黒い刺客に成り代わったブルボン推しがデビューを1年ゴネる話   作:ィユウ

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最近題名のネタ探しに曲を聴き漁っていたらとある特撮番組の主題歌にハマって毎日聴き込んでいます。特撮ソングとはいくつになっても燃えるものですね。


PAGE:16 『RE/EMERGE 泣いたっていい、また笑えるならば』

「この夏、エルはよりビッグなウマ娘になると宣言します! ドリームトロフィーリーグでスペちゃんを倒すためにっ!」

 

「あら……私は眼中にない様子ですね、エル?」

 

「ゲェッ!? グラスのことももちろん忘れてませんからッ!」

 

 一度分からせるべきでしょうか、と物騒に呟くグラスワンダーへ、エルコンドルパサーが取りなそうと騒ぎ立てるやりとりが響き渡る、リギル夏合宿遠征車内──ちなみにマルゼンスキーのみ愛車と共に別行動中だ──。

 

 外野から見守る、フジキセキやテイエムオペラオーらの笑い声も時折添えられるその場は、控えめに言っても喧騒としている。

 

「……」

 

 ライスはそれを聞き届けながら、黙々とスマートフォンのチャットアプリと格闘していた。

 

 ルドルフの他にも、生徒会や寮を司る主要メンバーが一挙に学園を離れるこの合宿。もし学園残留組との連携に失敗すればしっぺ返しが大きく響くので、慎重な対応を迫られる時期だ。

 

 ライスにはルドルフらの示す指針を噛み砕き、代わりに伝達する役割と、相談窓口の両方を任されていた。

 

「学園の方はどうなっているかな?」

 

「大事なく回ってるそうですよ。助っ人を頼んだアイネスさんの働きが大きいようです」

 

 文字を打つだけ打って投稿を終えると、隣から声をかけてきたルドルフに応答する。

 

 現状、示された状況は懸念に値するものではないと言えた。

 ピンチヒッターの人選は間違っていなかった、と安堵する。

 

 アイネスフウジンに白羽の矢を立てたのは、手広いバイト経験を持つ故に多芸であるのもそうだが、以前ゲームにて彼女の育成ウマ娘イベントで『生徒会の書類整理を手伝ったことがある』と言及があったからだった。

 

「そうか。マルゼンスキーやスズカを始め、多くの生徒から名前を聞く存在だったし、推挙に疑問は抱いていなかったが……それほどとはね」

 

「はい、笑顔が一番のお返しだから、と返礼については取り合ってくれませんでしたが……いつか報いたいものです」

 

「ハハハ、そうだな。なら、う~む……そう、愛、愛というのはどうかな」

 

「え、それ本気で言って──あ。あぁー……」

 

 溜めた割には妙なことを口走る、と訊き返そうとして気付く。何の事は無い、アイネスの名と掛けた駄洒落だ。

 

 それにしてももう少し凝りそうなものだが、と何とも言えない微妙な違和感を覚えつつ、詰まらせてしまった話の流れを切り替えようと、トレーニングの話題に移ろうとしたときだった。

 

「ま、まぁ慌てず追々考えますから。そうだ、いつもの3km併走なんですけど、なにやらブライアンさんも新しいフォームを整え次第サシで付き合ってほしいと言っていまして……おや?」

 

 そう言ってわずかに窺ったルドルフの瞳は、何も捉えてはおらず。

 

「……あぁ、そうだな。受けて立とうとも」

 

 ワンテンポ遅れて放たれた返事の内に、虚ろな感情を目の当たりにしたライスは再び話題を修正した。

 

「……えっと、気にされているのですか? テイオーさんのことを」

 

 どうにも冴えないルドルフを訝しんで、そう囁いた。

 今の彼女が意気消沈する理由といえば、そのくらいしか思い付かなかったからだ。

 

「あぁ、まあね……。そういえば、あのとき何を話しているか君は聞いていなかったかな」

 

 その一言に、元より全てを知っているライスは、内心で詫びながら次の言葉を待った。

 

「度重なる怪我に、思い悩んでいたようでね。目をかけてきていた故、少々堪えていたのさ」

 

