黒い刺客に成り代わったブルボン推しがデビューを1年ゴネる話   作:ィユウ

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前話の遅参の分を取り返そう、という意味での投稿。
ブライアンやヒシアマ姐さんのターンが迫ってきて1期に関することをどのくらい無かったことにすればいいのか悩む今日この頃。


PAGE:17 『RE/SURFACE 最悪の敵は己の影』

「夏デス! 海デス! 合宿デェェェェス!!」

 

 夏合宿に赴くチームリギルのメンバーを乗せたバス。目的地に到着するやいなや真っ先に下車して叫んだエルコンドルパサーの大声が響き渡る。

 

「……気持ちは理解するが大げさすぎる、ここは毎年来ているところなんだぞ」

 

「ノンノン、一年に一度きりのイベントだからこそ、思いきりエキサイトすべきなんデス! ヘーイ、エル!」

 

 エルの熱狂が煩わしそうに下車してきたエアグルーヴに被せる形で、こちらも熱狂を露にしたタイキシャトルが、エルに駆けよっていった。

 

「ったく、夏からデビューのアタシたちよりノリノリじゃないかい」

 

「……やかましい、おかげでおちおち寝てられん」

 

「まあまあ、お通夜よりはマシですよ」

 

 それを後ろから見るのは、今夏にデビューを控え、この合宿に懸けているものが大きいヒシアマゾン、ナリタブライアンと、そのふたりの発言を明確にたしなめようとするライスたちだった。

 

「そういえば……既に到着していると聞きましたが、マルゼンさんはどちらにいらっしゃるのでしょう?」

 

「彼女なら……あぁ、あそこだよ。グラス」

 

 続いて下車してきたものの、訳あって他メンバーとは別々に目的地へ向かっていたマルゼンスキーの行方を気にしたグラスワンダーへ、フジキセキがとある赤い車を指し示す。

 そこには、扉にもたれかかる探し人の姿があった。

 

「ハァイ、みんな!」

 

「ええ、学園ぶりですか? お早い到着ですね」

 

「そうそう、みんなと同じバスで行くのも楽しいけれど、やっぱりあたしにはタッちゃんがいるからねぇ。それに──」

 

 一行を乗せたバスに気付いて歩み寄ってくる彼女に、親交の深いグラスが声を返すと、そのまま語らう様子がライスの眼に映る。

 

「さて……ライス。君にとっては2度目の合宿だが、慣れたか?」

 

 ライスが背後からの声に振り返ると、そこにはルドルフがいた。

 

「ぼちぼち、です。流石に今年は戸惑っている暇がありませんから。菊花賞でBNWを超えるには、最後の正念場とも言えますし」

 

「そうか、だが気を張り詰めすぎても損だ。そうだな、暇、暇、暇……マヒマヒ……いや、何でもない。とにかく休息は怠るなよ」

 

 無理を戒めようとしていると思いきや、意味深に発言を打ち切るルドルフ。彼女が会話を雑に終わらせる真似をするとは思えなかったライスが、やはり調子が上がらないのか、と察すると同時に、東条の号令が響き渡った。

 

「全員いるわね? 行くわよ」

 

 その一言により動き出した他メンバーに追従する形で、ライスはそのままホテルに赴くことになった。

 

(……出しきらないとな)

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 さて、ここに来たからには普段と異なり、トレーニングLv5モノの猛特訓を山のようにやることになるのだが。

 

「残り3往復! 気を抜かず走れ!」

 

「はっ!」

 

 スピードトレーニング・ランニング。ビーチの上をただひた走るだけのカンタンな作業……とはもちろんならず、気を抜けば定期的に東条の叱責が飛んでくる。

 

「踏み込みが甘いぞ! 併走でなければ本領を出せないのかアマゾン!」

 

「わかってるよっ!」

 

 東条の叱責に、視界の外からアマゾンの投げやりな返答が響く。

 この時間、走行フォームへの指摘は普段の倍以上厳しい。ビーチの砂はきめ細かい故に、スピードを出す上で正確なフォームを求められる……とはマックイーンの言だったか。

 

「ブライアンもまだマニュアルの意識が過剰だ! 新しく模索したそのフォームを鮮明に描き直せ!」

 

 続いたその叱責に、思わず隣にいたブライアンの方を覗くと、重心をやや落としたそのフォームにひとつ熱が入り直したように思えた。

 

(ブライアンのこのフォームは……メインストーリーで言ってたやつか? それを認めたのがあの人ってことは……もっと教本通りな人って思ってたけど、意外と柔軟な人なのかもな。それとも誰かに似てきたって言ったら怒るか?)

 

 規律を重んじる東条にしては珍しく思えるフォーム変更の一任に、ある男の姿を思い浮かべるライスだったが、指摘すれば「そうした方が合理的だからだ」とでも言い訳していそうな彼女を見て失笑をこぼした。

 

「どうしたライス! よそ事を考える暇があるとは随分余裕だな?」

 

「……っ、すみません!」

 

 まずい、と余分な思考をシャットダウンすると、すぐさま陳謝し、目の前の折り返し地点を見据えた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

(あー……脚が棒になりそう)

 

 スタミナトレーニング・遠泳。学園のプールとは比べ物にならない水量の中行うスタミナトレーニング。

 ただし、この肉体故か前世から経験の乏しい故か、原作と変わらずビート板を保持するライスはさすがに浅瀬で泳ぎ続けていた。

 

「ツッ!? ダーッハッハッハ!!」

 

 突如響き渡る高笑いに振り返ると、同じくビート板使いであるオペラオーが足をつりでもしたのか、ひっくり返って水しぶきを立てているのが目に入った。

 

