黒い刺客に成り代わったブルボン推しがデビューを1年ゴネる話   作:ィユウ

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お待たせしました。お待たせしすぎました。

マイナーチェンジを遂げた拙作を、これからもよろしくお願い致します。


PAGE:26 『RE/PLACE 残影─有馬記念─』

「──ハッ」

 

 悪夢から覚めるかの如く体を起こしたライス。

 

 少しの間呆けた後に見回してみると、自分は病院の部屋内にいるらしかった。

 

「ライスッ!」

 

 まもなく記憶を辿ろうとしたライスの意識を、ある声が引き止める。

 

 ベッドの側を見れば、ミーティング以来別れていた東条がいた。

 何を伝えるかは決めていないが、それでもまずはと口を開こうとして。

 

「……みなまで言うな、もう聞いている」

 

 ただし、切り出しの言葉は真っ先に堰き止められる。どうやら彼女はすべてを知っているようだ。

 

「すみません、その──」

 

「お前が謝ることではない。突き詰めれば、私のマネジメント不足が招いたことだ」

 

 心配をかけた、と詫びようとしてかき消される。一瞬沈黙が流れたあと、再び東条が口を開く。

 

「……医師からは、ストレス由来の疾患が重なった……いわゆる併存症によって蓄積したダメージの結果だと判断を受けた」

 

 重たげに口にされた総括を、ライスは目を合わせて聞き入ることはできなかった。

 続けて熟眠障害、胃炎、その他諸々をセットで患っていたらしいことを告げた東条は、気まずそうに訊いてきた。

 

「お前にとって、リギルの名は重すぎたのか」

 

 それは、とライスの言葉が詰まる。

 先述のミーティングでの様子が、その想像を手伝ったのだろう。チームの未来を占うレースで勝ちきれなかったことを気に病んでいるのでは、と疑われていても不思議ではなかった。

 

「いや……その、誰のせいでも……強いて言えば自分が──」

 

 錯乱寸前の頭脳が自責を訴えようとしたとき、忌まわしい改変を回想したのが引き金となる形で、ライスの身体を蝕む。

 胃からこみ上げる何かが、彼女の言葉を引き戻した。

 

「……自分が悪い、自分のせい。人は追い詰められたとき、いつもそう言うんだ」

 

 口に出せなかった言葉を、都合の悪い方に補完されたのだろうその一言に歯噛みしながら、苦痛に耐える。

 違う。貴方に責任を問える部分など何一つない、これは自らの選択の結果に他ならない──。そう口にするどころか、声帯は言語を発することすら断固として拒否してきた。

 

「トレーナーとして不甲斐ないばかりだ、すまない」

 

 やがてシーツを汚す結末は避けたライスが荒い息遣いで東条の方を見やると、そこには彼女が頭を下げる様子が映る。

 

「トレーナーさん……」

 

 物理的なものでない痛みが、心臓の動く度に襲いかかってくる。

 

 結局ライスは、何も口にすることができなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……調子はどうだろうか」

 

 翌日、病室を訪れたのはルドルフだった。

 

 入室時に驚いたライスが、庶務ひとりが抜けているのに来ても大丈夫なのか、と開口一番に訊いて、二人抜ける位で瓦解する運営はしていない、と笑っていたのは余談として、やりづらい相手の訪問に彼女が選んだ返答は無難なものだった。

 

「今はなんとか。……すみません、その、最近疲れてしまっていて」

 

 あなたの産駒を潰して思い悩んでいた、とまさか口にできるはずもなかったゆえの虚勢だったが、実際の調子としてはまるで徹夜をしているときのようなだるさとしこりを感じており、早いところもう一眠りしてしまいたいくらいだった。

 

「……こんなときくらい、気を張って敬語を使わなくても構わない。そうだな、タメ口なんてどうだろう」

 

「ふふっ、お気遣いありがとうございます」

 

 ルドルフの発言をジョークと捉えたライスがそう笑んでみせたところで、出迎えのフェーズを終えた二人。

 重い沈黙が一瞬部屋に横たわったのち、次に口を開いたのはルドルフだった。

 

「こうなるまで気づいてやれなかったのは、私の失態だな。君の……仮にも先達として、恥ずかしい限りだよ」

 

 悔やむように放たれたのは、昨日の東条とよく似た言葉だった。

 生徒会役員としても、チームメイトとしても長く行動を共にしてきた身ゆえではあるだろうが、そこそこの情を持っていてくれたらしい彼女へ、申し訳ない気持ちが徐々に湧き上がってくる。