 流石にかなりぼかされていたが、それでも引退を一足早く聞かされた心情はきっちりと読み取れた。テイオーの幼い頃から今まで最前線でレースを戦ってきている彼女にとっては、親が子に先立たれるような感情だろう。

 

「……脆いものだろう。後輩一人の悩みを聞いて、この有り様なのだから。すべてのウマ娘の幸せと謳っても、私は──」

 

「── 一人のウマ娘の苦難に心を痛められずに、何千何万ものウマ娘の幸せを願うことはできないと思います」

 

 自嘲するように溢すルドルフに、そうライスは語る。台詞自体は、他人の発したものを継ぎ接ぎしただけではあるのだが。

 

「皇帝にならないといけないから、と自分の痛みに鈍感になったら、他の人の痛みなんてわからないですよ。きっと、多分みんな痛がりながら各々の道を進んでいるんですから」

 

「……そうか」

 

 自分だってそうだ──と内心で付け加えながら口にすると、ルドルフは短く応えただけだった。

 

 これを不発と考えたライスは慌てて伝えたいことを簡略化して言い募ろうとした。

 

「と、とにかく! 辛いのを気負って我慢することはないって話で──」

 

「あぁ。わかっている」

 

 やんわりと手で制され次に行けなかったライスに、ルドルフは言葉を続ける。

 

「だが今は……少しそっとしておいてくれ」

 

 そう窓の景色を見やり動かなくなったルドルフに、もう声をかけることはできなかった。

 

(……安心してください、あの人はきっと帰ってきますから)

 

 そう言えればどれほど楽だろうか。

 脳裏に焼き付いて離れない、帝王の勝ち姿を彼女に見せられればどれほど話が早いだろうか。

 

 話し相手を失い、暇を持て余す。作業用にノートパソコンは荷物に放り込んでいたが、かさばるためにバッグごとバスのトランクの中にあるゆえ手元にない。

 

 バスの終着点は、そう早く訪れてはくれなさそうだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 自分は今、どこにいるのだろう。

 

 何とはなしに意識が覚醒すると同時に辺りを見回すと、整備が行き届く平坦な芝と見覚えのあるスターティングゲートがあった。

 

 左腕を目の前に運ぶと、まだこの世界ではお目にかかったことのない、ライスシャワーの勝負服の袖があった。

 

『さあ今年の天皇賞はまっったく予想がつきません! グランプリばりに実力者が揃います!』

 

 普段よりやたら鮮明な実況放送の方に振り向く。天皇賞というワードにこの勝負服、まさかここはGIの舞台だろうか。

 

『菊花賞で激闘を見せ、有でも好走したライスシャワー、ビワハヤヒデが参戦します。さらに前走の勝利で復調を印象づけた皐月賞ウマ娘ナリタタイシン、GI常連のナイスネイチャ、マチカネタンホイザらも怖い存在です』

 

 名前が読み上げられる度、そのウマ娘が視界に現れる。自分の後ろから歩いてくるようなかたちで登場することもあれば、ふっとテレポートしてきたように登場することもあった。

 明らかに異質な状況にいるライスは、されどBNWの登場に1994年天皇賞(春)の舞台であると悟る。

 

『さあいよいよ登場です、三番人気はこのウマ娘! もしや、もしや成し遂げてしまうのか? 4連覇を懸けてターフに返り咲いた名優、メジロマックイーン!』

 

 右前方に、純白の勝負服を纏うマックイーンが現れる。

 4連覇だと? はて、彼女が4度も天皇賞(春)に出ていただろうか。いや、史実を考えるならばそもそもBNWが台頭しているこのときは既にトゥインクルシリーズを退いているはずだ。

 

『二番人気はこの娘! 有での復活劇は誰もが知るところ! 不屈の帝王、トウカイテイオーです!』

 

 左前方に、真紅の勝負服を纏うテイオーが現れる。

 あり得ない。前年末に劇的なラストランを演じた彼女もまた、この舞台に再び立つことはなかったことをライスは知っている。

 

 しかしそれらを差し引いても妙だ。そんな二人がどちらも人気で2、3番手に甘んじるはずもない。

 そんな違和感は、すぐさま解消されることになる。

 

『続く一番人気です。ついに、ついに帰ってきました。あらゆる逆風を追い風に変える栗毛の怪物が、ついにGI復帰です!』

 