「ええ!? オペラオーさん!?」

 

 前進を中断してオペラオーに好ましくない異変が起きていることをはっきり認識したライスは、すぐさま東条に目配せをする。

 浅瀬とはいえ、泳げない者が助けに入っても共倒れに終わる公算が高いと踏んだゆえの判断だ。

 

 東条がライフセーバーの職員にハンドサインを送っているのを見届けると、今度は気が動転しているであろうオペラオーの沈静化に動く。

 

「ちょっと、オペラオーさん、落ち着いて──」

 

「嗚呼、大海までボクを阻むか! 面白い、実に面白いよ! アーッハッハッハ!!」

 

 溺れかけているのにも関わらず、心底愉快でたまらないかのように口上を迸らせる彼女に、ライスの頭が空白で染めきってしまったのは無理からぬことであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「う……おおおおっ!!」

 

 場所をホテル内のジムに移し、パワートレーニング・筋トレ。

 フジキセキに足をホールドされながら、上体起こしを連続で行うライス。

 

「ハイ、ワンツー! トントン、ターンのリズムデース!」

 

「ブエノー! ゴートゥーヘェェェヴゥゥン!!」

 

「やかましいっ!」

 

 別のエリアでサンドバッグを小気味良く吹っ飛ばしていくタイキ、エルのデュオと、ランニングマシンを漕ぎながら騒音に苦情を吐くグルーヴらの声が響く中、悲鳴を上げ始める腹筋との戦いは続いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「走れ、今を! まだ終われない、たどり着きたい場所があるから、その先へと進め──!」

 

 合宿の最中も、無論ウイニングライブのダンスは欠かされない──これを根性トレーニングと数えるならLvが落ちていると言ってはいけない──。

 

「涙、さえも! 強く胸に抱き締め──そこから始まるストーリー……」

 

 三冠競走の覇者のみが歌唱が許される楽曲『winning the soul』を、狂いなく歌いあげてゆく。

 

「果てしなく続くwinning the soul──!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「──違う、これは菊花賞の走りには遠く及ばない。そういやアニメではスピカTが菊花賞を見たとき「夏に一回りデカくなった」って言ってたな、じゃあ現時点で菊花対策として参考にできるレースはやっぱりないってことか? くそ、この夏ならなんでもいい、どっかしらにメディア露出してねえか?」

 

 与えられた自室に戻ってからも、研鑽は止めない。

 仮面を被る必要のない個室であるのをいいことに、いわゆるメタ行為を行っていた彼女。

 パソコンを前に、菊花賞における最大討伐目標・ハヤヒデの資料を、ピンポイントに見漁っている最中だった。

 

(考えろ、本当に何もないのか? 一年半も見てきたんだ、糸口くらいあるだろ? ……いや)

 

 同時にスマホでニュースサイトへアクセスしている最中、ふと顎に手を添えて考え込む。

 

 勝者を前もって知れている以上、真っ先に思い付いたのは徹底的なマークや牽制を仕掛ける方法だ。

 策のイメージをひとしきり描き精査にかけるものの、残らず同じ答えに達して終わる。

 

(どのみちレコードを二歩三歩超える速さがなければ話にもならない……か)

 

 しかし、本来のライスが叩き出した京都3000mのレコードタイムすら超えてみせていたハヤヒデの前には、小手先の妨害はさほど価値を持たない、というのが結論だった。

 

(逃げでタイムトライアルに徹するか? いや、そもそもハヤヒデが元のタイムで納まってくれる保証がない)

 

 ならば、とレースの本質を考慮した最も単純な答えに達するが、先頭というペースメーカーの地位に本来と異なる者が座せば、展開は自身の知るものとは別物と化すだろうことは明白だった。

 

(くそ、皮肉だな。全部知ってるからこそ、勝ち筋が正攻法しか見えないとは)

 

 外的要因で覆しようがない、ハヤヒデ自身の実力という壁にここへきてぶつかったことに内心で思わず毒づくが、それで相手が弱くなってくれる訳ではない。

 そもそもこの困難に直面しているきっかけは、自分自身の甘ったれた決断であることに他ならない以上、もう逃げの一手は許されない。

 

(……リギルに所属してる以上、練習相手には事欠かない。元のライスがシューズを幾つも履き潰すほどの量をこなしてたなら、こっちはどうにか質を稼いで埋めるまでだ)

 

 レコード超えをさらに超えられれば勝てる、と目指す先は暗く遠い道のりだが、その到達点が視えるというアドバンテージは間違いなく大きい。

 そこにひた走れぬほど腐ってはいないつもりだった。

 

「……勝てなきゃあの二人に言い訳できん」

 

 その情熱には、サイボーグと名優から、越えるべき宿敵を奪った負い目も宿されていた。

 

 ふと、とっくの昔に読み込みを終えていたらしいニュースサイトに目をやる。

 

 そこには写真一杯に広がる葦毛を携えた名士の姿があった。

 

 

 ──まだ、光は見えそうにない。




次回、夏合宿終結。

私事になりますが前話のタイトルの元ネタである曲が使われた特撮番組のストーリーを追う機会があったのですが、これが中々に面白く……。
ただし展開自体はスローペース故に一週間のインターバルがあったリアルタイム時代に見たらキツかったろうな、と思いながら見てます。

……などと、投稿が半月+aに一回ペースで展開が滅茶苦茶遅くそれでいてまだ本題に達せていないクソ筆者が申しております。
菊花にさえ行ければまだ再加速できるので許してください!何でもはしませんから!
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