 

「……会長が気にすることではありません、私が勝手に落ち込んでいるだけですから」

 

 昨日東条へしてみせたようにフォローを入れるライスであったが、やはりルドルフは首を横に振る。

 

「そういったウマ娘も救えてこそ、私の夢は意味があるものになるんだ。……だから、今はただ詫びさせてくれ」

 

 懇願するように頭を下げるのみの彼女に、ライスはまた何も言うことができなかった。

 自らの不甲斐なさのあまりため息をついてしまった彼女は、とうとう負のスパイラルへ身を投じてしまう。

 

「……ダメですね、私。こうやってすぐウジウジ悩んで勝てなくなって、結局体まで壊しちゃって」

 

 夏にマルゼンに諭してもらったときもそうだった、と自嘲するように呟いたライスからは、堤を切ったように自責が溢れ出す。

 

「いろんな人の夢を壊して、捻じ曲げたくせに、それに見合うだけの結果も出せなくて。ただのわがままで済めばどれだけよかったのに、なんて何度も考えたんです、これならいっそ──」

 

「ライス君、一体何を……?」

 

 脈絡もなく自責を口にする彼女へ異変を感じるルドルフだったが、遅れてライスの瞳に自分が映っていないことを察してまもなく、決定的な言葉を聞き届けることになる。

 

 

「──やめてしまえれば、楽なのに、って……」

 

 

 それが何を指すのか、聞くまでもなかった。わずかに俯くようにして言葉を探したルドルフは、おもむろにライスを抱きしめる。

 

「……君が潰れれば、悲しむ者もいる。それだけは忘れないでくれ……!」

 

 そのときのライスの顔は、ルドルフには見えていなかった。

 

「下してきた相手に合わせる顔がない、と言いたいなら……気に病む必要はない。全身全霊で駆ける君を、誰が糾弾できようか」

 

 その言葉は、決して的を射たものではなかった。しかし、ライスの涙腺の決壊に値する言葉だった。

 

「う、うあああああああああっっっっっっっ!!」

 

 自分のやったことへの罰が欲しかった。何よりも、背負った十字架を許して欲しかった。

 

 だがルドルフは言う。お前は許されるべき罪など、最初から背負っていないと。

 

 彼女がこちらの事情を推し量ってくれているはずはなかった。いわば上辺だけに等しい言葉ではあったのだが、そんなものでも縋らざるを得ないほどに、ライスの精神は疲弊していたのだろう。

 

「……今は泣いても構わない。この刻を乗り越えた後に、より強くなった君へ会えることを……楽しみにしているよ」

 

 ルドルフの言葉への返答は、嗚咽に支配されたライスには紡げなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『さあいよいよ登場だ! 年内最後の大一番・有記念、この一番人気を戴くウマ娘のお目見えです!』

 

 12月26日、聖夜の余韻も冷めやらぬ世間を賑わすメインイベントが、中山レース場にて幕を開けようとしていた。

 

「……ライス、お前の贔屓っ子だ」

 

 そう東条が声をかけた教え子の顔は、ひどく暗い。

 

「……ええ」

 

 短い返答を以て反応とした彼女は、今は()()()()()()()東条と行動を共にしている。

 

 

 ──結局、医者に年内一杯の出走制限を言い渡されたゆえに、現地観戦という形で帯同を懇願した。

 

 

 あるべき形から捻じ曲げた業に対するせめてもの行いとして、このレースの行く末を見届けなければならないと考えた故の行動であったそれは、もちろん普段の対策研究とは根本的な意図が異なる。

 

『デビュー3年目で初の有記念出走! 唯一絶対の武器は、サイボーグの如く正確無比な逃げ! クラシック三冠を無敗で達成した史上二人目のウマ娘となってから一年も戦列を離れますが、慕うトレーナーのスパルタ練習で差を埋める精神力は当代随一!』

 

 パドックへ響く口上に、一切の感情も表さず佇むライス。何も知らなかった頃の自分を思い返して自嘲する、といった段階は、とうの昔に過ぎ去っていた。

 

『彼女は言う──GIとは、今の私のほぼ「全て」だと! 至上命令は優勝のみ! 快速栗毛超特急、ミホノブルボン!』

 

 そのコールとともに、歓声が沸き立つ。

 

『さあお聞きくださいこの大歓声! 一年ぶりの出走ながら、注目度はまっっったく衰えません! これこそ無敗を貫く三冠ウマ娘の威光、とでも言いましょうか!』

 