 前口上の最中、背後から衝撃波が走る。

 振り向くとそこにはまた、いるはずのないウマ娘の姿があった。

 

『ニュータイプステイヤー像の確立となるのか!? 無敗三冠の逃亡者──』

 

 そんなはずはない、だがこの世界だ。いてはいけない道理もない。

 電光にも見紛う気迫を纏うそのウマ娘はゆっくりと立ち上がると、こちらを見据え目を掻き開く。

 

 

 

 

「ミホノブルボンッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 最も相手にしたくないウマ娘が、そこにいた。

 

「迎えに来ました──ライスさん」

 

 いつもの無機質な声で、彼女はそう言う。

 呆気にとられ立ち尽くしているライスには、背後から迫る気配に気付かなかった。

 

「逃がしませんわよ」

 

 そこに続くように、気付けば耳元にいたマックイーンの声が響く。

 思わず腰を抜かし後退るとこちらを見下ろす二人が同時に見えた。

 

「戦いなさい、走りなさい、競いなさい、勝負しなさい」

 

 有無を言わせぬ口振りでそう歩み寄ってくる二人に圧倒され、後退る勢いが無意識に増していく。

 

「……お、俺は──」

 

 何をどう弁解したいのかも決めていなかったが、言い訳がましくそう口走った刹那。右腕がついた先が虚空と化し、バランスを崩した肉体は穴に吸い込まれるようにそのまま真下へ落ちていった。

 

「うあああああああああああっっっっ!! !! 

 

 反射的に伸ばした腕が徐々に霞むと同時に叫び声も暗闇に呑まれるように消えていき、意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「──は」

 

 目が覚めた。暗闇はそこになく、前の座席の後面部がまず映る。

 

「ノってマスねー! ワタシもお相手、務めマスヨー!」

 

「よせタイキ! お前まで騒がれると敵わん!」

 

 車内の喧騒は、相変わらず続いているようだった。ライスの頭脳はまだ醒めきっていなかったが、それでも先ほどまでいた空間とは隔たれたことは感じ取れた。

 

「……?」

 

 されど、まだ現実感が得られず手の開閉を繰り返して呆然としていたライスだったが、隣を見ると心配げにこちらを見るルドルフがいた。

 

「どうした?」

 

 掛けられた声に、ライスは脳みそに無理矢理エンジンをかけて返答を捻り出す。

 

「夢を……見ていたようです」

 

 そして返答の成否を見届けもせず、一秒毎におぼろげになる夢の記憶を拾い集めていたライスの脳裏には、確かにあの春の天皇賞がよぎっていた。

 

 出走者の面子からして、この世界の自分が挑むならはじめに向かうことになるだろう1994年のものだと読み取れた。

 

 そしてそれが、3人──ライスを加えれば4人とも言えるが──のイレギュラーが加わった、ifの戦いであろうことも。

 

 アニメではあのテイオーの有記念より後のことは、語られていない。繋靭帯炎を克服したマックイーンと再びターフを駆けるシーンで物語は幕を閉じていた。

 

 捉え方によっては、一期のサイレンススズカのようにトゥインクルシリーズに残ったと判断することもできる終わり方だ。

 

 そもそも史実では怪我で出走できなかっただけで翌年も現役ではあったテイオーならば、そうなるのも現実味はある。

 

 なら、共にいたマックイーンやブルボンもそうなるのか──? 

 

「いや、まさか……ね」

 

 加熱してきた皮算用に、踊らされすぎだ、と自嘲する。

 

 見ていたのはただの夢で、それ以上でもそれ以下でもないのだから。

 

(しかし、本当のことを言ったらあの二人……どう思うんだろうな)

 

 目の醒める間際に二人に言い募られた記憶がどうにも離れてくれないライスは内心そう独りごちる。

 

 たかが夢、されど深層心理を写すともされるあの場での景色は、自分のしたことを後悔していることの表れかもしれない、そう考えずにはいられなかった。

 

 もはや再び眠る気にもなれず、通路に身を乗り出すかたちでバスのフロントガラスの景色を覗き込んだライスの目には、目的地のホテルが小さく映っていた。




次回こそ夏合宿。ここを抜ければ菊花賞までもうちょっと。
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