黒い刺客に成り代わったブルボン推しがデビューを1年ゴネる話   作:ィユウ

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唐突なインタビュー回。


PAGE:21 『RE/ACT 矛盾が怖くてどうする』

「哲学は浸透しきっている」強豪新世代の一番手に迫る

 

 今回、近日開催されるGIレース・菊花賞への出走を表明するウマ娘のひとり、ライスシャワーに話を聞くことができた。

 シンボリルドルフ、エルコンドルパサーなど、現在ドリームトロフィーリーグを戦う精鋭を育成した強豪チーム・リギルに所属する彼女は、このレースで初のGI出走を迎えることになる。

 今夏よりデビューの同僚・ナリタブライアン、ヒシアマゾンらの台頭も注目される中、リギルの新時代を占うことになる彼女への取材について、ここでは記していく。

 

 ──取材の承諾、感謝します。まずは、初のGI出走の確約についてお祝い申し上げます。

 

 ありがとうございます。年内のGI出走という目標を達成できて、個人的にとてもほっとしています。チームの皆さんのサポートのおかげです。

 

 ──それでは早速。同レースの中で最も注目を集めるBNWの三人とはこれが初対戦と伺っております。対策の見通しはついておりますか? 

 

 そうですね、ハヤヒデさん、タイシンさん、チケットさんのいずれも、強豪と呼ばれるに足るウマ娘ですし、対策は非常に困難な要求だというのが正直なところですね。それこそ私では不透明な距離適性の面で賭けに出る、ということを前提とした走りを強いられてもおかしくないと思っています。

 

 ──なるほど。特に今夏では、三冠バ・ブルボンの恩師で知られます黒沼Tに倣った坂路トレーニングで実力を伸ばしたビワハヤヒデに注目が向いておりますし、やはり勝ち方に拘れる相手ではないということでしょうか? 

 

 ほう、その話もっと詳しく……いえ、そうですね。一緒に走るのは初めてですから、勝ち方なんてむしろ模索中という所で。結局のところ、周りと比べてローテーション面での出遅れがあるところは否めないかなと。

 

 ──そうですか。確かにデビュー以降、朝日杯や三冠競走などのGIはおろか、そこに繋がるトライアル競走、重賞すらも避けるような出走履歴でしたね。そこについては、狙いがあって選択したものではなかったのですか? 

 

 ……いえ。上半期は能力をピークに持っていく過程で慎重にならざるを得ない事情がありまして、有力な方との出走は避けながらのローテーションを組んでもらっていたんです。先ほど話した目標については、ずっとそこが根底にあったゆえでしたね。

 

 ──今年は勝負をかけに行く年ではなかった、と? 

 

 三冠競走を軽視しているワケではありませんが、まずGI勝利の価値というものは、どのレースでも等しく尊いもの、と私は考えていますし、シニア級からのレースで大きい舞台での勝ちを積もう、という前提でデビューに踏み切った面はありましたから、その質問には……はいと答えるのが適当かもしれませんね。それを考慮すれば、有力な同期の方の力量を一挙に、そして明確に比較できるという意味で、今回の出走は僥倖と言えたんです。

 

 ──そうでしたか……。しかしそちらが所属されているチームは学園随一と名高い強豪です。ファンの方々からはGIでの勝利、というものを常に求められているのではないかとも思います。プレッシャーというか、焦りは感じるのではないですか? 

 

 その通りですね。特にオペラオーさんを最後に、しばらくトゥインクルシリーズでのデビューがチームからなかった以上、真っ先に勝利を求められる役回りであることは自覚しておりますし、このチームを愛してくださる方々には、お待たせしてしまっているなと常々感じています。正直なところ、ブライアンさんの方が早く、というケースも十分に考えられますからね。

 

 ──将来的には、と長く構える考えはないという捉え方で……どうでしょう、よろしいのでしょうか? 