『前年の菊花賞ぶりの有記念出走、というのは去年のリオナタールも該当しましたが、やはりその称号が付くと違うものですね』

 

 ブルボンにとっては、大きく期間を空けての復帰であったこのレース。前例を回顧しながらも、やはり熱量に圧倒されている様子の解説をよそに、会場のボルテージは高まり続けている。

 

「パーマー相手でもいける! 君の逃げが世界一だああっ!」

 

「また、テイオーの分も頑張ってくれー!」

 

 周囲から飛び出るその声援は、努めて聞こえないよう振る舞った。もし耳に入れてしまえば、自分の中のなにかが真っ二つに割れてしまうような気がして。

 

(どうなっちまうんだ……もうわからない……)

 

 勝者とイレギュラーの出入りが行われたと言ってもいいこのレースに、内心でそう洩らした。

 

 一着となるべきテイオーの離脱と、一着になり得るブルボンの参戦が同時に起こった以上、いよいよ展開は予測がつかないものとなるだろう。

 

 贔屓目抜きにも、ただ単純にハヤヒデが繰り上がるだけのレースになるとは思えなかった。

 

(……駄目だな、これ以上考えたら俺は……)

 

 (きた)る未来に思考を巡らせる度に、逸りだす心拍数を自覚したライスは、改めてレースの注視へ重心を移す。

 

 発走の刻は、すぐに来てくれそうになかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『さあ、今年もいよいよこの日がやってきました。暮れの中山レース場、吹きすさぶ寒風をも跳ね返すほどの異様な熱気が、ターフと観客席を包んでいます。GI・有記念です!』

 

『そうですね。豪華メンバーが揃っていますし、素晴らしいレースが期待できます』

 

 ファンの夢を載せた大一番の迫るこの中山。すでにフェーズは本バ場入場へと移行していた。

 

『さあ、ウマ娘たちが続々とターフへ姿を現しました!』

 

 勝負の舞台へ上がったウマ娘たちを見届け、実況はそう宣言する。

 

『ブーツを脱いだ帝王の意志を継げるか、名刃・シダーブレード!』

 

『末脚一本で3年分の鬱憤を晴らしたオールカマーは強かったですね。今回も伏兵として鳴らしてくれるのか、期待しましょう』

 

 最初に実況の食指が向いた先は、ライスの代わりに入ったとおぼしきウマ娘だ。

 

(諦めておかしくなっちまったのかな、俺)

 

 ライスにとっては計算違いを起こしてくれた忌まわしき相手ではあったものの、不思議と彼女に憎悪は浮かばなかった。

 もはやそういった負の感情を湧かせるエネルギーすらなくなっているのか、あるいは──いや。自分でもわかりきっているからだろう。シダーの意地を呼び覚ましたのが、自分の決断の産物であったことが。

 

『こちらは去年の有記念の覇者、メジロパーマーです!』

 

『逃げウマ娘としての素質は一級品です。スタート間もなく先頭に立ってペースを作れば、二連覇も夢ではありません』

 

 続けてコールされたのは、現役屈指の大逃げ使い。本来なら観客席に立つ盟友・ダイタクヘリオスへ陽気な振る舞いを見せているはずの彼女だったが、その表情は重い。

 

「……見ててよ、マックイーン」

 

 意識をレースへ向け一点集中する彼女から零れた決意は、誰の耳にも拾われることはなかった。それは記憶との相違に違和感を覚えていたライスも例外ではなかった。

 

『長距離ならば他者に引けを取らない、このマチカネタンホイザも怖い存在です。ナイスネイチャもブロンズコレクターの名を返上し、有の栄誉を手にしたいところ!』

 

 まとめて行われたカノープスメンバーズのコールに、シダーのときと同じくライスは気を重くした。テイオーを意識する存在として、特に同期同士のネイチャに与えたダメージは大きいと考えていたからだ。

 

『メジロパーマーと同じく前年覇者にして、ジャパンカップでは世界の名だたる強豪を捩じ伏せ、価値ある勝利を収めたレリックアース! その向こうに見えるのは、次世代の担い手のひとり、ウイニングチケット!』

 

 今年の東京芝2400mにて最強を証明した二人も紹介され、ターンはいよいよテイオーにあたるところへ移行した。

 

『さあ注目は彼女、ビワハヤヒデ! 連対率は驚異の100パーセント! 堂々の二番人気、ファンの期待に応えられるでしょうか!?』

 

『ライバル筆頭と目されていたライスシャワーの回避は残念でしたが、安定感あふれる走りは期待大です』

 

