦に出ないので自分には関係ないから……と言えば身も蓋もないが、そもそも彼女を推した理由がキャラ付けやストーリーに惹かれたからというのも起因しているかもしれない。

 

「我ながら面倒くさい性分だな」

 

 そうボヤいて最後の確認作業を終えたライスは、手にしていた紙を元の位置に仕舞い、再びターフへ視線を固定する。

 出走者たちを見やると、彼女らの目はもれなくゲートに注がれており、レースの開始が間近に迫っていることを雄弁に物語っていた。

 

『さあ、ただいまよりレースが始まります! まずは3番人気の紹介から参りましょう、8枠16番ハイパーフューラー。今夏からは好調を維持し、セントライト記念では二桁人気から意地を見せレリックアースの2着と好走しました。そして2番人気は5枠10番マチカネタンホイザ。過去10戦中、掲示板を外したのは皐月賞の一度のみと安定感には定評がありますが、ここで初のGI制覇という箔をつけられるか?』

 

 全員がゲートに入っていく中、恒例の人気トップ3の紹介が行われていく。

 

『さあ、そして今日の主役はこのウマ娘をおいて他にいない! どこまで進化すれば気が済むのか? 1番人気はここまで7戦無敗のハイパーレースサイボーグ、4枠7番ミホノブルボン! 限界の先に見えてくるもの、それを掴み取ることが出来るのか!?』

 

 主役のコールに、観客がまたも沸き上がる。しかしルーティーンを終えた全員がスタート体勢をとったのを認めると、その狂騒はすぐに収束を始めた。

 

『各ウマ娘ゲートに入って体勢整いました』

 

 そのアナウンスをきっかけに加速した沈黙は、動員数が桁外れである以上完全とまではいかなかったが、ウマ娘らにとって集中を乱さない程度までは歓声の減衰に作用した。

 いよいよ、あまりに長く、あまりに短い3分間が始まる。

 

『スタートしました! 18人が第3コーナーに向かいます!』

 

 ゲートから解放されたウマ娘たちがターフに飛び出す。ロスもなくスタートを切ったブルボンが先頭に立つ、いつもの風景かと思われたが。

 

『ミホノブルボン早くも出て参りますが、キョウゾンアロウズが行きました!』

 

 開始早々、今年は誰の背を追うこともなかったサイボーグに先駆けるウマ娘がいた。それはやはり、ライスが言及した12番だ。

 

『やはりキョウゾンアロウズ先手を取りまして、リードを2バ身3バ身ととって参ります、そして2番手にミホノブルボン!』

 

 初っ端から先頭に立つ12番をブルボンが追う構図は、かつて液晶画面に穴が空くほど見てきたあのレースの通りだった。まだ、それはいい。

 

『3番手は2バ身差、ネームドセンター。そしてその後にマチカネタンホイザが行きました、サンライトシティ5番手、その後は3、4人が固まってまず1周目です』

 

 坂を登ってカーブを抜けて、各々の位置取りがはっきりし始めてきた。こうなれば大衆にとって気掛かりなのは、慣れない2番手の位置につくブルボンの様子だろう。

 

『やや中団が徐々にバラけて参りますが……さあ、キョウゾンアロウズをめぐってリードが2バ身くらいですが、ミホノブルボンも行きました! ミホノブルボンも行きまして、まず1周目スタンド前に入って参りました! 内にコースを取って参ります!』

 

(いやぁー、やっぱ掛かってるやん……)

 

 あの時と変わらない解説も合わさり、ブルボンの掛かりが決定的になると思わず、ライスは眉をしかめる。

 

『キョウゾンアロウズが先頭、リードが3バ身くらい、そして2番手にミホノブルボンです! その後は5バ身から6バ身差、ネームドセンター。そしてまた4バ身ほど離れまして、マチカネタンホイザ』

 

 大歓声に包まれながら、スタンド前の直線を18人が駆ける。焦りがあるのか若干苦しい表情のブルボンに、ファンは不安を煽られながらも声をあげるのをやめなかった。

 

『そこから大きく離れましてカリスストーン、さらにはサンライトシティ、内をついてニンベンキセキが行きました、パインセンゴクがその外であります。そして1バ身差、ハイパーフューラーあるいはメーカーデリケート、ザイバンリョウマ、ファーストポッキーと行っています』