 

 はい。無論今回のレースには必勝を期しておりますから、時間をかけるつもりは決してありません。……まあその上で、気長に眺めてもらえればなと。

 

 ──期待しております。それでは最後に、出走に向けての意気込みや、ファンの方々へのメッセージがあれば、ぜひお聞かせください。

 

 はい。まだ途上ではありますが、チームの哲学は十分に浸透していると感じています。楽観できるレース展望ではないことは理解しておりますが、勝つつもりもなくレースに出るつもりは毛頭ありませんので、チームとして久々のGI勝利に向け、はっきりとしたビジョンを持った走りをお見せしたいと思います。皆さんの応援をぜひ頂ければ幸いです。

 

 ──ありがとうございました。

 

 着実に実績を積み上げ、強豪所属のプレッシャーには決して流されぬ泰然自若ぶりには、強豪を強豪たらしめる勝者のメンタリティーを感じさせる。晩成型の苦労人は、見事菊の舞台で遅咲きの"スター"となりえるだろうか。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「持ち上げられすぎだろ、自分」

 

 チームリギルの部室。寝転びながら雑誌を読み漁る、ライスの呟きが響く。

 招集をかけられて、いの一番に到着したものの、手隙だったゆえになんとなく手に取っていたそれに綴られていたのは、少し前に受けたインタビューの全容だ。

 出走を目前にして、さすがに情報の締め出しに限界があるとされ挙がってきたそのオファーについては、東条から「大口を叩かなければどうにでも言ってよい」と釘を刺された上で受けたのだが、ライバルの警戒を避けようと、体裁を保ちながらもギリギリまでネガティブな発言を行っていたつもりだった。

 

「勝つ手立てもない、勝負かけるところでもないって言ってんだから、もっと見放してくれよって」

 

 それに何だ、勝者のメンタリティーとは。印象操作かマスコミめ、とささやかな八つ当たりを行ったところで、外から足音を聞き届けた彼女は居住まいを正し、訪問者を待った。

 

「……あら? 随分早いわね」

 

「ああ、トレーナーさん。お疲れ様です」

 

 扉から現れたのは東条。トレーナーゆえに集合時刻より大幅に早い到着だったのにも関わらず先に到着されていたことに驚いていた彼女は、間もなくライスが手にしていた雑誌を認めると手近な話題を繰り出す。

 

「……いよいよね」

 

「ええ」

 

 今日──11月7日は、いよいよ自分がGIへ足を踏み入れる日となる。本来より一年と半年分遅れてしまったが、ようやく大舞台に躍り出ることができる。

 

「メンバー……ルドルフたちも皆来ると言っていたわ。ああ、ブライアンもね」

 

「ほ、ほう……」

 

 リギル総出での観戦の宣告に、思わずおののくライス。それにブライアンは、前日にGIIのレースを走ってきたばかりだったはずだ。

 

「無理はするなと言ったのだけれど。おおかた、姉のレースを見たがったんでしょうね」

 

 ついでに添えられた注釈に適当な相槌を打ちつつ、ライスは重圧の増大を自覚した。

 原作にて京都へ観戦に赴いていたブルボン、スピカ(−マックイーン)、東条に加え、リギルのフルメンバーにまで見られながら戦わなければならないのか、と。

 

(うぅわ恐れ多ぇ……)

 

 偉大なる推しとチームメイトの前で無様な走りなどしてやれそうにないな、と内心で苦笑いを浮かべながら他の言葉を待っていると、再び雑誌に目をやった東条が口を開く。

 

「そういえば、インタビューの内容、見せてもらったわ。今日は期待しているわよ、遅咲きの苦労人さん?」

 

「やめてくださいよ……というかあれ、とんだゴシップ記事ですよ。言外に勝つ気はないって言ったつもりだったんですよ? いや本当にそう思って言ったワケじゃないですけど」

 

「そう。いいように書かれるのも大変ね」

 

 まさかこの人にここまでイジられる日が来るとはな、と顔を赤くしながら言い返すライス。

 

 

 

 出走まで、9時間──。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『最初に登場しますのは1枠1番、サートゥンガニェ。13番人気です』

 

「……勝ってみせます、必ずっ!」

 

 京都レース場パドック。出走者が自慢の一張羅を引っ提げて登場するこの場に、最初のウマ娘が現れる。

 

『続いては同じく1枠にて2番に入りますライスシャワー。12番人気です』

 

 やがて名前のコールに伴い、右目の帽子に触れると歩みを始めるライス。

 

 今の彼女は、本来のライスシャワーと一切変わらぬ勝負服を身に纏っていた。紺色を基調とし、袖のワインレッドを差し色としたそのドレスに加え、腰元に存在を主張する短剣もそのままだ。

 

 そして、口上ののち帰ってきた1番と入れ替わる形でパドックに出ようとする。そのとき、ライスは不思議な体験に遭遇する。

 

「……?」

 

 すれ違ったその刹那。名も知らぬ1番の背に、何やら懐かしいものを感じた。

 前触れもなく、とめどなく胸の中から溢れ出るその感覚は、不思議と心地よい。

 

(何だ、これ……運命的な何かってやつなのか?)