 しかし、順序が入れ替わったか、先に自身にとっての宿敵でもあるウマ娘が姿を現す。

 さらっと触れられた自身の話題にどきりとする間もなく、真打は現れた。

 

『そして、一年ぶりにターフに姿を見せたミホノブルボン! 休み明けもなんのその、一番人気で有記念に挑みます!』

 

 威風堂々と歩みを進めるその存在。本来この場に立つことのなかった彼女は、奇しくも本来の勝者と同じ口上を以て迎えられていた。

 

(……本当なら、諸手を挙げて祝ってやりたかったのにな)

 

 贔屓のウマ娘の登場に関わらず、やはり苦々しい表情で目を向けるライス。

 一度封じておきながら、またとめどない想いがあふれそうになる彼女だったが、ファンファーレの迫るこの刻に、感傷に浸る時間は与えられなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『……場内にファンファーレが響き渡ります。さあ、今年のナンバーワンを決める有記念。各ウマ娘、枠入りは順調に進んでいきます』

 

 開幕を告げる音色を背に、戦地へ足を踏み入れんとするウマ娘たち。各々の想いを携えた彼女らが放つ覇気は、レース場を最高の舞台へと変えた。

 

『それぞれ真剣な面持ちで、応援を送るファンの期待に応えるべく、ゲートが開く瞬間を待っています!』

 

 スタートラインに立ったメンバーの表情をそう評した実況は、大外枠のメジロパーマーのゲートインを認めると、高らかに発走をコールした。

 

『さあ、14人枠入り完了しました! 今年最後のGI・有記念……今、スタートしました!』

 

 勢いよく開かれたゲートから、一斉にウマ娘たちが飛び出す。出遅れはなかった。

 注目の集まる序盤の先頭争いへ、最初に先陣を切ったのは。

 

『まずはメジロパ……いや、ミホノブルボンだ!』

 

 大外枠から果敢に飛び出さんとしたパーマーの先を越したウマ娘へ、一同がどよめく。

 

『ロスが少ない内からの出走でしたからね、当然でしょう』

 

 しかし一方で、解説には納得の色が浮かぶ。パーマーに最も効果的かつ現実的な負け筋の突きつけ方は、同じ逃げウマ娘であるブルボンからマークを受けることだと考えていたからだ。

 

『しかし大逃げを打つには苦しいのではないか、どうしたブルボン!』

 

 一方で、パーマーの前に出る以上は避けられぬだろうその義務を叫ぶ実況。

 菊花賞にて勝利を収めたとはいえ、好きに使い倒せるほどスタミナが豊富なわけではない。

 ただし、一連の対応を、ライスはこう捉えていた。

 

「「……いや、ブルボンは一度この展開を見てるからだ」」

 

 このとき彼女は、自分と誰かの声が被ったことに気づいた。左右を見やると、レースを食い入るように見つめるメガネの男性が目に入る。

 

「……どうした急に」

 

「ブルボンは前走……413日前の菊花賞で、パーマーよろしく大逃げを打ったキョウゾンアロウズにハナを奪われた経験がある。それで掛かりに掛かって結局ハナ差での辛勝を強いられた彼女は、この失態を強く認識しているはずだ。なにせ『サイボーグ』と呼ばれた超ストイックウマ娘だからな」

 

 その隣にいたパーカーの男性の声を意に介さず、語り続けていた彼の正体には心当たりがあった。

 アニメseason2より、視聴者への『説明役』として大いに個性を発揮したキャラクター『みなみ』と『ますお』その人だ。

 

「……勝てると思うか?」

 

「それ聞いちゃう? 去年の無敗三冠ウマ娘だぞ?」

 

 恐らくますおは、丸一年ぶりの出走であることを懸念していたのだろう。しかし彼が放った質問は、ブルボンの称号を引き合いに出されたことで沈黙させられる。

 奇しくも、本来この場にいたテイオーへ向けられたものと同じ構文で放たれたその台詞。しかしその後に続く声は、ない。

 

『さて選ばれし優駿たちが第4コーナーを回っていく、先頭は変わらずミホノブルボン』

 

 されど、各人の感情に左右されることなく、レースは淡々と続いていく。

 逃げる先頭と先行勢の間には、さほど距離が生まれていなかったが、それはブルボンの仕業というわけではなく、元々が例年よりペースが速い展開だったからだろう。

 

『レリックアースが2番手、ビワハヤヒデは現在3番手、後ろからヴァイスストーンも行く!』

 

『やはりミホノブルボンは譲りませんね、一年ぶりのレースでもいつもの感じで行くのでしょうか』

 