 

 順位の振り返りが中位付近まで近づいたところで、先団は再びコーナーに差し掛かる。

 正直なところ、知った名前がこれでもかと言うほど出ないので、ライスは後方グループのウマ娘らの聞き取りをほぼ放棄していた。

 

『各ウマ娘は第1コーナーのカーブにかかりました、モミジフレイム、あるいはこのグループにはヘルバイスも加わっています、後方からはジュニアライダー、あるいは遅れましてマンデーバーニング』

 

 ひとりの大逃げによって縦長となった隊列をコーナーが余さず迎え入れた頃。ブルボンとの差をキープしながらアロウズがトップを走る状況は、まだ変わらない。

 

『2コーナーから向正面に入ります、キョウゾンアロウズのリードはおよそ3バ身から4バ身ぐらいまであります! ミホノブルボン、ガッチリ抑えて2番手』

 

 流石に対抗意識が鳴りを潜めてきたのか、温存に舵をとったブルボンに胸を撫で下ろしながら見守る。

 

『向正面に入りました、その後は4バ身から5バ身差、さあ3番手はネームドセンター、その後は2バ身差マチカネタンホイザも早めに動き始めました』

 

 先団が徐々に何らかの兆しを見せ始める頃合いとなり、アロウズもそろそろスタミナに限界が来ているのか、ブルボンとの差が詰まりつつあった。

 

『ここまで来ると先頭からはかなり大きく距離があります、タンホイザの後にカリスストーン! これから第3コーナーに向かいます! その後は3バ身差、サンライトシティ、そしてニンベンキセキ、メーカーデリケート、内からハイパーフューラーと、このあたりは固まって第3コーナーの登りに向かうところであります』

 

 密度の高い後方グループらも先団を捉えつつあり、全体的にバ群は縮小の様子を見せる。

 

『さらにはパインセンゴク、これも中団の位置、モミジフレイムも中団からやや後方グループであります3コーナー登り詰めて今度は下りにかかりました! 800m、キョウゾンアロウズ リードが2バ身くらい。ミホノブルボン相変わらず2番手! そして3番手は1バ身差、ネームドセンター外に持ち出した! その後は2バ身くらいの差でマチカネタンホイザ、さらにはサンライトシティ』

 

 第3コーナー。いよいよをハナに立たんとコースを調整し始めたブルボンと、センターに対して逃げ切りを図りたいアロウズの先頭争いに全員の注目が集まる。

 

『そしてメーカーデリケート、メーカーデリケートにカリスストーン。このあたりは固まってくる、ニンベンキセキ! さあ最後の第4コーナーにかかりました!』

 

 後方もコーナーに差し掛かる中、いよいよ先頭らが最終直線に迫り、観客の盛り上がりは最高潮に達していた。

 

『直線コースに入りますが、さあ先頭はキョウゾンアロウズか、ミホノブルボン立ちました! ミホノブルボンが先頭!』

 

 後方を解説していた実況は反応が遅れていたが、コーナーを曲がりきる頃には先頭はアロウズも外にいたセンターも振り切ったブルボンに代わっていた。

 

『そして2番手の位置でありますが、マチカネタンホイザ突っ込んできた! メーカーデリケートも突っ込んでくる!』

 

 懸命にデリケートが追うも、一着争いは既にブルボンとタンホイザに絞られており、最後は二人が後方を突き放しながら叩き合いに興じていた。

 

『しかしマチカネタンホイザ! マチカネタンホイザ内からやってくる! ミホノブルボンどうか!? ミホノブルボンわずかに先頭か!?』

 

 詰めてくるタンホイザに、ライスの表情は強張る。

 もし不在の自分の代わりに三冠を阻止するとすれば、彼女だと思っていたからだ。

 あの日どうにか2着を死守したブルボンの原動力が、宿敵に手向けるプライドだったとすれば、今の彼女にそれを捻り出せるのかは未知数だった。

 

『内からマチカネタンホイザ! 内からマチカネタンホイザ! 並んだ!? ミホノブルボン、マチカネタンホイザ並んでゴールイン!』

 