 

 自分では感じたことのない現象にそうアタリをつけるものの、そう長くもたついていられないライスはすぐさま観客のもとに向かう。

 

『重賞への出走は初となるウマ娘です。出走履歴を見ると地力は伺える一方、前走の終わりは苦しそうにしていましたから、芝3000mはどうでしょうかといったところです』

 

 解説の批評を聞き届けながらパドックステージに出た彼女を、やや曇りの空色と若干数の歓声が出迎える。

 

「頑張ってー!」

 

「よっ、秘密兵器ー!」

 

「リギルの新しい景色を見せてくれーっ!」

 

 チームのファンだろうか、ちょくちょく聞こえてくる応援の声を浴びた彼女は、瞑想するように瞼を開閉すると、胸の前で握り拳を作り一礼を行った。

 

 まばらに上がった歓声を聞き届けて間もなく、次の3番と入れ替わろうと背を向ける。

 

「負けられない。いや、勝つんだ」

 

 身にひとりでに滾り出す激情を隠しながら。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「調子はどうかな」

 

 スタンドにて、ゲートを前にするウマ娘たちを見やるリギルメンバーたち。その中のルドルフが声を発した。

 

「あの子は出し抜いてやる気満々だって言ってたけどね」

 

 数刻前に車内で()()()から聞いた言葉を反復するマルゼンに、なら絶好調だろうと笑ったルドルフ。そこに東条が話題へ加わる。

 

「人気では下位、三強の一角は絶不調……番狂わせを起こすには十分な膳立てがあるわ」

 

 師の言葉に頷く二人。当初の思惑通り、警戒を避けうる人気順に甘んじることができたことに加え、こちらの陣営には不謹慎ながらも都合のよい報せが1ヶ月前に舞い込んできていた。

 

 ──BNWのひとり、ナリタタイシンの不調だ。

 

 身体面での課題に悩まされることが常だった彼女は、秋の初戦に位置付けていた菊花賞トライアル・京都新聞杯への出走を重度の体調不良により回避。病み上がりのぶっつけ本番でこの舞台へ挑まざるを得ない状態となっていた。実績から3番人気にこそつけているが、当面脅威にはなり得ないというのが東条のみならず出走者全員の見解である。

 

「ふっ、甘いな。三強の一角には姉貴がいるぞ」

 

 すると突如会話に加わったのは、BNWの一角・ビワハヤヒデを姉に持つブライアンだった。

 

「君の姉びいきには、ほとほと困ったものだね」

 

 チームメイトが出走するレースなのだから、と言外に咎めるルドルフだったが、三人の苦笑をよそにブライアンは続ける。

 

「だが、姉貴の実力が別格なのは事実だ。夏の修練を段違いの強度で行っていたことは会長殿も知っているだろう」

 

 そこについては、ルドルフも認めるところだ、と考えていた。ハヤヒデがこの夏に飛躍的に実力を伸ばしていたのは、前走の勝利からして明らかでもあったからだ。ライスが出走していなければ、自分も迷いなく優勝候補として推していたことは間違いない。

 

 だが進化を遂げているのは、もちろん彼女だけではない。

 

「しかし、だ。……ここだけの話だが、ライスにはもうすでにここのレコードを塗り替えるだけの力があるぞ」

 

 その言葉に、アマゾン除く他メンバーから驚きの声が上がる。そこでルドルフは、以前行った3km併走の件を懇切丁寧に伝えた。

 

「……なぜ黙っていた」

 

 聞き終わるなり、ブライアンが真っ先に苦言を呈する。渇きを満たす死闘を欲する彼女には、対象となりえる存在が目と鼻の先にいたことを隠される嫌がらせに等しい。

 

「すまない。ライスに伝わるのは避けたくてね。彼女は確固たる成功に挑むと、むしろ萎縮してしまう性分なんだ」

 