 パーマーを果敢に抑えるブルボンによって先導される形で、レースは運ばれていく。

 未だ健在か、と解説の安堵から間もなく、スタンド前へウマ娘たちが足を踏み入れていた。

 

『各ウマ娘、一周目のホームストレッチに入ります。中山のファンの前を、14人のウマ娘が駆け抜けていきます!』

 

 眼前を走るウマ娘たちへ向け、あらんばかりの歓声が届けられる。

 

「ブルボンが走ってる……」

 

「……見に来てよかったよ」

 

 そこには、去年のブルボンを知る者たちの感激の声も混ざっていた。

 特に動きなくその後のコーナーを進んでいったウマ娘たちは、バックストレッチへと向かう。

 

『さあ、第2コーナーを抜けて向正面に入りました14人、現在の並びを確認していきます』

 

 レースも折り返しとなり、初めて全体の順位の振り返りが行われる。

 

『ミホノブルボンが先頭、その外にメジロパーマーがいる形、ヴァイスストーンが3番手、レリックアースが4番手、ビワハヤヒデ5番手、その後ろウイニングチケット、そしてペラ! ファーメントウィン、ナイスネイチャ、デュオプリュウェン、シュプールムーバー! アベックドリーム、マチカネタンホイザ、シダーブレードといった展開で進んでおります!』

 

 コールされた中位陣は、自分とテイオーがいた本来のものとおおよそ変わっていない。ただし、入れ替わった二人が先頭と最後尾を占める形となっていた。

 

『大方の予想ではメジロパーマーが先頭でレースを作ると思われましたが、ミホノブルボンが御した形ですね』

 

『そうですね。そのせいか14人がほぼ10バ身以内に収まっていますからね。誰がこの先上がってくるかも読めないレースになりました』

 

 先頭から最後尾まで小さくまとまったレースをそう評した──ブルボンがハナを取らなくてもこうなっていたことは知る由もないだろうが──二人。

 

『前回の有記念はまんまと逃げ切ったパーマーですが、今回は厳しいかもしれません。BP対決は勝負ありかというところで、レースはいよいよ第3コーナー。誰が仕掛けるかという場面にやって参りました!』

 

 以前から注目されていた対決に触れたところで、終盤への突入を告げた実況。

 アニメになぞらえれば、『絶対に勝つ』と一行が闘志を滾らせる場面だった。

 

『さあ、レースは第4コーナーに差し掛かります。ビワハヤヒデ、ウイニングチケットがじわじわポジションを上げていく! レリックアースも動いているか……おおっと!』

 

 BNW勢と前回覇者の動向に注目した実況から、驚愕が零れた。

 

『ここでビワハヤヒデが仕掛けてきた! 菊花賞ウマ娘のビワハヤヒデ! ぐんぐんとスピードを上げていく!』

 

 注目バのスパートに、歓声が沸き立つ。すでにパーマーに手をかけていた彼女だったが、それを一瞥した先頭は、ひとつの回答を提示する。

 

『メジロパーマーをかわして……あーっとミホノブルボン加速! まだ二の矢を残していた!』

 

 二番手に上がったハヤヒデに大勢が決まったかと思いきや、ブルボンが突き放さんと踏み込む。菊花賞すら逃げ切った、底なしの根性がそうさせたのだろう。逃げてなお切れる脚を残すその様は、かつてターフを沸かせた異次元の逃亡者・サイレンススズカを彷彿とさせた。

 

『この二人についてこれるウマ娘はいるのでしょうか!? ペラか、レリックアースか、ウイニングチケットはどうか!?』

 

 続いていたウマ娘たちを見やる実況。しかし、このレースはもう二人のものか──。

 そう先頭二人の叩き合いとみなした彼女が、直線に入ったウマ娘たちへ目をつけたそのときだった。

 

『ナイスネイチャが来たー!』

 

 それは、位置を上げたらしい3番手へ向けた台詞だった。しかし──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ナイスネイチャが来た!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アナウンサーとして染みついた感覚から、無意識に放たれていたそれに自ら慄く赤坂。

 

 

 

 ──この日オーディエンスは、一世一代の意地を見る。




多分、当作品で初めてみなみとますおを使ったんじゃないでしょうか。
ブルボンのパドックの前口上は、言うまでもなく某年末漫才グランプリのオマージュです。

次回、『覇者─有馬記念─』。

有馬記念(1993)
トウカイテイオー OUT▼
ライスシャワー OUT▼
シダーブレード IN△
ミホノブルボン IN△
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