 沸き上がる歓声の中、ライスは口元を覆った。

 他のウマ娘らも次々とゴールに飛び込み、まずレースは終演を迎えるが、実況の反応は鈍い。

 

『3着はメーカーデリケートでありましょうが……1着2着が微妙だったところです』

 

 すると遅れて掲示板に番号が映し出されるが、未だ空白の1着2着のバ番の間にある着差の欄に思わず観客が静まり返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────写真。

 

 

 

 

 

 

 ブルボンとタンホイザのバ番より早く出現したその2文字は周囲を困惑の渦に落とすには十分だった。

 

「いやいやいやブルボンだって! 逃げきったでしょ、なぁ!?」

 

「俺に聞くなよ! この位置じゃわかんないだろ!?」

 

 近くの二人組がざわつく声が聞こえてきた。

 判定の最中、状況を整理する猶予を与えられたことで、衝撃から解放された順に混乱の声があがっていた。

 

「え、どうなってんのコレ?」

 

「写真って……あれは流石に差されてるでしょ」

 

「おいおい何だこの状況……頼む、審判忖度してくれマジで」

 

「バカ野郎、冗談でも言うなそんなこと!」

 

 ただ困惑している者もいれば、苦笑気味に勝者を確信している者もいるし、判定役に懇願する者もいる。

 とにもかくにも勝者を公に確定されなければこの混沌が収まらぬのは確かだった。

 

「まさか同着……かしら?」

 

 隣の東条がそう呟く。GIで一着が二人発生する事例は、既に教え子のエルコンドルパサーがダービーでやっている故に思い至ったのだろう。

 

「──あっ!」

 

 そう指差したのは誰だったか。見れば混沌の元凶たる二文字はすでに無く、その位置にあったのは別のカタカナ二文字だった。

 

「1着は7番……ブルボンだ! ブルボンがやったんだ!」

 

 事態を誰より早く認識したひとりの声を皮切りに、歓喜に包み込まれた周囲が歓声を次々にあげた。

 

『確定、確定っ!! 起こしてみせた、三度のリミットブレイク!! ハナ差でこそありますが勝利、さらにレコード達成! 文句無しの、史上二人目の無敗三冠達成です!!』

 

「良かった……よくやった、よくやったぞ、ブルボンーっ!!」

 

「すごいウマ娘だよ、君は! これからも俺達に夢を見せてくれーっ!!」

 

 目の前で打ち立てられた偉業を最大のテンションで読み上げる実況に、観客は耳をつんざくような雄叫びで応える。

 

『しかし素晴らしいレースでした、一時はキョウゾンアロウズがハナを進み、マチカネタンホイザが同着スレスレの猛追を見せ抗うシーンもありましたが……力及ばず! ブルボンは強かった……!』

 

 全員が死力を振り絞ったレースを改めて噛み締めるように実況担当、赤坂美聡は唸る。

 

「惜しかったぞ、タンホイザーっ! 君なら次こそブルボンを倒せるぞ!」

 

「アロウズー! 手ひどくやられちゃったけど、気持ちいい逃げっぷりだったわよー!」

 

「次だ、次だぞ! デュオ! お前の実力はそんなものじゃないだろー!?」

 

 耳を済ませば、敗れたひいきのウマ娘たちに声をあげる各々の様子も垣間見えた。

 

 こうして、今季クラシック級の大一番は幕を閉じた。

 

「……面白い」

 

 歓声の中、入場振りに聞くブライアンの声には高揚が伺える。

 

「ええ……さて、どう? ライス。あなたのアイドルが勝った気分は」

 

「……まぁ、色々言いたいことはありますけどね」

 

 突如振られた話題に、まだ諸々の整理を終えていないライスは言葉を詰まらせるが、さっさと切り抜けようと短い賛辞を組み立てる。

 

「頑張ってくれてありがとう、今はそれだけです」

 

 この状況を生み出した張本人は、控えめな拍手のみでそれを祝った。




推しのレースなのに思いの外、偽ライス君を元気よく書けなかった。
アプリでブルボン三冠ifを見慣れていたから、とでも解釈しておいてください。

追記
出走ローテーションについての疑問はひとまず解消致しました。ならびに、ガイドライン抵触について懸念してくださった方にはご心配をおかけしました。
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