 勝って当然、というプレッシャーに対して著しく脆いことをデビュー後2連勝後の惜敗続きから感じ取っていたルドルフは、あのレコード越えの時計を出してしまった併走の件を東条を除き秘匿しており、ライス自身にもはぐらかしていた。

 

「敵を騙すにはまず味方から、なんてアタシにも無茶いうもんさ、こっちも参っちまうよ」

 

 当時計測係をやっていたゆえに、隠蔽工作に巻き込まれていたアマゾンが、堰を切ったように愚痴をこぼした。

 

「なら、先輩はすでにGIを勝てる脚をしている、ということですね?」

 

 確信を得ようと穏やかに問うグラスに、ルドルフは頷く。

 

「尤も……レコード破りがもう一人現れなければ、の話だけれどもね」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「本当に……ここまで来たんだな」

 

 バ場に入る前に、両親やチームのメンバーたちとも顔合わせを済ませたライス。発走時刻が近づき、いよいよゲートを前にしたその脳裏には、様々な感情が渦巻く。

 

「皐月賞はタイシンに取られちゃったけど……ここで二冠目、取っちゃうぞおぉぉっー!」

 

「うるさ……。ただでさえそれどころじゃないってのに……」

 

 周りを見るとまず目に入ったのは、チケット、タイシンの二人だ。皐月賞、ダービーの二冠を分け合った者同士でありながら、テンションの真逆な振る舞いは自分の知っている彼女らと変わりない。

 

 ターフには他にも、以前敗北を喫したエンプレスパトラ、ノーブルカッセルらを含む17人のウマ娘たちがいた。

 

「フフ……今までの私は『存在感マシマシ脇役キャラ』。私の"最強"ウマ娘へ向けたこの布石、どれほどが気づいているかしら……!?」

 

 他にも目に留まるウマ娘はひとりいたが、それはライスの知っているウマ娘ではなかった。

 暖色系の配色である勝負服に身を包むその眼鏡っ娘は、確か名をロイスアンドロイスといったような──? 

 

 ──いや。少なくとも今回のレースの勝敗に絡む人物ではない以上、ライスは彼女へそれ以上思考のリソースを割くことはなかった。

 

(それよりも、タイシンの不調は変わってなかった。じゃあ今日の敵はハヤヒデしかいない──!)

 

 自分以外の出走者、特にBNWの状況が原典とさほど変わりないことを改めて認識したライスは、注視対象を一人に絞る。

 

「……」

 

 一切の動揺も見えず、威風堂々としている風のハヤヒデへどこか圧されながらも、畏怖を振り払って策の最終調整に移った。

 

(前年のアロウズのような大逃げはなかったはず。ならハヤヒデに付いて、直線のスパートで競り合うまでだ)

 

 マークを前提とした先行策にプランを決定し、勝利を奪う算段を整えた彼女は、ふと息を吐き出し余熱をすべて解放した。

 

「考えてみれば……皮肉なもんだな」

 

 ふと、自嘲するように彼女は呟いた。

 冷静になった頭が、直前まで頭脳を回転させていたその行為を滑稽だとなじる。

 

 ──ブルボンの勝ちを奪うことを拒みながら、ハヤヒデの勝ちを奪おうとしている自らの行為を。

 

(GIの価値はすべて等しく尊い、だったか? どの面下げて言ってんだ)

 

 勝者の違いのみで挑む世代を変えておきながら、と少し前の自分が発した言葉を思い返し、そう罵った彼女だが、女々しいエゴで投げ出してしまうには、この計画はもう後戻りが許されないところまで進んでしまっていた。

 

「出走者の方々ー! 間もなく発走時刻ですのでゲートインをお願いします!」

 

 関係者に促され、いよいよゲートへ歩みを進めるライス。指示通り1枠2番に収まった彼女は、ふと左手へかすかに見えた芦毛を睨んだ。

 

「ハヤヒデ」

 

 本人には聞こえぬ声量で、その名を呼ぶ。

 

「……許せ」

 

 ゲートが開く。

 

『さあ菊花賞、今開幕です!』

 

 ──決死の略奪戦が始まった。




ロイス参戦のお知らせ。掲示板にも入らないのでホントちょろっと出すだけですが。

次回、『変革─菊花賞─』。

菊花賞(1993)
1枠2番の馬 OUT▼
ライスシャワー IN△
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